艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※今後の更新について、暫くお休みさせて頂きます。
 詳しいことは活動報告に記載いたしましたので、申し訳ありませんが宜しくお願いいたします。



 見事吹っ飛んだ五月雨。そして驚き固まってしまったレーベ。
レースはまだ終わっておらず、誰が1位を奪取するのか分からない……。

 果たして誰が勝ったのか。そして、実況席の方ではとんでもないことが……?


その42「レース終了!」

 

 五月雨の見事な吹っ飛びっぷりに、海上で固まるレーベ。

 

 そんな状態を見かねたのか、スピーカーから大きな声が聞こえてきた。

 

『コースに復帰しようとしたレーベちゃんですが、ここで更なるアクシンデントが発生かーーーっ!?』

 

「……はっ!?

 こんなところでボケっとしている場合じゃないよね……っ!」

 

 青葉の実況で我に返ったレーベがコースに復帰しようと加速を再開する。

 

「オラオラー、天龍様のお通りだーーーっ!」

 

 だが、五月雨の見事な吹っ飛びっぷりによって呆気に取られていたことにより、最後尾の天龍にまで追いつかれてしまっていた。

 

「レーベのアクシデントに五月雨のリタイヤ……。こりゃあ俺様に運が向いてきたって訳だなっ!」

 

「くっ……、これ以上は抜かせない!」

 

 安定した速度でカーブを切る天龍に、徐々に加速しスピードに乗るレーベ。

 

「へっへーん。お先に失礼するぜー!」

 

 しかし、無情にもレーベは天龍に抜かれてしまい、遂に最後尾を走ることになってしまった。

 

「「「クヴァッチ!」」」

 

 そしてどこからか聞こえてくる重なった叫び声に、レーベの顔色がサー……と青くなる。

 

 聞き覚えがありまくる声だったんで、誰かとは言わないけれど。

 

 うん……。まぁ、なんだ。

 

 こ、これも勝負だから……な。

 

 とはいえ、運動会が終わった後にでも、レーベをフォローしてやった方が良いかもしれない。

 

 ……と、独りで頷いていたんだけれど、

 

「ありゃー。こりゃあマズイねー」

 

 大井に抱きつかれながら冷や汗をかいていた北上が、レースを見ながらボソリと呟いた。

 

「えっ、どうしてですか北上さん。

 夕立が1番になったのに、なにか問題でも……?」

 

「そりゃあ、夕立が暁を追い抜いたから今は1番だけどさー。

 もうちょっとレーベが復帰するのが遅いと思っていただけにねぇ……」

 

 言って、北上は苦笑を浮かべながら頬をポリポリと掻く。

 

「……なるほど。

 ここでレーベちゃんが完全に復帰すれば、勝負はどうなるか分からないということでありますな?」

 

「そういうことだねー。

 先頭でひたすら突っ走るより、追い抜こうとする方が気持ちに力が入っちゃうからさー」

 

「だ、だけど……、あんまり焦っちゃったら、危ないんじゃないかな……?」

 

「確かにそうかもしれないけれど、残っているのは直線だけだからねー。

 まぁ、仮にもう1周することになっても、失敗を1度経験していたら安全策を取るだろうから……」

 

「そ、それじゃあ……」

 

「夕立が逃げ切れるか、レーベが再び追い抜いて1着になるか……微妙なところだと思うよ」

 

「そ、そんな……」

 

 北上の説明を受けて愕然とした顔で落ち込みかける潮の頭に、俺はポンッと手を置いた。

 

「だからこそ、俺たちが夕立を応援しなきゃいけない……だろ?」

 

「せ、先生……、そ、そうですね……っ!」

 

 ビックリした顔を浮かべた潮だが、1度コクリと頷いてから俺の顔を見上げる。

 

 泣き出しそうではなく、頑張らなければという力の入った表情を浮かべたのを見て、俺はニッコリと笑みを返した。

 

「ゆ、夕立ちゃん、頑張ってーーーっ!」

 

「夕立殿、頑張れでありますっ!」

 

「夕立ーーーっ、逃げ切れーーーっ!」

 

 俺たちは一斉に夕立へ向けて声援を送ると、他のチームのみんなも触発されたように、様々な声があがってきた。

 

「暁ちゃん、頑張るのですっ!」

 

「天龍ーっ、負けたら承知しないんだからネー!」

 

「レーベ、気合で追い抜きなさいっ!」

 

 そして更には、周りの観客からも大きな声援があがりまくる。

 

「頑張れ、そこだーっ!」

 

「まだ勝負は終わってないぞっ!」

 

 思い思いに叫ぶ子供たちや観客。

 

 ここに居る全てのみんながレースに集中し、まさに一致団結……だと感じたのだが、

 

「古くても頑張れーっ! 厨二病魂を見せろーーーっ!」

 

「アーッ! 嫌イヤイヤイヤイヤーッ!」

 

 一部で、ちょっと可哀想だろうと思う言葉や、なんだかよく分からない叫び声が聞こえたのは……気にしないでおくべきだろう。

 

 つーか、主にS席からです。

 

 これも元帥の……せいだよな。

 

『観客や仲間からの声援も大賑わいを見せ、リタイヤした五月雨ちゃん以外が遂にターンを終了っ!

