艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

298 / 382

 最後のジャンプをミスしてしまったレ級を除き、子供たちが第3ポイントへと向かう。
そして毎回の如く説明に入る青葉と熊野……だが、なにやら不穏な雰囲気が。

 え、まさかの交代ですか……?


その59「放送事故?」

 

『レ級ちゃん以外の子供たちは無事に最後のジャンプ台をクリアし、第3ポイントで待つチームメイトに交代すべく爆走中ですっ!』

 

『現在先頭はプリンツちゃん、2位は榛名ちゃん、3位は響ちゃん、4位はあきつ丸ちゃん、そして少し離れて最後尾にレ級ちゃんとなっておりますわ!』

 

「ここまできたんだから、先頭は絶対に譲りませんっ!」

 

 レ級のカットバックド●ップターンを見たプリンツはジャンプ台でトリックを決めるのを止め、安定した飛行の後に着水を決めて水上を駆けながら後方を伺っていた。

 

「そのような勝手は……、この榛名が許しませんっ!」

 

 後に続く榛名が気合を入れながらプリンツを追う。

 

 しかし、やはり練度の差が響いてきたのか、徐々にその差が開いてきた。

 

「そういう割には、追いつけないみたいですねー♪」

 

「くっ……。しかし、榛名はまだ……っ!」

 

 歯噛みする榛名を見て、勝ち誇ったように笑みを浮かべるプリンツ。

 

 そして榛名を追う響は問題がなかったものの、あきつ丸の方にも性能の差が出てきてしまっていた。

 

「ぐむむ……。自身の鈍足が恨めしいであります……」

 

 榛名と同じように歯噛みするあきつ丸だが、それでも諦めようとはせずに食らいつこうと必死の形相を浮かべている。

 

 結果は芳しくないものの、この気持ちがあるからこそ、あきつ丸を起用して良かったと思える瞬間だ。

 

 ……まぁ、チームの中でジャンプをした際に安定するのは誰かと考えた際、真っ先に浮かんだというところもあるんだけれど。

 

 踏ん張りが大事というか、なぜかドシンと構えれそうな気がするんだよね。

 

「ムキーッ!

 コノ差ヲチョットデモ縮メナイト、ミンナニ合ワセル顔ガナイアルヨー!」

 

 そして最後尾を駆けるレ級の口調が、またまた変わったことに突っ込まざる得ないといころではあるものの、正直精神的に疲れるので止めにしたい。

 

 ある意味元帥レベルで厄介です。

 

 その理由の大半は、おそらくレ級ではなくル級によるものだろうけれど。

 

 一度本気で締めたいところだが、ミイラ取りがミイラになるのが見えているだけに非常に厄介だ。

 

 誰かマジで対処方法を知ってないかなぁ……。

 

『先頭のプリンツちゃんが独走状態になり、第3ポイントも間近ですよーーーっ!』』

 

『そう言えば、次はいったいなにが待ち受けているんですの?』

 

『またもや説明の振り、サンクスです!

 それでは早速、第3ポイントのギミックを皆さんにお伝えしましょうっ!』

 

 お約束な展開で会話を進めて行く青葉に熊野。

 

 まぁ、この辺りは毎回やるんだろうけれど、たまには捻りが欲しいところではあるが……。

 

 いや、この考えは止した方が良いかもしれない。

 

 青葉に元帥、そして先ほどからちらほら頭に浮かんでくるル級というフラグが立ちつつある今、更なる厄介ごとが増えないとも限らないからだ。

 

『さて、次の第3ポイントのギミックは……、ずばり飴玉探しです!』

 

『……あら。これはまた、障害物競走で良くあるやつですわね』

 

『お約束にして、ボケるポイントとして名高いギミックとして定評です!』

 

『別にボケる必要はなくってよ……?』

 

『あれれ、熊野がそんなことを言うなんて珍しいですねー。

 てっきり期待しているのかと思っていましたよー』

 

『わたくしだって真面目に実況解説をすることもありますし、あまりマンネリはしたくありませんの。

 それに、元帥が先ほどから発言できない程度にお仕置きされたんですから、心の平穏も必要なのですわ』

 

