ル級の影響を受けてしまった港湾のボケに突っ込み、不幸にまみれる主人公。
しかし、それよりも重大であろうと思える防犯システムの言葉に、主人公は恐る恐る問いかける。
その真相を聞き、無事でいられると思えるのだろうか……?
「それで結局のところ、侵入者用の防犯システムを設置した理由ってなんなんですか?」
港湾との即興漫才は終わらせたものの、本来の目的から大きく逸れてしまったので、俺は愛宕に再度聞くことにする。
「先生も色々と考えたみたいですし、お笑いも面白かったので、特別に教えちゃいましょうか~」
愛宕はそう言いながら、胸の辺りで両手を合わせた。
笑って貰えたのならなによりなんだけれど、正直な話、巻き込まれただけなんだよなぁ……。
港湾のせいというよりも、今回は完全にル級の仕業。今度会ったら仕返しをしておかなければならない。
でも、愛宕の機嫌が良くなったのだから、結果オーライな感じはするが……。
うむむ、非常に複雑な気分です。
「侵入者用の防犯システムを設置したのは、幼稚園の外部から誰かの侵入を防ぐ為ではないんですよ~」
「……それって、全くもって意味がない気がするんですが」
「いえいえ、そんなことはありませんよ~?」
「え、でも、侵入を防がないなら……って、あれ……?」
「うふふ。気づきましたか~」
愛宕は少しだけ頭を傾げながら、満面の笑みを浮かべている。
俺の推測が正しければ、それは本来やってはいけないような気がするんだけれど……、
「うぅ……。やっぱり心配ですよ……」
スイッチを入れたしおいがソワソワしながら落ち着かないのを見る限り、間違いがないのかもしれない。
「あ、愛宕先生……。まさかとは思うんですけど、侵入者用の防犯システムを……」
「ええ、そのまさかですね~」
そう――答えた愛宕の目が、ほんの少しだけキラリと光る。
更にはスタッフルームの気温が、2℃ほど下がった気がしたんだが……、
「あぅあぅ……」
しおいが完全にブルってしまって身体中をガタガタ震わせまくっているんだが、いったいどんな防犯システムなのかマジで心配になってきたんですけどっ!
「子供たちだけなら必要ないと思うんですが、他に3人ほど問題がありますからねぇ~」
「い、いや、そうだとしても、さすがにやり過ぎなんじゃ……」
「そうでしょうか~?」
「そうでしょうか……って、ビスマルクたちは所属する鎮守府が違うとはいえ、同じ艦娘で仲間ですよねっ!?」
「確かに先生の言う通りですけど、何度もちょっかいをかけられたこっちの身にもなって下さいよ~」
「……っ!」
愛宕は笑みを絶やさぬまま俺に言う。
しかしその言葉とは裏腹に、愛宕の背には今までと比べ物にならないくらいのオーラがあふれていた。
「…………………」
港湾は無言で愛宕から離れるように後ずさり、
「……ぶくぶくぶく」
しおいはまたもや口から泡を……って、気絶し過ぎじゃねっ!?
つーか、マジで洒落になってないんだけど、いったい誰がこんなに愛宕を怒らせたんだよっ!?
「2度ならまだしも、今回で3度目ですからね~。
もちろん即刻撃退しましたけど、それだけじゃあ腹の虫が治まりませんから~」
「え、えっと……、3度目って……?」
「あ~、そう言えば先生はご存じなかったかもしれませんけど、全く関係がない訳でもないんですよ~?」
「か、関係……?」
「もう~、分からないんですか~?」
「……ひっ!?」
愛宕の目がまたもや光り、俺の身体がまるで液体窒素かなにかで急速に冷凍されたかの如く一瞬で強張った。
さすがはあの高雄の妹だけはある……と言いたいところだが、俺は元帥みたいな行動は取っていないはずなんですがっ!
「それも先生らしいと言えばそうかもしれませんけど、ちょっとは考えて欲しいんですよね~」
「な、な、な、なにを……考えれば良いんですか……っ!?」
「それを言っちゃったら、先生の為にはならないんですけどねぇ~」
愛宕はそう言いながら人差し指を口元に当て、「う~ん……」と呟きながら天井を眺める。
しかし俺の身体は未だに微動だにせず。愛宕のオーラがとんでもない威圧感を醸し出していると改めて悟った。
半端じゃないです。マジで洒落になっていません。
ル級と初めて会ったときや、元中将とガチバトルしたときも、味わったことがない恐怖だよっ!
