艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 天龍をなだめてから再びかくれんぼを再開した主人公。
残る子どもはあと2人。金剛と時雨を探すため、最後の部屋スタッフルームにやってくる。
はたして金剛と時雨は見つけられるのかっ。

 コードEはどこに行ったっ!? もう完全に忘れられてるよっ!
 かくれんぼは……終わらない。


その4「パンドラの箱……?」

 

 それから気を失った天龍を起こすことが出来たのだが、漏らしてしまった恥ずかしさで泣きじゃくるのをなんとかなだめすかし、新しい下着に穿き替えさせて部屋に戻るように言う。しょんぼりと落ち込んだ天龍の背を見送った俺は、残る子どもたちを探す為にかくれんぼを再開する。

 

「あと残っているのは……金剛と時雨だな」

 

 探していない部屋はスタッフルームのみ。洗濯室から出て通路を歩きながら腕時計を見ると、かくれんぼを開始してから約30分が過ぎていた。さすがに隠れている子の集中力も切れてくるころだろうが、これは勝負事ではなく遊びであり、子どもたちを楽しませるためにやっているのだ。待ち疲れなんて事をさせて、遊ぶ事を苦痛に思わせてしまっては本末転倒である。

 

「よし、はやいとこ見つけてやらないとなっ!」

 

 スタッフルームの扉の前に立った俺は、両の頬をパチンと叩きいて気合を入れてノブに手をかけた。

 

「いつっ!?」

 

 頬ではなく手の方からパチンッ! と音がして、痛みが走った。どうやら、洗濯物をかごに入れたりしていたせいなのか、静電気が溜まっていたようだ。

 

 扉を開けようとした俺だったが、無機物からの攻撃に出足を挫かれてしまい、一旦ノブから手を離した。痛み自体は強くないのだが、なんとなく手をバタバタと振る。そんな時、ふと、金剛の事が頭をよぎった。

 

「隠れるのに飽きた金剛が、次にとる行動と言えば……やっぱりアレだよな……」

 

 思い出した瞬間、下腹部に鈍痛が思い起こされた。狙っているかのように、的確にぶちこまれる頭突き。それがすさまじい速度で、ピンポイントに襲ってくるのを想像して欲しい。

 

「いや、飽きたとは限らない――が、用心に越したことはないよな」

 

 金剛の48の殺人技、バーニングミキサー(命名俺)を下腹部に食らうのは二度と御免なので、慎重にスタッフルームに入ろうと決めた俺は、静電気にも注意を払いながらゆっくりとドアノブを回して、中にいるであろう金剛と時雨に気づかれないように扉を開いた。

 

 

 

 スタッフルームの中は明かりがついたままで窓は閉まっており、パッと見た感じ誰もいるようには見えなかった。

 

「とりあえず、入口を開けた瞬間の奇襲って線は無くなったけど……」

 

 ソファの下やカーテンの裏など、物陰になる辺りを見回してみたが、いきなり襲いかかれるような場所に金剛が隠れている……ということは、どうやらなさそうだった。俺はホッと胸を撫でおろし、いつでも耐えれるようにと力を入れていた下腹部の緊張を緩める。

 

「となると、隠れれる場所も限られてくるんだが……」

 

 物陰以外に子どもの身体が隠れられる場所となると、残っているのは俺と愛宕が幼稚園で使うエプロンや、私用物を入れるのに使用している縦長のロッカーだけである。もちろん、使用しているロッカーには鍵をかけているので、探すべき場所は数えられるほどだ。

 

「よし、ここは雰囲気を出しつつ……だな」

 

 にんまりと俺は笑みを浮かべながら、左から順にロッカーのドアをノックしながら口を開く。

 

「悪い子はいねがー……」

 

 1つめのドアの取っ手を引っぱり、ゆっくりと開けてみるが、中はからっぽで誰も、何も、入っていなかった。

 

 だがしかし、がっかりすることはない。こういう風に雰囲気を作ることで、隠れている子どもたちを焦らすことが出来るのだ。もちろん、ただ単にいじめているとかそういうのではなく、こういった状況に置かれることにより、精神的耐性を促そうとして行っている試みなのであるからして、決して悪意があってやってるんじゃないってことを平に分かって欲しい。

 

 まぁ、実際には結構楽しんでたりもするんだけど、やり過ぎには注意である。

 

 さっき、龍田からも言われちゃったし。

 

