艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 食堂の二階でお食事会が始まりました。
みんなで自己紹介をしつつ色んなお話をして、楽しい時間が過ぎていきます。


その9「わいわい騒ぎ……です」

 

「そういえば、自己紹介がまだなのねー」

 

 唐突に口を開いたイクさんの声を聞いたみんなが、ハッとした表情を浮かべてからユーの顔を見ました。

 

「あっ、そういえば忘れていたでち」

 

 両手をパンッ……と叩きながらゴーヤさんが答えましたけど、座卓の上に置かれている料理は既に半分くらいなくなっているんですよね。

 

 まぁ、ユーは別に気にしていませんし、しおいさんとも普通におしゃべりできていますから、問題はないんですけど……。

 

 でも、他の方の名前はまだ分かっていないですから、自己紹介はしておいた方が良さそうです。

 

「イクとゴーヤは先に会ってるからいいけれど、他の4人とは初対面なのねー」

 

「そうだったでち。早速自己紹介をするでち」

 

 ゴーヤさんが頷いたのを見て、ユーは小さく手を上げながら問いかけます。

 

「……それじゃあ、ユーから挨拶した方が……良いですよね?」

 

「宜しくお願いするのねー」

 

「分かりました……です」

 

 ゴクリと唾を飲み込みながら立ち上がると、みんなの視線がユーに集中して、胸がドキドキしちゃいました。

 

 でも、ここで黙ってしまったら前に進まないですから、ユーは頑張ります。

 

「えっと……、佐世保鎮守府にある幼稚園に通っている、U-511です。

 みんなからはユーって呼ばれていますので、宜しくお願いします」

 

 ペコリと頭を下げてからみんなの顔を見ると、笑みを浮かべながら拍手をしてくれました。

 

 ユーはホッとひと安心といった風に緊張が解けたので、ゆっくりと座布団の上に座ります。

 

「上手にできたね、ユーちゃん」

 

「いえ。これくらいなら、大丈夫です……」

 

 しおいさんに褒められたのと、恥ずかしいのもあって、ユーはちょっとだけ俯いちゃいました。

 

「それじゃあ、私たちの方もするのねー」

 

「とりあえずゴーヤとイクは佐世保で済んでるから、残りの4人にお願いするでち」

 

 そう言ったゴーヤさんは、隣に座っている赤色の長い髪の方の顔を見ました。

 

「えっ、私から?」

 

 一瞬驚いたような表情をするも、ゴーヤさんが頷くのを見てすぐに立ち上がり、「ゴホン……」と咳払いをしてから頭を小さく下げました。

 

「私の名前は伊168よ。みんなからはイムヤって呼ばれているから、気軽にそう呼んでね」

 

「はい。イムヤさん……ですね。宜しくお願いします」

 

 ユーもペコリとお辞儀を返して、ニッコリと笑いました。

 

 イムヤさんはちょっとだけ気恥ずかしそうに頬を掻きながら座り、イクさんが声を上げます。

 

「それじゃあ次は、ハチにお願いするのねー」

 

「はっちゃんの出番ね……。

 正式名称は伊8。みんなからは、はっちゃんとかハチって呼ばれているから、好きなので宜しくね」

 

「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 ユーはそう言いながら頭を下げると、はっちゃんさんはニッコリと微笑んでくれました。

 

「ちなみに、ユーの祖国に行ったことがあるのが、このハチなのねー」

 

「あ、はい……、覚えています。後で色々とお話を聞きたいです」

 

「はっちゃんで良ければ、いつでも良いですよ」

 

「ダ、Danke。ありがとです」

 

 ユーは嬉しくなって、つい祖国の言葉でお礼を言っちゃいました。

 

 でもはっちゃんさんは微笑んだまま頷いてくれたので、余計に嬉しくなっちゃいます。

 

「それじゃあ次は、しおいの番なのねー」

 

「おっけー。

 さっきから色々と喋っていたけど、改めまして……。伊401、しおいって呼んでね」

 

「はいです……。宜しくお願いします」

 

