艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 第六駆逐隊の4人を見つけた俺は、それから何人もの子どもたちを見つけていった。
捜していない部屋は残り2つ。見つけていない子どもは4人。
それらを考えながら洗濯室を先に探そうとした俺は、ちょっとした雰囲気作りをしていたのだが……

 かくれんぼはまだまだ続きますっ!
現実逃避じゃないのかっ、主人公!?


その3「くーるー、きっとくるー」

 

 それから幼稚園内をくまなく探した俺は、隠れている子どもたちを次々に見つけ、悔しがる子の頭を優しく撫で、なだめすかして部屋に戻らせていった。

 

「さて……と、残ってる部屋は洗濯室とスタッフルームだな」

 

 どちらから先に探そうかと考えながら、通路を歩いていく。いきなり選択肢が現れて、プレイヤーがマウスで選ぶわけではないので、自分で考えるしかないのだが。

 

 それなんてアドベンチャーゲーム? とは聞かないように。

 

「とりあえず、近い方と言えば洗濯室だが……あと残っているのは……と」

 

 今までに見つけた子どもたちを思い返し、指を折って数えていく。まだ見つけられていない子は、天龍、龍田、金剛、時雨の4人だ。

 

「天龍と龍田は同じところに隠れていそうだな。だが、問題は金剛と時雨か……」

 

 金剛についての注意点は見つけにくいと言うことではない。どちらかと言えば、龍田を探すときと同じ意識を持たなければいけないのだ。

 

「間違いなく、見つけざまにタックルを食らうだろうしな……」

 

 過去3回、かくれんぼで金剛を見つけた際に、高速タックルを食らっている。うち2回はそれほどでもなかったのだが、1度だけ、見事なまでの下腹部への高速タックルを食らった俺は、約30分間、その場でうずくまるしか出来なかった記憶があるのだ。

 

 今思い出しても寒気がする、苦い記憶である。

 

 何度注意しても、タックルを止めてくれないしなぁ……

 

「おっと……危ない危ない」

 

 そんなことを考えているうちに、洗濯室の扉を通り過ぎるところだった。

 

「さて、残り4人のうち、何人がここにいるのかな……?」

 

 そう呟いた俺は、扉に耳を当ててゆっくりと3回、ノックをした。

 

「………………」

 

 扉越しに耳を澄ませてみるが、物音は聞こえない。しかし、なんとなしに気配を感じる気がする。

 

「ふむ、居ない――という訳では無さそうだよな」

 

 扉のノブを回してゆっくりと押す。小さな音を立てて開く扉が壁に当たると、薄暗い洗濯室が一望出来た。

 

 

 

 パッと見た感じ誰も居ないように見えるが、やはり気配は感じられる。おそらくは2人、この部屋に隠れている感じがすると、俺のゴーストが囁いている……

 

 いや、ゴーストなんて大層なモノは持ってないから、ただの冗談なんだけどね。

 

 俗に言う、その場の雰囲気というやつである。

 

 あっ、魂はちゃんとあるけどさ。

 

「さて……と」

 

 すぅぅ……と、肺に息を吸い込んで、部屋に向かって大きく口を開く。

 

「誰か隠れていないかなぁ……ヒッヒッヒッ……」

 

 気分はおばあさんに扮した狼のように。こういう場合は雰囲気を出すことで、楽しみがいがあるってモノだ。

 

 笑い出す子どももいるから、探し出すヒントにもなるんだけれど、さすがに残っている4人のうちで、これに引っかかる子どもは……

 

「ぷっ……くくく……っ」

 

 と思っていたら、見事なまでにいた。

 

「おやぁ……誰かそこにいるのかい……?」

 

「……っ、し、しまったっ!」

 

 慌てた声が聞こえた方へと向かって歩いていくと、洗濯物を入れる大きなかごがいくつも並んでいた。空のかごが2つ、洗濯物が入っているかごが3つ、そして、かごから出されたように山積みになっている洗濯物の山が1つある。

 

「……やってることは、暁と一緒だよな」

 

 ぼそりと呟いた俺は、部屋中に聞こえるように大きく口を開く。

 

「あーあー、洗濯物がこんなになっちゃってるよー。片づけないといけないなー」

 

 そう言って、山積みになっている洗濯物を空いているかごに入れていく。

 

「しっかし誰がこんな事したのかなー。俺の仕事が増えちゃって、過労になっちゃったらどうするんだよー」

 

「……っ」

 

 洗濯物が入っているかごが、ほんの少し揺れる。

 

「疲れがたまると大変なんだよなー。みんなと遊ぶのにも結構体力いるんだし、トラブルは避けておきたいんだけどなー」

 

「う……うぅ……」

 

「天龍はここ最近手がかからなくて良い子だし、こんな事をする子じゃないんだけどなー」

 

「うがーーっ!」

 

 かごが大きく動くと、洗濯物が噴火山のように跳ねて辺り一面に散らばった。その中心には、顔を真っ赤にして両手を上げ、今にも空へと飛び出んとする天龍が立っていた。

 