「隠れている子はいねがー……」

 

 続いて右隣のロッカーのドアを開ける。キィィ……と金属がきしむ音が鳴り、中が良く見える状態まで開いたが、やっぱり中には何もない。

 

「次は俺のロッカーだけど……念のため……」

 

 取っ手に手をかけて引いてみると、負荷が全く無いことに気づいた。

 

「……あれ?」

 

 何度か押し引きしてみるが、鍵がかかっている様子もなく、ドアが何度も半開きと閉まるを繰り返した。

 

「おかしいな……締めたはずなんだけど……」

 

 もしかすると、鍵を閉めるのを忘れていたのかもしれない。そう思った俺は、ポケットに入れていた鍵を取り出そうとしたのだが、

 

 

 

 ガタン……

 

 

 

「えっ!?」

 

 内部から小さな音が漏れ、俺は思わず声を上げた。

 

「中に、誰かいるのか?」

 

「……っ!?」

 

 息を飲むような小さい声が聞こえたのを聞き逃さなかった俺は、取っ手を強く引っぱり、中を確かめる。

 

 

 

 俺のロッカーの中に、

 

 

 

 私服であるカッターシャツを丸めて、

 

 

 

 猫のように頬ずりしている、

 

 

 

 金剛と眼が合った。

 

 

 

 

 

 バタン……

 

 

 

「うん、見なかったことにしておこう」

 

 そうした方が色々と面倒はないと悟った俺は、踵を返してスタッフルームから出ようとする。

 

「ちょっ、ちょっと待つデース!」

 

 大きな音を立ててロッカーのドアが開き、慌てた金剛が飛び出しざまに叫んだ。

 

「見えない聞こえないっ!」

 

「先生は誤解していマース!」

 

「誤解も六階もない!」

 

「てりゃーデース!」

 

「げふうっ!?」

 

 後方からラグビー選手顔負けの強烈なタックルを腰に受けた俺は、地面に前のめりに叩きつけられた。

 

 これが、俺命名のバーニングミキサー。半端無く威力が高い。

 

「痛えっ! 何をするんだ金剛っ!」

 

「言うことを聞かない先生はこうするデース!」

 

 金剛は俺の背中に乗りかかると、持っていたカッターシャツを俺の頭に被せて、視界を奪う。

 

「うわっ!? 暗いよ狭いよ怖いよーっ!」

 

「……どこぞの御曹司デスか、先生は?」

 

「いや、こういうのはノリってのが大切だからなぁ」

 

「何気に図太いデスよね……」

 

「いやぁ……それほどでもー」

 

「誉めてないデース……」

 

「あ、やっぱそう……ってか、何でまた俺のロッカーの中でシャツに頬ずりしてたんだ……?」

 

「……っ! そ、それはデスネ……」

 

 焦った声を上げた金剛だが、未だ背中にのっかられたままの状態では顔を見ることが出来ない。俺は頭に被せられたシャツを引きはがし、両手両足を立たせることで、金剛を乗せる馬のようなポーズになった。

 

 まるでそれは、金太郎を乗せた熊のよう――って、なんだこれ?

 

「……あの、先生? これは何かのプレイなのデスか?」

 

「いや、そんな気はさらさらないんだがな。のっかられたままだと色々と大変だし、降りてくれるか?」

 

「分かりましたデース……」

 

 金剛が背中から降りるのを待って、俺はゆっくりと立ち上がる。

 

 ちなみにマゾっ気は全く無いので、さきほどの状態に何の未練も無い。全く無い。本当に……無いよ?

 

「……で、どういうことか説明してくれるか? まぁ、言いたくないなら、無理には聞かないけど」

 

 ことがことだけに、ウヤムヤにするべきなのかもしれないけれど、さすがに自分のシャツがさっきのような状況に置かれていれば、気になってしまうのも分かっていただけるだろうか。

 

「じ、実は……デスね……」

 

 ぼそりぼそりと、申し訳なさそうに金剛は語りだした。

 

「かくれんぼで良い隠れ場所を探していたところに、たまたまこの部屋を見つけたのデス。はじめはソファの裏にいたのデスけど、全然先生が探しに来ないので、探検も兼ねてロッカーを開けていったのデース。そしたら、急に入り口の扉から音がシタので慌てて中に入ったトコロで……」

 

「あー、なるほど……それで俺のロッカーに入ったのか……」

 

 いわゆる事故的なことだったのだろうが、それにしてもシャツに頬ずりをするのは関係無い気もする――が、それを言っては金剛は更に困った顔をするだろうし、聞かないでおいた方が良いだろう。

 

「その……シャツから……先生の匂いがしたのデス……。なんだか……あの……眠たくなってきて……ゴメンナサイ……」

 

 真っ赤に頬を染めてそう言う金剛は、もじもじと俺の顔を伺いながらチラ見をしていた。

 

 あー、うん。そういう感じ、嫌いじゃないよ。

 

 ってか、抱きしめたいくらい可愛いんだけどねっ!

