愛宕のからかい? を受けつつ、自らへこみまくる主人公。
しかしそれでもめげずに頑張ろうとするのだが、新たな悩みの種は増える一方で……?
自分自身の変化にへこみながらも、精神の疲労を癒す為にソファーに座っていたところ、いつの間にか姿を消していた愛宕が近づいてきた。
「はい。どうぞ、先生」
「あっ、ありがとうございます」
いつぞやと同じように、愛宕は俺に缶コーヒーを手渡してくれた。
「あったかい……ですね」
「ええ。冷温機のおかげですね~」
ありがたく頂くことにした缶コーヒーの蓋を開け、まずは一口飲んでみる。心地の良い温度により、程よい香りと共に喉を通っていく。
「ふぅ……」
小さく息を吐いて、もうひと飲み。ロッカーに設置してある冷温庫と愛宕に感謝をしつつも、頭の片隅で佐世保のコーヒーが淹れたてだったことを思い出す。
そう考えると、味も香りも少しばかり物足りない気がする。
とは言っても、やはり好意を持った相手である愛宕から貰った缶コーヒーなのだから、文句を言うつもりどころか感謝しまくりなんだけど。
料理の隠し味は愛情です――みたいなことを聞くけれど、やっぱり気持ち的な部分も多いのだ。
例えば、高級レストランでフルコースを出されたとしても、元帥より愛宕と一緒に食べる方が格段に違うからね。
……まぁ、そんな経験は1度もないし、あくまで想像でしかないんだけどさ。
そんなことを考えながら、俺は愛宕と他愛のない話をする。
佐世保へ出張に行っている間、舞鶴の幼稚園ではどんなことがあったのか。
俺が佐世保の幼稚園で教えてきた子供たちや、出会った艦娘のこと。そして、厄介ごとに巻き込まれまくったなど、当たり障りのない程度で伝えていった。
なにもやましいことはしていない……という気持ちもあったんだけれど、それ以上に俺は元気で頑張ってきたんだと言いたかったんだよね。
そんな俺の話を、愛宕は嫌な顔を1つもせずに聞いてくれた。それどころか、的確な助言もしてくれたのだ。
幼稚園の教育者として、どうやって子供たちに触れ合えば良いのか。
転勤先の同僚や鎮守府の一員として、良好な関係を作るにはどうすれば良いのか。
助言を聞いているうちに、できれば佐世保に行く前に教えて欲しかったという気持ちはあったけれど、まず先に経験を積んでから……と、愛宕は俺にそれらを教えなかったのではないだろうかと思う。
やっぱり愛宕には頭が上がらない。なにからなにまで、俺の1歩……、いや、2歩も3歩も先を歩いている。
だからこそ設立当初から舞鶴幼稚園を任せられ、多くの子供たちを育てきたのだ。
俺がここにやってきてから多くの子供たちが増え、しおい、港湾という2人の同僚も配属された。
それでもやっぱり愛宕は幼稚園で1番頼りになり、なくてはならない存在なのだから。
そして、俺が最も好意を寄せる女性なのだ――と思ったところで、スタッフルームの入口である扉が勢いよく開いた。
「フゥ……。ヤット休憩ノ時間ダワー」
肩の力を抜きながら小さくため息を吐いて部屋に入ってきたのは、港湾棲姫だった。グルグルと右肩を回しては左手で揉み、いかにも疲れている感を醸し出している。
「港湾先生、お疲れ様です」
「アァ、オ疲レ……ッテ、ナンダ君ハ?」
「なんだ君はってか?
そうです。私が変な……って、お約束の返しは言わないよ!?」
「フム。ソノノリツッコミハ間違イナク、佐世保ニ出張シテイタ先生ダナ」
「ただいま帰りましたと言いたいところなんですけど、どうして外見じゃなくて俺の言動から判断しようとするのかなっ!?」
半ば叫びながら問いかけたところ、港湾は露骨に肩を落としながら息を吐き、
「ツイ先日、ル級カラ先生ガ帰ッテキタラ、コノ『ネタ』ヲ使エト言ワレテイタカラネ」
「あいつのせいかーーーっ!」
やれやれ……と両手を横に広げ、深夜番組の通信販売の如く、アメリカンなジェスチャーを披露した港湾を見て、絶叫をあげる俺。
ネタの古さを考えればすぐに思いつけたはずなのに、暫く会っていなかったから完全に忘れてたよっ!
つーか、あいつは本当に深海棲艦なのかっ!?
ついでに港湾まで、どうしてル級の話に乗っかっちゃうんだよっ!
