艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 言葉巧みに園児たちを騙そうとする……と言えば聞こえが悪いが、背に腹はかえられぬだし、ほとんどは本当だったりするからね。

 ということで、現状をしっかりと子供たちに伝えつつ上手く誘導しようとしたのだが、想像できた未来がとんでもないことになってしまい……?



その37「戯言先生 改」

 

「そ、それって、どういうことっぽい……?」

 

 俺の言葉に驚いていた子供たちが固まる中、真っ先に口を開いたのは夕立だった。

 

「それを説明する前に、今までの話の内容はある程度分かっているかな?」

 

「う、うん。なんとなくだけど……」

 

 そう答えた夕立だが、不安心からか若干声がうわずっている。

 

「もう1度簡単に説明しておくと、今回の運動会で勝利したチームに俺の所有権をゲットできるチャンスがあるということは分かるよな?」

 

「ここでチャンスというところが、先生らしいよねー」

 

 間髪入れずにツッコミを入れる北上が、ニヒルな笑みを浮かべていた。

 

 なるほど……。さっきから理解しているのかどうかがハッキリしなかったが、これで良く分かった。

 

 北上は俺の考えていることをおおよそ理解していて、ポイントになるところで口を挟むようだ。

 

「そりゃあそうだろう。

 俺達たちのチームが勝利できなかった場合、所有権を得られる者は複数になってしまうんだからな」

 

「そして私たちのチームが勝てば、所有権はそのまま先生に残るって訳だね」

 

「ああ、そうだな。

 俺たちのチームには争奪戦に参加を表明している子は居ないから、是非とも勝たなければならないんだ」

 

「なるほど。

 しかし他のチームが勝った場合、それがどうしてあきつ丸たちにまで被害が起こるという訳でありますか?」

 

「そ、そうだよね……。潮たちは争奪戦に参加している訳じゃ……ないんだけど……」

 

 潮がそう言ったところで俺は肩を落とし、落胆する顔を浮かべた。

 

「あっ、そ、その……、潮は先生が嫌いという訳じゃ……」

 

 慌ててフォローをする潮があたふたしていて非常に可愛い。

 

 うむ。なんと優しいんだろう。

 

 もし、通信簿なんかがあれば間違いなく内申点をアップさせてあげるところだが、それは少々やり過ぎだろう。

 

 俺の仕種が潮を焦らせてしまった感はいなめないのだが、これも話をする流れで必要なので、仕方がないことなのだ。

 

「あー、いや、そういう訳じゃないんだが……、ありがとな」

 

 せめてこれくらいは……と、潮の頭を撫でてあげる俺。

 

 本日2回目であるが、これくらいのサービスは良いだろう。

 

「えっと……、その、は、はい……」

 

 気持ち良さそうに撫でられながら頬を染める潮を見ながら、俺は再び口を開いた。

 

「勝利したのが別のチームになった場合、俺の所有権が誰に渡るかは確定しないことになるよな?」

 

「そうだねー。

 だから先生は先ほど、チャンスという言葉を選んだんだよね?」

 

「ああ、その通り。

 そして、それを知った勝者はどう考えると思う?」

 

「せっかく頑張ったのに、どうしてなんだよ……って、考えるだろうねー」

 

 ペラペラと北上が答えるのを聞き、俺は小さく口元を吊り上げる。

 

 順調過ぎる流れ。まるでサポートを受けているかのような感じさえするが、ここは身を任せるべきだと続けることにした。

 

「それじゃあその後に起こることは……、なんだと思う?」

 

 俺はそう言って、夕立の顔を見る。

 

「え、えっと……、どうなるっぽい?」

 

 バトンを渡すように、あきつ丸へ顔を向ける夕立。

 

「それは……、勝者が怒るでありますから……」

 

 そして更にあきつ丸が潮の方を向く。

 

「そ、それって……、つまり……」

 

 言葉を詰まらせながら、潮は視線を大井に向け、

 

「「「………………」」」

 

 他の子供たちも一斉に、大井の顔を注視した。

 

「………………」

 

 少しの間、沈黙の時間が流れ、

 

「はぁ……」

 

 観念したかのように、大井が大きなため息を吐いて口を開く。

 

「勝利チームの権利者で争いが起こるってこと……ですよね。

 そうなったとしても、やっぱり北上さんや私にはなんの影響も……」

 

 大井が疲れたような顔で言い終えるのを前に、俺はここぞとばかりに口を挟む。

 

「まぁ、それが当事者同士だけなら問題はないかもしれないけれど、負けた者までしゃしゃり出てきたらどうなる?」

 

「それはルール違反ですよね?」

 

「確かにそうだけど、運動会で完全に決着がつかなかったら無効だって言い出す可能性があるかもしれないぞ?」

 

「うむむ……」

 

