艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 対空砲玉入れ合戦が開始され、前半戦が終了間近に迫ったとき、あるチームが頭1つ抜きんでる。
誰もが想像しなかったかもしれなかった結果は、とある作戦の効果だった……っ!?



その44「チームワークの差」

 

 対空砲玉入れ合戦の前半終了時刻が迫ったとき、観客の視線が1つのチームに集中した。

 

『なんと、人数が1人少ない港湾チームが良いペースで籠に溜まっているーーーっ!』

 

 実況する青葉の声に熱が入るのも仕方がない。

 

 他のチームと比べても籠に入っている弾の数にそれほど大きな差がある訳ではないのだが、対空砲で弾を発射している子供の姿があまりに凄くてテンションが上がってしまったのだろう。

 

 かく言う俺も、その様子を見て驚きのあまりペンを走らせる手が止まってしまっている。

 

「ゼロ、ナクテモ、ホッポ……撃ツッ!」

 

「レ級、絶賛フル稼働中ニヨリ、イツモヨリ多メニ発射シテマス!」

 

 北方棲姫は単装高射砲、レ級は連装副砲で、弾をとんでもない速度で発射していた。

 

 確か、艦載機も使用できるはずの北方棲姫だが、禁止されてもなおその凄さは他のチームの子供たちでは到底敵うようなレベルではなく、完全に群を抜いている。

 

 良く考えてみれば、そもそも北方棲姫は他の子供たちと違い、あの姿で一端のボスクラス。ある意味運動会に参加してはいけないのではないかと思ってしまうほどだ。

 

 その代わりにチームの人数が1人少ないというハンデをつけ、バランスを取ったのだと予想していた。事実、北方棲姫だけで団体戦に勝とうとするならば難しいと思う。

 

 もちろんレ級も他の子供たちと比べて頭1つ抜けている感じだが、それ以上に驚いたのは、港湾チームの戦略についてだった。

 

「ホイ、ホイ、ホイッ……」

 

「はい、補充ですっ!」

 

「弾、オイテケッ!」

 

「2人トモ、アリガトネー!」

 

 北方棲姫とレ級は籠に向かって弾を撃ち、ヲ級と五月雨が外れた弾を回収して手渡していたのだ。

 

 こうすることで撃つ方は籠に向かって集中することができ、命中精度は格段に上がる。

 

 回収をするヲ級と五月雨も、やるべき動きが固定できるため、人数が少ない部分をフォローするばかりか、徐々に他のチームとの差を広げられる結果になっていた。

 

 つまりこれは、完全に戦略勝ち。

 

 チームのメンバー全ての能力を見極め、役割分担させた港湾の頭脳がガッチリはまったということだろう。

 

「これは、完全にしてやられたな……」

 

 他のチームの子供たちは弾を撃つことに集中していて、港湾チームの様子に気づいていない。

 

 いや、仮に気づいたとしても、前半が終了するのはもうすぐだから真似をするのは難しいし、誰がどちらを分担するかを決めている時間はなさそうだ。

 

 しかし、まだ後半が残っている以上、今のうちに誰かが気づき対策を練ることができれば変わるかもしれないが……。

 

 

 

 パアァァァンッ!

 

 

 

『ここで前半終了の合図ーーーっ!

 対空砲を撃つのを止めて待機して下さい!』

 

 その声に合わせ、子供たちがゆっくりと肩を落とす。

 

 視線のほとんどは自陣チームの籠の中。そして、次に他のチームの籠へと向けていく。

 

「お、おい。なんか、港湾先生のチームの籠、結構多くないか……?」

 

「あらー、天龍ちゃんの言う通りねー」

 

「ムムムッ! 私たちのチームに比べて、結構差が開いちゃってマース!」

 

「さすが……と言いたいところですが、榛名は諦めませんっ!」

 

「……ふむ。これほどの差が出るなんて、予想していなかったね」

 

 しおいチームの面々が相談し合い、何度も籠を見比べる。

 

「まぁ、ほっぽの強さは半端じゃないから、仕方ねーかな……」

 

「天龍ちゃんったら、泣きごとかしらー?」

 

「そ、そういう訳じゃねーけど、タイマン張っても勝てる気がしないからな……」

 

 天龍よ、それが泣きごとだと言うんだぞ?

