それはさておき、準備にいそしもうとする前に主人公は疑問な点を問いかけることにした。
しかしそうは問屋が卸さないといった風に、港湾が困った言葉を投げかけまくり……。
「サテ、ソレジャア早イトコロ準備ヲ済マセマショウ」
港湾は小さな息を吐き、身体を反転させて歩き出そうとしたところで俺が声をかけた。
「あ、あの、すみません。ちょっとだけ質問しても良いですか?」
「ン……、ドウシタノカシラ、藪カラ棒ニ」
「根本的というか、今更って感じかもしれないんですけど、今日の運動会についてほとんど説明を受けていないんですよね……」
「説明ッテ……、昨日スタッフルームデ愛宕先生カラ話ヲ聞イテナカッタノカシラ?」
「あー、いや、それはしっかりと覚えているんですけど、昨日聞いたのはチーム分けがメインでしたよね」
「エエ、ソウダッタワネ」
港湾が頷くのを待ってから再び問いかけようとしたところで、しおいが手をポンッと合わせながら口を挟んできた。
「あっ、そういえばそうなんですよっ!」
……そう言って、なぜか俺と港湾の顔を交互に見るしおい。
………………。
そして、そのまま固まること数十秒。
……いや、どうしてなにも言わないんだ?
「エット、ナニガ『ソウ』ナノカシラ?」
「えっと、実は……」
………………。
そこまで喋って、またもや固まるしおい。
なんだか古いパソコンみたいに処理落ちをしている感じがするんだが、大丈夫なんだろうか。
「えっと、ええっと……」
「「………………」」
ブツブツと呟くしおいの声は徐々に小さくなっていき、
「な、なんでしたっけ……?」
「「………………」」
半泣き状態の顔を浮かべながら、俺に助けを求めてきた。
気づけばしおいの身体が小刻みに震えているし、もしかするとさきほど愛宕から脅され……ではなく、質問攻めを受けた後遺症が発症しているんじゃないかと思えるくらいだ。
……って、もしそれが本当なら、情緒不安定にもほどがあるんだけれど。
よくよく考えれば、昨日しおいに振りかかった不幸もそれなりモノもがあったもんなぁ……。
佐世保の子供たちから睨まれたり、俺が地雷を踏んで焦っていたり、愛宕と港湾の胸部装甲に挟まれて窒息死かけたり……。
最後のが凄く羨ましいけれど、本人にとっては命の危機だっただけに喜ぶことはできないのだろう。
まぁ、俺に比べたら全く不幸と言えないけどねっ!
………………。
なんだかへこみまくってきたので、その場でうずくまりたい気分なんですが。
「あ、あの、なにか言って下さいよぉ……」
「え、あっ、ごめんごめん」
泣きかけ3秒前という感じのしおいにすがり寄られた俺は慌てて現実に戻り、港湾に聞こうと思ったことを話すことにした。
「実はしおい先生とここにくる前に話していたんですが、運動会についての詳しい説明は3日前に行われたとのことで、俺はまだ聞いていなかったんですよね」
「……アァ、ソウイエバ確カニ、ソノ通リダワ」
「てっきり俺は幼稚園のグラウンドで運動会を行うと思っていたんですけど、実際にはそうじゃありませんでしたし……、それに鎮守府内には屋台が並んでいたり、一般市民の方々もこられていたりするみたいで、なにがなんだかさっぱりなんですよ」
急いでここに向かっていた為に聞けなかった内容の全てを港湾にぶつけた俺。
別に攻め立てる気はないのだけれど、これについての説明がないことには、運動会というイベントがどういうモノなのかさっぱり分からないからね。
すると港湾がコクコクと頷いてから腕を組み、
「ナルホドナー」
「いや、なんでなにかを制圧する兵器みたいな喋り方なんですかね……?」
「コレモ、ル級カラ教エラレタ『ネタ』ナンダケドネ」
「あいつから教えられたことの全てを記憶から消し去って下さい……」
「ン、今ナンデモスルト……」
「そのネタもつい先日使われた気がするんですが、そもそもそんな言葉は喋っていませんからね」
「ノリガ悪イワネェ……」
「いや、時間もないはずなんで、早いところ説明をしてもらえると助かるんですが……」
「マァ確カニ、準備ヲ放ッテオイタラ後ガ怖い……ワネ」
言って、港湾はなぜかしおいの方を見たので、俺も釣られて顔を向けると、
「………………」
うわー。めっちゃ震えているんですけどー。
目の焦点が合っていないというかどこを見ているか分かんないし、震え方が半端じゃないのでかなりヤバそうだ。
完全にしおいにとって愛宕がトラウマと化しているようです。
本当に、俺が居ない間にいったいなにがあったのかなぁ……。
「ソレジャア簡単ニ説明スルト……」
人差し指をピンと立てた港湾が話し始め、俺はしっかりと聞き逃さないように耳を澄ませることにした……のだが、
「マズ、今回ノ運動会ハ、子供タチノ観艦式ミタイナモノカシラ」
「……はい?」
開口一番から全く聞き覚えのない単語が聞こえ、素っ頓狂な声をあげる俺。
観艦式……って、あの観艦式だよな?
