艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ビスマルクの暴走が子供たちに阻止され、その巻き添えを食らいつつもなんとか難を逃れた主人公。
だが、このまま放置しておく訳にもいかないので……と、食事に繰り出すことにしたのだが……。


その24「まさかのバトル!?」

 

「痛つつ……」

 

 子供たちが投げた枕をガードした俺の腕は未だにジンジンと痛みがあり、少しでも早く治れという気持ちでさすりながら鎮守府内を歩いていた。

 

「本当にもう……っ!

 あの子たちったら、いったいなにを考えているのかしらっ!」

 

 俺のすぐ横には頭から蒸気を出さんばかりに怒りがこみ上げているビスマルクが大きな声をあげ、顔を真っ赤にしている。

 

 昼寝用の部屋で攻撃を受けたビスマルクはしばらく昏倒し、騒ぎを聞きつけた愛宕や港湾が部屋に戻ってきて子供たちをなだめすかせてくれたおかげで俺はなんとか腕のダメージだけで済んだ。

 

 しかし、このままビスマルクを起こしてしまうと子供たちに怒鳴り散らすのではないかと危惧した俺は、スタッフルームまで背負って運んだのだ。

 

 案の定ビスマルクは気を取り戻した瞬間に憤怒し、今にも子供たちの元へと走り出そうとしたのだが、そこをなんとか落ち着かせ、夕食を一緒に取ろうという提案によって折れさせたのである。

 

 ちなみにこの件は愛宕にも了承済みで、「状況が状況なだけに仕方がないですね~」と言っていたものの、少しは寂しそうにしてくれても良いんじゃないかと思ってみたりもした。

 

 だが、実際俺が舞鶴に帰ってきてから失敗の連続だったことを考えればこれもまた仕方がないことかもしれないので、まずはできることをやるべきだと判断した訳である。

 

「……ちょっと、私の話を聞いているのっ!?」

 

「え、あっ、いや、悪い悪い。

 ちょっと考えごとをしていたからさ……」

 

「……この私を放置するなんて、あなたも相当偉くなったものね」

 

「いやいやいや、マジでごめん……って、目つきがかなり怖いんだけどっ!」

 

 顎を引きつつ俺にメンチを切るビスマルク。

 

 まかり違っても、子供たちの前でやってはいけないレベルの顔である。

 

 しかしまぁ、ビスマルクの扱いに慣れている俺としては、上手く話を逸らしてこそ一流なのだが。

 

 ……って、なんの一流なのかさっぱり分からないけど。

 

「そもそも、子供たちがいる部屋でビスマルクが俺を組み倒した揚句に……変なことをしようとするから悪いんだろ?」

 

「……あら、その言葉だと、子供たちがいない部屋だったら構わないということかしら」

 

「なんでそういう解釈になるんだよ……」

 

 そう言いつつ、少しオーバーリアクションで肩を落とす俺。するとビスマルクはニヤリと笑い、更に口を開いた。

 

「なんだかんだと言っても、あなたは私のことが忘れられないのね」

 

「……まぁ、色んな意味で記憶から消し去るのは難しいと思うけどね」

 

「そんなに褒めてもなにも出ないわよ?」

 

「全く褒めてねえよっ!

 つーか、どうやったらそんなに良い方へ解釈しまくれるんだっ!?」

 

「それが私――、ビスマルクが高性能という証よ」

 

「人の話を聞かないってのが高性能なんだったら、色んな意味で恐ろしいけどねっ!」

 

「耳がなければ人は長生きするらしいわよ?」

 

「今の話の流れから、どうしてそうなったのかが全く分からない!」

 

 思いっきりツッコミを入れたところで、ビスマルクはお腹を抱えて笑いだす。

 

 うむ。これでどうやら機嫌は治まったようだ。

 

 ただし、俺の気力は一気に削がれたけど。

 

 今日だけでどれだけ消費すれば良いんだよって叫びたいところではあるが、これもまた俺の役目だから仕方がない。

 

 ……いや、そもそも俺は幼稚園の先生であって、ツッコミ役ではないんだけどさ。

 

「おっと、ここを右だったよな……」

 

