無双状態のプリンツに立ちはだかるレ級!
果たして2人はジャンプ台を無事に乗り越えられることができるのか……。
それとも、またなにかをやらかしてしまうのだろうか……。
全ては、色んなヤツのせいでこうなってしまったのである。
『さぁ、ついに第2ポイントの目玉であるジャンプ台にレ級ちゃんが突入!
このギミックでいったいどういう展開になるのか、大・注・目でーーーすっ!』
大絶叫な青葉の実況解説で周りのボルテージは更に上がる。
それについては構わないんだけれど、なんだかギミックという言葉を聞くと嫌な予感が更に高まるのは気のせいだろうか。
種のある特殊なモノとか、手品の仕掛け……、解釈の仕方によっては策略という意味になるんだが。
この第2ポイントも元帥が絡んでいた場合、そういったことが含まれている可能性も無きにしも非ず。
その場合は高雄がきっちり締めてくれるだろうが、子供たちに危険が及ぶのは止めて欲しいんだよなぁ……。
「レレレッ!
ソレジャア、イックヨー!」
俺がジャンプ台を不安視している間に、レ級は体勢を屈めてジャンプ台へ足をかけようとしていた。
頼む……。なにごとも問題が起こらないでくれ……っ!
心の中で強く念じながら一瞬だけ眼を閉じ、そしてレ級の姿を確認しようとまぶたを開けようとした瞬間、熊野の大きな声が耳に響いたのだ。
『な、なんですのーーーっ!?』
驚いた俺は咄嗟にまぶたを上げ、なにが起こったのかと必死にレ級を探す。
ジャンプ台の辺りにはレ級の姿はなく、もしやと思い視線を少し上に向けてみたところ、
『ダンプ台から高々と上がったレ級ちゃんが、横回転をしながら飛んでいるーーーっ!』
『さ、更にグラブテクニックまで披露していますわーーーっ!』
………………は?
いや、レ級、なにやってんの?
青葉と熊野の実況通り、レ級は素早い横回転をしながら右手で足の艤装を掴んでいる。
その姿を見た瞬間、俺の頭の中では4年に1度冬に開かれるオリンピックの競技、モーグルやエアリアルが思い浮かんだ。
『レ級ちゃんの横回転は……1、2,3、4回転ーーーっ!』
『先ほどのプリンツちゃんと同じ回転数ですが、グラブの分を合わせると高テクニックですわーーーっ!』
「「「ワァァァァッ!」」」
煽る実況によって観客は大盛り上がりの大盛況。ただしこれによって、余計に厄介なことになりそうなんですが。
「くぅ……っ!
まさかこの私の前でテクニックを披露するなんて……、喧嘩を売っているのと同義ですっ!」
そして完璧に頭に血が上ったプリンツが、レ級に負けじと体勢を低くした。
うん。やっぱり。
これ、あかんやつや。
「見せてあげましょう。Admiral Hipper級……重巡プリンツ・オイゲンの実力を……っ!」
『そして2番手のプリンツちゃんがレ級ちゃんを追いかけてーーー!』
「ふぁいやあああああぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」
『飛びましたわーーーっ!』
青葉が、プリンツが、熊野が叫ぶ。
ジャンプ台から空高く舞い上がったその姿に、観客の視線が集中した。
「ちょっ、マジかよっ!?」
俺はその光景を見ながら無意識に声を出す。
同じように観客からもどよめきが上がっていた。
『プ、プリンツちゃんの身体は空中にですがーーー!』
『ま、まさかの横回転だけではなく、縦回転まで入ってますわっ!』
プリンツがジャンプ台の先端を飛び出した瞬間、身体を横に捻りつつ縦回転も加え、空中で身体が斜めを向いた状態でクルクルと2度回って着水した。その間、右手はレ級と同じようにしっかりと偽装を掴み、グラブテクニックも入れていたから驚くしかない。
『こ、これは……、スノーボード競技で言うところのフロントサイドダブルコーク1080だーーーっ!』
『雪上ではなく海上のジャンプ台で行うなんて、信じられませんわーーーっ!』
さきほどのレ級も凄かったが、あれは横のみの回転だった。後から技を放ったプリンツは縦を含める回転を入れる高テクニックを披露し、みごとに実況解説の2人だけではなく、観客の心も鷲掴みにしてしまったのである。
「すげえぇぇぇっ!」
「ド、ドイツの技術……いや、艦娘は化け物かっ!?」
「プリンツちゃん最高ーーーっ!」
いたるところからわき上がる歓声に気分を良くしたのか、プリンツはレ級を追いかけながらも観客に向かって手をブンブンと振る。