『ま、まぁ、分からなくもないですけど……』

 

『それに、この第5競技は運動会を締めくくる最後の競技。

 子供たちの頑張りを見られるのもお終いなのですから、精一杯応援したいのですわ!』

 

『な、なんという模範解答的発言を……』

 

『フフフ……。これで熊野の評価も鰻登りでしてよ?』

 

 そう言った熊野がもの凄く自慢げな顔をしていそうな光景が目に浮かぶが、最後の発言をしたら全てが台無しになっちゃうんですが。

 

 さすがは青葉と組んで実況解説をできるだけのことはある。これからは青葉と同等に扱うべきになりそうだ。

 

『そ、それよりも今は、飴玉探しについての説明ですね!』

 

『あら、そんなに慌てなくてもよろしくてよ?』

 

『べ、別に慌ててなんかいませんけど……』

 

『そんなことを言いながら目が泳いでいるところを見ると、青葉も少しは好評価を得たい……という考えがあるのでしょう?』

 

『そ、そんな……ことは……』

 

『そこで言葉に詰まるのがなによりの証拠でしてよ?』

 

『む……ぐぐ……』

 

 な、なんだか放送席の雰囲気が徐々に悪くなっている気がするんだけれど。

 

 喧嘩にまでは発展しそうになさそうなものの、険悪な感じに思えてきちゃうよね……。

 

 これはちょっとばかりマズイだろうし、誰かサポートに入れないかと思っていたら、

 

『はいはい。険悪ムードはそれまでにして、ちゃんと仲良く説明をしちゃおうねー』

 

『げ、元帥っ!?』

 

『た、高雄秘書艦に締められて、落ちていたんじゃ……』

 

 いつの間にやら復活してきた元帥の声に驚く2人。

 

 もちろん俺も驚いたが、Gのようにしぶとく、不死身じゃないかと思えるくらい軽々と復活してくるのはいつものこと。

 

 ちなみに観客の方からは舌打ちっぽいモノが聞こえた気がするが、気づかなかったことにしておきます。

 

『元帥がそれを言うのはどうかとは思いますが、実況解説の2人が喧嘩をしては進行に差し支えてしまうのは明白ですわね』

 

『そ、それは……』

 

『そ、そう……ですわね……』

 

 続いて高雄の言葉を受けて力のない言葉を漏らす2人だが、ここまでテンションが下がってしまうと色々とマズイのではなかろうか。

 

 なんだかんだと言っても、青葉と熊野の掛け合い的な実況解説が競技を盛り上げているのもまた事実だし、それが失われてしまったら高雄の言葉通り進行に弊害が出ちゃうんだけど……。

 

『まぁ、このままだと気持ちの整理もつかないだろうし、ここらでちょっと僕たちにタッチ交代をしちゃおうか』

 

『僕……たち、ですか……?』

 

『うん。僕たちだよ』

 

『つ、つまりそれって、元帥と……』

 

『もしかして、私、高雄も含まれる……ということでしょうか?』

 

 驚いた青葉と熊野に、戸惑う高雄が問いかける。

 

『なにを驚いているんだい?

 2人のテンションを下げちゃったのは高雄なんだから、ちゃんと責任を取らないとねー』

 

『え、そ、それは少々違うと思うのですが……』

 

 明らかにいつもとは違う高雄の反応に、周りから様々な声が上がってきた。

 

「お、おいおい……。あの高雄秘書艦が戸惑いまくっているって、初めてじゃないか……?」

 

「そ、そりゃあ、あの鬼軍曹と名高い高雄でも、一応は女性だからなぁ……」

 

「珍しいこともあるモノね……。でも、焦る高雄秘書艦も素敵……かも」

 

 思わぬ展開にざわつきまくっているんだけれど、子供たちのレースはまだ続いているんですが。

 

 ちなみに順位は変わらずで、1位のプリンツと2位の榛名の差が少し開いた感じです。

 