「くすくす……。やっぱり先生は面白いですねぇ~」
「いやいやっ、今のは完全にル級のネタ振りをやった港湾先生のせいですよっ!?」
「ナニヲソンナニ謙遜スルノダ。芸人潰シノ先生ト言エバ、モハヤ知ラヌ者ハイナイダロウニ」
「ちょっ、それは初めて聞いたんですけどっ!?」
驚いた俺は思わずソファーから立ちあがり、右手を振ったんだけど、
「……ぷっ!」
いきなり愛宕が吹き出しそうになったので、いったいなぜなんだと思いながらキョロキョロと辺りを見回し、そして俺の右手を見た。
うむ。完全に裏手ツッコミになっちゃってるんですよね。
「サスガダナ。正ニ関西人ノ鑑ト言エヨウ……」
「なんでやねーーーんっ!」
すでに弁解は無理だと悟った俺は、開き直ってもう一度裏手ツッコミをかまし、スタッフルームに笑いの渦が巻き上がった……かもしれない。
その後、疲れた表情でフラフラとスタッフルームに入ってきたしおいを含め、愛宕から明日の運動会についての説明を受けることになった。
そう言えば、しおいって遊戯室で気絶していたような気がするんだけれど、完全に忘れてしまっていた。
愛宕に呼び出しを受けてスタッフルームにきたけれど……、ビスマルクや佐世保の子供たちも放置しっぱなしになっちゃってるよね……。
これって少々どころか、かなり不味くないのだろうか?
まさかとは思うが、舞鶴の子供たちともう1度ひと悶着……なんてことになっていたら、かなり厄介なんだけれど……、
「愛宕先生。一応ビスマルクさんたちには昼寝用の部屋を使ってもらうように言っておきましたけど、それで大丈夫ですよね?」
「ええ。前にお願いした通りですから、問題ないですよ~」
……と、俺の心配を解消してくれそうな、しおいと愛宕の会話が聞こえてきた。
しかしそれでも、相手はあのビスマルクである。部屋で大人しくしてくれるのなら、佐世保で苦労なんかしなかった。
今回は安西提督も一緒にきているから、大暴れをしまくるなんてことはしないと思うけれど、それでもやっぱり信用できないところが困ったモノだ。
できるならば近い場所で目を光らせておきたい。だけど、明日の運動会についての説明を受けておかなければ、進行に差し支えが出てしまう恐れもあるだろう。
つまり俺がやらなければいけないことは、可及的速やかに説明を聞き終え、一目散にビスマルクの元へと出向いて自重させるように監視するべきなのだが、
「あっ、ちなみにスイッチは入れておきましたよね~?」
「は、はい……。侵入者用の防犯システムの……ですよね?」
「それならオッケーです~」
ニッコリと笑みを浮かべながら頷く愛宕に、冷や汗をかきながら心配そうな表情のしおいが「本当に大丈夫なのかなぁ……」と呟いていた。
………………。
……はい?
侵入者用の防犯システムってなんですかね?
そんなの、俺が佐世保に行く前に設置していませんでしたよ?
「あ、あの……、愛宕……先生……」
「はい~、なんでしょうか~?」
「さ、さっき言っていた、侵入者用の防犯システムって……?」
「読んで字の如くですよ~」
「は、はぁ……」
それじゃあ説明になっていないんだけれど、読んで字の如くと言われれば考えなければならない。
普通に考えれば、幼稚園の外部から侵入してくる悪意の持った相手を防ぐ為のシステムだと思うのだが……。
それらに当てはまる人物と言えば、真っ先に浮かびあがるのが青葉である。彼女は幾度となく問題を起こしたことによって幼稚園内での取材が禁止されており、業を煮やして設置したと考えれば話は通りそうだ。
また、元帥も対象になりそうな気がするし、以前にチラッとだけ出会ったことのある大鯨も、言動から候補に入れて欲しいところである。
金剛とヲ級を見る目が、ちょっとでは済まないレベルで危なかったし、息づかいも荒いように見受けられたからね。
……今考えてみれば、思いっきり要注意人物じゃねぇか。
それなのに、ちっちゃい子供に悪事を働こうとする悪い大人を探しているとか言っていた気がする。
それって、かなり矛盾しているような気がするんだが……、本人は気づいていないんだろうなぁ……。
「………………」
……と、考えをまとめていたところで、なぜか俺の顔をジッと見つめる港湾の視線に気づく。
「………………」
思い違いかもしれないと思ったが、どっからどう見ても俺の顔に視線が向いているよね?