 

 いやまぁしかし、仮に天龍が成長して立派な艦娘として出撃したとしても、タイマンで勝てる相手だとは思えないだろうな。

 

 強い相手には艦隊(チーム)で勝つ。協力し合うことが大事なんだということを、この運動会で学んで欲しいところだ。

 

「「「ざわ……ざわ……」」」

 

 同じく、他のチームの子供たちも港湾チームの籠に気づき、焦りの表情を浮かべていた。

 

「ど、どうして暁たちよりもあんなに多くの弾が入ってるのよっ!?」

 

「人数は響たちと比べて少ないはずなのに、これは謎だね……」

 

「こうなったら、後半で盛り返すしかないじゃない!」

 

「い、電も精一杯頑張るのですっ!」

 

 しかし、ここは前向きな子供たちが多く、気合を入れ直す面々。

 

「さすがに深海棲艦の姫をやっていただけのことはありますね……」

 

「なんだかプリンツが、姑にいじめられたから物影に隠れて親指の爪をガジガジと噛んでいるみたいですって!」

 

「ま、まぁ、僕たちよりもかなり多く籠に弾が入っているみたいだからね……」

 

「ふうん……。単純な戦力差……という感じだけじゃない気がするんだけど……」

 

 ビスマルクチームの子供たちは、それぞれが思い思いに考えていたりするみたいだが、ろーの例えが色んな意味で凄過ぎて冷や汗をかきそうなんだけど。

 

 昼ドラとかの影響を受けまくっていそうなのだが、昼寝の時間帯に放送しているのをどうやって見ているんだと、気になって仕方がない。

 

「………………」

 

 ただ、ここでも霧島は4人から少し離れた位置で籠を見上げ、会話には全く参加しなかった。

 

 やはり、完全に霧島だけがチームから孤立しているみたいだが、これは見ていて少し可哀相になってくる。

 

 いくら人数合わせの為とはいえ、どうにかならなかったのかなぁ……。

 

「こ、港湾チームの籠……、す、凄く入ってるね……」

 

「うむむ……。あきつ丸たちの籠とは、雲泥の差であります……」

 

「夕立、結構頑張ったぽいのに……」

 

「いやー。まだ前半戦が終わっただけだから、そんなにめげなくても良いんじゃないかなー?」

 

「そうですね、北上さんっ!

 後半で私たちが頑張れば、あれくらいの差なんて引っ繰り返せちゃいますよねっ!」

 

 そして今度は俺のチームの子供たちだが、北上のフォローによって落ち込み気味だったところをなんとか持ち直せそうだという感じだ。

 

 今回の競技は艦載機が使えないルールが追加されているが、あきつ丸もその影響を受けてしまっているはず。その場合、1番辛いのは俺のチームではないかと思ってしまうのだけれど、嘆いていたって仕方がないからね。

 

「フフフ……。他ノチームハ、僕タチノ戦術ニ敵ワナイミタイダネ」

 

「サスガハ港湾姉ノ案ダヨネー」

 

「オ姉チャン、サスガナノ……ッ!」

 

「そ、そうですよね……。いい感じで差がついちゃってますもんね……」

 

 喜ぶ3人に対し、五月雨だけは曖昧な笑顔で返答する。

 

 まぁ、自分以外が深海棲艦という状況だと、色々と気づかいも必要なのかも知れない。

 

 とはいえ、幼稚園で何度も顔合わせもしているだろうから、それなりにコミュニケーションは取れるはずなんだけど。

 

 ………………。

 

 あっ、もしかして、戦場でのトラウマ……とか?

 

 でもそれだったら、どうして五月雨をこのチームに入れたんだろうか。

 

 チームの振り分けをしたのは愛宕だったはずなんだけど、そういった情報を加味していないとは思え難いんだけどなぁ。

 

『さてさて、そろそろ休憩時間も終わりますが、子供たちの準備は宜しいですかーっ!?』

 

 青葉の声を聞いて、再び籠へと照準を合わせる子供たち。

 

 未だ他のチームの子供たちは港湾チームの戦略に気づいた様子はなく、このままではどんどんと差が開いてしまうだろう。

 

 もし、ここで作戦タイムが取れるのなら、俺は子供たちを呼び寄せて情報を伝え、なんらかの対処を考えるべきなのだが、それができない俺としては歯がゆくて仕方がない。

 

 唯一伝えられる方法としては大声で叫ぶ手しかないのだけれど、それをすればすべての子供たちに聞こえてしまうだろうし、それだけだと動揺の方が大きくなってしまう。

 

 港湾チームの戦略を真似しようとしても、子供たちだけで役割分担を即座に決められるとは思えないし、それらをすべて指示したとしても、やっぱり上手くいくとは思えない。

 

 なによりルール違反でないにしろ、勝ちにこだわり過ぎる行動を取ってしまうと、後々厄介なことになりかねない恐れもある。

 

 つまり、今俺にできることは……、

 

「夕立、潮、あきつ丸、北上、大井!

