艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 ヲ級ちゃんの謎行動からトラブルになりかけましたが、なんとかことなきを得たような気がします。
ですけど、その真相が分かってから……更に悪化しているような……?


その14「もしかして、あのときの内緒話ですか……?」

 

「ところで……、さっきヲ級はなにを考えてたんだ?」

 

 場が落ち着きを取り戻したところで、天龍ちゃんがヲ級ちゃんに問いかけました。

 

「ヲ、ヲヲ。実ハ、オ兄チャンガ不能ニナッテシマッタ場合ノ対処ヲネ……」

 

「お、おいおい。それはさっき大丈夫だったって分かったんだから、心配させるようなことを言うんじゃねぇよ……」

 

「イヤ、アクマデソウナッテシマッタトキノ対処ダカラネ」

 

「……対処って、いったいなにを考えたんデスカー?」

 

 頭を傾げた金剛ちゃんがそう問うと、ヲ級ちゃんは口元を釣り上げてニヤリ……と笑みを浮かべました。

 

「フフフ……。モシモオ兄チャンガ不能ニナッテシマッタ場合、新タナル境地ヘ望ミヲ繋グシカナインダヨネ」

 

「を、ヲ級がなにを言っているのか、分からねぇぜ……」

 

「あら~、天龍ちゃんは相変わらず馬鹿なのよね~」

 

「……いや、かなり酷くねぇか?」

 

「気のせいよ~?」

 

「そうとは思えないんだけどよぉ……」

 

 ジト目を向ける天龍ちゃんの視線を素知らぬ振りで避ける龍田ちゃんを見て、おそらくいつまで経っても勝てないんだろうなぁ……って、気づいちゃいました。

 

「……それで、その境地ってやらってのは、いったいなんなのかな?」

 

 少し呆れたような顔で時雨ちゃんが問うと、待っていましたとばかりにヲ級ちゃんが頷きます。

 

「ソレハモチロン……、オ兄チャン女装化保管計画ノ発動ダヨネッ!」

 

「「「………………」」」

 

 大声で叫んだヲ級ちゃんを黙って見るみんなが、完璧に固まっていました。

 

 もちろん、ユーも同じなんですけど。

 

「ソモソモ僕タチハ、オ兄チャンヲ嫁ニスルト決メタトキカラ、コウナル運命ダッタノカモシレナイ……」

 

 そして、なぜかヲ級ちゃんは悟ったように窓の外を見つめました。

 

 正直に言って、ユーはさっぱりって感じだったんですけど……、

 

「……確かに、ヲ級の言う通りデース!」

 

 金剛ちゃんがハッとした表情の後、拳を握り締めてそう叫ぶと、他のみんなも一斉に顔色を変えました。

 

「くっ……、俺様としたことが、ヲ級に言われるまで気がつかなかったなんて……、どうかしていたぜっ!」

 

 そして、天龍ちゃんはものすごく悔しそうな表情で片膝をつき、力強く床を拳で叩きました。

 

「せ、先生が女装……するっぽい?」

 

「そ、それは……、変な気がするんだけど……」

 

 夕立ちゃんと潮ちゃんが不可解な顔をしましたけど、それはユーも同じ気持ちです。

 

「そうか……。先生にメイド服を着せて、ご奉仕させたら……、うふ……、うふふふふ……」

 

 だけど、そんな考えがおかしいかのように、急に時雨ちゃんが不敵な笑みを浮かべながら呟き始めました。

 

 そのあまりの恐ろしさに、潮ちゃんの目尻に涙が浮かんでいるんですけど……。

 

「フム……。私は先生をハズバンドに……と考えていましたケド、メイド服姿を想像すると捨てがたいモノがありますネー」

 

 金剛ちゃんが考え込みながらそう答えると、ヲ級ちゃんの口元がつり上がり、コクリと頷きました。

 

「ツマリ、コレハモハヤ必然。今スグコノ計画ヲ実行ニ移スベキ……」

 

「あの……さ、先生の不能はすでに治ったって説明したよね……?」

 

「タギッタコノ思イヲ止メラレルト、オ思イカッ!」

 

 ヲ級ちゃんが暴走しかけていたところをしおいさんがツッコミを入れて制止させようとしますけど、全然止まる気配がないみたいです。

 

 このまま放っておくと本当に先生の身が危うい気がするんですけど、ユーになにかできる方法は……、

 

 ………………。

 

 ぜ、全然、思いつかないです……。

 

 先生、完全に大ピンチ……?