『なにを今更なことを言っちゃってんのー。

 はいはい。青葉と熊野、そこの席を交代、こうたーい』

 

『は、は、はいっ!』

 

『ほ、本気なんですのっ!?』

 

 1人テンションが高い元帥に押し切られるような感じの会話が聞こえ、なにやらドタバタと雑音が聞こえてきたかと思うと急に静かになった。

 

 そして暫くしてから、マイクのノイズ音が流れ……、

 

『はいはーい。

 ここからは青葉と熊野から変更して、元帥の僕とー……』

 

『その秘書艦である高雄が、実況解説をお送りいたしますわー♪』

 

 ……と、滅茶苦茶テンションMAXな高雄の声が流れ、今日1番のどよめきがいたるところから上がったのである。

 

「お、おい……、どういうことなんだ……?」

 

「あの型物で有名な高雄秘書艦の語尾が、ちょっぴり可愛かったじゃねぇか……」

 

「ま、まさか元帥が、なにやヤバい薬でも盛ったんじゃないの……?」

 

「いやいや、さすがにそれは……」

 

 憶測が飛び交い、不安が伝播しまくる観客たち。

 

 その大半は舞鶴鎮守府に関係する人たちや艦娘なんだけど、S席にいる何人かも汗をダラダラとかきながら焦りの表情を浮かべている。

 

「ま、まさかあの姉貴がぶりっ子っぽい口調を出すだなんて……。

 し、信じられねぇっ! まさか、これは夢なんじゃねぇのかっ!?」

 

 そして、どこからともなく聞き覚えのある声も……って、明らかに摩耶ですよね。

 

 まぁ、その気持ちは分からなくもないし、俺や他の人たちも戸惑っているのだから、おかしなことが起きているのは間違いない。

 

『さて、高雄。

 次の第3ポイントのギミックは飴玉探しなんだけど……』

 

『ええ、そうですわね。

 ここは皆さんの誰もが知っている、あの飴玉探しなんですね!』

 

『ふむふむ。

 つまり、子供たちは小麦粉が大量に敷き詰められた台の中に顔を突っ込んで、口だけで飴を探し出してから第4ポイントに向かうってことで良いんだよね?』

 

『その通りですけど、このギミックを指定したのは元帥ですから知っているはずじゃないですかー』

 

『ごふ……っ!?

 た、確かにそうなんだけど……って、ツッコミがちょっときついよ高雄……』

 

『あらあら、そんなに力を込めてなんていませんよー?』

 

『げふぉっ!?』

 

『あら?

 机に突っ伏したままじゃ、実況解説なんてできませんでしてよー?』

 

『だ、だったらそのひじ打ちを止め……ごふっ、ぐふっ!』

 

「「「「「………………」」」」」

 

 テンポ良く聞こえてくる打撃音と元帥の悲鳴が聞こえ、観客一同白目で立ち尽くしている心境です、はい。

 

 まぁ、若干高雄の声が棒読みな感じだったから、なんとなくやっつけ気味なのかなとは思っていたが。

 

「……ふぅ。やっぱり姉貴はいつも通りだったな」

 

 そして安心する摩耶と同じように、舞鶴鎮守府に関係する人たちから多くのため息が聞こえてきた。

 

 結局はいつも通りってことで。

 

 でもまぁ、実況解説は一旦交代ってことになりそうってことで。

 

 

 

 ……一体全体、どうなっちゃうんだろうね。

 




次回予告

 まさかの実況解説が交代も、やっぱり元帥と高雄はいつも通りだった。

 そして競技は第3ポイント。
飴玉探しが始まるが、なにかが起きるのがデフォ状態。

 お約束の展開なのか、それともなにかが起きるのか……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その60「飴玉探し」


 乞うご期待!

 感想、評価、励みになってます!
 お気軽に宜しくお願いしますっ!

 最新情報はツイッターで随時更新してます。
 たまに執筆中のネタ情報が飛び出るかもっ?
 書籍情報もちらほらと?
「@ryukaikurama」
 是非フォロー宜しくですー。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。