 後半で頑張って盛り返すんだーーーっ!」

 

「……うん。夕立頑張るっぽい!」

 

「う、潮も頑張ります!」

 

「不肖あきつ丸、少しでも差を縮めるであります!」

 

「あいよー、任されたよー。

 まぁ、大井っちと組めば、最強だよねー」

 

「……っ、もちろんですとも北上さんっ!

 酸素魚雷で海の藻屑にしてやりますっ!」

 

 気合を入れる子供たち……だが、テンションが上がり過ぎた大井がとんでもないことを口走ったせいで冷や汗モノなんですが。

 

 つーか、対空砲での玉入れ合戦なのに、魚雷を使う必要性は全くないからね……?

 

 しかしまぁ、これで子供たちの気持ちも前に向いてくれたみたいだし、後半戦も頑張ってくれるだろう。

 

 港湾チームにはかなわないまでも、他のチームより少しでも順位を上げることができれば次へと繋がるのは間違いない。

 

 1位が取れなければ2位がある。パンがなければケーキを食べれば良いとは言わないが、できることを全力尽くしてやらなければならないのだ。

 

 それは、俺の所有権を争う争奪戦の勝利だけではなく、チームの子供たち、そして他の子供たちにも頑張るということをしっかりと学べるように。

 

 そんな気持ちが、俺の心の中に強く、大きくなっている。

 

『ではでは、対空砲玉入れ合戦の後半戦――スタートですっ!』

 

 

 

 パアァァァンッ!

 

 

 

 大きな空砲が再び鳴り響き、子供たちが一斉に対空砲を発射する。

 

 港湾チームの子供たちは前半戦と同様に役割分担をしっかりとやり、他のチームとの差を大きく広げていった。

 

 途中、マックスがその戦略に気づいたのだが――、

 

「ふーん、そう……。なるほどね」

 

「え、どうしたの、マックス?」

 

「港湾チームの戦略が、分かったわ……」

 

 言って、マックスが砲撃を止めて港湾チームの方へと指をさす。

 

「……っ、そ、そうかっ!

 役割分担をすることで、砲撃と弾の回収を早めていたんだねっ!」

 

 驚いたレーベが声をあげたせいで、プリンツやろーにも伝わってしまった。

 

「こ、こうなったら、プリンツたちも同じ手を使いましょう!」

 

「で、でも、誰が弾の回収担当をするのかな……?」

 

「ろーちゃんは砲撃が大変ですから、担当を任されたですって!」

 

「それじゃあ、それでお願いしますっ!」

 

 上手くプリンツがまとめたものの、いきなり回収担当になったろーが上手く立ち回れるはずもなく、

 

「ろ、ろーちゃん、早く補充をお願いっ!」

 

「ひゃあっ!?

 弾が上手く拾えないですって!」

 

「こ、こうなったら僕も回収担当に……、うわぁっ!」

 

 焦りまくったろーの動きが酷いことになり、サポートに回ろうとしたレーベもミスを連発し、完全にペースが落ちてしまったのであった。

 

 そして更に、近くの愛宕チームがレーベたちの騒ぎに気づき、そこから港湾チームの戦略を知って動揺し、ビスマルクチームまでとはいかないもののペースを落としてしまった。

 

 恐れていたことが物の見事に的中し、改めて叫ばなくて良かったと思う所存であり、

 

 

 

 パアァァァンッ!

 

 

 

『ここで試合終了でーすっ!

 子供たちは砲撃を止め、待機して下さーい!』

 

 ガックリと肩を落としたビスマルクチームと愛宕チームの子供たちが、なんとも哀れに見えてしまった。

 

 対して、満面の笑みを浮かべた港湾チームの子供たちは勝利を確信し、

 

 結果、

 1位は予想通りに港湾チーム。

 2位は俺のチーム。

 3位はしおいチーム。

 4位は愛宕チーム。

 5位はビスマルクチームとなった。

 

 第1競技に引き続き、2位を奪取できたので良かった……と思うべきなのだろう。

 




次回予告

 港湾チームの作戦勝ち!
 とぼとぼと帰ってくる潮やあきつ丸を出迎え、慰めの言葉をかける主人公。
だけど、トータル的に見れば……と、北上が説明をし始めた。

 そして、第3競技の準備が整ったけれど……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その45「相乗効果は半端じゃない」


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