 無言で考える素振りをやりだした大井を見て、俺は内心笑みを浮かべた。

 

 この時点で大井が俺の『戯言』にはまってしまっているということに、全く気づいていないのだから。

 

「そして、幼稚園内で新たな争奪戦が勝手に起こった場合……」

 

「愛宕先生が……、激怒しちゃうかなぁー」

 

「「「う゛っ!」」」

 

 ボソリと呟いた北上の声に、夕立や潮、あきつ丸に大井が表情を曇らせる。

 

 畏怖されるのは必要かもしれないけれど、愛宕って少しばかりやり過ぎている気がするんだよなぁ。

 

 しかし、今は畳み掛けるべき状況。

 

 ここを逃してはいけないのだ。

 

「いやいや、愛宕先生が怒るだけならまだマシなんだけど……」

 

「そ、そんな訳ないっぽい!」

 

「夕立殿の言う通りでありますっ!」

 

「あ、愛宕先生を怒らせるのは……できるだけ避けるべきね……」

 

 ……と、俺の言葉を遮って、子供たちが一斉に声をあげる。

 

 北上は黙ったままニヒルな笑みを浮かべたままだが、潮は半泣きで膝をガクガクと揺らしていて、あとほんの少し驚かせたら完全に漏らしてしまいそうな雰囲気がムンムンとしている。

 

 いやいや、マジでどうなっちゃってんの……?

 

 いくらなんでも恐怖心しか見えないんですが。

 

 以前からそれとなくは分かっていたし、昨日に俺も色々な目にあったけれど、さすがにこれは限度を超えちゃっている。

 

 だが、俺はこのまま突っ走るしかない……と、我慢しながら言葉を続ける。

 

「ま、まぁ、愛宕先生を怒らせるだけでも怖いということはよく分かったが、それ以上に問題なのは、争奪戦が更に大きくなった場合なんだ」

 

「そんなことになる前に、愛宕先生が全部収めちゃうっぽい……」

 

「そ、そうかもしれないけれど、ごたごたが大きくなってしまったら俺や愛宕先生たちの責任問題にもなってしまうんだ」

 

「責任……問題……?」

 

「幼稚園を騒がせてしまった原因は誰にあるのか。

 それはもちろん……」

 

「先生に決まってますよね?」

 

「……大井の言う通り、そうなるな。

 しかし、ことはそれだけで終わらないんだ」

 

 すかさずツッコミを入れる大井に返しをする。

 

「その結果、俺が幼稚園から追放されたと仮定しよう」

 

「せ、先生が……追放されちゃうんですか……?」

 

「まぁ、あくまで仮の話として聞いてくれ」

 

「わ、分かりました……」

 

 更に泣き出しそうになる潮の頭を優しく撫で撫で。

 

 本当に可愛いなぁ、もうっ!

 

「俺が追放された原因が誰にあるか……という考えがみんなに伝わり、その責任を追及しようと動き出したら、更に厄介なことにならないか?」

 

「な、なんだか頭がごちゃごちゃしてきたっぽい……」

 

「つまり、負の連鎖ってことだねー」

 

「……そうだ。俺は幼稚園から追放されて悲しい。

 争奪戦に参加したみんなも悲しくなるだろう。

 そして、その原因が誰にあるかと追求し始めたら、もうなにがなんだか分からない状況になってしまう可能性があるんだ」

 

「そうなってしまったら、手遅れになってしまうでありますな……」

 

「気づけば幼稚園内はぎくしゃくしてしまって、仲が良い友達同士が別れてしまうかもしれないぞ?」

 

「そ、そんなの……、潮は嫌です……っ!」

 

「そしてついに、幼稚園内は世紀末と化してしまうかもしれないんだ……」

 

「せ、世紀末っぽい!?」

 

 大声をあげて驚く夕立。

 

 そしてその驚きは他の子供たちにも伝播し……、

 

 

 

 

 

「ヒャッハーッ! 天龍様のお通りだぜぇっ!」

 

「おトイレは済ませましたか~? 神様にお祈りは~?」

 

「力こそが正義。良い時代になったものだね」

 

「僕ノ名ヲ言ッテミロォォォッ!」

 

「退かぬ! 媚びぬ! 省みまセーン!」

 

 

 

 

 

 ……と、バイク(三輪車)に乗った子供たちがこんな感じで叫びながらグラウンドを駆け回っている光景が頭の中に浮かんでいたかもしれない。

 

 あと、龍田だけ違うヤツなのはどうしてだろう。

 

「ま、まさに……世紀末であります……」

 

 身体中をガクガクと震わせたあきつ丸が崩れ落ちそうになるのをなんとか手で支え、俺は大きな息を吐いた。

 

「分かってくれたらなによりだ。

 だからこそ、どうにかして俺たちが勝利しないと……」

 

