是非、宜しくお願い致します。
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金剛の一声によって、部屋の中に更なる険しさが増す。
追い詰められたかに思えた主人公だったが、ここで本当の気持ちを打ち明けるべきだと思ったのだが……。
無言と重い空気が、部屋中を包み込んでいる。
突き刺さる視線は激しさを増し、指先1つ動かすことすらできない。
頭の中は既にパニックを通り越した為か、ある意味冷静な思考をすることができた。
「………………」
それではここで、1つ1つ整理してみよう。
現在、俺は遊戯室の中で、子供たちとビスマルクに囲まれて正座をしている。
基本的には俺のことを好いてくれているみたいだが、度が行き過ぎたせいで、誰を彼女に選ぶのか――的な返答を期待されているようだ。
俺の立場として、子供たちに手を出すなんてことは、あってはならない。
唯一のビスマルクに関しては、向こうが一方的に迫っているだけであり、俺がそういった関係を望んでいる訳ではない。
希望としては愛宕が俺の彼女になってくれることが1番嬉しいのだが……って、待てよ。
もしかして、これはチャンスなのだろうか?
先程から愛宕とアイコンタクトを取っていて分かったことだが、何かしらの誤解があるとは言え、完全に嫌われているという感じではなかった。
今まで俺自信がチキンっぷりを発揮しまくっていたせいで告白できずにいたけれど、ここでハッキリと公言することで、みんなに伝わるのならば……アリなのかもしれない。
結果によっては更に厄介なことになりかねないかもしれないが、それならそれで諦めがつく。もちろん、できるならば成功して欲しいけどね。
本来なら、準備に準備を重ねてから実行するべきなんだけれど、ここで告白することが現在の状況を打破できる唯一の手に思えてきたし、俺の性格を考えれば、勢いに任せてしまわないと、いつまで立っても前に進めないだろう。
そうとなれば、善は急げ。
俺は痺れる足を我慢しながらゆっくりと立ち上がり、愛宕に顔を向けて口を開いた。
「じ、実は……俺……っ!」
視界に映る愛宕の顔。
数ヶ月前と変わらない姿は、いつ見ても俺の心臓を高鳴らせる。
初めて会ったその日から、ずっとずっと好きだった。
一目惚れの理由が――どこであるかとは言えないが、今では愛宕の全てが愛おしいと思っている。
だからこそビスマルクの告白を跳ね退け、明石のツボ押しによって不能になってしまったときもめげずに耐え、様々な困難にも立ち向かってきたのだ。
そして今、俺は舞鶴に帰ってきた。
ならば、俺の思いを伝えたっても良いだろう?
それが子供たちやビスマルクにとって辛い現実だったとしても、俺1人の意思を少しくらい尊重してくれたって構わないはずだ。
ただ、そこで問題があるとするならば――
「あ……ぅ……」
やっぱり俺は、とんでもないレベルでチキンだったと言うことである。
鏡を見なくても分かるくらい、顔は茹蛸のように赤くなっているだろう。
心臓の音が周りにも聞こえてしまうくらい、大きく早く鳴っている。
視界に愛宕を捕らえている限り止むことはなく、俺の思考は完全にフリーズ状態となっていた。
「あら~、先生ったら立ち上がったまま固まるなんて、どうしちゃったのかしら~?」
そんな中、部屋の隅っこで笑みを浮かべていた龍田が口を開いた。
「なんだか、愛宕先生の方を見てるっぽい!」
「そう……だね。それに、なんだか顔がすごく赤くなってるし……」
「もしかして、風邪でもひいたっぽい?」
「それはさすがにないと思うけどね~」
そう言った龍田は、ニンマリと不適な笑みを浮かべながらすたすたと俺に近づいてくる。
その意図が全く分からなかった俺や子供たち、そしてビスマルクは、龍田の姿を視線で追いながら様子を伺っていた。
そして龍田は、俺のすぐ目の前に立ち、
俺のズボンをしっかりと握ってから、みんなの顔を見渡しながら大きく口を開く。
「ヘタレな先生だから、自分の気持ちもろくに伝えられないだろうし、私が勝手に進めちゃうわね~」
「………………へ?」
かろうじて出すことができた俺の呆気ない声をスルーして、龍田は言葉を続けていく。
「みんなが先生のことをゲットしたいって言うんだったら、この間と同じことをすれば良いと思うのよ~」
「「「……っ!」」」
その瞬間、重かった空気が一気に動き始め、舞鶴幼稚園側の子供たちが一斉に口元を緩めた。
「ナイスなタイミングで明日は運動会だから、これって良い機会だと思うのよね~」
そして、龍田の意図を汲み取った佐世保幼稚園側の子供たちも、同じように口元を緩める。
「……と言うことで、第二回先生争奪戦の開催を発表いたします~」
「「「うおぉぉぉぉぉっ!」」」
まるで、どこぞの独立国家を目指す総統が演説を終えた直後のような盛り上がりを見せた子供たち&ビスマルクが、大きな声とともに右手を突き上げた。
そう――。
結局のところ、俺が愛宕に告白することはできず仕舞いであり、
それどころか、俺の意思を完全に無視して争奪戦が行われることになってしまったのだ。
佐世保側のみんなはそのつもりでこっちにきていたんだけど、龍田の言葉によって完全に舞台は整いを見せ、
もはや、後戻りできない状態になってしまったんだよね。
その後、俺はどうにかして子供たち&ビスマルクを説得しようとしたのだが、盛り上がりきったテンションを鎮めることは難しく、それどころか明日の運動会に向けての鍛錬や準備を行うと言って、遊戯室からぞろぞろと出て行った。
部屋の中に残っているのは、佐世保側の子供たちとビスマルク、未だ床でへたれたままの龍驤と摩耶、そして気絶しっぱなしのしおいと、笑顔を絶やすことなく立っている愛宕だ。
「フッフッフッ……。
これで明日の運動会は全力で暴れられるわねっ!」
ビスマルクがキュピーンと効果音が鳴りそうな雰囲気を醸し出しながら子供たちの方へ顔を向けると、レーベとマックス、プリンツが揃って大きく頷いた。
「僕たちからどうやって切り出せば良いのかと考えていたけれど、まさかあちらの方から提案してくるとは思わなかったよ」
「そうね……。でも、向こうもかなりの気合が入っていたから、油断をするのは少々危険ね」
「問題ありませんっ!