「……まぁ、そんなところも含めて……なんですけどね~」
「……へ?」
「いえいえ、こっちの話ですよ~」
「は、はぁ……」
頭の中がパニック状態だったせいで愛宕の言葉が聞き取れなかったんだけど、元々小さい声量だったのだから仕方がないかもしれない。
そして、いつの間にか愛宕のオーラが弱まっていて、身体の硬直も解けている。
どうしてなのか分からないんだけれど、どうやら機嫌は良くなったのだろう。
まさに九死に一生を得た気分である。
これからできる限りは、愛宕の機嫌を損ねないようにしなくては。
「ともあれ、先生が心配するようなことにはならないと思いますので安心して下さい~」
「そ、そうなんですか……?」
「はい。あまりやり過ぎちゃったら、昼寝用の部屋からトイレに行くこともできなくなっちゃいますからね~」
「は、はは……。そ、そうです……よね……」
愛想笑いを返す俺だが、内心は滅茶苦茶不安である。
だって、やり過ぎなかったら無理ってことだよね……?
つまりそれって、考え方を変えたら……、
今のままでも、それなりに危険ってことじゃないんですかね……?
「で、でも本当に、大丈夫……ですよね……?」
「ええ。子供たちは、大丈夫ですよ~」
「……子供たちは……ですか?」
「はい~。重さで判別してますから~」
「………………」
いやいやいや、どういうシステムか知らないけど、やっぱり不安なんですけどっ!
重さで子供たちが大丈夫ってことは、ビスマルクや摩耶はどうなるんですかっ!?
あと、どれくらいの数値で設定されているのか分からないけど、身体が小さい龍驤ってどっちに区別されるんですかねっ!?
「それに、作動したところで……」
「さ、作動した……ところで……?」
「髪型がアフロになるだけですからね~」
「………………」
それって、ギャグってことじゃないですよね……?
「冗談ですよ~?」
「じょ、冗談ですか……」
「せいぜい、上手に焼けました~……くらいですし~」
「アフロより酷くないですかっ!?」
「私に喧嘩を売った罰ですから~」
「やっぱり洒落にならないくらい怒っていますよねぇっ!?」
「冗談ですよ~?」
「語尾に信頼性がないですってばぁっ!」
大声でツッコミを入れる俺を見て、愛宕はくすくすと笑っているだけだった。
やっぱり愛宕を怒らせたらダメであり、すぐにでも喧嘩を売った相手を探し出して謝罪させなければと思う俺であったのだが、
「ちなみに昼寝用の部屋に入ろうとしても作動するので、注意して下さいね~」
「対処のしようがないってことですかーーーっ!?」
「明日までの辛抱です~」
「誰か本当になんとかしてーーーっ!」
俺の叫びは部屋中に響き渡るも、港湾は未だに引いたままであり、しおいは気絶したままだった。
愛宕に喧嘩、売ったらダメ。
しかりと、頭の中に刻みこんでおくように。
ビスマルクや子供たちにどうにかして現状を伝える方法を考えつつも、スタッフルームにみんなが集まった理由である運動会の準備について話し合うことになった。
ソファーには左から順に愛宕、しおい、港湾と座り、俺はパイプ椅子を持てきて正面に位置取る。
しおいを挟んで、愛宕と港湾。
一応ソファーは3人掛けであるが、港湾の身体が大きい為に少し狭く感じる。
その結果、なにが起きるのかと言うと……、
「むぅ……、うにゅぅ……」
しおいの頭部側面には、両側から大きな胸部装甲が所狭しと押しつけられるようになっていた。
顔は真っ赤。しかし、愛宕と港湾は全く気付いていない。
「く、苦しい……よぅ……」
次第に顔色が青くなってきているんですが。
なにこれ、新手のイジメなのか……?
でも俺としては、完全無欠のパラダイスですけどねっ!
しおい、今すぐその場所を俺に譲ってくれぇっ!
