宴会が終わり、ユーはしおいさんの部屋へと向かうんですが、気づいたらお布団の中でした。
そこでちょっとした問題が起きちゃったんですけど……、ユー、大ピンチかもです……っ!
……あ、変な期待しないでください……ね?
それから暫く歩いた後、しおいさんの部屋がある寮の中に入って行きました。
時折通路ですれ違うお姉さんたちが、ユーを見ながら手を振ってくれたりしたので嬉しかったです。
ただ、少しずつだけどまぶたが重くなってきて、ウトウトする感じも多くなってきました。
「ありゃ、結構限界がきちゃってるかな?」
「あ、あぅ……、だ、大丈夫です……」
首を左右にブンブンと振ってみたんですが、余計に頭が重くなってきて、フラフラしちゃう感じになっちゃいます。
「あはは。無理をしなくても良いからね」
そう言って、しおいさんはユーに手を差し伸べてくれたので、ギュッと握ります。
「もう少しで着くから、それまで頑張ろうね」
「はい……です」
コクリと頷いて返事をしたんですけど、だんだん目の前が真っ暗になって……、その後どうなったかは、分かりませんでした。
「………………あれ?」
気がついたときには、まっ白な世界にいました。
一瞬何が起こったのか分からなくてビックリしたんですけど、冷静に辺りを見回してみるうちに、どうやら布団の中みたいです。
ただ、ユーの身体が……、動きにくいんですけど……。
「うにゅぅ……。もう食べられないよぉ……」
気づけば、ユーの身体がしおいさんにガッチリと抱きつかれていて、なかなか解けそうにありません。
「こ、これは……、大変そうです……」
なんとか動かせる右手を使って、しおいさんの身体を揺さぶってみます。
「えへへ……、ダメだよぉ……」
「えいっ、えい……っ」
「ひゃぅ……、もぅ……先生ったらぁ……」
「むぅ……、全く起きそうに……ないです……」
しおいさんは寝言を呟きながらにへらにへらと笑っているんですけど、なんだか幸せそうな夢を見ているみたいです。
……ところで、先生って聞こえたのは気のせいじゃないですよね?
「うぅ……、トイレに……行きたいです……」
昨日の夜にいっぱいジュースを飲んだからか、我慢ができなくなってきました。
だけど、ユーの身体はしおいさんに抱かれていますし、抜け出せそうにありません。
このままだと、ここで漏らしちゃうことに……。
「そ、それはさすがに……ダメ……です……っ」
頑張ってしおいさんの腕を解こうと頑張りますけど、力を込めれば込めるほど催してきちゃって……、
「あ、危ないです……っ」
これじゃ駄目だと思ったユーは、仕方なくしおいさんの頬をペチペチと叩いて起こそうとするんですが、
「やだやだぁ……、痛いじゃないー……」
言葉は嫌がっていても、顔はすっごい嬉しそうなんですけど……。
……って、そんなツッコミを入れている場合じゃないです。
「うぅぅぅぅっ、漏れ……ちゃいます……っ」
何度もしおいさんの頬を叩きますが、起きる気配は一向になく……、
「こうなったら……、ゴメンナサイ……ですっ!」
仕方なく、ユーの身体を抱いているしおいさんの腕を顔に引き寄せて……、
ガブッ!
「んにゃぁっ!?」
「ふぁふぁぐ……、おふぃて……くだ……ひゃい……」
「痛い痛い痛いっ! なに、なんなのっ!?」
大きな声をあげたしおいさんの身体がビクリと震え、ユーは腕から口を離して叫びます。
「と、トイレ……、トイレはどこ……ですか……っ!?」
「えぇっ!? そ、そこの扉だけど……」
「ダ、Danke!」
ユーは必至で弱まったしおいさんの腕を振り解き、布団から転げ落ちながらトイレに向かって駆け出します。
扉を急いで開けて中に入り、なんとか漏らさずに済むことができました。
朝から……、とんだドタバタ騒ぎです……。
「あー……、そうだったんだね……」
トイレから出たユーは、しおいさんの腕に噛みついた事情を説明し、「ごめんなさい」と謝りました。
「ううん。しおいが悪かったんだから、謝らないで良いよ。
それより、こっちこそ抱きついちゃって……ごめんね」
両手を合わせて謝るしおいさんに頷いたユーは、噛みついてしまったしおいさんの腕に目をやります。
ちょっとだけ歯の形がついちゃっているみたいなんだけど、痕になっちゃうでしょうか……?
