艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 やっと始まったコードEに対する大作戦。
しかし、時雨と主人公以外本質を知らず、かくれおにで遊ぶ子どもたち。
複雑の心中の主人公に、見知らぬ姿を発見するが……?

 そして出ましたあの2人。
今度はちょっとS気が!?
どうなる主人公! そしてどうなる艦娘幼稚園!


その8「2人は仲間にして欲しそうにこっちを見ている……?」

 幼稚園の東側を捜索していた俺は、通路を歩きながら『知らない人』について考えていた。

 

 愛宕が時雨に対してターゲットの名前を告げず、『知らない人』と言ったのには理由があるのではないだろうか。まず考えられるのは、時雨が体験したことのある2回のコードEが発令されたときのターゲットが、同じ人物でなかったということである。そうであれば、見たことのない人物であろう侵入者を『知らない人』と言うのが一番簡単であるし、なんら問題があるとは思えない。

 

 しかしこの考えが合っているのなら、1つ気になることがある。今回のコードE発令は時雨が知っているだけでも最低3回はあったことになるし、その都度、侵入者への対策を取って警備の見直しなどを行っているはずである。それをしていたのにも関わらず、毎回違う侵入者がそんなに簡単に、鎮守府に入り込むことが出来るのだろうか?

 

「余程の手慣れた人物が侵入してきた……しかも、毎回違う奴だなんて、非常に考えにくいよな……」

 

 某有名怪盗マンガの一味ならやってのけるかもしれないけれど、この鎮守府内にそいつらが目当てにするお宝なんて、あるとは思えない。

 

 考えが詰まってしまった俺は、ふと通路の先に視線を向けた。

 

「あれは……誰だ?」

 

 行き止まりのT字路の右側通路から、1人の子どもが左へと歩いていくのが見えた。全体的に白っぽいセーラー服で身を包み、大きな白い帽子に青色のリボンがワンポイントの可愛らしい子どもだったが、初めて見るその姿に、俺は戸惑いを隠せない。

 

「まさか……あの子が『知らない人』なのか?」

 

 そう呟いてみたものの、あんなに小さな子がコードEを発令しなければならない程の侵入者だとは思えない。だが、見たことが無い子がいる以上、先生としても見過ごす訳にいかないので、俺はその子に声をかけようと早足で追いかける。

 

「そこの君っ、ちょっと待ってほしいんだけど!」

 

 左側の通路に消えていく子に向かって、俺は大きな声をかけながら急いで角を曲がった。

 

「……えっ!?」

 

 俺の視界に入ったのは、まっすぐ続く明るい通路。

 

 しかし、そこに先ほど見た白いセーラー服の小さい子の姿は見えず、俺は何度も目を開け閉めして確認する。

 

 ――が、やっぱり子どもの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「い、今、確かに子どもが……」

 

 角を曲がってすぐのところに隠れる場所は無いし、部屋に入る扉もまだ少し先にしか無い。

 

 つまりそれは、見間違いでなければありえないことが、目の前で起こったということになるのだが、さすがに白昼堂々の明るい通路で、距離もそんなに遠くなく、服装もはっきり見えた俺にとって、「やっぱり見間違えでした。ちょっとばかし、夢でも見てたんですよ」なんてことは口が裂けても言えないし、言いたくもない。

 

「一体どこに行ったんだ……?」

 

 誰に問いかけた訳でもない俺の呟きが、誰もいない通路に虚しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 それから俺は白いセーラー服の子を探すべく、見失った通路の近くを重点的に探したのだが、見つけられたのは通路の先にあるリネン室にいた暁と響の2人だった。

 

「こんなに探しても見つからないなんておかしいわねー。『知らない人』は、いったいどこにいるのかしら?」

 

「さすがにこれは、難しいね……。ヒントがほとんどないから、しらみ潰しに探すしかないんだけど……」

 

 喋りながら部屋に積まれたシーツめくっている暁だが、さすがにその間に隠れるのは子どもの身体であっても難しいと思う。しかしまぁ、鬼としては子を見つけてしまった以上、見逃すわけにもいかないので、俺は声をかけて2人に鬼が来たぞと知らせることにした。

 

「おっ、暁に響じゃないか」

 

「っ!? 先に先生に見つかるなんてっ!」

 

