艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 観艦式もなんとか終えて、やっと運動会と思いきや、またもや不幸はやってくる。
主人公に対して不審な眼を浮かべる2人の子供。
北上と大井が、牙をむくのか否か……。


その34「修羅場フラグ?」

 

 夕立や潮、あきつ丸の頭を撫でながら褒めていたところで、2人が俺を見ながら呟き始めた。

 

「ねえねえ、今の先生の顔ってどう思うかな、大井っち?」

 

「あきつ丸ちゃんが言ってた通り、危険な臭いがしますねー」

 

 俺の耳にしっかり聞こえる声の大きさで話し合う北上と大井は、不審者を見るようにいぶかしげな顔を浮かばせながら、一定の距離を取ろうと後ずさっていた。

 

「そ、そんなことないって。

 俺はただ、みんなが頑張ったことを純粋に喜びながら褒めていたんだぞ?」

 

 非常に気不味い雰囲気を感じ取った俺は、すかさず2人に弁解……ではなく、ありのままを伝えたのだが、

 

「だってさ。大井っち」

 

「ふうん……。そんなことを言う割には、怪しい笑みを浮かべていた気がしますけど」

 

 先ほどのあきつ丸と同じように答えた大井が冷ややかな目を浮かべ、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「それこそ気のせいってやつだ。

 怒った顔をしながら頭を撫でられるなんて嫌になっちゃうだろう?」

 

「まぁ……、そりゃあそうかもねー」

 

 俺の言葉を聞いた北上は少し頭を傾げつつも、納得するように頷いたのだが、

 

「北上さん、騙されたらダメですよ。

 あんなことを言いながら私たちの隙を伺って、ここぞとばかりに籠絡しにかかるんですからっ!」

 

 大きな声をあげた大井が、俺から守るかのように北上の身体を両手で身体をギュッと抱きしめて隠そうとする。

 

 うむむ……。これはまた、思いっきり警戒されちゃっているなぁ……。

 

 しかし、2人とはあまり話したことがないのに、どうしてこうも警戒されてしまっているのだろうか……と思ったところ、

 

「お、大井っち止めてよー。そんなに抱きしめたら、苦しいじゃんかー」

 

「我慢して下さい。こうでもしないと、ハーレムフラグ立てまくり魔の戯言先生から北上さんを守れないんですっ!」

 

 ………………。

 

 いや、なにげに酷くね……ってレベルじゃないんですけど。

 

 大井の言葉に半端じゃない悪意が満ちまくりなんだけど、2人に対して酷いこと言ったことも、やった覚えも、微塵たりともないんですけどねぇっ!

 

「むふふ……。北上さんのほっぺ、柔らかくてスベスベで……気持ち良いですー」

 

 なんてことを心の中で叫んでいると、大井がいつの間にか北上の頬に自分の頬を摺り寄せてクネクネと動いているんですが。

 

「あ、あのさ、大井っち。

 なんだか背筋の辺りに嫌な予感がするんだけど……」

 

 さすがに北上も大井の行動がおかしいと思ったのか、額に一筋の汗を流しながら苦言をしたのだが、

 

「それはまさしく、先生が北上さんを視姦しようとしているからなんですっ!」

 

「おいこらちょっと待て」

 

 視姦ってなんだ。視姦って。

 

 いくらなんでも俺が北上に対してそんなことをするはずがないし、もし仮にやろうものなら、立場上確実に職を失ってしまう。

 

 そんな危険を犯してまでやろうなんて気は全くないし、そもそも教え子である子供たちをそういった風に見るなんてことは有り得ない。

 

 万が一。本当に万が一という可能性があった場合、その対象は間違いなく愛宕に……げふんげふん。

 

 危ない危ない。ちょっと話が逸れそうだった。

 

 ここはきちんと気を取り直して、元に戻そう。

 

 さすがに大井の聞き捨てならない言葉に対して反射的にツッコミを入れた俺だったが、この後どのように話せば良いか分からない。

 