 コースの残り半分の直線で、いったい誰が先にゴールするんでしょうかーーーっ!?』

 

『いやー、これは目が離せないよねー』

 

『そうですね……って、とんでもない状況でも解説できる元帥が凄過ぎますっ!』

 

『あっはっはー。コブラツイストをされていたとしても、話すことくらいは余裕で……』

 

『なら、その余裕とやらもへし折って差し上げますわっ!』

 

 

 

 ゴキャンッ!

 

 

 

『ひ……ぎゃあああぁぁぁぁぁっっっ!?』

 

『あわわわわっ!

 げ、元帥の腰が逆側にポッキリとーーーっ!?』

 

『折れている部分がフレームインしないところが、昔の時代劇の手法だよねー』

 

『れ、冷静にコメントできる元帥がすでに人間じゃありませんっ!』

 

『懲りていないようですので、更に追撃ですっ!』

 

『あ、ちょっ、更に首はマジで勘弁……』

 

 

 

 ゴキュッ!

 

 

 

『も、もげたーーーっ!?』

 

『………………』

 

『さ、さすがに首がもげたらコメントできない……って、あれ?』

 

『……なるほど。なにか変だと思っていましたが、偽物でしたか』

 

『ほ、本当ですっ!

 折れた部分からコードや金属片が見えてますっ!』

 

『影武者どころか、こんなロボットのような物まで作っているとは……。

 どうやら本格的にお仕置きが必要みたいですわね』

 

『ほ、本格的に……って、これ以上のことをするんですか……?』

 

『当り前ですわ。

 この程度のことなら、日常茶飯事ですから』

 

『そ、そうなんですか……。

 あ、ちなみに今の会話は全部鎮守府内に流れちゃってるんですけど……』

 

『……えっ!?』

 

『………………』

 

『………………』

 

 青葉と高雄の会話に完全なる間が流れ、辺りの観客もいつの間にやら静まり返っている。

 

 おそらくは、あまりにも元帥が不憫過ぎると思ったのか、それとも高雄の恐ろしさに声援を送る気力もなくしたのか……。

 

 どちらにしろ、テンションはだだ下がり……と思えたのだが、

 

『以上、レース途中でしたけど、元帥&青葉、そして秘書艦の高雄による即興コントでした~。パチパチパチ~』

 

 いきなり割り込んできた声によって一部の観客からどっと笑い声があがり、周りの雰囲気も柔らかくなった感じがした。

 

 ちなみに割り込んできた声は明らかに愛宕だったんだけど、見事なフォローには頭が下がるばかりである。

 

 もし、今の会話の収拾がつかなかった場合、運動会どころではなくなっていたかもしれないからね。

 

 なにはともあれ、これでレースを観戦しながら応援を再開できる……という訳であるのだが、

 

 再び海上に目を向けた俺は、とんでもないモノを見てしまったのである。

 

 

 

「ヤアァァァッ!」

 

「ちょっ、マジかよっ!?」

 

 コースに復帰したレーベが最後尾から急加速を開始し、みるみるうちに天龍の横を目にも止まらぬ速度で追い抜かして行く。

 

「な、なんなんだよ、あの速さはっ!?

 どう考えてもおかしいじゃんかっ!」

 

 大きな声をあげる天龍だが、表情は言葉と違って、怒りよりも驚きの方が大きかった。

 

 元帥によれば元々の最高速度はレーベの方が早いとはいえ、そのあまりの差を見ていた俺たちも開いた口が塞がらずに固まってしまっている。

 

 もはや性能差では説明がつかないのならば、やはり練度だとしか考えられないのではあるが、それにしたって天龍とレーベにそこまでの差があるとは思えない。

 

 しかし、目の前に映るのは現実であり、レーベが今までに努力してきた証しでもあるのだろう。

 

 その表情は焦りもあるけれど、自信にあふれる目がハッキリと先頭を行く夕立の後ろ姿を捉えていた。

 

「この速度を保てば、ゴールするギリギリで抜けるはず。

 だけど僕は……っ!」

 

 目を細めて呟いたレーベは、更に加速しようと屈むように姿勢を低くし、空気抵抗を最小限に抑える。

 

 まるで流星のように……とは言い過ぎかもしれないが、そんな風に勘違いしてしまえるほどレーベの速度は凄過ぎた。

 

「待ちなさいーーーっ!」

 

「待てと言われて待つなんて、レースでは考えられないっぽいー」

 

 レーベの視線の先には、折り返し地点で会心の一撃を放ち1番手に浮上した夕立を、暁が少しずつ追い上げているのが見える。

 

 カーブの脱出時では大きな加速差がついていたものの、直線で最高速度を競い合っては暁の方に分があるようだ。

 

 2人もそれを理解しているようで、暁には笑みが、夕立には焦りの色がハッキリと見て取れた。

 

『現在先頭を行く夕立ちゃんと暁ちゃんが激しいデッドヒート!