 

「サアッ、今コソ僕タチガ立チ上ガルベキナンダッ!」

 

「そうだぜっ! ヲ級の言う通りだっ!」

 

「「「ジーク、ヲ級! ジーク、ヲ級!」」」

 

 まるでどこかの独裁者が演説をしているかの雰囲気に、ユーは完全にのまれてしまっていました。

 

 頼みの綱のしおいさんもあたふたしちゃっていますし、夕立ちゃんは肩を落として諦めた顔をして、潮ちゃんは泣く寸前で……。

 

 これはもう、どうしようもない……と思っていたんですが、

 

「……っ!?」

 

 ふと、ユーの背筋に冷たいモノを感じた瞬間、辺りを見回しました。

 

 そして、その原因となるモノを……見つけてしまったんです。

 

「あらあら~、いったいなにを騒いでいるのかしら~?」

 

 勢い良く扉が開けられたはずなのに、全く音は聞こえることがなく、

 

 愛宕さんの声だけが、聞こえてきたんですよね……。

 

 

 

 

 

「「「……っ!?」」」

 

 騒いでいた4人の顔が驚愕に変わる中、愛宕さんは全く気にすることのない素振りでスタスタとヲ級ちゃんに近づいて行きました。

 

 そしてニッコリと微笑みながらヲ級ちゃんの顔を見た後、しおいさんの方へと振り向きます。

 

「しおい先生~、これはいったいどういうことなんでしょうか~?」

 

「ご、ごめんなさいっ! し、しおいが至らないばっかりに……」

 

「反省しているのは良いことですけど、さすがにこれで何度目か分かってますよね~?」

 

「は、はい……」

 

 しおいさんは肩を落としながら憔悴した顔を浮かべて、重々しく頷きます。

 

 そんな様子を見た愛宕さんは、『仕方ないなぁ……』と言わんばかりにため息を吐きながらも、小さく笑みを浮かべてしおいさんの頭をポンポンと叩きました。

 

「失敗するのは新人として仕方ないんですから、そんなにめげないでください。

 先生だって最初の頃は失敗ばっかりだったんですよ?」

 

「で、でも、しおいは……、いつまで経っても上手くできないし……」

 

「それを経験として生かせば問題はないんですよ。

 もちろん、反省する気持ちがなければダメですけど、しおい先生はその辺りのことをちゃんと考えていますから、少しずつ前に進めば良いんです」

 

「あ、愛宕先生……」

 

 愛宕さんの言葉を聞いたしおいさんの表情が明るくなり、目をキラキラとさせながら見上げていました。

 

 この光景を見た夕立ちゃんと潮ちゃんはホッと胸を撫で下ろし、小さく息を吐いています。

 

 これで一見落着……となれば良いんですけど、そうは問屋が卸さないと言うふうに、愛宕さんがヲ級ちゃん達へと視線を戻しました。

 

「それで、この騒動の発端は誰なんでしょう~?」

 

「ソ、ソレハ……、ソノ……」

 

 汗を額にダラダラと浮かばせたヲ級ちゃんが、しどろもどろになりながら口をパクパクと開けますけど、上手く言葉が出せないみたいです。

 

 正に蛇に睨まれた蛙のような状態に、ユーは少しだけ可哀相に思えてきたんですよね。

 

 でも、ヲ級ちゃんの周りにいる天龍ちゃんや金剛ちゃんは、両膝をガクガクと奮わせながら立ち尽くしているだけで、フォローもできそうに見えません。

 

 時雨ちゃんと龍田ちゃんは少し離れた位置で様子を見守っていますけど、その表情は天と地ほどの差があります。

 

 ……というか、龍田ちゃんはいつでも余裕たっぷりでニコニコしている気がするんですよね。

 

「なにやら先生のことをどうこうすると聞こえた気がするんですけど、私の聞き間違いなんですかねぇ……?」

 

「……ウ、ア……ウゥゥ……」

 

 もはや言葉を返せないヲ級ちゃんは、愛宕さんの圧力に負けるように一歩一歩後ずさります。

 

「何度も問題を起こす子はお仕置きと相場が決まっているんですが……」

 

「……ッ! メ、飯抜キハ、勘弁シテイタダキタイ……」

 

「順当ならそうなるんですけど、今回はヲ級ちゃんにピッタリのお仕置きがあるんですよ~」

 

「……エッ?」

 

 両手を合わせながら満面の笑みを浮かべた愛宕さんは、なぜか胸の辺りをゴソゴソとまさぐりはじめました。

 

「ええっと、どこでしたかね~」

 

 そう言いながら、服の隙間から手を入れる愛宕さんの胸部装甲が……その、ええっと……、すごいです。

 

 ………………。

 

 なぜだか分からないですけど、ユーはすっごい悲しくなってきました……。

 

 しおいさんも同じようにガックリとうなだれていますし、同じ思いかもしれません。

 

