艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 チームワークは最悪。だけどなぜか滅茶苦茶早いプリンツ&霧島コンビ。
このままヲ級&レ級コンビは抜かれてしまうのか、それともなにか逆転の手が……ってマズイ気が

 そして更にはある子供が策を練っていて……?


その48「待て、慌てるな、それは……」

 

『最下位からスタートしたプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが、ついに3位のヲ級ちゃん&レ級ちゃんコンビに追いついたーーーっ!』

 

 白熱する青葉の絶叫が響き渡り、観客からも多数の声が湧きあがる。

 

「いけー、そこだーっ!」

 

「ヲ級ちゃん、抜かれないでーーーっ!」

 

「チクショウメェーーーッ!」

 

 相も変わらず1人だけ変を通り越しているのだが、そこは気にしないでおく。

 

「前を抜いたら、あとは金剛姉さまのチームだけですっ!」

 

「言われなくても分かってますよーだっ!」

 

 応援によってプリンツと霧島に気合が入った……というよりかは、単純にいがみ合っているだけなんだけれど、どうしてそんな状況でも運貨筒を進ませ続けられるかが不思議でたまらない。

 

 しかし、現実に眼の前でヲ級とレ級の運貨筒を苦にもせずに抜き去るプリンツと霧島を見ては、納得しざるを得ないだろう。

 

「ハッヤッ! ナニアレ、メッチャハヤイヨッ!?」

 

「オオゥ……。アレニハサスガニ、敵ワナイカナ……」

 

 ガックリと肩を落としつつも運貨筒を押し続けるヲ級とレ級。

 

 ヲ級の諦めが良過ぎる点がなんとも怪しいし、こういうときはなにかしらの妨害行為をするかもしれないと思っていただけに、なんとも期待外れというのが俺の心境である。

 

 さすがに言い過ぎかもしれないが、ヲ級の性格を1番分かっているだけに正直驚いているんだよね。

 

「マァ、触ラヌナントヤラニ祟リナシッテネ」

 

「……ソレッテ、ドウイウ意味?」

 

「ヤバイ相手ハ、スルーニ限ルッテコトダヨ」

 

「ンー……。デモ、レ級トヲ級ダッタラ、勝テナクモナインジャナイ?」

 

「ドウヤッテ?」

 

「処ス」

 

 そう言ったレ級は、いきなり運貨筒から手を離して前を行くプリンツと霧島に向けようとする。

 

「イヤ、砲撃スルノハ駄目ダヨ」

 

「コレダッタラ手ッ取リ早イヨ?」

 

「愛宕ト港湾カラ怒ラレルケド、イイノ?」

 

「ウグッ、ソレハ……困ルカナ……」

 

 レ級は顔をひきつらせて再び手を運貨筒に添えた。いやはや、これはヲ級のナイスフォローだ。

 

 もしここで砲撃なんかをしてしまえば運動会どころじゃなくなるところだし、これだけ多くの観客が居る前では言い訳なんかできようもない。

 

 そうなってしまったら最後、幼稚園にヲ級やレ級、ほっぽに港湾の居場所がなくなるどころか、場合によっては同盟関係も崩れてしまうかもしれないだろう。

 

 それらを考えれば、本当にヲ級は良く止めてくれた……と思うのだが、そもそもこの競技に関してのルールというか、やって良いことや悪いことの区別をしっかりとレ級に教えていないのだろうか?

 

 本来ならばチームを監督する港湾の役目なんだが、忘れていたなんてことはさすがになさそうなんだけどなぁ……。

 

『プリンツちゃん&霧島ちゃんコンビがここで2位に浮上ーーーっ!

 3位に転落したヲ級ちゃん&レ級ちゃんの踏ん張りもむなしく、その差はどんどんと開いていくーーーっ!』

 

 そうこうしているうちにヲ級たちの運貨筒を軽々と抜いていったプリンツたちは、先頭を行く金剛と榛名の背中をロックオンするかのように目を光らせた。

 

「あとは金剛姉さまのチームだけですねっ!」

 

「言われなくても、分かってますよーだっ!」

 

 全くもって関係が改善しそうにないプリンツと霧島のコンビも、運貨筒の速さだけはとてつもない。

 

 しかし、実況で状況を判断していた金剛と榛名は焦ることなく運貨筒を押しながら、チラリと後方を伺っていた。

 