「しおいは幼稚園で先生をしているから、舞鶴に居る間は気軽に頼ってくれて良いからね」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って、ユーはしおいさんに頭を下げます。

 

「これで全員なのねー」

 

「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!」

 

 イクさんが自己紹介を終わらせようとすると、まっ白い水着を着たおかっぱの方が、焦った表情で声をあげました。

 

「ま、まるゆはまだ、自己紹介をしていませんっ!」

 

「あっ……、忘れてたでち……」

 

「そ、そんなぁっ!」

 

 まるゆさんが大きく肩を落として目が潤んできたところで、ゴーヤさんが慌てて「じょ、冗談でちっ!」と、フォローをしていました。

 

「ちょっとしたジョークなのね……」

 

「そ、そうでち。場を和ませるための犠牲でちっ」

 

「そう……なんですか……?」

 

 問いかけるまるゆさんに、イクさんとゴーヤさんは何度も頷きながら声をかけ、なんとか泣きだすのを止めたって感じでした。

 

 でも、犠牲というのもどうかと思うんですけど、まるゆさんは気にしていないみたいですし、大丈夫なんでしょう。

 

「そ、それじゃあ、まるゆの自己紹介をお願いするのね……」

 

 フォローのし過ぎで疲れたという感じのイクさんにまるゆさんが頷くと、立ちあがりながら口を開きました。

 

「え、えっと……、三式潜航輸送艇のまるゆです。みんなからは、まるゆって呼ばれています。

 主に輸送任務についているので、みんなとは一緒じゃないことが多いけど、仲良くしてくれているからとっても嬉しいです」

 

 顔の周りをキラキラとさせながら話したまるゆさんは、満面の笑みを浮かべながらみんなの顔を見ていました。

 

 その視線から逃げるように、イクさんとゴーヤさんが顔を逸らしましたけど……、やっぱりさっきのが少し堪えているみたいですよね……?

 

「一応これで、自己紹介は全員済んだわよね」

 

 代わりにイムヤさんが場を仕切って、ことなきを得たって感じになりました。

 

 やっぱり口は、災いの元ってことですよね……。

 

 

 

 

 

 それからユーは美味しい料理を食べながらみんなから色んな話を聞き、とても楽しい時間を過ごしました。

 

 はっちゃんさんからはユーの祖国の話も聞けましたし、イムヤさんからは魚雷のコツなんかも教わりました。

 

 ユーはまだ移動の艤装だけしかつけたことがないですけど、ちょっとだけ楽しみになっちゃいます。

 

「さて、そろそろ時間も遅くなってきたし、お開きの時間なのねー」

 

 イクさんはそう言って、コップの中に入っていた黄色い泡がでるお酒を飲み干しました。

 

「ふぅ……。いっぱい食べて、一杯飲んじゃったでち」

 

「明日からは少し節制した方が良いかもね」

 

「だ、大丈夫……でち」

 

 お腹の辺りをさすっていたゴーヤさんに、イムヤさんがスマホをいじりながら鋭い言葉をかけています。

 

 ちなみに、ゴーヤさんはよく「でち」という語尾を付けているので、『でっちさん』と呼んだら、すごく嫌そうな顔をしながら首を左右に振って断られちゃいました。

 

 ユーは可愛いと思うんですけど、ダメなんでしょうか……。

 

「どうせ明日もオリョクルが待っているから、大丈夫だと思うけどね……」

 

 はっちゃんさんはそう言いながら少し疲れた表情を浮かべると、みんなの表情も同じようになった気がします。

 

 あっ、でも、しおいさんだけは苦笑を浮かべながら頬を掻いていましたけど、それは幼稚園の先生だから出撃がないってことですよね?