 なんせ、俺が声をあげた瞬間に大井がもの凄い剣幕でこっちを見ているし、警戒しているとかそういうレベルじゃなくて、殺意みたいなのがこもっているんだよなぁ……。

 

 そうとはいえ、あくまでこれは子供レベルの話。

 

 いくら艦娘だとしても、いくつもの修羅場を乗り越えてきた俺にとっては、これくらいの視線なんぞ苦にもならない……と思いきや、

 

「あ、あの……。せ、先生の膝が、震えてないかな……?」

 

「うん。思いっきり震えているっぽい」

 

「正直に言って、情けないでありますな……」

 

 さっきまで喜んでいた潮たちの言葉通り、俺の膝はガクガクと震えていた。

 

 そしていつしか、俺を見る3人の目が冷たいモノへと変わっているんですが。

 

「こ、これは怖いから震えているんじゃなくて、さっき海に落ちちゃったせいで身体が冷えているんだよね」

 

「そ、それって、大丈夫なんですか……?」

 

 心配そうな顔で問いかけてきた潮の目があまりにも純粋で、胸にズキリと痛みが走る。

 

「だ、だけど、すぐに石油ストーブで温めたから、もう少ししたら本調子に戻るかもねっ!」

 

「でも、身体が震えているんだったら、風邪をひいちゃっているっぽい?」

 

「今日の気温はかなり低目ですし、油断大敵であります」

 

 夕立やあきつ丸も俺を気づかうように声をかけながら寄り添ってきたので、後には引けなくなってきた。

 

 しかし、正直に心境を伝えていた場合、俺の信頼度は果てしなく下がってしまい、チーム内のテンションは降下の一途を辿っていたかもしれない。

 

 そう考えれば仕方がなかったかもしれないけれど、やはり嘘をつくというのは色んな意味でやりたくないモノである。

 

「あらあら。そんなに体調が悪いんでしたら、先生はさっさと医務室辺りに駆け込んだらどうでしょうか?」

 

 大井がニヤリと不敵な笑みを浮かべながら鼻を鳴らし、北上の頬をプニプニと指で突いていた。

 

「むぅぅ、止めてよ大井っちー」

 

 北上の口調は全く変わらないが、表情は少しばかり辛そうに見える。

 

 おそらくは大井の抱きしめる力が強すぎて、息苦しいのではないだろうか。

 

「どうしてですか、北上さん。私がこうやってほっぺを突くことによって肌の張りを確かめられ、どのスキンケア用品を使えば良いかを考えられるんですよ?」

 

「わ、私にスキンケア用品って、まだ早いと思うんだけどなぁ……」

 

「そんなことじゃ、大きくなったときに後悔しちゃうんですよっ!」

 

「うーん……。足柄のお姉さんならともかくとしても、今の私に必要があると思えないんだよね……」

 

 言って、北上はげんなりとした表情で訴えるが、大井は全くと言って良いほど聞く耳を持っていないようだった。

 

 そんな2人の様子を見た潮たちも、いったいどうすれば良いのか分からずに不安そうな表情を浮かべている。

 

 このままでは完全にチームは2つ分裂してしまい、100%の力を出し切るなんてことは不可能に近いだろう。

 

 そうならない為にも、俺がこの間を取り持って一体感を出さなければならいのだが……。

 

「うふふー。北上さんー。北上さーーーん」

 

 大井の行動は留まることを知らず、もはや暴走と言っても差し支えがない。

 

 色んな意味で止めさせなければならないが、下手な言葉をかけると大井が機嫌を損ねてしまい、チームがまとまらなくなってしまう。

 

 しかし、子供たちを監督する立場の人間としても、このまま放っておく訳にはいかない。

 

 なので、俺は一種の賭けに出ることにした。

 

「……なあ、大井。ちょっとだけ話があるんだけど、構わないか?」

 

「……は?」

 

 手招きをしながら呼んだんだけど、もの凄く嫌そうな顔で返事をされたんですが。

 

