艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 それからユーは幼稚園でお話をしたりして過ごした後、しおいさんや他の潜水艦の皆さんと一緒に温泉へと向かったんです。

 初めての体験でドキドキだったんですけど、温泉ってとっても温かくて気持ちが良いんですが……


その15「舞鶴の温泉……です」

 

 それからユーは、舞鶴幼稚園のみんなと色んなお話をしたり、広場でかけっこをしたり、かくれんぼを楽しんだりしました。

 

 最初の方は少し距離を取られているような感じもありましたけど、先生のことについて色々と話しているうちに、みんなは笑顔を浮かべてくれたんですよね。

 

 その際、先生を狙っている感じではないみたいだから、大丈夫そう……って言うんですけど、そもそもどうしてそんな風に考えたんですか?

 

 別にユーは、みんなの前で先生が好きですって言っていませんし、そういった態度もしていません。

 

 確かに先生は優しくて色々と世話を焼いてくれますから、好意は持っていますけど……。

 

 ………………。

 

 なんだかユー、先生のことを考えていると、胸がドキドキしてきたような……?

 

「あっ、ユーちゃん。そろそろつくみたいだよー」

 

「は、はいですっ」

 

 しおいさんの声に気づいたユーは、咄嗟に立ち上がっちゃいました。

 

「止まるときは揺れちゃうから、立たない方が良いわよ」

 

「あっ、だ、Danke」

 

 イムヤさんの忠告を受けて、ユーは椅子背もたれについている取っ手を掴んだ瞬間、大きな揺れを感じました。

 

『えー、高雄温泉、高雄温泉前に到着致しましたー。

 お降りの際は、足元にお気をつけて……』

 

「ついたでち。早速降りるでち」

 

「そんなに慌てなくても、さっきボタンを押したから大丈夫なのねー」

 

「電車と違って、バスはそんなに慌てなくても良いよね」

 

「それじゃあユーちゃん、いこっか」

 

「はいですっ」

 

 みんなが一斉にしゃべりながら、座席の間にある通路をゾロゾロと歩いて行き、運転手さんの横にある小さな箱に切符を入れました。

 

 ユーもしおいさんから貰った切符を入れ「ありがとうですっ」と、お礼を言ってからバスから降りました。

 

 運転手さんがニッコリ笑ってくれたので、なんだかユーも嬉しくなっちゃいます。

 

 もちろん、ユーが今笑顔なのは、それだけじゃないんですけどね。

 

 

 

 

 

「ふわあぁぁ……、す、すごいです……っ!」

 

 目の前に広がるのは大きな海……ではなく、いっぱいの湯気がモクモクと上がる、大きな部屋でした。

 

 舞鶴幼稚園の1日体験を終えたユーは、しおいさんや他の潜水艦のみなさんに連れられて、鎮守府からそう遠くない場所にある、高雄温泉というところにきたんです。

 

 一見すれば佐世保鎮守府でいつも入っていたお風呂に近いですけど、大きさは比じゃありませんでした。

 

「それじゃあ早速、ドボーンしちゃいますっ!」

 

 ……と、感心していたユーの横に居たしおいさんが、急に大きな声をあげました。

 

「こ、こら、しおいっ! 他のお客さんに迷惑がかかっちゃうでしょっ!」

 

「今日は平日だし、ピークも過ぎてるから問題ないよっ!」

 

「そういう問題じゃないでち……」

 

「……って言うか、どうしてここにきて水風呂に向かうのね」

 

「せっかく温泉にきているのにねぇ……」

 

 タオルを身体に巻いて走り出したしおいさんを見ながら、他の潜水艦のみんなは疲れたような表情でため息を吐いていました。

 

「それにしても、まるゆがこれなかったのは残念でち」

 

「遠征任務が急きょ入ったから、仕方ないのねー」

 

 ゴーヤさんとイクさんはそう言いながら、同じ間隔で壁に鏡がついたところへ歩いて行き、小さな椅子に座わりました。

 