 そうこうしている間に目的地の近くまできた俺たちは、建物の角を曲って前を見た。

 

「久しぶりね……。本当に懐かしいわ」

 

「そうだな。俺も佐世保に暫く居ていたから、随分前だった気がするよ」

 

 艦娘宿舎の隣にある2階建て。入口は曇りガラスに木製サッシの引き戸で、暗めの色をした暖簾に『鳳翔食堂』の文字が書かれている。

 

「一応聞いておくけど、ここで良いよな?」

 

「ええ、もちろんよ。

 むしろここじゃなかったとしたら、切れても良いかもしれないわね」

 

「ははは……って、面倒ごとを起こすのはマジで勘弁してくれよ?」

 

「………………」

 

「おい、どうして俺から目を逸らすんだ?」

 

「気のせいよ」

 

「どう考えても、そうとは思えないんだけど」

 

「善処するわ」

 

「それなら俺の目を見て言ってくれ」

 

「……なるほど。つまりキスをして欲しいという訳ね」

 

 言って、俺の顔を引き寄せる為に後頭部を掴もうとするビスマルク。

 

「だからどうしてその解釈になるのかが全然分からないっ!」

 

「それはもちろん、私の思った通りに動いてかるからよ」

 

「欲望に忠実過ぎて、人の迷惑を全く省みていないっ!」

 

「電●軍団かしら?」

 

「古過ぎてついてこられる人がいねぇだろうがっ!」」

 

 マジで勘弁してくれという気持ちで叫んだのだが、ビスマルクは口元を釣り上げて俺を一瞥してから扉の取っ手に手を触れ、ガラガラと開いて中に入った。

 

 やっぱり、人の話を全く聞かないじゃねえかっ!

 

 ……と、今度は心の中で涙を流しながら思いっきり叫び、うなだれながら後に続いたのである。

 

 

 

 もうこの際、ビスマルクを放っておいて自室に帰って良いかな……?

 

 

 

 やっぱりダメですよねー。しくしく……。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ビスマルクの背を追って食堂の中に入ると作業員や艦娘の姿が数多く見え、相変わらず盛況であることが伺い知れる。

 

 そんな中、入口近くでお盆にお皿を載せていた千代田がこちらに気づいて挨拶をしようとしたのだが、

 

「いらっしゃいま……せ………………」

 

 急に言葉を詰まらせ、凍ったかのように硬直する。

 

 唯一動いていた視線が俺とビスマルクの顔を交互に見て、次に大地震が千代田だけの身体を襲ったかのようにガタガタと震わせ……って、なんだこれ。

 

 俺が知っている限り、ビスマルクがこの食堂にきたのは1度だけのはず。そのときに起こったことと言えば……、

 

「ち、ち、ち……」

 

「……ち?」

 

「馬鹿ね。胸部装甲のことでしょ?」

 

「なんでいきなり下ネタを振るんだよっ!?」

 

「あら、どうして今のが下ネタになるのかしら。

 胸部装甲だなんて、普通に言うことだと思うけれど?」

 

「そ、それはそうかもしれないけど……」

 

「むしろ、あなたの下腹部についている……」

 

「そこから先は絶対に言わせねぇよっ!」

 

 俺は絶叫にも似た声をあげながらビスマルクの口を塞ごうと手を伸ばしたが、

 

「フフフ……、甘いわよ」

 

 まるでボクサーのように上半身だけをスウェーしつつ避けるビスマルクに、今度は俺の怒りが収まらない。

 

「ならば……これでっ!」

 

 両手を自分の顎元に当てた俺は、上半身を動かし始めた。

 

「……っ、まさかこれはっ!」

 

 徐々に加速していく俺の動きは∞の字を描き、デンプシーロールを発動させる。

 

「そ、そんな攻撃なんて、私のディフェンス能力にかかれば……っ!」

 

 そう言ったビスマルクはスウェーを止め、軽やかなステップを刻み始めた。

 

 その瞬間、食堂の中で食事やお酒を嗜んでいた人や艦娘たちが俺たちの方に顔を向け、ざわざわとざわめき始めてくる。

 

「ち……、千歳姉ぇ……。

 お酒の用意を早く……って言おうと思ったんだけど……」

 

 ……と、ここでネタばらしが聞こえた気もするが、今更分かったところでどうしようもない。俺が今、しなければいけないのは、ビスマルクの対処であると思ったのだが、

 

「それよりここはトトカルチョよねっ!