私たちとビスマルク姉さまが全力を出せば、先生の所有権は完全にゲットできちゃいますっ!」
ホッとした表情を浮かべるレーベに、冷静に分析するマックス。そしてプリンツは「ふぁいやー!」と叫びながら、何度も拳を高く上げていた。
完全にやる気モードがMAXです。
俺の言葉なんて、誰も聞こうとしないんだもん。
ちなみに、この中で唯一目的が逸れるろーに至っては、
「ろーは楽しかったらなんでも良いですって!
それより、舞鶴の温泉にまた入りたいですって!」
……と、こんな風にマイペースっぷりを発揮していた訳である。
こうなってしまった以上、俺ができることは成り行きを見守るしかないのだろうか?
前回の争奪戦は、俺が勝利をすることでことなきを得、更にはご褒美まで頂いた。
しかし、今回は運動会で対決することもあり、主役は完全に子供たちなのである。
ビスマルクが佐世保幼稚園の引率として参加することができたとしても、俺の立ち位置が非常に分かり辛い現在の状況を考えると……、
俺って、いったいどちらにつくのだろうか?
帰還命令は受けたんだから、俺の所属は舞鶴幼稚園のはずである。しかし、それを目の前に居る佐世保の子供たちに伝えれば、どういった反応が返ってくるのかは、想像に難しくない。
下手をすればチェーンコンボ発動により、そのまま病室へ直行である。
場合によっては、ビスマルクの暴走が加えられ、お嫁……じゃなくて、お婿に行けなくなってしまうかもしれない。
まぁ、さすがに愛宕の前でもあるので、そんなことが起きるとは思えないけれど、油断をする訳にもいかないのだ。
いや、そもそも俺が舞鶴か佐世保のどちらかについたとしても、勝利した側のチームに俺の所有権が渡されるのだから、どれだけ頑張ったとしても意味がないのである。
そう――考えたところで、運動会についての詳しい情報がないことに気がついた。
安西提督から合同の運動会を行うとは聞いていたけれど、開催日程くらいしか俺は知らないし、どういった内容を行うのかなんて情報は欠片も入ってきていない。
それに、舞鶴と佐世保の幼稚園には決定的な差があることを、ビスマルクたちは知っているのだろうか?
俺の考えが間違っていなければ、佐世保側が勝つなんてことはまずあり得ない。
だって、そもそもの人数が違い過ぎるだろう?
佐世保幼稚園の子供は、レーベ、マックス、プリンツ、ろーの4人。仮に俺がこちら側に引率として入ったとしても、ビスマルクを合わせて6人だ。
しかし、舞鶴幼稚園に所属している子供たちの数は、明らかに多い――で済まないのである。
先ほど睨み合っていた天龍、金剛、時雨、ヲ級の4人に加え、部屋の隅に居た龍田、潮、夕立。更に暁、響、雷、電、比叡、榛名、霧島、五月雨、あきつ丸、ほっぽ……など、他にもまだまだ沢山の子供たちが居る。
下手をすれば俺が佐世保に行っている間に増えているかもしれないし、記憶から忘れ去っている子供たちも……居ないとは限らない。
ほんの少しだけ話したことがある……、ちょっぴり怪しげな関係が危ぶまれそうな、2人の子供が居たような……。
ハッキリしないところも多々あるが、つまりはそういうことであり、どこぞの軍人が言っていた「戦いは数だよ兄貴!」が完璧に当てはまってしまうのではないのだろうか?
もしそうであれば、これは合同運動会という生易しいモノではなく、むしろ公開処刑にも似たイベントなのでは……と、疑ってしまえなくもない。
さすがにそんなことをするとは思えないけれど、発案者が元帥だと言うことがどうにも引っ掛かる。秘書艦である高雄が暴走を収めてくれているとは思うのだが……。
「うむぅ……」
考えれば考えるほど訳が分からなくなってくるが、こういうときは聞いてみるのが早いだろう。
未だに笑ったままの愛宕が少々怖かったりもするが、情報がないまま突入なんてことは避けておきたいからね。
と言うことで、善は急げ。
俺は愛宕の方に顔を向けて、質問を投げかけようとしたんだけれど……、
「それじゃあ先生、ちょっと話があるのでスタッフルームまでお願いします~」
そう言った愛宕は、クルリと身体を反転させて遊戯室から出て行った。
質問をしようとした俺にとって、話をする切っ掛けを与えてくれたことに感謝をするべきなんだけれど、
完全に、愛宕の目が笑ってなかったんですよ。
まさかとは思うけど、俺ってこのまま海に沈められたりしないですよね……?
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次回予告
龍田の発言で追い詰められた先生だったが、更に愛宕から恐ろしい言葉が……。
このままだと先生の足が棺桶に突入コースなんだけど、恐る恐る向かいます。
そしてスタッフルームで、愛宕の言葉攻めが待っている……っ!?
艦娘幼稚園 第二部
舞鶴&佐世保合同運動会! その16「密室●●事件!?」
乞うご期待!
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