「フム。さすがは霧島と言いたいところですケド……、分かってますネ、榛名ー?」」

 

「は、はい、金剛お姉さま。榛名は大丈夫ですっ!」

 

 榛名は金剛に顔を向けてコクリと頷き、少し体勢を傾けて運貨筒の側面から前方を見据え、折り返し地点であるターン用のブイの位置を確認する。

 

「残り100メートルほど前方ですっ!」

 

「オッケーですネー!」

 

 叫ぶように答えた金剛がニヤリと笑みを浮かべると、榛名はもう1度頷いて運貨筒から手を離した。

 

 そしてそのまま運貨筒の側面を這うように移動し、進行方向の真横に着いた途端に手を添える。

 

「いきます……っ!」

 

 気迫のこもった表情を浮かべ、榛名が思いっきり運貨筒を押す。すると進んでいる方向が45度ほど斜めに変わった。

 

『おおーっと、先頭を行く金剛ちゃん&榛名ちゃんコンビの動きがいきなり変わったぞーーーっ!?』

 

 気づいた青葉は真っ先に実況し、観客もその動きに注視する。

 

 そして先頭を追いかけるプリンツと霧島もまた、運貨筒の側面から覗き込むように前方を見た。

 

「どうしていきなり方向を変えたのかしら……」

 

 眉間に小さくシワを作り、考え込むような表情を浮かべる霧島。

 

「なんだかよく分かりませんけど、これってチャンスですよねっ!」

 

 一方、プリンツはここが攻め時だと判断したのか、運貨筒を押す力を更に込めた。

 

「ちょっ、いきなりなにをするんですかっ!?」

 

「うるさいですねっ!

 前がトラブルを起こしている今が、追い抜けるチャンスでしょうっ!」

 

「そのようには見えますが、これが罠だという可能性も……」

 

「そんなの、私にかかればなんてことはないですよーだっ!」

 

 イケイケモードになってしまったプリンツに対して焦った霧島は、バランスを取る為に力を強めて進行方向を真っ直ぐに保とうとする。

 

「くっ……、このぉっ!」

 

 なんとかこらえた霧島だったが、プリンツが不敵な笑みを浮かべていたのが見えてしまい、表情を更に不機嫌なモノにした。

 

「そっちがその気だったら……、せえぇぇぇいっ!」

 

「わわっ!?

 な、なにするんですかっ!」

 

 霧島がわざとプリンツが居る方へ意図的に力を込めたのか、運貨筒がグラリと揺れるようにバランスを崩した。

 

「先に喧嘩を売ってきたのはそっちですから、これでおあいこですよね!」

 

「わ、私がそんなので負けると思うんですかっ!?

 反撃ですっ!」

 

 そうしてまたもや繰り返されるいがみ合い。しかし、力の込め具合がちょうど均一になったのか、大きく揺れた運貨筒の動きが安定した。

 

 競技が始まったときからずっとこうなんだけれど、それでも運貨筒が真っ直ぐに進んでいるのは最早奇跡じゃないのだろうかと思ってしまうんだよね。

 

 ヲ級やレ級の漫才もそうだけど、いったいどうしてこのような結果になるのかが全く分からない。

 

 普通は目的とするモノに集中するからこそ、順当に進むはずなんだけどなぁ……。

『先頭の金剛ちゃん&榛名ちゃんコンビの動きを見てここをチャンスと見たのか、2位のプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが勝負に出たーーーっ!』

 

 結果的に更に速度を上げたプリンツと霧島が真っ直ぐに進んだことにより、斜めに方向を変えた金剛と榛名との距離はコースの上では更に縮まることになる。

 

 このままいけば先頭が代わるのは必至。しかし、そんな状況になっても金剛の表情が曇ることがなかった。

 

「フフフ……。思った通りになりましたネー」

 

「はい、金剛お姉さまの作戦勝ちですっ!」

 

 いつの間にか榛名は元居た場所に戻っていたので、運貨筒の向きはコースから大きくそれることにはならなかった。

 

 しかしそれでもターン用のブイに向かって直線に進んでいるのではなく、大回りをしていることには変わりがないし、どう考えても距離的に不利には思えてしまうのだが……。

 

『プリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが怒とうの追い上げにより、先頭を捉えにかかったーーーっ!』

 

 そしてついにコース上で2つの運貨筒が横並びになったとき、金剛が大きく口を開ける。

 

「今デス!」

 

  金剛が運貨筒から手を離し、先ほど方向を変えた榛名とは正反対の位置へと移動して力強く押す。

 

「「「……っ!?」」」

 

 その瞬間、プリンツと霧島、そして俺もが大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか……、ぶつける気かっ!?」

 

 大玉転がしでの見どころといえば、ぶつかり合いというのも1つではある。しかし、重量がかなりある運貨筒が衝突してしまったら、無事であるとは思えないっ!