「それでは明日の運動会について、班分けをしようと思います~」
そしてニッコリ笑って進行する愛宕に、流石の俺も焦りを感じてしまう。
滅茶苦茶しおいが羨ましいけど、そろそろヤバいんじゃないだろうか……。
「ソノ前ニ、シオイ先生ガ死ニカケテイルゾ」
「あらあら~、どうしてなんでしょうか~?」
「オソラク、私タチノ胸部装甲ガ問題デハナイカト思ウノダカ……」
港湾の言葉に頷きたいしおいだったが、どうやら頭部は完全に動かせないようで、前に伸ばした右手がプルプルと震えているだけだった。
……と言うか、分かっているならどちらかが退いてあげたら良いんだと思うんだけど。
「う~ん。息はできているみたいですし、大丈夫じゃないですかね~」
「いやいや、どう見ても大丈夫そうには見えませんよっ!」
「そうですかね~?」
愛宕はそう言いながら顔を傾げ、
あろうことか、しおいの方に身体を預けるように傾かせた。
むにょんむにょん
そして形を変える大きな胸部装甲。
なにこれ。マジヤバいんですが。
「ぐ……ぐるぢぃ……」
「うぉぉぉぉぉいっ! 羨まし……じゃなくて、マジでしおい先生が死んじゃいますってばっ!」
「あら~。先生ったら本音がこぼれちゃってますよ~?」
「しまった……って、今はそんな場合じゃなくってですねっ!」
「オヤ、シオイ先生ノ息ガ止マッタ……?」
「嘘ーーーっ!?」
俺は絶叫をあげながら慌ててしおいに近づき、右手を引っ張って引きずり出そうとする。
しかし俺の思っていた以上にしおいの身体は圧迫されており、上手く2人の間から脱出させることができなかった。
「ふ、2人とも、ソファーから立ちあがって下さいっ!」
「そうしたいのはやまやまなんですが、上手く挟まっちゃったみたいで身体が動かないんですよね~」
「ウ、ウム……。ソウナノダ……」
愛宕は未だにニッコリと笑ったままなのだが、港湾は気まずそうな表情で俺から目を離す。
まるでそれはなにかを隠すみたいに……って、今はそんなことを考えている余裕なんてないっ!
「う、おぉぉぉぉぉ……っ!」
しおいの右手を両手でしっかりと掴んだ俺は、全身の力を使って何度も引っ張り続けた。
その度に愛宕と港湾の胸部装甲が激しく震え、ばるんばるんと効果音が鳴ってしまうような動きに、いつしか俺の鼻から赤いモノが……、
「あれれ~。先生ったら、のぼせちゃったんですか~?」
「ち、力を込め過ぎたから……だと思いますっ!」
隠しようがないのでとっさにそう言ったが、港湾はいつしか苦笑を浮かべつつチラチラと俺の顔を見る。
そんな余裕があるのなら、ちょっとくらいは手伝えよぉぉぉっ!
――と思ったところで、しおいの腕がゆっくりと俺の方へと動いてきた。
「……よし、もう少しでっ!」
俺は最後の力を振り絞り、思いっきり引っ張った途端……、
「うおっ!?」
急に抵抗がなくなり、勢いよく身体が後ろへひっくり返ろうとしたので、慌てて受け身を取った。
「あわ、あわわわっ!?」
「ぐえっ!?」
なんとか頭部を守ることができたのだが、すぐさま俺の身体にのしかかってきたしおいによって、腹部に強烈な痛みが走る。
「痛たたた……って、先生、大丈夫ですかっ!?」
「う、うん……、なんとか……ね」
本音を言えばかなり痛いんだけれど、ここで弱音を吐くと色んな意味で恥ずかしい。
こういうときはカッコ良く決められれば一番良いのかもしれないが、あいにく俺は元帥みたいになる気はないので、やせ我慢で済ませておく。
「あらあら~。なんだか凄い体勢ですよね~」
「……へ?」
愛宕に言われ、現状を確かめてみると、
俺は床の上にあおむけになって倒れていて、
しおいが俺の腹部へ馬乗りになっている。
………………。
うおっ、これなんかエロいっ!
「オヤ、先生ノ鼻カラ赤イ液体ガ凄イ勢イデ……」
「うわっ、本当だ……って、ティッシュはどこかなっ!?」
俺の上で慌てるしおいだけど、どうやら今の体勢についてあまり分かっていないのか、恥ずかしそうにはしていないんだけど……、
「ぐふっ! し、しおい……先生……っ」
そんなにバタバタしちゃったら、腹部が圧迫されてかなり痛いんですけど……っ!
「わわわっ!? せ、先生の鼻からいっぱい血が出てきて、顔がどんどん青くなってますっ!」
「サッキノシオイ先生ト同ジダネ……」
「あら~。結構危なそうですねぇ~」
更に慌てるしおいと、冷静に状況を分析する2人の声が少しずつ遠くなっていくと思ったときには、俺の視界は暗くなっていた。
あ……、これって懐かしい……感じな……気がする……。
……がくっ。
次回予告
久しぶりのラッキースケベなシチュエーションに気絶してしまった主人公。
回復するや否や運動会の説明を受けることになったのだが、いきなり失態を突き付けられたと思い、謝りモードに入るのだが……。
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その19「争奪戦の対処法?」
乞うご期待!
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