 ゴールまでの距離はおよそ半分ですが、ここで後方から凄い追い上げを見せるレーベちゃんがやってきたーーーっ!』

 

「「……えっ!?」」

 

 実況が聞こえた瞬間、暁と夕立は咄嗟に後ろへと振り向く。

 

「う、うそっ。もう追いついてきたっぽいっ!?」

 

「ど、どうやったら、そんなスピードが出せるのよ、もうっ!」

 

 慌てた暁と夕立は前に向き直り、自身が出せる最高速度をなんとか超えようと全力を出そうとした。

 

 暁は顔を真っ赤にさせて、艤装へ力を込める。

 

 夕立はまるで犬のように大げさ過ぎる前傾姿勢を取って、できる限り空気抵抗をなくすようにした。

 

「悪いけど、そんな速度じゃ僕に敵うなんて思わないでよねっ!」

 

 しかし、そんな2人の努力もむなしく、レーベは強引に身体を傾斜させて小さな弧を描く。

 

「そ、そんなっ!」

 

「ありえないっぽいっ!」

 

 2人の間をすり抜けながら追い越して行ったレーベが右手を空高く突き上げて勝利宣言とも取れる仕草をし、観客から大きな声援があがった。

 

『ここで4番手まで転落したレーベちゃんが再びトップに躍り出たーーーっ!』

 

 その瞬間、暁も夕立もガックリと肩を落とし、うなだれるように顔を伏せる。

 

 これほどまでにレーベとの差は大きかったのか……と、憔悴してしまう気持ちは分からなくもないけれど、

 

「夕立っ!

 まだだ、まだレースは終わっていないぞっ!」

 

「……はっ!」

 

 俺の大きな声で我に返った夕立が、顔を上げて前を向く。

 

「せめて……、せめて2着を取るっぽいっ!」

 

 両手で頬をパシン! と叩いた夕立が気合を入れ、再び速度を上げた。

 

「し、しまった……っ!」

 

 同じく我に返った暁だが、夕立よりも1歩遅れてしまったこともあり、

 

「ま、待ちなさいよ、もうっ!」

 

 ゴールまでの距離も残り少なく、暁が夕立に追い付くことはできず、

 

『そしてレーベちゃんがゴールイン!

 続いて2番手は夕立ちゃん、3番手は暁ちゃんになりましたーーーっ!』

 

「うぅぅ……」

 

 再びガックリと肩を落とした暁が、夕立の後ろで嘆いていた。

 

「「「我が祖国の科学力は世界一ィィィッ!」」」

 

 そしてハモッた叫び声が聞こえてきが、ツッコミを入れたら後々面倒なことになりそうなので、無視をした方が良さそうだ。

 

 ちなみにビスマルクチームの待機場所からだけじゃなく観客席の方からも聞こえてきたけれど、おそらくはちょいちょい叫んでいるチョビ髭なんだろうなぁ……。

 

「うーがーーー!

 なんで俺様が最後なんだよぉぉぉーーーっ!」

 

 遅れて天龍が両手を上げながらゴールし、大声で叫ぶ。

 

『そして天龍ちゃんがフィニッシュ!

 五月雨ちゃんリタイヤしちゃったので、第一競技はこれにて終了ですっ!』

 

「あ……、そうか。

 俺がビリって訳じゃなかったんだよな!」

 

 そしてなぜか喜ぶ天龍だが、下から数えた方が早い着順だということは言わない方が良いんだろうな。

 

 まぁ、チームの待機場所に戻ったら龍田に突っ込まれるだろうし、それまでは優しい目で見てあげよう。

 

『なお、この結果により、ビスマルクチームには5点、先生チームには4点、愛宕チームには3点、しおいチームには2点、港湾チームには1点が加算されます。

 最後の競技が終わった時点で1番得点が多いチームが優勝になりますので、子供たちは引き続き全力を出し、観客の皆さんは精一杯応援して下さいっ!』

 

「「「わあぁぁぁーーーっ!」」」

 

 大きな歓声と共に拍手があがり、こうして第一競技が終了したのであった。

 

 1着は逃したものの、まだまだ競技の数はある。

 

 俺は帰ってきた夕立を慰めるのではなく褒め称え、次も頑張ろうね――と声をかけたのであった。

 




※今後の更新について、暫くお休みさせて頂きます。
 詳しいことは活動報告に記載いたしましたので、申し訳ありませんが宜しくお願い致します。

 予定としましては1ヶ月くらいで復帰したいと思っておりますので、暫くの間お待ちいただけると幸いです。
 ご理解のほど、宜しくお願い致します。




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