艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 子供たちから責められる主人公。
そう――、これは孤立無援。完全に四面楚歌。
そして更なる不幸が先生を襲い……、

 不幸の連鎖は止まらない。


その7「すでに四面楚歌だった」

 

「先生を……」

 

「嫁にするのは……」

 

「私たちです……か」

 

 えー、現在の状況を説明いたします。

 

 俺は今、レーベ、マックス、プリンツの3人に囲まれた状態で、床の上で正座をしている。3人は一様に半目状態で俺を監視するかのように見つめており、恐すぎて顔を上げられずに俯いたまま身動き1つ取ることができない。

 

「そうですって。しおい先生の班で半日を過ごしたんですけど、ほとんどの子が先生と結婚するって言ってたですって!」

 

 ろーの言葉を素直に聞けば、それほどまでに好かれているのは非常に嬉しい……と、思えなくもない。

 

 もちろん、その場に置かれていた身としては、色々な問題が山積みであることも、気を抜いたら憲兵に連行されてしまうことも、しっかりと理解していたのではあるが。

 

 ただ、現状における問題はそうではなく、周りに居る3人のことだ。佐世保にきてから色々とあったが、舞鶴の子供たちと同じように俺のことを好いてくれている。

 

 同じように――と言ったのは言葉のあやではなく、そのまんまという意味でだ。

 

 つまり、どういうことかと言うと……、

 

「思っていた以上に、ライバルは多いみたいだね……」

 

「そうね。でも、負けるつもりはさらさらないわ」

 

「もちろんです! ビスマルク姉様と誓った通り、舞鶴幼稚園なんか蹴飛ばしてやるんだからっ!」

 

 完全に、火に油を注いだ結果となった訳なんだよね。

 

「しかし、それにはまず……、先生の本心を確かめないとダメだよね?」

 

「……レーベの言いたいことは分かるつもりだけれど、それはちょっと難しいと思うわ」

 

「えっ、そ、そうなのかな……?」

 

 ため息を吐くマックスに、戸惑う様子のレーベ。そんな中、プリンツは俺に視線を合わせようと膝を折り、中腰になった。

 

「それはそうですよねー。優柔不断で移り気の激しい先生ですから、誰か1人に決めるなんてことができるとは思えませんよー」

 

 プリンツはそう言って、俺の顎を右手でガッチリと掴んで顔を動かせないように固定した。

 

「い、痛いっ、痛いって、プリンツッ!」

 

「そりゃあそうですよー。折れない程度に力を込めているんですからねー」

 

「ちょっ、マジで勘弁して下さいっ!」

 

 ニッコリ微笑みながら顔を傾げるプリンツが、どう考えてもヤンじゃっているとしか思えないんですけどっ!

 

「ちょっと待ちなさい、プリンツ。そんなに先生を絞めあげたら具合が悪いわ」

 

「……マックスからそんな言葉が出てくるなんて、ちょっとばかり驚いちゃいますね。

 もしかして、自分だけ点数稼ぎをしようって魂胆ですか?」

 

 笑みを浮かべながらマックスの方を向いたプリンツだが、目がマジでヤバイモードになっている。ついでに締める手の力が徐々に強くなってきて、かなり痛いんですが。

 

「フッ……、そんな考えしか浮かばないなんて、愚の骨頂じゃないのかしら?」

 

「なん……ですってっ!?」

 

 いつの間にか2人の様子が半端じゃないレベルで険悪になっているんだけど、喧嘩が始まる前に俺の顎が砕け散るかもしれない。

 

「た、頼む……からっ、離して……くれぇっ!」

 

「先生の顔……、青ざめてきたですって」

 

「……え?」

 

 ろーの言葉に気づいたプリンツは、俺の顔を見た瞬間に焦った顔へと変え、慌てて顎から手を離してくれた。

 

「ぐ……はぁ……っ」

 

「ご、ごご、ごめんなさい、先生っ!

 気がついたら、力を込め過ぎちゃったみたいで……」

 

 謝るプリンツの顔はいつも通りに戻っていたんだけど、痛みで悶絶しかけていた俺は返事をする気力もなかった。

 

 しかし、そんな俺とプリンツを見たマックスは、「はぁ……」と大きなため息を吐いてから口を開く。

 

「だから具合が悪いって言ったでしょう?」

 

「うっ……」

 

 痛いところを突かれたという風に、プリンツが気まずい表情を浮かべている。

 

「尋問するときはある程度余裕を見ながら攻めないと、すぐに壊れちゃうんだから」

 

「は、反省してます……」

 

 ガックリと肩を落とすプリンツだが、これだけは言わせて欲しい。

 

 マックス、そのツッコミはどうなんだ……と。

 

 

 

 つーかなんで尋問とかの話になっちゃってんのっ!?