でもそれは鎮守府の士気を高めたり、付近の住民に対して理解を深めてもらったりする為のイベントのはずであり、子供たちではなくきちんと訓練を受けた艦娘たちが行うのが普通である。
それに、もし観艦式みたいなモノ……というのであれば、最初から運動会と銘打つ理由が全く分からないし、そんな大事なことをなにも聞かされていないという段階でおかしな話だ。
ましてや少し前にも考えていたけれど、佐世保のみんなは一様に運動会と言っていた。
つまり港湾が言っていることは、全くかみ合わない……となるんだけれど。
「マァ、アクマデ『観艦式ミタイナモノ』デアッテ、実際ニ行ウノハ子供タチガ艦娘トシテノ第一歩ヲ踏ミ出ス為ノ、行事……カシラネ」
「え、ええっと、なんだかややこしくてよく分からないんですけど……」
どこが簡単なのかとツッコミを入れたくなるが、それこそ時間を疲弊してしまいそうなので我慢をする。
「頭ガ悪イ男ハ嫌ワレルワヨ?」
「……ル級のネタ振りは止めて下さいと言っているんですが」
「イヤ、今ノハ私ノ意見ナンダケドネ」
「なにげに酷いっ!」
呆れた顔で冷たい眼を向けられながら言われると、マジでへこみ倒しちゃうんですよねっ!
「冗談ハサテ置イテ……」
冗談だったんですね……と思っていたら、
「ハッ、シマッタ!」
いきなり大きな声をあげた港湾は、苦虫をかみつぶしたような顔をしてから、
「冗談ト言エバ、ヨシ子サンヲ忘レテイタッ!」
「だからル級のネタは忘れて下さいって言っていますよねぇっ!」
……とまぁ、ツッコミを我慢することができない俺だった。
「サテ、話ヲ戻スコトニシヨウ」
「お、お願いします……」
すでに疲労困憊気味な俺としてはありがたいので素直に頷いたが、準備の段階でこんな感じでは今日1日を乗り切れる自信がない。
だがまずは話を聞かねばと、耳を澄ませながらもボケに対してはスルーをする気持ちを強く持つ。
「ツマリ今回ノ運動会ハ、子供タチガ海ニ出ル初メテノ行事デアリ、ソレヲ一般市民ニモ見テ貰オウト元帥ガ企画シタノガ発端ナノ」
「なるほど……って、素直に頷いてはいけない内容があるんですけどっ!?」
「ドウシテカシラ?」
「そんな大事なことを全く聞かされていない状態で、子供たちが参加できる訳がないじゃないですかっ!」
「………………?」
俺の言葉に首を傾げる港湾だが、そこで疑問に思われたとしても黙っている訳にはいかない。
「だってそうでしょう。子供たちが海に初めて出るってことは、それなりの訓練をしなければいけない訳で……」
「子供タチハ訓練ヲシッカリシタカラ、問題ハナイハズヨ?」
「それも初耳なんですけど、それは舞鶴の子供たちってことですよね?」
「エエ、モチロンソウダケド」
「でもそれじゃあ、佐世保の子供たちはどうなるんですかっ!
俺が向こうに行っている間、今回の行事に向けた訓練なんて全くしていないんですよっ!」
「アレレ、オカシイワネ……」
更に首を傾げた港湾がしおいの方を向く。
「シオイ先生。愛宕先生カラ聞イタ話ダト……」
「え、あっ、はい。確かビスマルクさんからの返答では、『全く問題ないから首を洗って待ってなさい! おーほっほっほっ!』だそうです」
「ちょっ、それも初耳なんですけどっ!?」
そんな話は聞いた覚えもないし、そもそもなんでビスマルクは高笑いをあげているんだよっ!?
そして、なにげにしおいのモノマネが地味に似ていたんですがっ!
女王様みたいなドS声に、一瞬ゾクゾクしちゃわ……ないよっ!