ぶっちゃけ、第2ポイントはジャンプ台をクリアすれば良いだけであり、本目的は速さを競うはずなんだけど……、こうなってしまった以上他の参加している子供たちにプレッシャーがかかってしまうことになるのは明白であり、
「こ、こうなったら榛名も……えいっ!」
『3番手の榛名ちゃんはバックフリップだーーーっ!』
『綺麗に前に向かっての後方宙返りですわーーーっ!』
レ級やプリンツに対して派手さはないモノの、やっていることはなかなかの高難度。更に着地も綺麗に決まったので、高得点は間違いないだろう。
「不死鳥と呼ばれる響の技……見せてあげるよっ!」
『4番手の響ちゃんも大飛行ーーーっ!』
『右手で艤装を掴みつつ、ふわりと浮いた身体が横向きに3回転ですわーーーっ!』
響も滞空距離が長く安定した回転――720(セブントゥエンティ)を着水も含めてしっかりと決めた。
「あ、あきつ丸も行くでありますっ!」
そして最後尾のあきつ丸は焦りにまみれた表情を浮かべていたが、無理して事故るのだけはするんじゃないぞ……と思っていたところ、
『あきつ丸ちゃんは上半身と下半身を捻って反対の動きを2回するダブルツイスターを披露してくれましたーーーっ!』
『スキーモーグルなどで見かける技ですけど、これも安定した良い動きでしたわ!』
「ふぅ……、なんとかできたであります……」
……と、危険度が低い技でなんとか乗り越えてくれたので、ホッと胸を撫で下ろすことができた。
いや、しかしと言ってはなんだけれど、普通に難しいはずなんだけれど。
やっぱり子供だと思っていても、艦娘って半端じゃない身体能力を持ち合わせているんだよね。
あと何度も言うようだけど、第2ポイントは技の難易度などで競うんじゃなくて、純粋にリレーをしているはずなんだけどなぁ。
ただまぁ、みんながみんな楽しんでいるのならそれを止める訳にもいかないと思っていたところ、
「プリンツちゃん最高ーーーっ!
俺とケッコンしてーーーっ!」
観客の中から1人の男性がマジな表情で叫んでいた。
………………。
うん。こういった輩が続出されると厄介なので、やっぱり止めさせた方が良いよね。
そうじゃないと、またとばっちりを受けなくも……
「答えはNeinです!
私には、先生が居るから駄目なんですよーーーっ!」
「「「ざわ……っ!」」」
ざわつく観客。
そして向けられる痛過ぎる視線。
うん。分かっていた。
こうなるパターンは……読めていたぜ、こんちくしょーーーうっ!
叫びたいのはやまやまだけど、多数に無勢ではどうしようもない。
俺はできる限り視線から逃れられるようにもの影に隠れて縮こまりながら、リレーの様子を伺うしか手がなかったのであった……。
チキンとか……言わないでよね……。
『2つ目のジャンプ台ではレ級ちゃんがダブルバックフリップーーーッ!』
『なんの、プリンツちゃんはスイッチバックサイド1260ですわーーーっ!』
「ムムッ、ナカナカヤルネッ!」
「そっちこそ、思っていた以上にできますね……っ!」
レ級とプリンツが平行に競り合いながら視線を絡ませ、最後のジャンプ台に向かって火花を散らす。
完全にリレーはそっちのけで、どれだけ難易度の高い技を繰り出して成功させるかに意識がもっていかれていた。
その結果、なにが起こるかといえば、
『先頭集団が素晴らしいテクニックを披露して観客を沸かせていますが、3位以下の子供たちとの差が縮まっているぞーーーっ!』
「……エッ?」
「……えっ?」
青葉のツッコミを受けて振り返る2人。
するとすぐ後方には2人を見据えて追いかけてくる榛名の姿の他に、それほど離れていない距離に響とあきつ丸の姿も見えた。
「榛名は……、もうすぐ追いつけますっ!」
「逃がすつもりはないよ……。ypaaaaa!」
「あ、あきつ丸も……、なんとか追いつくで……ありますっ!」
全速力を出す榛名、響。そして必死な形相で頑張るあきつ丸が口々に叫びながら全速力を出している。
「レレッ! マサカコンナニ差ガナクナッテイルナンテッ!」
「ゆ、油断してしまったということですか……っ!?」
いや、油断というよりかは、完全に目的を失念していただけなんだけれど。
ちなみに煽りまくっていた青葉と熊野も同罪だけど、盛り上げるためには仕方がない……と折れるべきだろうか。
どちらにしろ、リレーなのにエアテクニックを披露しまくるのは間違いだったということに気づいたのが遅かったという訳だ。
『1位から5位までの差はほとんどなく、このままだと大混戦は必至ですわ!』
『そしてすぐ先には最後のジャンプ台!