 千歳姉ぇっ! 早速みんなに……」

 

「はいはーい。先生が勝つと思う人はこの籠にどうぞー」

 

「ビスマルクが勝つと思う人は私の籠にお願いしますね」

 

 千代田が最後まで言いきる前に、千歳と鳳翔が野菜を入れておく籠を手に持って食堂内をウロウロと回っていた。

 

「さすが千歳姉ぇと鳳翔さんっ!

 それじゃあ私は両者引き分けの人を募集しまーすっ!」

 

「私は先生でよろしくっ!」

 

「俺はビスマルクでっ!」

 

「ここは大穴で引き分けだっ!」

 

「胸部装甲は伊達じゃないっ!」

 

「いやいや、千歳&千代田の胸部装甲もなかなかだぞっ!」

 

「俺は小さい方が好きだなぁ……」

 

「私はもちろん先生でお願いシマース!」

 

「僕モオ兄チャンデオ願イスルネ」

 

「いやいやいや、ちょっと待って」

 

 さすがに聞き捨てならない言葉までもが含まれてきたので、俺は身体の動きを止めてみんなの方へと向いたのだが、

 

「……先生。今更止めるとか有り得ないんでダメですよ?」

 

 いつの間にやら、籠から包丁へと持ちかえた鳳翔さんが、瞳孔を開きっぱなしにした目を浮かばせながら微笑んでいた

 

「ハ……、ハイ……。ワカリマシタ……」

 

 刺される……。ここで止めたら絶対に刺されてしまう……っ!

 

「あら、どうしたの。もしかして怖気ついたのかしら?」

 

 そして俺の表情から心境を読みとったビスマルクが不敵に笑いながら、右手の親指で鼻柱を擦って笑みを浮かべていた。

 

 ぐむむ……。状況が状況なだけに引く訳にもいかないし、そうだと言ってトトカルチョを見過ごす訳にもいかないしなぁ……。

 

 もしこんなことが上層部にでもばれようものなら、どんな罰が下るか分かったもんじゃないし……。

 

「あ、僕はビスマルクが勝つ方で宜しくね。

 先生には何度も苦しめられているから、たまには痛い目にあって貰わないと……」

 

 おいこらちょっと待て。

 

 この鎮守府で1番偉いやつまでもが参加してんじゃねぇよっ!

 

「あら、元帥ったら先生にそんなことをされていたんですか?」

 

「そうなんだよねー。

 ことある毎に僕の彼女を落としにかかってさー」

 

「ああ、なるほど……と言いたいところですけど、その件につきましては元帥の方が悪いと思うので諦めた方が良さそうですね」

 

「ちょっ、鳳翔さんも何気に酷くないっ!?」

 

「そうでしょうか?

 それでなくても、こんなことやあんなことを……」

 

 そう言って、鳳翔さんが元帥の耳元でボソボソと呟いた途端、

 

「えっ、いや、あの……それは……」

 

「秘書艦に聞かれたらマズイことが……、たくさんありますよ?」

 

 満面の笑みを浮かべながら少しだけ頭を傾げる鳳翔さんを前に、元帥はガタガタと震えるしかなかった訳で、

 

「……と言うことで、先生も気兼ねなく戦って下さいね」

 

 そして籠の影からチラリと包丁を覗かせられては、頷くしかできない寸法である。

 

 

 

 かくして、俺 VS ビスマルク in 鳳翔さん食堂が開催されてしまったのであった。

 




次回予告

 まさかの展開に焦る主人公。
トトカルチョまで行われている状況から逃げ出すこともできず、覚悟を決めてビスマルクと戦うことになる。

 それならば……と、自らの特技? を奮いながら戦おうとしたのだが……。


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その25「言(ゲン)と見(ケン)は拳(ケン)より強し?」


 乞うご期待!

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