「くっ……部屋の入り口に立たれた以上、響たちに逃げ場は無さそうだね……」

 

「一人前のレディなのにっ!」

 

 いや、それは関係ないと思うんだけど……と、言いそうになりながらも言葉を飲み込みつつ、俺は素早く2人に近づいて、頭を撫でるようにタッチをした。

 

「むーっ!」

 

「仕方ない……少し休憩をさせてもらうね」

 

 膨れる暁と残念そうな表情を浮かべた響はそう言いながら、リネン室から待機場所である遊技室へと足を向けようとする。

 

「あっ、ちょっと待ってくれるかな、暁、響」

 

「ん、何かな先生?」

 

「白いセーラー服を着た小さい子どもなんだけど、見てないか?」

 

 俺の声を聞いた2人は、聞き返しながら頭をひねった。

 

「響は見てないけど……暁はどうかな?」

 

「暁も見てないわ」

 

「そうか……ありがとな」

 

 2人に礼を言って部屋から出ようとすると、今度は響が俺を呼び止めた。

 

「先生、その小さい子どもって、もしかして『知らない人』なのかな?」

 

「そうなのっ!? なら、私が一番先に見つけるわっ!」

 

「いや、そうじゃないとは思うんだが……」

 

 俺は2人に先ほど見た白いセーラー服の小さい子どもについて、発見したときのことを説明した。

 

 

 

 

 

「なるほどね。それじゃあ、先生はその子と一度も話してないんだね?」

 

「ああ、こっちから声をかけたんだけど、返事どころか反応すらないまま、まっすぐ歩いていったんだ」

 

「それで、追いかけて角を曲がったら誰もいなかったなんて、そんなことってあるのかしら?」

 

 俺たち3人は「うーん……」と腕組みをしながら唸った。普通に考えれば、人が急に消えるなんてありえない。もし、今の状況でなければ見間違いだろうと済ましてしまうところなのだけれど、

 

「さすがに怪しいよね。先生も、そうは思わないかな?」

 

「ああ、確かに俺も初めはそう考えたけど、その子がコードEのターゲットにはどうしても思えないんだ……」

 

 そう言った瞬間、暁と響は顔を見合わせ「なぜ?」という様な表情を浮かべた。

 

「……先生、なんでここにコードEが出てくるのかしら?」

 

「え……あっ!」

 

 慌てた俺は両手で口を押さえるが時すでに遅し。暁と響の冷やかな鋭い眼が、俺の顔へと向けられていた。

 

「あ、いや……その……だな……」

 

「怪し過ぎるわ、先生っ! それに、ターゲットって言葉も気になりまくるわっ!」

 

「その通りだね。もしかして、かくれんぼのルール変更も関係してるんじゃないのかな?」

 

「うっ……そ、それは……」

 

 暁と響に詰め寄られて後ずさる俺の背に部屋の壁が当たり、逃げ場を失ってしまった。

 

「事と場合によっては、一人前のレディとしてお仕置きしちゃうんだからっ!」

 

「お仕置きか、良い響きだね……嫌いじゃない」

 

 響の瞳がキラーンと光り、ほんの少し口元がつり上がった。

 

 ぞくり……と俺の背筋に冷たい物が走り、身体中がガタガタと震えあがる。

 

「さあ、どうなの先生っ! 白状すれば許してあげなくもないのよっ!?」

 

「それとも、お仕置きが良いのかな?」

 

「うぅ……分かった……白状するよ……」

 

 俺はがっくりと肩を落として床に膝をつき、暁と響に、時雨と相談した内容を話し出した。

 

 

 

 

 

 今回のコードE発令は、『知らない人』が鎮守府内に侵入した事によって起きたのではないかと思った俺と時雨は、幼稚園の内部を捜索すべく、もう一度かくれんぼを開始したことを暁と響に説明する。

 

「ふむ、なるほどね。それでルール変更をした訳だね」

 

「ああ……黙っていて悪かったとは思ってるんだが……」

 

「ううん、先生の考えは分からなくもないさ。響が先生の立場なら、多分同じことをしていたと思うよ」

 

「そう言ってくれると助かるけど、一言謝らせてくれ。

 すまなかった、暁、響」

 

 俺は2人に向かって深々と頭を下げると、暁が大きなため息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「先生、ひとつだけ教えてくれるかしら?」