「それじゃあユーちゃん、まずはイムヤたちと一緒に身体を洗おっか」

 

「は、はいです」

 

 湯船に浸かる前に身体を洗うって教えてくれた通り、ユーもそちらへと向かいます。

 

 ただ、それをユーに言ったのはしおいさんなんですけど、真っ先に走って行っちゃいましたよね……。

 

 

 

「ユーちゃんの髪……、凄く綺麗だし、サラサラしているわよね」

 

「そ、そうですか?」

 

 みんなと同じように椅子に座ると、イムヤさんがユーの後ろにきて髪の毛を洗ってくれることになりました。

 

「シャンプーがいらないんじゃないかって思っちゃうくらいで、羨ましいわ」

 

「ダ、Danke。ありがとうございます……」

 

 備え付けられているシャンプーを泡だてたイムヤさんは、指の腹で優しく頭皮を揉みほぐすように洗い始めてくれます。

 

「海に潜る時間が増えれば増えるほど、髪の毛のダメージは蓄積されちゃうからね……」

 

「や、やっぱり、潜水艦のお仕事って大変です……か?」

 

 泡がいっぱいになってきたので、ユーは目を瞑りながらイムヤさんに問いかけます。

 

「うーん……、大変と言えば大変だけど、やりがいもあるから嫌いじゃないわ」

 

「オリョクルかバシクルばっかりでちけど、燃料をいっぱい持って帰ると元帥が喜んでくれるでち」

 

「たまに昨日みたいに、飲み会を催してくれるから嬉しいのねー」

 

 すると左右の両側からゴーヤさんとイクさんが答えてくれたんですが、なんだか少しずつ近づいてきている気がするんですけど……。

 

「本当でち……。イムヤの言う通り、ユーちゃんの髪の毛がサラサラでち」

 

「これは……、羨まし過ぎるのね……」

 

 明らかに髪の毛を洗う指の数が増えているんですけど、これって完全に3人からゴシゴシされちゃってますよね……?

 

 別に嫌じゃないんですけど、目は開けられないし、なんだか動いちゃいけない雰囲気がして、ちょっと怖いです……。

 

「……みんなして、なにをやっているのかな?」

 

「ユーちゃんの髪の毛がすっごくサラサラなので、みんなで触りながら洗っているでち」

 

「ハチも触ってみるのねー」

 

「言っとくけど、かなりヤバいわよ」

 

 ゴーヤさん、イクさん、イムヤさんは口々に喋っていますけど、ユーの頭をゴシゴシするのは止まりません。

 

 これって完全に、身動きできないんですけど……。

 

「そんなにみんなが言うなんて、はっちゃんも気になってきちゃったかも……」

 

 そして更に頭に触れる指の感覚が増え、暫くの間ユーはされるがままになってしまいました。

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 身体中があったかいお湯に包まれる感覚。

 

 顔だけが湯船の外にあり、時折吹く風が心地良く感じます。

 

 そして空を見上げてみると、大きな月と散りばめられた星が、キラキラと瞬いていました。

 

「極楽でち……」

 

「極楽なのね……」

 

 小さく呟くゴーヤさんとイクさんの声以外は、ちゃぷちゃぷと水音が聞こえるだけ。

 

 そして2人の言葉通りのことを、ユーも考えていました。

 

「露天風呂って……、本当にすごいです……」

 

 そう言いながら目を閉じると、ユーの身体がゆっくりと動き出して、水面に浮かんじゃいました。

 

 この感覚は佐世保から舞鶴まで泳いできたのとは違い、なんとも言えない心地良さです。

 

「ふひぃー……」

 

 思わず口からだらしない声が漏れちゃいましたけど、これは仕方ないですよね。

 

 それくらいリラックスができてしまう、とっても良い場所なんです。

 

「はっちゃん……、ここで眠っちゃっても良いかな……?」

 

「溺れなければ、大丈夫でち……」

 

「むしろイクが先に寝るのね……。zzz……」

 

 気づけば周りに居るみんなも同じように水面に漂いながら、目を閉じていました。

 

 まっ白い湯気ではっきりとは判りませんけど、イクさんにゴーヤさん、ハチさんにイムヤさん……あれ?