 

 

 

 

 

「………………」

 

 現在俺は、輸送船の甲板に出ている。

 

 ぶっちゃけて目茶苦茶寒いんだけど、さっきまで居た部屋に居辛くなってしまった以上、こうやって海を眺めているしかやることがないのだ。

 

 マックスの恐ろしい発言以降、俺の言葉は子供たちに届かず、仕方なく部屋を出ることになった。しばらく間を置けば子供たちのテンションも落ち着くだろうと考えたのだが、問題は行く宛の方だった。

 

 輸送船の中には他にも部屋があるのだけれど、落ち着けるような場所は見当たらない。本人は心やさしく受け入れてくれるかもしれないが、安西提督の部屋でくつろぐというのも気まずく感じてしまうだろうし、船長室やボイラー室などに篭るというのも同じである。

 

 そうなれば、俺が居られる場所は甲板しかないという訳なのだが、冬の海上というのは骨身に染みる寒さがある。いくら厚着をしても肌に当たる風を防ぐのは難しく、使い捨てカイロを使って凌ぐしか手はなかった。

 

『あら、甲板に出てくるなんて、どうかしたのかしら?』

 

 頬にカイロを当てていると、右耳から小さなノイズ混じりの声が聞こえてきた。以前、漣と連絡を取り合ったこともある便利な無線機を、今回もバッチリ装着しているのである。

 

「まぁ、ちょっと訳ありでさ……。ぶらっと様子を見にきたんだよ」

 

『嬉しいことを言ってくれるのね。さすが私が惚れた男なだけはあるわ』

 

 イケメンにもほどがある台詞を吐くビスマルクだが、ドヤ顔を浮かべながらこっちを見ている段階で台なしである。

 

『護衛中やというのに無駄話をするなんて、ビスマルクも偉くなったもんやね』

 

 すると、無線機から別の声が聞こえてきたんだが、特徴のある口調だったので誰の言葉かはすぐに理解できた。

 

『……今の言葉、聞き捨てならないわね』

 

『別に本当のことを言っただけやで?』

 

『喧嘩を売っている……と、判断して良いのよね?』

 

 先導を切っていたビスマルクが龍驤の方へと振り向き、険しい顔を浮かべながら両手を握って構えを取る。完全に後ろを向きながらスピードを落とさずに航行しているんだが、それって無茶苦茶凄くないか?

 

『一昨日の飲み勝負で負けたからって、今度は力づくってことかいな。おお、怖い怖い』

 

 対して龍驤はにやけた顔でそう言いながら、右手の指をブルース・リーのようにクイクイと動かして挑発する。

 

 これじゃあ本当に飲み勝負の前と同じであると焦った俺は、なんとか落ち着かせようと無線で声をかけようとしたんだが、

 

『2人とも止めておくんだ。血気盛んなのは悪いことではないが、今は任務中だということを忘れないようにしろ』

 

 1番後方に居た日向が無線に割り込み、冷静な言葉をビスマルクと龍驤に投げかける。2人はそろって不機嫌な顔を浮かべながら口を開こうとするが、日向の方を見た瞬間にビクリと身体を震わせ、黙り込んだ。

 

 輸送船から少し離れているせいでハッキリとは分からないが、日向の表情が大きく変ったようには見えない。しかしその一方で、日向の周りの空気というか、オーラのようなモノが漂っている気がする。

 

『それと……だ、先生』

 

「……へ?」

 

 いきなり話を振られた俺は、驚きつつも日向を見る。

 

『キミの発言は周りに大きな影響を与えることを、もう少し自覚した方が良いな』

 

「え、えっと……、そう……なの?」

 

 戸惑いながらも答える俺……なのだが、

 

『『『………………』』』

 

 日向を除く護衛の4人が、一斉に目を逸らした。

 

 ……え、どういうこと?

 

 全然、全く、これっぽっちも、訳が分からないんですが。

 

 俺って幼稚園で働くただの先生だし、第一線で活躍する艦娘にどんな影響を与えるって言うんだよ。

 

 ……まぁ、ビスマルクは俺と一緒に幼稚園で働いているから除いておくけど、龍驤、摩耶、伊勢に至っては本当に分からない。

 

 そして、俺に助言をした日向も……って、あれ?

 

『……やはり、困り果てているキミの顔を見るのは、非常に面白いな』

 

 言って、微笑を浮かべる日向が、両手を開いて呆れたジェスチャーをした。

 

 ………………。

 

 これって……、みんなして俺をからかったってこと……なのか?