「ほ、本当に……、大丈夫ですか?」
「今は痛くないから問題ないよ。それに、艦娘はお風呂に入っちゃえばすぐに治っちゃうからね」
「それは……、そうですけど……」
全く気にしていない風に笑いかけてくれるしおいさんは優しいなぁと思いますけど、やっぱりちょっと心配になっちゃいます。
「それよりも……さ。今日はユーちゃん、暇なんだよね?」
「え、あ、はい……。佐世保に帰るのは明日ですから、今日は1日空いていますけど……」
「それじゃあ、朝ご飯を食べたら……、幼稚園に行こっか?」
「……え?」
しおいさんの提案を聞いたユーは、ビックリしちゃって固まっちゃいました。
舞鶴にきたのは、潜水艦のみんなからお話を聞くためでした。
それも昨日のうちに終わっちゃって、後は帰るだけだと思っていたんですけど……、
「せっかく舞鶴にきたんだし、こっちの幼稚園のみんなと会ってみるのも面白いでしょ?
それと、夕方からは良いところにも連れて行ってあげようって考えてるんだけど……、どうかな?」
「ダ、Danke! ユー、こっちの幼稚園に行ってみたいですっ!」
「良かったー。そんなに喜んでくれるなら、提案した甲斐があったよー」
にっこりと笑ってくれたしおいさんにお礼を言い、こっちの幼稚園はどんな感じなのかと想像を膨らませます。
佐世保より人数が多いと先生から聞いていたんですけど、今からとっても楽しみです。
「さて、それじゃあ、身支度をしたら朝ご飯を食べに行こっか」
「はいですっ!」
「あははっ、元気が良いね。
それじゃあ、今日も一日……頑張りましょうー」
「おー……ですっ」
しおいさんと一緒に右手を上に突き出して、元気いっぱいに叫びました。
でもよく考えてみたら、朝早くからだったので、他の人に迷惑だったりしませんよね?
◆ ◆ ◆
昨日の夜にどんちゃん騒ぎをした食堂に行って朝ご飯を食べた後、しおいさんに連れられて白い建物の前にやってきました。
「……あれ?」
「ん、どうしたのかな?」
「え、えっと……、佐世保の幼稚園と、よく似ている感じがします……」
「ああ、それはたぶん、同じように作ったからじゃないかな。
聞いたところによると、ここの設計図面を使って佐世保の幼稚園を建てたらしいよ?」
「そうなんですか……。なんだか、ちょっとだけ……嬉しい感じがします」
建物の屋根や塀などを見渡しても同じ感じがして、思わずユーは笑みを浮かべちゃいました。
「それじゃあ早速中に入ってみよっか」
「は、はいです……」
似ているとはいえ、初めて中に入るとなると、ちょっとだけ緊張しちゃいます。
だけど1人じゃなくて、ユーの隣にはここの先生でもあるしおいさんがいます。
一緒に手をつないで行けば、怖くなんかないです……よね?