 赤と白の縦割り半分なヒーローのように――って、なんだかこの説明酷い気がする。

 

 もはやこれでは、巨大な怪獣のロボットを使って世界を征服しようとする中ボスキャラだ。

 

「はい、天龍みーっけ」

 

「ず、ずるいぞ先生っ! そんなこと言わなくてもいいじゃんかっ!」

 

「ん、そんなことってどのことだ? 仕事が増えるってことか? それとも、天龍は最近手がかからなくて良い子って……」

 

「うーーーーがーーーーっ!」

 

 耳まで真っ赤にした天龍は俺に飛びかからんとジャンプしたが、

 

「うわあっ!?」

 

 かごの淵に足が引っ掛かり、つんのめって地面へとダイブしそうになった。

 

「おっと」

 

 そうなるんじゃないかと思っていた俺は、先回りするようにしゃがみこみ、天龍の身体を両手で受け止めてしっかりと抱き抱えた。

 

「ふぅ……危ない危ない。大丈夫か、天龍?」

 

「あ……う……そ、その……ありがと……」

 

「いやいや、俺の方こそからかい過ぎたよ。すまんな、天龍」

 

 謝ってから、ニカッ……と満面の笑みを向けると、天龍は大きく眼を見開いた後、慌ててそっぽを向いた。

 

 うーん相変わらず、からかいがいがある天龍である。

 

 龍田の気持ちは痛いほど分かるんだけど、あいつの場合は度が過ぎちゃうからな――と思いながら、天龍を見ていた俺の背中に、ちくりと小さな痛みが走った。

 

 

 

「ん……なんだ?」

 

 後ろを振り返ってみるが、痛みを感じる背中には何もない。

 

 気のせいかと思って、抱きかかえていた天龍を床に下ろそうとした時だった。

 

 

 

 ぎぃぃぃぃ……っ

 

 

 

「「……っ!?」」

 

 俺と天龍が同時に驚き、音のする方へ顔を向けた。

 

 洗濯機の蓋がゆっくりと開き、2つの小さな手がパネルの部分にバンッ! と音を立てて叩きつけられる。

 

「ひいっ!?」

 

 天龍の悲鳴が上がり、抱き抱えた身体が大きく震えた。

 

 

 

 ガリガリ……ガリガリガリ……

 

 

 

 パネルに爪をたてて削る音が聞こえ、ゆっくりと頭が洗濯機から這い上がってくる。

 

「あ……あぁぁぁ……っ!?」

 

 髪の毛が前面にだらりと垂らした小さな頭が現れると、両手をこちらに伸ばし、かすれた声が聞こえてきた。

 

 

 

「て……んりゅ……う……ちゃ……ぁ……ん……」

 

 

 

「ぎょえああぁぁぁぁーーーーっ!」

 

 大声を上げた天龍は、俺に抱かれたままじたばたと暴れ、

 

「……はうっ」

 

 魂が抜けたように、気を失った。

 

 

 

「おい」

 

 はぁ……と、ため息を吐いた俺は、洗濯機の中にいる貞子? に声をかける。

 

「何度も言うようだけど、やり過ぎだと思うぞ、龍田」

 

「は~い、先生~」

 

 伸ばした両手を枠にかけ、「よいしょ……っと」と掛け声を言いながら、龍田は洗濯機の中から上手に出てきた。

 

「それと、いちいち凝り過ぎじゃないか? 役者顔負けの演技だったぞ……」

 

「あら~、お褒めに与りまして光栄です~」

 

 凝り過ぎ且つ、まったく懲りてない龍田であった――が、

 

「でもね、せ~んせっ」

 

「ん、なんだ?」

 

「天龍ちゃんをいじめちゃ~、許さないんだからね~?」

 

「……っ、わ、分かってるよ。ちょっと、やり過ぎたって思ってる」

 

「それなら良いのよ~。恥ずかしがってる天龍ちゃんも可愛かったし、許してあ・げ・る~」

 

「………………」

 

 にっこりと微笑む龍田は、「それじゃあ、部屋に戻ってるわね~。あとはよろしくお願いしますっ」と言って、洗濯室から出ていった。

 

 部屋に残された俺。そして、腕の中で気を失い、ぐっしょりと下着を濡らした天龍が気を失っていた。

 

「……とりあえず、起こして着替えさせてから、洗濯するか」

 

 もう一度、今度は大きめにため息をついた俺は、自らの行為を少し反省しつつ、天龍を起こす為に頬をペチペチと叩いていた。

 




次回予告

 漏らしてしまった恥ずかしさで泣きじゃくる天龍をなだめすかせた主人公。
 残る子どもはあと2人。しかし、その2人共がやばかった!?
 スタッフルームで発見したその瞬間、とんでもない状況に出くわしてしまうっ!


 艦娘幼稚園 ~かくれんぼ(コードE)大作戦!?~ その4

 乞うご期待っ!

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