 あまりの反応にぶっちゃけ泣きそうなんだが、ここでめげたら前に進まない。

 

 俺はなんとかへこまないように心を強く持ちながら、再度大井に話しかける。

 

「別に俺は誰かに危害を加えようという気は全くなくてだな……」

 

「ご存じないかもしれませんけど、先生の存在自体が北上さんに毒なんですよ?」

 

「ごふぅ……」

 

 今度は毒扱いなんですけど。

 

 つーか、人間ですらないみたいです。酷過ぎです。マジパナイです。

 

 さすがに精神的ダメージがきつ過ぎて、思わずこの場でへたり込みそうになってしまうが、それでもなんとか耐えながら声をかけ続けることにする。

 

「は、話だけでも聞いてくれないだろうか……」

 

「そんな時間があるのなら、北上さんと触れあっていた方が何百倍も有意義ですから」

 

「し、しかし、このままだとチームワークは……」

 

「そんなモノ必要ありません。私と北上さんが居れば、どんな競技だって勝っちゃいますから」

 

「い、いやいや。競技によってはみんなで参加するモノもあるんだぞ?」

 

「私が他の3人分動けば良いことですから」

 

 ふんっ! と鼻息を荒くして答える大井。

 

 あまりの自分勝手さに嫌気がさすように、潮や夕立、あきつ丸の表情もだんだん険しくなってきた。

 

 正に一触即発の雰囲気に辺りの空気がピリピリとし始めたとき、急に北上が顔色を変えて口を開いた。

 

「大井っち。ちょっと黙って」

 

「………………え?」

 

 いきなりの言葉にビックリしたのか、ポカンと口を開けた大井はゆっくりと北上の顔を見る。その表情は真剣そのもので、茶化すような雰囲気は一切なかった。

 

「さすがに今のは言い過ぎだよ大井っち」

 

「えっ、で、でも、私は北上さんのことを思って……」

 

「それで大井っちは良いと思うかもしれないけど、せっかくみんなで頑張って協力しようってときに、チームの輪を乱そうとするなんておかしいじゃないのさ」

 

「だ、だけど、別にチームじゃなくったって、北上さんと私が居れば……」

 

 オロオロしだした大井が慌てて弁解しようとするが、話せば話すほど北上の表情が険しくなっていく。

 

「大井っちには、みんなと仲良く競技に取り組もうって気はないの?」

 

「そ、そんなの、私たちが勝つ為に必要は……」

 

 大井がそう答えようとした瞬間、北上の眉間がピクリと動いた。

 

 そして右手に力が込められ、大井の頬へ向かおうとしたところで、

 

「ストップ……だ」

 

 俺は北上の肩を掴んで動きを止める。

 

 一瞬身体を硬直させた北上だが、「ふぅ……」と大きく息を吐いてから俺の顔を見上げてきた。

 

「あれれ、バレちゃったかな?」

 

「気持ちは分かるが、仲の良い友達を引っ叩くのは少々……」

 

 

 

「汚い手で北上さんに触るんじゃないわよっっっ!」

 

 

 

「ごげふりゃあっ!?」

 

 北上の動きを制止させて諭そうとしたところ、俺の動きを敏感に察知した大井がその場で垂直飛びし、空中で見事なローリングソバットを俺の腹部にお見舞いしてきた。

 

 そのあまりの素早さに対応し切れなかった俺は、受け身を取ることすらままならずに直撃を受ける。

 

 そして水平に吹っ飛んで行く浮遊感と共に、日の光できらめく海面が目の前に迫ってきて、

 

 

 

 バッシャーーーンッ!

 

 

 

 本日2度目の寒中水泳と相成りましたとさ。

 




次回予告

 またもや海に落ちてしまった主人公。
今回もある意味とばっちり。でも不幸だから仕方ないね。

 ここで大井に対する周りの目が厳しいモノとなり、更にチームの輪が乱れまくりそうになり……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その35「大失態」


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