 

「ま、まるゆは明日から長距離の遠征任務です……」

 

「く、暗い話はもう止めにするでち……」

 

 半泣きになったまるゆさんの肩に、慰めるようにゴーヤさんが手を置きました。

 

 ユーはみんなの姿を見て、大きくなって活躍したいって気持ちが揺らいでしまいそうになります……。

 

「どうせ明日は待っていなくてもやってくるから、頑張るだけなのね」

 

 でも、そんな愚痴を言いながらも、どこか嬉しいそうな感じに見えるのは……、なぜなんでしょうか。

 

 ユーにはまだ分からないけど、これが大人の世界なのかもしれません。

 

 いつかユーも……、オリョクルやバシクルに……

 

「それじゃあ、ユーちゃんは私の部屋でお泊まりしよっか」

 

「え、あっ、はい……」

 

 急にかけられたしおいさんの声に振り向きましたけど、ユーは一体何を考えていたんでしょう。

 

 なんだか頭がふわぁ……ってしたと思ったら、よく分からないことを考えていたような……。

 

「ではでは、これにて本当に解散でち」

 

「お疲れ様なのねー」

 

「「「お疲れ様ー」」」

 

 みんなは一斉に声をあげ、笑いながら互いに手を振りました。

 

 そしてユーに声をかけて下さってから、順番に部屋から出て、階段を下りていきます。

 

 最後にしおいさんとユーだけが残り、一息ついて座布団から立ち上がります。

 

「えっと、ユーちゃんはここにくるまで大変だったと思うけど、眠たくなってたりしないかな?」

 

「……んと、少しだけウトウトしますけど、まだ大丈夫です」

 

「そっか。それじゃあ、ゆっくりしおいの部屋に向かおうね」

 

「はいです」

 

 ユーは頷くとしおいさんも同じように返し、部屋から出て階段を下りる後に続きます。

 

 厨房を抜ける際に鳳翔さんや千歳さんにお礼を言って、食堂の外へと出ました。

 

 空は既に真っ暗になっていて、綺麗な半月といっぱいの星がキラキラと浮かんでいます。

 

「寮の方角はこっちだよ」

 

「はい……です」

 

 空を見上げていたユーに声をかけ、しおいさんはゆっくりとした足取りで歩いていきます。

 

 お腹はいっぱいで夜風がとても気持ち良くって、なんだか急に頭がフワフワとしてきました。

 

「あれ、やっぱり眠くなってきちゃった?」

 

「……あぅ、え、えっと……」

 

「あはは。今日は色んなことがあったんだから、疲れちゃったよね」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユーは頭を下げて謝ると、しおいさんは首をブンブンと振って「違う違う」と言いました。

 

「怒ってなんかないし、謝らなくて良いんだよ。疲れたら眠くなるのは普通だし、ユーちゃんはまだまだ成長していく時期なんだから」

 

「そう……なんですか?」

 

「うん。だから、いっぱい食べていっぱい寝る。そうやって元気に大きくなって、立派な艦娘として頑張って欲しいんだ」

 

 しおいさんは話しながら、ふと夜空の方を見上げます。

 

「戦うだけが艦娘じゃない……。そして、兵器として見るんじゃない……」

 

「……え?」

 

 小さく呟いたしおいさんの言葉。

 

 ユーの耳には聞こえにくかったけれど、しおいさんの表情からなんとなく大切なことなんだと思いました。

 

「そして先生は……、そんな私たちをしっかりと見るだけじゃなく、深海棲艦のことも考えた行動を取った……」

 

 呟き続けるしおいさんは、まるで悟ったかのような頬笑みを浮かべ、遠い目で月を見ていました。

 

 なんだか邪魔をしたらダメな気がして、ユーも一緒に空を見上げます。

 

 

 

 それから暫く無言の時間が過ぎていきましたけど、なんだかとっても大切なことを学んだ気がしました。

 

 

 

 たまにはこういうのも、悪くないですよね……。

 




次回予告

 宴会が終わり、ユーはしおいさんの部屋へと向かうんですが、気づいたらお布団の中でした。
そこでちょっとした問題が起きちゃったんですけど……、ユー、大ピンチかもです……っ!

 ……あ、変な期待しないでください……ね?


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ユー編~ その10「昨夜はお楽しみでしたからね……」


 乞うご期待!

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