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悲壮な顔で訴えるレーベを前に、主人公は激怒する。
その理由は言わずもかな、指令書に書かれていた内容だった。
なんとか対応する主人公だが、それ以上に驚いてしまうモノを見てしまい……、
「………………」
目の前にはレーベが俺に見えやすいようにと指令書を広げて立っている。
その表情は悲壮という言葉が似合うレベルであり、本心で困っているという現れだろう。
広げられた指令書に書かれている文字はたった2つ。
ただし、どこからどう考えても悪意が感じられてしまい、これこそ元帥の罠であると言えるだろう。
そして、それをハッキリと理解した俺が取った行動は……、
「なんじゃいこりゃあぁぁぁっっっっっ!」
両足を広げて踏ん張り、頭上から落ちてくる大きな石を受け止めるが如く。
そして両手を大きく広げ、おもいっきりアピールできるように。
それはもう、露骨過ぎるほどの大袈裟な演技なのだが、こういった場面では非常に有効な訳で、
「お、おい……、いったい先生とやらは、どうしたんだ……?」
「あ、あそこまで驚くだなんて、指令書に書かれていたのは、相当な内容だったんじゃないのか……?」
「それってまさか、やっぱり卑猥な……」
「元帥、殺すべし。慈悲はない」
「私のレーベちゃんに……許せないわっ!」
……とまぁ、こういった感じで、周りを煽ることができてしまうのである。
「せ、先生がそんなに驚くだなんて……、やっぱり相当に難しいのかな……」
そう言ったレーベの顔は、悲壮から焦りへと変わっていた。
そして広げた指令書をもう1度読んでみるが、困った風に頭を傾げる。
「うぅ……、やっぱり僕には読めないや……」
肩を大きく落として落ち込むレーベだが、それは仕方がないと思う。
俺も一目見た瞬間、フリーズしてしまいそうになったくらい難しい2つの漢字。
『檸檬』
――そう、書かれていたのだ。
………………。
子供が読めるレベルの漢字じゃないでしょうがっっっ!
これはどう考えても元帥の罠……というか、嫌がらせの部類だよねっ!
『なにやらレーベちゃんが広げた紙を見た方々の様子が変な風に見受けられますが、やはり嫌な予感が的中したんでしょうか……』
『そうなりますと、元帥のオシオキカウントダウンが待ったなしは間違いないですわね』
『まぁ、実際には既に高雄秘書艦によるフルボ……げふんげふん』
『別に濁さなくても、周知の事実でしてよ?』
ですよねー。
周りの観客も頷いているが、表情の険しさは半端じゃない。
レーベを酷い目に……というか、実際に競技が進行できなくなるレベルの問題を導入した元帥が悪いんだから仕方がないんだけれど。
もちろん、観客と同じように俺も怒っているのだが、それよりも迷うことは……、
「……けど、指令書は1度見ちゃったら変更できないルールだし、これを読める人をなんとかして探さなくちゃいけないんだよね」
再度ガックリと肩を落とすレーベを無視できようモノだろうか。
いくら敵チームであり、俺の争奪戦という関係があるとはいえ、教え子であるレーベをこれ以上哀しませることができる訳もなく、
「レーベ。
その漢字はレモンと読むんだが、ドイツ語では……ええっと……」
俺はしゃべりながら頭の中にある記憶を呼び覚まし、対応する単語を探し出す。
「確か……そう、ツィトローネだったはずだ」
佐世保に居たとき、ホームシック気味になった子供たちを元気つかせようと、ドイツのお菓子レシピを探したり、ドイツ語を勉強したりしたことがあったのが役に立った……と、俺は小さく息を吐きながら微笑を浮かべる。
「そ、そうなんだ!