「あ、でも、あれですね。
ビスマルクさんに伝えたのは、佐世保の子供たちが海に出られるかどうかの質問ですから、運動会についての話はしていなかったと思いますよ?」
「……そ、そうなの?」
「私もまた聞きなのでハッキリとは分かりませんけど、先生もその質問に関しては初耳なんですよね?」
「もし聞いていたらなにかしらの対策はしていると思うし、ある程度分かっていたら昨日の段階で聞いているよね……」
「あー、確かにそうですねー……」
「それに、今までのことを全部理解していたら、幼稚園のグラウンドや第二グラウンドに向かおうとしないからね?」
「あ、あはははは……」
愛想笑いを浮かべながら額に汗をかくしおいだが、俺にとっては簡単にことを収める訳にはいかない。
「シカシ、モシモ先生ガ思ッテイル通リナラ、非常ニアリガタイノデハナイノダロウカ?」
「……え?」
「ダッテソウデショウ。訓練ヲロクニシテイナイノナラ佐世保チームガ勝ツ可能性ガ低クナルシ、先生ノ所有権争イカラ遠ザカルノヨ?」
「そ、それはそうかもしれませんけど……」
港湾の言うことはもっともだ。
しかし、そんな不意打ちみたいなことで勝ったとしても良いのだろうか。
いや、それよりも気になるのは、ビスマルクがそんなことを言ったのか……である。
「マァ、オソラクソンナコトニハナラナイト思ウケドネ」
「で、でも実際に、この行事についての話は初耳で……」
「イヤ、ソウジャナクテ……、佐世保ノ子供タチニソンナ心配ハ不必要ッテコトヨ」
「な、なんの根拠があってそんなことが言えるんですかっ!?」
「ダッテ……、少シ前ニ潜水艦ノ子ガ、普通ニ泳イデキタハズヨネ?」
「………………あっ!」
確かに港湾の言う通り、ユーが龍驤と摩耶に連れられて舞鶴に向かったのを見送った俺としては、初耳や忘れましたでは済まされない。あのとき確かにユーは海に入っていたし、無事に舞鶴まで行って帰ってきたのも事実である。
つまり俺が知らないだけで、佐世保の子供たちは海に出られる技術を持っているからこそビスマルクの回答があったのだとすれば……、
「そ、そうか。子供たちはすでに……」
一人前とは言えないまでも、艦娘として成長しているのだろう。
「ソンナ顔ヲスルトハ……」
「や、やっぱり先生は、Mなんですね……」
「いやいやいや、なんでそっちの方向に行っちゃうのかなっ!?」
「コンナ状況デ不敵ナ笑ミヲ浮カベナガラ想像シテイレバ、ソウダトシカ思エナイデショウ?」
「お、俺は純粋に子供たちの成長を……」
「あー、なるほど。自分好みに育て上げて快感を得るという、M男の願望ですねー」
「全く違うし……って、そんな冷ややかな眼で俺を見ないでーーーっ!」
しおいと港湾の2人が、それはもうゴミ屑を見るような目つきで俺を……。
やばい。これはヤバ過ぎる。
こんな状況が続いた日には背筋にゾクゾク……じゃなくて、舞鶴に居るのがマジで辛くなってしまうじゃないか。
やっと佐世保から戻ってきたというのに、争奪戦に巻き込まれた挙句、なんとか平穏な日常を取り戻そうと頑張ろうとしたら、同僚にまでこんな目で見られるだなんて……。
本当に俺、不幸まみれもいいとこじゃないですかね……。
もうこの際、ドMに堕ちれば良いんじゃないかと思えてきたんですけど。
そうすれば毎日がハッピーかもしれないし。
ただし、色んな意味で終わりのような気もする……が。
………………。
べ、別にドMが悪いとか、否定している訳じゃないんですけどね。
「「………………(じーーーーーー)」」
「い、いや、あの……、本当に止めて貰えないでしょうか……」
とは言え、さすがに睨みつけられたままなのは避けたいので、2人に頭を下げてお願いしたところ、
「フム。コノ沈黙ト睨ミヲ受ケテ、笑ミヲ浮カベナイトコロカラシテ……」
「まだなんとか大丈夫って感じでしょうか……」
「……俺の評価がどんどん下がっているんですが」
「私ノ先生ニ対スル初期値ハ、最初カラマイナスダッタケドネ」
「俺がドMというよりも先に、港湾先生がドS過ぎますよねぇっ!」
「イヤイヤ、ソレホドデモ……」
「褒めていませんし、ル級のネタは本当に禁止して下さいーーーっ!」
……とまぁ、こんな感じで朝っぱらからなんども絶叫をあげることになってしまったのは、いつもの不幸だからだと思うしかない。
本当に、平穏な日々が欲しいです。
次回予告
港湾がおかしくなったのは全てル級のせい。
ということにしておいて、説明はまだまだ続きます。
運動会について詳しい話を聞く主人公。
港湾の苦言?に耐えながら運動会の切っ掛けなどを聞くうちに、やっぱりと言うかなんというか、全てはアイツが悪かった?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その30「言いだしっぺは仕打ち済み」
乞うご期待!
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