ここを乗り越えれば第3ポイントは間近ですっ!』
「コウナッタラ仕方ガナイ!
スピード優先デ……、イ、行クシカネェ……ッ!」
そういったレ級は、ジャンプ台に向かって一目散に駆ける。
しかし、レ級は分かっているのだろうか。今喋った言葉は、フラグであるということを。
「レ、レ級ーーーッ!
逝ッチャダメダーーーッ!」
大声で止めようとするヲ級だが、完全に漢字が間違っている。
い、いや、むしろわざとなのか……?
ル級の教えを受けたレ級なら、こういうときこそやっちゃいそうなパターンだが……って、そんな悠長に構えている場合じゃなくてだなっ!
「レ級、早まるなっ!
無茶と無謀は違うんだぞーーーっ!」
さすがにヤバいと思った俺は声をかけるが、すでにジャンプ台に足をかけていたレ級には一足遅かったようで、
「アイ、キャン、フラーーーイッ!」
『レ級ちゃんが今日一番の大飛行ーーーっ!』
「かー、らー、のー……」
『し、しかも空中でなにかをやらかしそうですわっ!』
レ級は空中で縦回転に向きを変え、急に落下し出して……
「カットバックド●ップターーーンッ!」
ちょっと待てーーーーっ!
なんでこのタイミングでそれをやるんだっ!?
しかもなんだ。空中にトラパーの波が崩れる場所というか、そもそもそんなモノは存在していないんだぞ!
それなのに、どうしていきなり方向転換なんかできるんだよーーーっ!?
……と、内心叫びまくる俺のツッコミはどこへやら。
レ級はそのまま海面に一直線に落下して、
バッシャーーーンッ!
『な、なんとまさかのカットバックド●ップターンが炸裂ーーーっ!?』
『で、ですが、レ級ちゃんは大丈夫なんですのっ!?』
特大の水柱を見れば一目瞭然。
どう考えても事故発生です。まったくもってありがとうございません。
『し、至急、救急隊を……っ!』
『あ、青葉! お待ちになって……ですわっ!』
熊野が制止する言葉を上げ、視線が水柱の方へと集中する。
するとそこには、海面にスー……と浮かび上がってくるレ級の頭が見えた。
「オーゥ。失敗シチャッタデース」
いや、なんでいきなり金剛風なんだよ……。
『ど、どうやらレ級ちゃんは無事のようです……が……』
『そうこうしているうちに、プリンツちゃんや他の子供たちがジャンプ台をクリアーですわー!』
レ級の上を飛び越えて行く4人の姿を見て、レ級は慌てて海面へと立ち直す。
「コ、コウシテイル場合ジャナイッテバヨッ!」
だからなんで今度は忍者っぽいんだ……?
必死に後を追うも、停止状態から加速したレ級が追いつけるはずもなく、第2ポイントにて最下位に落ちてしまった港湾チームだった。
身体を張ったボケは、時に身を滅ぼしかねないってことだよな……。
次回予告
最後のジャンプをミスしてしまったレ級を除き、子供たちが第3ポイントへと向かう。
そして毎回の如く説明に入る青葉と熊野……だが、なにやら不穏な雰囲気が。
え、まさかの交代ですか……?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その59「放送事故?」
乞うご期待!
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