これって、Zitrone……レモンのことだったんだね!」
顔をパアァ……と光らせるように笑みを浮かべたレーベは、大きくお辞儀をして「Danke schOn! ありがとう、先生!」と、わざわざ日本語に言い直してくれた。
「あっ……でも、先生はレモンを持って……いないよね?」
「あー、そうだな。
だけど、ありそうなところなら分かるぞ?」
「え、本当っ!?」
驚きのあまり大きく口を広げたレーベは、慌てて両手で隠すようにしてからもう1度問う。
「そ、それはどこにあるのかなっ!?」
「ここから埠頭に上がって大通りへと続く道の途中に、確かミックスジュースの屋台があったはずだ。
そこの店員に理由を言って頼めば、快く渡してくれると思うぞ」
「わ、分かったよ、先生!
本当に、本当にありがとねっ!」
レーベは俺に向かって2回、3回と何度もお辞儀をした後、左右をキョロキョロと見回して段差を見つけ、すぐにそちらへ移動して艤装を付けたまま埠頭へと上がった。
「それじゃあ、ちょっと行ってくるよ!」
ガシャガシャと金属音を鳴らしながら陸上を走るレーベに手を振って見送った俺は、ホッと一息ついて肩を下ろす。
これで元帥の罠は消え失せた……と思ったけれど、まだ指令書の中身が分からない子が2人居るのだから安心はできないし、大井もこちらに向かってきているのが不安なんだよね。
だから、まだ気を抜かないようにしなければと考えていたところで、付近にいる観客の声が耳に入ってきた。
「お、おい……、さっきの……見たか……?」
「あ、ああ……。俺の見間違いじゃなければ、驚愕の事実だぜ……」
そう話しているのは、モデル体型の女性たちと一緒に居た提督らしき人物だ。
また俺に敵意のある目を向けるんじゃないだろうな……と、焦りそうになるモノの、どうやらその気持ちはこちらではなく向こうにあるようで、
「練度が低い艦娘の場合、艤装を付けて走るのは結構辛いって言っていたのを聞いたことがあるんだが、レーベちゃんの顔はいたって普通だったよな……?」
「どこからどう見ても、余裕しゃくしゃくって感じだったでゴザルよ……」
「さ、さすがは私が愛するレーベちゃんね。
第1競技から子供とは思えない能力を発揮していたのも、頷けてしまうわ……」
額に大粒の汗を浮かばせる提督たち。
あのモデル体型の女性ですらも、信じられないといった表情を浮かべているところを見れば、どれほどレーベがありえないことをしているのかが分かってしまう。
もちろん、レーベが装備している艤装は身体に合わせた特注品だし、普通の艦娘用とは重量や性能が違う可能性も考えられるのだが、
「ガシャガシャって、大きな音を鳴らしながら走っていたもんなぁ……」
艤装の擦れあう金属音を聞く限り、レーベにはそれなりの負担がかかっていたと思う。
それをものともせずに地上を走るレーベは、やっぱりとんでもないことをしている気がするんだよね。
提督たちが驚いてしまうのは仕方がないことなのかもしれないが、それにしたって、いったいどんなことをすればあれほどまでに鍛えられるのだろうか?
「ま、まぁ、アレだな……。
実はやせ我慢をしていたということも考えられるんだしさ……」
「そうでゴザルな……。
先生とやらの手前、カッコイイところを見せたかったかも……」
「私のレーベちゃんが……、私のレーベちゃんが……ッ!」
取りあえずそういうことにしておきましたという風に会話を終えた提督たちなんだけど、モデル体型の女性が俺を睨みつけながら繰り返し呟いているのがマジで怖いんですけどっ!
一歩間違えなくてもヤバい思考の持ち主だよ!
このままだったら、刃物で刺されてもおかしくないんじゃねっ!?