 

「や、やめ……」

 

「あー、なるほどねー。普通に考えたらそうだけど、更に煽ってきたかー」

 

 俺が必至で叫び声を上げようとしたとき、いつの間にか隣に立っていた北上がボソリと言葉を零した。

 

「そんなに慌てなくても大丈夫だよ、先生」

 

「え、いや、でも、しかし……」

 

「ぶつかりはしないから大丈夫だって。

 ただまぁ、ぶつからないだけ……だと思うけどねー」

 

「へ……?」

 

 そう言った北上が指を金剛たちへ向け、俺は釣られるように視線を動かした。

 

 そこには金剛が片手で運貨筒を押しながら、空いた方の手を使って下まぶたを引っ張り、あっかんべーをしながらプリンツと霧島を煽っていたのである。

 

 そして、それを見た2人はというと、

 

 

 

 ビキィ……ッ!

 

 

 

 ……いや、あのですね。

 

 目尻の辺りに血管を隆起させるのはヤンキー漫画だけで良いと思うんですよ。

 

 トラブルを起こした青葉を前にした愛宕じゃあるまいし……って、もしかしてそれが原因なんじゃないだろうな……?

 

 と、ともかく、子供がそんな顔をするのはよろしくないと思うのだが、とき既に遅しであって……、

 

「フ、フフフ……」

 

「こ、金剛姉さまでも、さすがに今のは……」

 

 顔を伏せながら肩を揺らすプリンツと、なぜか眼鏡がガタガタと震える霧島の背中からは、真っ黒なオーラのようなモノが見えた。

 

 完璧に煽り成功です。

 

 だけど、正直に言って火に油を注いだのと同じだよねっ!?

 

 

 

「「うおりゃああああああああああっ!」」

 

 

 

 心の中で突っ込みを入れた瞬間、プリンツと霧島が大きく叫び、運貨筒の回転速度がとんでもないことになった。

 

「Wa●nsinn!

 Wa●nsinn!!

 Wa●nsinn!!!」

 

 プリンツが何度も同じことを叫びまくりながら運貨筒を押し続けるが、子供が使っちゃいけない言葉だかんねっ!

 

 いやまぁ、大人でも使わない方が良いんだけど……って、そういう場合じゃなくてだなっ!

 

 このままだと方向を変えた金剛たちを狙う可能性すら出てきたんだけれど、北上が言うように大丈夫なのかと振り向いてみると、

 

「うっわー。見事なまでに引っ掛かっちゃってるよねー」

 

 ……と、滅茶苦茶冷静に現状を呟く北上なんだが、額に浮かぶ汗がなんとも言えぬ恐ろしさを感じる始末である。

 

「でもまぁ、これで作戦はほぼ成功……なんだろうねー」

 

「さ、作戦……?」

 

 またもや気になる言葉を呟いた北上に問いかけてみると、先ほどと同じように金剛たちへ指を向けた。

 

『遂にプリンツちゃん&霧島ちゃんコンビが、金剛ちゃん&榛名ちゃんコンビの運貨筒に並んだーーーっ!』

 

 そして絶叫と変わらないレベルで実況する青葉の声がスピーカーから聞こえ、観客が多いに湧き上がる。

 

 しかしそれでも、金剛の表情は変わるどころか……、

 

 

 

「かかった……デスッ!」

 

 

 

 あくどいとさえ言えてしまうような不敵な笑みを、これでもかというくらいに浮かべたのであった。

 




次回予告

 金剛の煽りが見事なまでにHITし、憤怒するプリンツと霧島。
そして金剛の行動を理解した時にはすでに手遅れと思いきや、まさかの手を取った子供とは……。

 遂に、あのテクニックが……ここにっ!?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その49「頭文字S」


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