つーか、表情がきつくなったら睨みつけと変わらない気がするんですけど。
「あ、あの……、港湾先生……?」
「……ン、ドウシタ?」
「い、いや、どうして俺の顔を見ているのかな……と思いまして」
「アア、ソノコトカ。
ナニヤラ自分ノコトヲ棚ニ上ゲテイル輩ガ居ルト思ッテナ……」
「……へ?」
「マァ、分カラナイナラ気ニシナクテモ良イ」
そう言った港湾は、プイッと俺から視線を逸らした。
「そ、そうですか……」
なんだかよく分からないが、気にしなくて良いと言われたのならばこれ以上は聞き辛い。理由も内容もハッキリしないので、問う内容も不明なのだ。
それより今は侵入者用の防犯システムについてなのだが、おおよそは考え尽くしたので聞いてみることにする。
「侵入者用ということですから、外部からの侵入を防ぐためのシステムですよね?」
「ええ。その通りですよ~」
「それを聞いて真っ先に思い浮かぶのは青葉なんですけど、そもそも必要になったりするんですか……?」
「青葉相手なら、全く必要がありませんねぇ~」
「で、ですよね……」
ハッキリと断言されてしまった俺は、苦笑いを浮かべながら頬を掻く。
どうやらしおいも同じ心境なのか、乾いた笑い声をあげていた。
「それじゃあ、元帥がなにかしたとか……?」
「それなら真っ先に高雄姉さんが飛んできますから必要ないですね~」
「あ、あはは……」
思いっきり想像できてしまうんですが、幼稚園にくる前に執務室でぼこられている場面を見たからだろう。
まぁ、アレは完全に自業自得だから仕方ないけどさ。
「そ、それじゃあ、いったいなんの目的で侵入者用の防犯システムを設置したんですか……?
まさかとは思いますけど、他に幼稚園を狙う輩がいる……と?」
「いえいえ。そんな輩がいた場合、高雄姉さんと私がきっちりO☆SHI☆O☆KIしちゃいますよ~。
それに今は港湾先生も居られますから、ちょっとやそっとの戦力では相手になりません~」
「ウム。ホッポヤ子供タチニ危害ヲ加エヨウトスル者ハ、私ガ全力ヲ持ッテ除去スルゾ」
「デ、デスヨネー……」
あ、ちなみに頷きながら呟いたのは俺ではなく、白目を剥きながら小刻みに身体を震わせつつ顔を引きつった笑いにしているしおいである。
いったいなにがあったのかは知らないが、色んな意味で精神的ストレスが溜まりまくっている気がするので、リフレッシュさせてやないとやばそうだ。
今度暇があったら、色々と相談に乗ってやる方が良いかもね……。
………………。
結局のところ、俺の考えは全部的外れになってしまったんですが。
正直これ以上考えても浮かんでこないので、答えを愛宕に聞くしかない。
「降参です、愛宕先生」
「あらあら~。潔いのは好感が持てますけど、もうちょっと頑張って欲しいですねぇ~」
「ソウダナ。早イ男ハ嫌ワレルゾ?」
「色々とツッコミどころが満載なんですが、それもル級の入れ知恵ですか?」
「……ムッ。先生モナカナカヤルナ」
「それほどでもないですけど、続きがなかっただけありがたいと思っておきます」
「ツッコミナダケニナ」
「続きあるじゃんっ!」
「ソウ――。コレガオ約束トイウヤツダ」
「ちくしょうっ!
まんまと一杯食わされたっ!
まるで目の前にル級がいるようだっ!」
「ソウデス。私ガ、ル級デス」
「どっからどう見ても港湾先生ですよねぇっ!?」
そして3度目の裏手ツッコミ。
愛宕は鼻を鳴らしてからくすくすと笑い、しおいもいつの間にかお腹を抱えて転げ回っていた。
目的からは遠く離れたが、しおいのリフレッシュはこれでできちゃった感じがする。
これはこれで結果オーライなのか……と思いきや、
「フムゥ。コレハル級ノ言ウ通リ、トリオヲ組ムベキナノダロウカ……」
「いや、やりませんよ?」
「無念デゴザル……」
「ツッコミを入れる気力もないですよ……」
「3度モヤッタ先生ガソレヲ言ウトハ……」
「それは全部ル級のせいですからねっ!」
「……見事ナツッコミダゾ?」
「またやっちまったよ、うわあああああああああああああんっ!」
……と、こんな感じで港湾と初のお笑いライブを終えた訳なんだよね。
いや、冗談ですよ?
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次回予告
ル級の影響を受けてしまった港湾のボケに突っ込み、不幸にまみれる主人公。
しかし、それよりも重大であろうと思える防犯システムの言葉に、主人公は恐る恐る問いかける。
その真相を聞き、無事でいられると思えるのだろうか……?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その18「裏番長の怒り」
乞うご期待!
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