 

『言いだしっぺである私が影響されてしまっては怒られそうだが、キミはそれほどまでに魅力がある人物ということを理解しておいてくれ』

 

「……いやいや、いくらなんでもからかい過ぎです。さすがにそこまで持ち上げられたら、馬鹿でも気づきますよ?」

 

『嘘偽りのない本心なのだがな』

 

「またまたー。その手には引っかかりませんよ」

 

 俺はそう言って、首を左右に振る。すると日向はなにを思ってか、少し速度を上げて摩耶のすぐ後ろについた。

 

『ふむ、それでは聞くが……』

 

 そう言いながら日向は摩耶の頭をガッチリと右手で鷲掴みをし、俺の方に無理矢理顔を向けさせた。

 

『ちょっ、日向、痛いっ!』

 

『まぁまぁ、少し黙っていろ』

 

『いたっ、いたたたたっ!』

 

 さすがに航空戦艦である日向に力では敵わないのか、摩耶の抵抗も空しくされるがままだった。

 

 いや、だからって、どうして摩耶の顔をこっちに向けるんだ……と思っていたら、

 

『摩耶がキミのことを好いているのは、すでに知っているということだな?』

 

 ――と、とんでもないことを口走ったのである。

 

「………………え?」

 

 俺は呆気にとられて情けない声をあげたが、さすがにそれはないだろう。

 

 いくらなんでもからかおうとするネタが有り得なさ過ぎる……と、摩耶の顔を見てみると、

 

『な、なな、ななななな……』

 

 完全に熟したリンゴのように顔を真っ赤にさせた摩耶が、俺と日向の顔を交互に向きながら、ワナワナと身体全体を震わせていた。

 

 ……そ、それも俺をからかおうとする、仕込み……だよね……?

 

 それにしては……、摩耶の雰囲気がガチみたいな……気がする……けど……。

 

『日向っ、て、てめぇっ!』

 

『ん、どうしたのだ。

 まさか摩耶ともあろうものが、図星を突かれたからと言ってキレたりする訳でもあるまい?』

 

『ブッ……殺す!』

 

 ブチン! という音が鳴ったと思った瞬間、摩耶の右手が大きな弧を描いて日向の顔へと向かっていく。

 

『甘いな』

 

 それを予測していたのか、日向はほんの少しだけ状態を逸らし、摩耶の右フックを軽々と避ける。

 

 しかし、怒りが収まらない摩耶は勢いのまま身体を回転させ、続けてハイキックをお見舞いしようとするのだが、

 

『いい加減にしなさいっ!』

 

 至近距離で大口径の主砲を発射したような大きい音が右耳に聞こえ、俺の頭が大きく揺さぶられたような感覚に陥ってしまった。

 

 目の前はチカチカするし、めまいを起こしたようにふらついてしまう。

 

 どうやら護衛の5人も同じ状態らしく、眉間を指で押さえながら俯いていたり、頭を抱えながら天を仰いでいたりしていた。

 

『護衛の任務をほっぽり出すなと言った本人がなにをしているのですかっ!』

 

『も、申し訳……ありません、提督……』

 

 続けて聞こえてくる声を聞いて、日向は輸送船に顔を向けながらペコペコと頭を下げているのを見ると、どうやら声の主は安西提督のようだ。恰幅は良い方だし、見た目的にも大きな声を出せそうではあるが、いきなり無線機から聞こえてくると、ビックリするでは済まされないと思う。

 

 もし、心臓に持病を持っていたりしたら、ショックであの世に一直線……だった可能性もあるかもしれない。それくらい、爆音だったのだ。

 

『それと伊勢! 日向が場を乱すようなことがあれば、姉である伊勢が止めなければならないはずでしょう!』

 

『あ……、う……、す、すみません……』

 

 お叱りの声を聞いてしょぼんとした伊勢は、大きく肩を落としながら謝っていた。

 

 気づけばビスマルクや龍驤も不安げな顔を浮かべているし、さすがは安西提督だ。艦隊を指揮するべき人物ならば、当たり前かもしれないが。

 

『それと……摩耶』

 

『……っ、は、はいっ!』

 

 不意打ちを食らったかのように驚きの表情を浮かべた摩耶は、背筋をピンと伸ばしてから輸送船の方へと顔を向ける。

 

 しかし、すぐに安西提督の声は無線機から聞こえてこず、少しの間が空いてから、

 

『日向の言ったことは……、本当なのですか?』

 

「『ぶほぉっ!?』」

 

 その言葉に、俺と摩耶が同時に吹き出したのは言うまでもなかった。

 

 

 

 安西提督って、ゴシップが好きだったりするんだろうか?

 

 

 

 ……って、そんなんで済まされるほど俺のダメージは優しくないですけどねっ!

 




次回予告

 日向の言葉によって新たな局面を迎えた主人公。
摩耶の気持ちは本当なのか。それともただ単にからかわれただけなのか。
甲板から逃げるように船内に戻った主人公に、更なる不幸が舞い降りる!?


 艦娘幼稚園 第二部 
 舞鶴&佐世保合同運動会! その8「瑞雲師匠」


 乞うご期待!

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