「おはようございまーす」
「おはようございます~」
「オハヨウゴザイマス」
扉を開けたしおいさんが開口一番に挨拶をすると、中にいた方々が手を挙げて返してくれました。
「あら、あらあら~?」
そしてすぐにしおいさんと手をつないでいるユーの姿を見た青い服を着た人が、ニッコリと笑みを浮かべながら近づいてきます。
「この子が姉さんの言ってた、ユーちゃんですね~。
初めまして、おはようございます~」
「お、おはようございます……。さ、佐世保からきた、U-511……、ユーです」
「上手に挨拶ができましたね~。えらいですよ~。
私はここで先生をしている、愛宕って言います~。宜しくお願いしますね~」
そう言った愛宕さんがユーの頭を優しく撫でてくれたんですが、なんだか先生と同じ感じがして、ユーはとっても気持ちが良くなっちゃいます。
すると愛宕さんの後ろの方から近付いてきた方が、小さく頭を下げながら話しかけてきました。
「私ハ、港湾棲姫ダ。ミンナカラハ、港湾先生ト呼バレテイル」
「ユーです。よ、宜しくお願いします」
港湾先生の両手を見た瞬間に、ユーはビックリしちゃったけど、きちんと頭を下げて挨拶をしました。
なんだか少し愛宕さんやしおいさんとは、雰囲気も見た目も違う気がします。
だけど、なんとなく声が優しそうに聞こえたので、ユーは大丈夫だと思いました。
「朝礼の時間まではもう少しあるから、それまではここでお話でもしましょうか~」
「そうですねー。それじゃあしおいが、コーヒーの用意をしますね」
「宜シクオ願イスル」
「ラジャーでーす」
そう言ったしおいさんは、テキパキとした動きで近くに置いてあったコーヒーメーカーを操作していました。
「愛宕先生は砂糖が2つにクリープ1つ、港湾先生は砂糖が5つで良かったですよねー?」
「ええ、いつも通りで」
「ウーム……、今日ハクリープヲ2ツ追加デ頼ム」
「クリープ2つですねー。あっ、ユーちゃんはカフェオレで良いかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
コクコクと頷くと、しおいさんはニッコリと笑ってカップを置き、ボタンをポチっと押しました。
コーヒーの香りが部屋中に漂い、なんだか目がパッチリとする感じになります。
「んん~、良い香りですねぇ~」
「コレハ……、豆ヲ変エタノダロウカ?」
「ええ、正解ですよ~」
「フム。確カニ、イツモノトハ違ッテ、香リガ芳醇ダナ……」
クンクンと鼻を動かす港湾先生が可愛らしく見えて、ユーはなんだか楽しくなってきちゃいます。
「言われてみれば確かに香りが違いますけど……、これってどんな豆なんですか?」
「知り合いから頂いた貴重なコーヒー豆なのよ~」
「へぇー……」
しおいさんは呟きながら、小さな筒をマジマジと見ていました。
それには白い紙が貼られていて、マジックで『コピ・ルアク』と書いてあります。
ユーは聞いたことがない名前ですけど、有名なモノなんでしょうか……?
「はい。これでみんなの分が入りましたー」
「ありがとうございます~」
「ソレデハ、朝ノ一杯ヲ楽シマサセテ貰オウ……」
言って、みんなはカップを持って口を近づけ、ズズズ……と飲み始めました。
ユーも同じように一口飲むと、温かいミルクの甘さと、ほんのり苦い味がマッチした素晴らしい味が、口いっぱいに広がります。
「これは……美味しいです」
「うんっ、すっごく美味しいっ!」
「美味しいですねぇ~」
「ヤバイ……、ヤバスギルナコレハ……」
ユーは一心不乱にカップの中身を飲み続け、気づけば空っぽになっていました。
少し残念な顔をしながら口からカップを離すと、他のみんなも同じような表情で小さく息を吐いています。
「しおい先生~」
「は、はい?」
「もう一杯、いただきましょうか~」
「はいっ! しおいもそれが良いと思いますっ!」
「激シク同意スル」
「ゆ、ユーもお願いしますっ」
こうして、しおいさんは再びコーヒーメーカーを操作し、入った分をみんなで飲むという動作を3回続けるとは夢にも思いませんでした。
恐るべし、『コピ・ルアク』ですよね……。
次回予告
舞鶴の幼稚園にやってきたユーですが、ここでいきなりビックリです。
思っていた以上の光景と、なぜか思いっきり睨まれているみたいなんですけど……。
艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
~ユー編~ その11「やれやれ……です」
乞うご期待!
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