そんなところにやってきた時雨は、コードEについて思い出した事を語りだす。
次第に主人公は、悪い方へと考え出してしまって……
やっと出てきたコードE!
そして今回は何故かシリアスに!?
たまにはこういうのもアリってことだっ!
いつもよりも大勢の子どもたちとかくれんぼをしたこと以上に、金剛の言葉責め(本人にそんな気は全く無かったみたいだけど)と、龍田を追いかけるのに疲れきった俺は、部屋で休憩している子どもたちと一緒に床に座って身体を休めていた。
愛宕が会議室の方へと向かってから不安な表情を浮かべていた子どもたちだったけれど、楽しく遊べばそんなことはすぐに忘れてしまうかのように、一様に表情は明るく元気になった。そんな子どもたちの様子を見て、俺は少しだけど愛宕や子どもたちの役に立てたのだと実感し、嬉しくなって無意識に笑顔を浮かべていた。
――のだけれど、金剛に言われてへこんでから、どうにも自信が持てないなぁ。
「先生、ちょっと言い忘れてたんだけど……今、いいかな?」
座って休みながらそんなことを考えていた俺に、時雨は声をかけながら近づいてきた。周りを気にするように目を配らせながら、時雨はそれとなく俺のそばに座り、耳元で話し始める。
「さっきの話の続きなんだけれど、お姉さんや愛宕先生から言われてたことを思い出したんだよね」
「……それってもしかして、放送で言ってたコードEについてか?」
「うん、そうだよ。以前にも何度かあったという話はさっきしたけど、かくれんぼをしているときに、その時のことを少し思い返していたんだ」
「それっていったい……」
「コードEが終結した後に愛宕先生から言われたことなんだけど、もし、次に同じようなことがあった場合、これだけは気をつけるようにって」
「それは時雨にだけか?」
「どう――かな、僕以外にも聞いた子はいるかもしれないけれど、愛宕先生と話をしたときは僕一人だったと思うよ」
子どもたちがいる前では話さず、2人きりのときに話したということは、愛宕にとっても時雨は信用がおける子なのだろう。俺も同じ考えだし、今までの会話や助言から、人並みはずれた知識と才能を持ち合わせているのは、文句のつけようがない事実である。
「……そうか。それで、言われたことって言うのは?」
「いつもと変わらないことだったから、あんまり気にしていなかったんだけど、愛宕先生は『絶対に知らない人を見かけたら話しかけずに、他の人に知らせるように』って、言ってたんだ」
「知らない人……だって!?」
「せ、先生、声が少し大きいよ。周りに聞こえちゃうからさ……」
「あ、あぁ、すまん……」
慌てて周りを見回してみるが、どうやら気づいた子どもたちはいなかった。遊び疲れて座り込んだ子どもたちは友達と一緒に話し込んでいるようで、少々声を出しても気づかれることは無さそうである。
「しかし、知らない人って、この鎮守府内で――ってことだよな?」
「そうだね。外で知らない人について行かないようにってのは、幼稚園にいる誰もが聞いたことがある話だけど、わざわざ愛宕先生が改めて言ったんだから、先生の言うとおりだと思うよ」
「そ、それって……つまり、鎮守府内に侵入者がいたってことじゃないか……っ!」
それがどれほど難しいことであるのかは、鎮守府で暮らしている俺にとってよく分かっている。正門には夜間であっても守衛が常時待機し、敷地を囲う壁には監視カメラとセンサーが張り巡らされ、乗り越えようとする者は容赦なく警報音と電気ショックをお見舞いされる。艦娘たちの装備や弾薬などがある施設なのだから、警備が頑丈なのは当たり前なのだ。もちろん、海側からの侵入もたやすいことではなく、海底から海面ギリギリまで張られた探知ネットをすり抜けて泳ぐことも難しいし、空からの侵入も夜間の見回り警備や、センサーをくぐり抜けるのは並大抵のレベルではない。
まぁ、大怪盗辺りが本気になったら分からないけれど、そんな人物が、この鎮守府に用があるとも思えない。
「あくまで予想なんだけど、そうとしか考えられない状況ではあったんだよね。だけど、その騒動で誰かが捕まったっていう噂も聞いたことがないんだよね」
時雨は少し曖昧な表情を浮かべたまま、腕組みをしながら悩んでいた。
「ちなみにもう一度聞くんだけど、愛宕先生からも、他のお姉さん――艦娘からも、コードEのことについては何一つ聞けなかったんだよな?」
「僕が聞いたのは、知らない人を見かけたらすぐに知らせるようにって言われただけだよ」
「そう――か」
それほどまでに、子どもたちに隠さなければいけないコードEのこと。そして、知らない人を見かけたら、すぐに知らせるようにと言ったこと。そのどちらもが、あまりにも理不尽すぎて俺の頭を悩ませた。
「時雨、少し相談したいんだけど、良いか?」
「うん、大丈夫だよ、先生」
「それじゃあまず1つ目からだ。
なぜ、幼稚園の子どもたちにコードEに関して何も知らせないのか。つまり、何かしらの理由があるということだよな?」
「そうだね。それは間違いないと思うよ」
「だけど、その理由が分からない。しかも、まだここにきて日は短いけれど、俺もコードEに関して何も聞かされていないんだ」
「うん。放送にもあったけど、集合をかけられたのはお姉さんたち――戦いに行ける艦娘だけだったよね」
「ああ、他の者は通常業務で、ターゲットを見つけた場合すぐに知らせるように――だった。つまり、ここまでのことから考えられるのは、"ターゲット=知らない人”じゃないのかなってことだ」