「し、しばらく、背中に気をつけた方が良いのかもしれないな……」
得に夜道を歩くときには……だけど、先ほどの握力等を考えると、正面を切ってこられても勝てる気がしない。
いくらビスマルクとタイマンを張った俺だとしても、こういった手合いはマジで勘弁願いたいところである。
『どうやらレーベちゃんは地上に上がって、何かを探しにいったようですねー』
『指令書に書かれていたものを探しに……でしょうか?』
『卑猥なことが書かれていなかったら良いんですけど、先ほど先生が驚いていた様子を見る限り、大丈夫そうでもありませんでしたし……』
『できれば情報を知りたいので、連絡を寄越してくださいませー』
……いや、一応実況解説というか、運動会の運営も任されているんだったら、そういったことはそっちで動いて欲しいところなんだけれど。
俺の立場としては、運動会に参加している1つのチームメンバーである訳だし、あまり運営側と話すというのもよろしくない気がするんだけどなぁ……。
とはいえ、このまま放っておくと他の観客たちに分かりにくいだろうし、最低限の情報は送っておく方が良いだろうと判断して、青葉に電話で話しておくことにした。
……って、実況解説中の本人に電話をするってのも、どうかと思うんだけどね。
『情報提供者によって元帥のオシオキ待ったなしの状態になりましたが、今は他の子供たちの様子を見て行きましょう!』
『新たな動きが見えるのは……、五月雨ちゃんのようですわ!』
『なるほど!
それでは、レッツ、五月雨ちゃんターイム!』
元気良く叫ぶ青葉に応じるように、観客の中から拳を振り上げて返事をする人たちがチラホラいるところを見ると、五月雨の人気もそこそこな感じだ。
まぁ、人気がどうとかよりも、今は競技の状況に集中するべきなんだけどね……と、五月雨の行方に視線を向けることにする。
「す、すみませーんっ!」
ちょうど五月雨が自分のチーム……つまり、港湾チームの待機場所に到着したところであり、そこで待機していた港湾棲姫に声をかけていた。
「ドウシタノダ、五月雨。
指令書ノ内容ニ、ナニカ不備デモアッタノカ?」
どうやら港湾棲姫も元帥の罠を疑っていたようで、五月雨もレーベの二の舞になったのではと考えたのだろう。
「い、いえ、そんなことはないんですけど、これって持ってますかっ!?」
そう言って、五月雨は指令書を広げて港湾棲姫に見せる。
「フム……、腕時計カ……。
残念ダガ、私ハ持ッテイナイガ……」
キョロキョロと辺りを見回す港湾棲姫。
すると、付近の観客たちが口々に声を上げだした。
「あー、俺も腕時計はしてないなぁ……」
「今時、時間を調べるのってスマホの方が楽なんだよねー」
「安物だと海風にやられたりしちゃうからなぁ……」
首を左右に振ったり、手で×マークを作っていたりと、観客たちは持っていないことをアピールしていた。
それらの表情を見る限り、貸すのが嫌で嘘をついているという感じではなく、本当にそうなのだろう。
そんな様子を見た五月雨は、残念そうな表情を一瞬浮かべるも、すぐに笑顔へと変え、
「そうですか……。
でも、みなさんも探してくれて、本当にありがとうございますっ!」
そう言って、深々と観客たちに向かって頭を下げていた。
「ええ子や……。ほんまに、ええ子やでぇ……」
「こんな子を泣かせる訳にはあかんで。
おい、誰か今すぐ腕時計を買ってくるんや!」
「あっ、いえ、そういう訳には……」
関西弁丸出しの観客が口々にそう言うと、五月雨は慌てて制止する。
いくら競技のためとはいえ、お金を負担して欲しくはないと思ったのだろうか、真剣な顔で訴えていた。
しかし、借り物競走で必要な腕時計が手に入らなければ、次のポイントへと進めない。
その気持ちが徐々に五月雨を焦らすことになり、心配そうに俯きかけたそのとき、
「それでは、これを持って行ってくれれば宜しいですよ」
観客をかき分けながら現れた人物の姿を見た瞬間、辺り一帯に驚きと緊張が走ったのであった。
※近く、臨時の仕事が舞い込む予定が入った為、執筆が厳しくなりそうです。
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次回予告
国籍がどうとかいう前に、子供に読めないのは既にアウトだよね。
ひとまずレーベの件は落ち着いたが、今度は五月雨が詰まった感じに。
しかしそんな中、1人の艦娘が現れる。
果たして何を話すのか。そして、どのような不幸が……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その69「尊くない犠牲」
乞うご期待!
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