 

「な、何かな……暁?」

 

「なんで、私たちに頼ってくれなかったの? 時雨にだけ相談するなんて、私たちじゃ信用が無いって訳かしら?」

 

「いや、そうじゃないんだが……」

 

 言葉に詰まった俺は、ゆっくりと頭を上げて暁の顔を見た。真剣な眼差しで見つめ返す暁に、俺は唾を飲み込んで言葉を探す。

 

「暁、そうじゃないんだ」

 

 響は俺に助け船を出すように声を上げると、呆気にとられた表情を浮かべた暁が「えっ?」と声を上げて響の顔を見る。

 

「良く考えてみれば分かることだけど、先生がルール変更を行ったとき、部屋にはみんながいたよね」

 

「確か……響が言う通り、そうだったと思うわ」

 

「そこで、先生が暁の言うようにみんなに相談したらどうなると思うかな?」

 

「えっと……それは……」

 

 響の言葉に考え込んだ暁は、頭をひねりながら「うーん……」と呟いていた。

 

「予想になるけれど、たぶん一部の――天龍ちゃんとか、金剛ちゃんなら一緒に探すって言うと思うよ」

 

「暁も一人前のレディとして、捜索に加わるわっ!」

 

「もちろん響もやるさ。でも、『知らない人』と聞いて、怖がってしまう子もいると思わないかな?」

 

「っ! そ、それは……確かにそうね」

 

「怖がるだけならまだ良い方かもしれない。場合によっては、パニックになったりする可能性もあるんだよ」

 

「もしかして、先生はそれを予想して……っ!?」

 

 驚いた表情を浮かべながら、暁は俺の顔に視線を向ける。

 

 見事なまでに俺と時雨の考えを見透かした響に感心しつつ、俺はこくりと頷いた。

 

「そう……それなら仕方ないわね。特別に許してあげるわ」

 

 もう一度ため息を吐いた暁は、少し呆れたような笑みを浮かべながら、俺にそう言った。

 

「すまんな……暁」

 

「べ、別にこれ以上謝らなくっても……暁はへっちゃらだしっ」

 

「ああ、ありがとな」

 

 そう言って、俺は暁の頭を優しく撫でようとする。

 

「こっちこそ、色々と考えてくれてありがと……って、頭をなでなでしないでよっ!」

 

「はっはっはっ、これは俺の楽しみだから、止めることは出来ないなぁ~」

 

「なんでよっ! 一人前のレディを子ども扱いしないでよっ!」

 

「ふぅ……やれやれだね」

 

 ニヤニヤしながら頭を撫でようとする俺と、怒る暁を見ながら、響は微笑みながら呟いた。

 

 

 

 

 

「先生、響たちはどうしたら良いかな?」

 

 暁の頭を撫で終えた後、響は俺の顔を見上げながら問いかけてきた。ルール変更の意図を知った以上、素直に待機場所に戻るよりも、引き続き『知らない人』の捜索をしてもらった方が良いだろう。

 

「それじゃあ、響と暁も一緒に捜索してくれるかな。とは言っても、同じ場所を探すのはあまり効果が無いだろうから、別々に分かれて捜索をする方が良いと思うけど……」

 

「そうだね。その方が効率も良いし、先生の言う通りにするさ」

 

「じゃあ、俺は別の部屋を探しに行くから、響たちはこの近くを重点的に頼めるかな?」

 

「了解。響に任せていいよ」

 

「暁のことも忘れないでよねっ!」

 

「ああ、暁もよろしく頼むよ」

 

「当然よっ! 暁が一番ってことを思い知らせてあげるわっ!」

 

 両手を腰にあててふんぞり返る暁に、響は苦笑を浮かべながら「やれやれ……」と呟いた。

 

「よし、それじゃあ俺は行くから、頼んだぞ」

 

「了解」

 

「了解よっ」

 

 2人に手をあげた俺は、先にリネン室から出て、次の部屋へと向かった。

 




次回予告

 お約束の2人の子の日……じゃなくて出番だよっ!
今回と違って、間違いなく次回はあの2人!
いったいどんな方法で主人公を追い詰めるのか!
それは次回のお楽しみだっ!


 艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その9

 残り話数も少なくなってきました!
 全12話の予定でお送りいたします!

 乞うご期待っ!


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