「ふんっ! そんな話で私たちを騙そうだなんて甘いですっ!」

 

 大井が叫びながらヅカヅカと俺の方へ歩み寄り、憤怒の表情で見上げながら右手を空で払う。

 

「それに、たとえそうなったとしても、私と北上さんにとっては別にたいしたことじゃ……」

 

「そうは言うけどさー、大井っち。

 もし幼稚園がそんな状態になっちゃったら、ほぼ間違いなく取り壊しになっちゃうんじゃないかな?」

 

「……え?」

 

 その言葉に振り向く大井に、北上は更に畳み掛けた。

 

「無法地帯と化してしまった幼稚園を残しておくなんて意味がなくなっちゃうし、元帥の立場も危ういよね。

 そうなったら幼稚園に通う私たちが離散する可能性だってあるから、大井っちと離れ離れになっちゃうよねー」

 

「そ、そそそっ、そんなこと……」

 

「絶対にないとは言えないよ?

 だって、争奪戦に参加しているのが天龍やヲ級ならまだしも、佐世保までもが加わっちゃってるんだから、愛宕先生が止められなくなる可能性だってあるんだからね」

 

「で、でも、そうなったとしても私は北上さんと一緒に……っ!」

 

「それも絶対にできるとは言えないでしょ?

 元帥に責任がいっちゃって立場をなくしたら、私たちがどうなるかなんて全く予想がつかないんだからさ」

 

「そんな……、そんな……」

 

 サー……と、大井は顔を一気に青ざめさせ、今にも倒れそうにフラフラと身体を揺れ動かした。

 

「まぁ、あくまで可能性の話ではあるけれど、俺たちのチームが勝利しない場合に起こりうる未来……という訳なんだ」

 

 そして俺がここでキッチリと話を締め、わざとらしく大きなため息を吐いた。

 

 北上を除く子供たちは憔悴したかのようになり、若干やり過ぎた感じがしてしまったものの、ここで最後の言葉を投げかける。

 

「だからこそ、今はみんなで協力して運動会で勝利をする。

 そうすれば、これからも幼稚園でみんな仲良く過ごしていけるんだ」

 

 ニッコリと笑みを浮かべ、1人1人の顔を見ながら頭を撫でてあげた。

 

 夕立、潮、あきつ丸。

 

 俺の手が頭に置かれると、子供たちは緊張から解きほぐされたように安心した顔を浮かべる。

 

 そして、最後に大井の前に立つ。

 

 手を頭に伸ばそうとすると、一瞬ビクリと身体を震わせてから俺の顔を見上げてくる。

 

 ここで失敗すれば、全てが台無しになるかもしれない。

 

 頭を撫でるべきか、それとも言葉だけにしておくべきか。

 

 俺は伸ばした手をどうしようかと考えていると、

 

「まぁ、そういうことだからさ……、大井っち」

 

 言って、俺と大井の間に割り込んできた北上が、代わりに頭を撫で撫でしていた。

 

「き、北上さん……っ!」

 

「大井っちも私の不安を取り除く為に、みんなで協力してよ」

 

「わ、分かりましたっ!

 北上さんの為なら、私なんでもやっちゃいますっ!」

 

「うんうん。それじゃあ宜しく頼んじゃうねー」

 

 笑みを浮かべた北上に釣られて、大井も同じように笑顔を浮かべる。

 

 うむむ……。なんだか良いところを北上に持っていかれた気もするが、結果的には万々歳というところだろう。

 

 これでチームもまとまるだろうし、運動会へのモチベーションも上がってくれるはずだ。

 

 あとは勝利を目指すのみ。待っていろよビスマルク!

 

「それじゃあ、みんなで協力して勝利を目指すぞっ!」

 

「ゆ、夕立、頑張るっぽい!」

 

「潮も頑張ります……っ!」

 

「不肖あきつ丸、全力を出すであります!」

 

「頑張ろうね、大井っちー」

 

「北上さんの為、なにがなんでも勝利を掴みますっ!」

 

 子供たちが大きな声で気合を入れ、俺はホッと一安心。

 

 さあ、やっとスタートラインに立った……というところ。

 

 だけど、最初のころとは比べ物にならないくらい前向きな心になっている。

 

 あとは子供たちの頑張りに賭け、争奪戦を乗り切ろうと無言で頷く。

 

 

 だけど、なぜか分からない不安が心の片隅に残っているのを、俺は気になって仕方がなかったんだよね……。

 




次回予告

 戯言が決まってなんとかチームがまとまった。
これはまだ終わりではなく始まりであり、1つ目の競技も始まっていない。
なんとかチームを勝利へ導く為、奮闘しようと思ったのだが……、

 エキシビションマッチって、なんのなさ……?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その38「全男性の夢?」


 乞うご期待!

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