「ああ、ありました~」

 

 言って、愛宕さんの手にあったのは、1つの紙切れでした。

 

「実は先日、佐世保から方から預かってきたモノなんですよ~」

 

「……さ、佐世保って、ユーと同じですよね?」

 

「そうですよー。ゆーちゃんと一緒に舞鶴にきた、龍驤という艦娘から受け取ったんです」

 

「龍驤お姉さんからですか……?」

 

「ええ、実はこれ、先生からのお手紙なんですよね~」

 

「「「……っ!」」」

 

 その言葉を聞いた瞬間、愛宕さんが部屋に入ってきた以上の驚きが部屋中にあふれました。

 

「そ、それって本当かよ、愛宕先生っ!?」

 

「本当ですよ~」

 

「い、いったいなにが書かれているんデスカッ!?」

 

 鼻息を荒くした金剛ちゃんが愛宕さんに詰め寄りますが、膝のガクガクはおさまったんでしょうか?

 

 パッと見た感じ大丈夫そうに見えますけど、それってやっぱり、先生の手紙で持ち直したということですよね。

 

「う~ん、みんなが期待するようなことは書かれていませんけど、読んじゃいますね~」

 

 そう言った愛宕さんは、なんだか少し寂しそうな顔を一瞬だけ見せた後、小さく口を開きました。

 

『ヲ級へ。

 最近幼稚園で問題ごとを多く起こしていると聞いたので、一言だけ伝えておく。

 あんまりやり過ぎると、本気で怒るからな。 by先生』

 

「……え、それだけデスカ?」

 

「はい、これだけですよ~」

 

「そ、そうデスカ……。残念デス……」

 

 大きく肩を落とす金剛ちゃんと共に、耳を澄ませていた天龍ちゃんや時雨ちゃんも残念そうな顔を浮かべていました。

 

 そして、手紙に書かれていたヲ級ちゃんはと言うと……、

 

 

 

 ガタガタガタガタガタ……。

 

 

 

 あ、あの……、さっきの金剛ちゃんとは比にならないくらい、思いっきり震えちゃっているんですけど……。

 

 両膝どころか、全身が痙攣するくらいに……って、触手がなんだか意味が分からない形になっています……っ!?

 

「な、なんだか、不吉な形っぽい……」

 

「う、潮……、ゆ、夢に出ちゃいそう……かも……」

 

 またもや怯える潮ちゃんは天龍ちゃんに近づいて、手をギュッと握っていました。

 

「オ、オオオ、オ兄チャンガ……、キ、切レタリナンカ……シタラ……」

 

「怖そうですねぇ~」

 

「コココ、怖イモノナンテモンジャ……」

 

「ヲ級がここまで怯えるナンテ、ちょっとだけ気になりマスネ……」

 

「噂では、相当怖いっぽい?」

 

「でも、見たことあるっていうのはヲ級ちゃんだけみたいだし、所詮は噂だけじゃないかしら~?」

 

 龍田ちゃんが変わらずの笑みを浮かべてそう言いましたけど、ヲ級ちゃんは激しく顔を左右に振りながら、絶叫するかのように大きな声をあげました。

 

「ソンナコトナイッ! オ兄チャンヲ怒ラセタラ、数日ハ寝込ムレベルナンダヨッ!」

 

「そ、そんなに……なのか……?」

 

 天龍ちゃんの問い掛けにコクコクと頷いたヲ級ちゃんを見て、周りのみんなの表情も少しずつ変わってきます。

 

 だけどユーは、怒ったときの先生が全く想像できないので、本当に怖いのか分からないんですよね……。

 

 いつも優しいですし、色んなことを教えてくれますし……。

 

 あの先生が、怒るなんてことって……あるんでしょうか?

 

「そういうことなので、これからは大人しくした方が良いと思いますよ~?」

 

「ウ、ウゥ……、分カッタヨ……」

 

「もちろん、これでもダメと言うのなら……、私がしーーーっかりと説教してあげますが~」

 

 そう言いながらニッコリと微笑む愛宕さんを見て、今度はヲ級ちゃんを除いた他のみんなが……、

 

 

 

 ガタガタガタガタガタ……。

 

 

 

 これでもかってくらい、思いっきり震えたんですよね。

 

 しおいさんも同じように……って、やっぱり愛宕さんは幼稚園のボスです……ね。

 




次回予告

 それからユーは幼稚園でお話をしたりして過ごした後、しおいさんや他の潜水艦の皆さんと一緒に温泉へと向かったんです。

 初めての体験でドキドキだったんですけど、温泉ってとっても温かくて気持ちが良いんですが……


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その15「舞鶴の温泉……です」


 乞うご期待!

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