「なるほどね。それなら筋が通ってるね、先生」
時雨は納得した表情で一度だけ頷く。
「それじゃあ2つ目だ。そのターゲットについて、見つけたら知らせるようにという部分が、あまりに変過ぎやしないか?」
「たしかに変だよね。知らない人が侵入してきたのなら誰かに知らせるよりも、まずは逃げるべきだよね」
「ああ、その通りだ。つまり、そのことから導かれる答えは……」
「直接的に、危険な人物ではない――ってことだよね、先生」
今度は俺が時雨の言葉に頷く。
しかし、そうは言ってみたものの、そんな人物が果たしているのかどうかは疑わしい。子どもたちが直接出会っても危険は無いけれど、鎮守府内には警報が流され、早急に見つないといけない人物像は、俺の頭では全くと言って良いほど想像できない。
「考えれば考えるほど……さっぱり分からないなぁ……」
そして、もう一つの気になること。
ここにきて日が浅いとは言え、なぜ俺にコードEのこともターゲットのことも知らされていなかったのか。思いつくことはあるのだけれど、それを口にすることは、正直ためらってしまう。
「先生、別に……気に病まなくても良いと思うよ。ただ単に、忘れていただけかもしれないからさ」
「……ああ、そうかもな」
時雨の気遣いが嬉しくて、優しく頭を撫でてあげる。
少し恥ずかしげにしていた時雨だったが、すぐに表情が軟らかくなって、気持ちよさそうに撫でられていた。
金剛の言った言葉を思い出す。
俺がいなくても、子どもたちは楽しくやっていける。
俺がいなくても、幼稚園は普段通りにやっていける。
だから、俺には何も知らされていなかったのだろうか。
……つまり、俺は必要とされていないのだろうか。
「いや、そんなことは無いはずだよな……」
そう呟いて、時雨の顔を見る。
嬉しそうに撫でられ、リラックスしているように見える。
これが嘘なんてことは、信じたくない。
「先生……僕は、先生が必要だよ」
そんな俺の考えを打ち破るように、時雨は小さい声で呟いた。
「時雨……?」
「悩んでる先生なんて、僕はあまり見たくない。だから、いつものように元気よく、笑っている先生が見たいな」
「ああ、ありがとな、時雨」
俺の表情から考えを読みとり励ましてくれた時雨に、俺は小さく頭を下げた。そんな俺を見て時雨は頭を左右に振り、微笑を浮かべながら視線を合わす。
「ううん、お礼を言うのは僕の方なんだ。先生が幼稚園にきてから、金剛ちゃんも、潮ちゃんも、天龍ちゃんも、龍田ちゃんも、夕立ちゃんも、暁ちゃんも、響ちゃんも、雷ちゃんも、電ちゃんも、みんなみんな、元気いっぱいで楽しんでいるんだ。だから、僕も今の幼稚園がとっても、とっても好きで、楽しくて、嬉しくて、毎日がすごく、充実しているんだよ」
「し……ぐれ……」
ぽたり……と、床に雫がこぼれる。
「だから、泣かないで元気よく笑っている先生の顔を見せて欲しいんだ」
頬を伝う感覚が何度も感じ、熱く火照るように溢れだしていく。
「先生がいなくなったら、幼稚園のみんなだけじゃなくて、鎮守府にいるたくさんの人が悲しんでしまう。だから、そんな考えは絶対にしないで欲しいんだ」
時雨の指が俺の頬に触れ、流れ落ちる雫をすくいとった。
「物事には理由がある。先生が今回のことを知らないのにも、何かしらの理由があると思う。だから、自分を攻めたりなんかしないで、今出来ることをすれば良いだけなんだ。もちろん、僕も出来る限り手伝うから、どんどん頼って欲しいんだよ」
「は……はは……っ! これじゃあ、どっちが先生だか、分からないよな」
俺はそう言って、時雨の頭をぽんっと優しく叩いた。
「せ、先生?」
「そうだよ、まだまだ新人なのに何を悔やんでるんだって話だよ。ちょっと気になったからって、全部が全部悪い方向に進むんじゃない。マイナス思考――いや、ネガティブ思考なんかやってるから、ダメになっちゃうんだって」
「……うん、そうだよね」
「俺は、俺に出来ることをすればいいんだ。失敗したって、謝って、次に頑張ればいい。前向きに進むって、何度も何度も誓ったはずなのにな」
頬を伝っていた雫を袖で拭い、ニッコリと笑って時雨を見る。つられるように時雨も笑顔を見せ、俺たちは同時に頷いた。
「それじゃあ、これから何をするかを考えよう。今、俺たちに出来ることは何がある?」
「僕たちへの指示は、通常業務――つまり、幼稚園で過ごすことだよね。だから、幼稚園から用事がない限り出るってことは、止めておいた方が良いと思うよ」
「そうだな。と言うことは、幼稚園の敷地内で知らない人を探す。これが、今俺たちが出来ることだよな」
「うん。そして、あくまで露骨になりすぎないようにするには……」
「もう一度……だな」
「もう一度……だね」
お互いに頷き、満面の笑みを浮かべ合う。
俺は、大きく息を吸い込んで、子どもたちに向けて口を開く。
「よし、それじゃあもう1回、かくれんぼをするぞーっ!」
大きな声が部屋の中いっぱいに響き、それを上回る子どもたちの笑顔と歓声が上がった。
次回予告
再度かくれんぼをすることになった幼稚園!
しかし、今度は大きくルール変更。
時雨と相談した内容で、『知らない人』を探し出す!
艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その7
乞うご期待っ!
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