 

 あと1人、姿が見えないような……気がするんですけど。

 

「はふぅ……。背中にポコポコと当たる水泡が気持ち良いのね……」

 

「……ここは露天風呂でち。ジェット風呂じゃないでち」

 

「あれ、さっきまで……、背中に感じてたのね……」

 

「寝ぼけていたんじゃないでちか?」

 

「うーん……。まぁ、どっちでも良いなのねー……」

 

 そんな他愛のないイクさんとゴーヤさんの会話を聞きながら、ユーもぷかぷかと……あれ?

 

 背中になんだか、変な感触がするんですけど……。

 

 なんだか水泡が当たるような、こそばゆい感じが……。

 

「いったいこれはなんです……て、ひゃわぁっ!?」

 

 急に足が引っ張られて、ユーの身体がお湯の中に沈んでいきますっ!?

 

「ふ、浮上……、しないと……っ!」

 

 慌てたユーは両手を激しく動かしてもがいていると、足を引っ張る感覚がいきなり消えちゃいました。

 

 そして再び身体は浮力を取り戻し、水面へと浮かんで行くんですけど……、

 

「い、いったい……、なんだったんですか……」

 

 ビックリしちゃったユーはお湯の中を見てみますけど、白く濁っていて良く見えません。

 

「大きな声が聞こえたけど、なにかあったのでち?」

 

「あ……、ゴーヤさん……」

 

 水面に顔だけを浮かばせて泳いできたゴーヤさんが、少しだけ心配した顔つきで近づいてきてくれました。

 

「さっきいきなり、足が引っ張られたような感じがしたんです……」

 

「……え、いきなり……でちか?」

 

「はい。右足のスネ辺りを、掴まれて……」

 

「こ、ここは温泉だから、深海戦艦なんか出ないはずでち……」

 

 そう言いながらゴーヤさんは立ち上がり、険しい表情で辺りを見回して、警戒をし始めました。

 

 さすがは毎日出撃しているだけあって、切り替えがすごいなぁと思ったんですが……、

 

「………………?」

 

 ゴーヤさんの背中の辺りにポコポコと水泡のようなモノが浮かびあがってきているんですけど、これっていったいなんなんでしょうか?

 

「ゴーヤさん……、なんだか背中の方に、変な泡が見えるんですけど……」

 

「……ま、まさかっ!?」

 

 慌てたゴーヤさんが振り向こうとした瞬間、水面に見えていた泡が大きくなり、急に水柱が立ち上がります。

 

「お湯の中からこんばんわーーーっ! しおいだよっ!」

 

 ザバーンッ! と大きな音と共に浮かび上がってきたしおいさんが、両手を広げて満面の笑みを浮かべていました。

 

「「………………」」

 

 ユーはさっき以上にビックリしちゃって固まっていましたけど、ゴーヤさんは凄く呆れたような顔を浮かべ、大きくため息を吐いてから、

 

「ゴーヤのセリフをパクるなでちっ!」

 

「えー、しおいたちは潜水艦だから、潜るのが仕事じゃないー」

 

「しおいの今の仕事は幼稚園の先生でちっ! それなのにどうして、子供のユーちゃんを驚かせるようなことをするのでちっ!?」

 

「それは……、その場のノリかなぁー」

 

 そう言ってから「あっはっはー」と笑うしおいさんを見て、更に大きなため息を吐いたゴーヤさんは悪くないと思います。

 

 

 

 ともあれ、温泉に深海棲艦が居なくて良かった……ですよね?

 




次回予告

 しおいさんの暴走? ……も、なんとか終わり、温泉から一度上がりました。
そしてみなさんは一服がてらにドリンクを飲み始めたんですが、どうやら決まった方法があるみたいで……?


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その16「お風呂上がりの……一杯?」


 乞うご期待!

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