 

 どっかの田舎にいる鉈持ってるヤツだったら、間違いなく「お持ち帰りーっ!」とか言っちゃって、誘拐しちゃうよね。

 

 

 

 いや、しないけどさ。

 

「んー、まぁ、事情は分かったよ。鍵をかけ忘れた俺も悪いんだし、この部屋に隠れちゃダメってのも言ってなかったし……別に謝る必要もないよ」

 

 俺は金剛の頭を優しく撫でながら、そう言った。

 

「あ、あのデスね……先生に、お願いがあるのデスが……」

 

「ん、なんだ?」

 

「こ、このシャツ……貰っても良いデスか?」

 

「………………」

 

 うるうると瞳を潤ませながら上目遣いでお願いする金剛。

 

 幼犬のチワワのような可愛さだが、言っていることは妖犬レベルの怪しさである。

 

 妖犬レベルってなんだよって感じだけど。

 

「ま、まぁ……換えもあるし、別に良いけどさ……」

 

「ほ、本当デスかっ!? アリガトウゴザイマースッ!」

 

 歓喜に溢れる金剛が、両手をあげて飛び跳ねる。

 

 それほどまでに喜んでもらえると俺としても嬉しくなってしまうけれど、そのシャツを一体何に使うつもりなのかは、色んな意味で聞けなかった。

 

 まぁ、小さい子どもがすることだから大丈夫だとは思うけど、大井みたいな子もいるから、あまり楽観視はできないのだけれど。

 

 あと、もし龍田が同じことを言った場合、間違い無く拒否するけどね。

 

 丑三つ時あたりに五寸釘で木に打ちつけられそうだし、髪の毛じゃなくても殺されてしまう気がする。

 

「まぁ……大丈夫だろう……」

 

 そう呟いた俺を不思議そうな表情で見上げる金剛だが、「なんでもないよ」と手を振りながら時雨のことを思いだし、ロッカーの前へと戻った。

 

「あれ、先生何してるデスか?」

 

「時雨をまだ見つけられてないからな。隠れたまま待たせすぎるのは悪いだろ?」

 

「なるほどデース。……けど、時雨はここにいないデスよ?」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「この部屋に隠れてるのは私だけデース。先生が来るまで物音一つしなかったから、間違いないと思いマース!」

 

「ふむ……おかしいな……」

 

 探しきる前にまだ隠れている子の情報を聞くというのはルール上ダメな気もするが、聞いてしまったからには仕方ない。とは言え、幼稚園の中を一通り探したにも関わらず、時雨の姿を見つけることが出来なかったのは、いったいどういうことだろう……

 

「もしかして、幼稚園の外に出た……ってことは……」

 

「それは考えにくいデスネー。時雨はお利口さんなので、悪いことはしないはずデース!」

 

「だよなぁ……」

 

 どこかを見落としていたのかも……と、探してきた部屋を思い返してみたが、他に隠れれそうな場所や不審な点は出てこなかった。

 

「うーん、こうなると八方塞がりだな……。仕方ない、一旦みんなが集まっている部屋に戻るか」

 

「そうデスネ。念のため、声をかけながら戻ると良いデース」

 

「そうだな。聞こえたら出てきてくれるだろう」

 

「早速、行きマース!」

 

 俺のシャツを丸めた物を懐に忍ばすと、金剛は右手をあげて「出発進行デース!」と元気よく言いながら、スタッフルームの扉を開いた。

 

 

 

 本当に、何に使うんだろ……俺のシャツ……

 




次回予告

 結局見つけられなかった時雨を探しながら部屋に戻ろうとする主人公と金剛。
そんな2人の前に、とんでもない発言をする時雨が現れるっ!?
もはやその技術は、達人の域に達しかかっている!


 艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その5

 乞うご期待っ!

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