艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 明石の身柄を確保したヤン鯨。
そこにやってきた日向は、非常に嫌そうな顔をしつつも手伝っていた。

 そして、明石の部屋の謎がすべて明らかに……?


その5「工作活動」

 

「タイミングがドンピシャでしたー。さすがは安西提督の秘書艦ですねー」

 

「………………」

 

 お世辞を言ったつもりなんですが、日向は私の顔をチラッと見ただけで視線を逸らしました。

 

 うーむ。そりゃあ不満なことがあるのは分からなくもないですけど、露骨にそういう態度をされるとこっちにも考えがありますよー?

 

 でもまぁ、協力者は必要ですし……。それに日向にオシオキする気分でもないですからねぇ。

 

「……言われた通り道具を持ってきたけど、本当に……やるの?」

 

 日向の後から入ってきた伊勢は少しばかり不安な表情をしていたものの、ウズウズしているといった風にも見えました。

 

「これも仕事の一環ですから、ちゃんとやらないといけませんー」

 

「だが、無実の先生に罪を着せるというのは気が引けるな……」

 

「それじゃあこのまま放っておいて良いと?」

 

「確かにキミが言ったことが本当だったのなら手を打っておく方が良いのは分かる。しかし先生がそれほど悪人だとも、私には思えないんだが……」

 

「確かに見た目からは想像もできないですねー。

 ですが、実際にそう思っていた人や艦娘たちが先生にどんどんと落とされていっているのも事実なんですよー?」

 

「……そこまでスケコマシといった感じには見えないのだが……な」

 

 ふぅ……と、大きくため息を吐いた日向は肩を落とします。

 

 私は日向と伊勢に明石の身柄を確保する話をした後、もう一つの問題である先生について説明しました。

 

「前々から変な噂が鎮守府内に流れていたから、怪しいとは思っていたのよねー」

 

 一方、伊勢は日向と違って乗り気なようで、私の説明には賛成のようです。

 

「先生は舞鶴に居るときから教え子である園児たちと怪しい関係になっているんじゃないかとか、色んな艦娘をとっかえひっかえしているという噂が流れていました。

 そして今度は一時転勤先であるこの佐世保でも、怪しい噂が上がっているんですよね?」

 

「……ああ。幼稚園の園児に手を出したとか、現場監督であるビスマルクとの関係も噂されてはいるが……」

 

「つまり、このまま放っておけば佐世保鎮守府内の風紀は乱れまくるってことになっちゃうんじゃないですかねー?」

 

「し、しかし……」

 

「何を迷っているのよ日向! 大鯨の言う通り、先生を放置しておけば大変なことになっちゃうんだよっ!?」

 

「だがあくまでも今の段階は噂であってだな……」

 

 ふむー。まだ日向は踏ん切りがつかないといった感じですねー。

 

 ならば次の手を取る……ってことで進めましょうかー。

 

「それじゃあ先生を犯人に仕立て上げて逮捕した後に、2人で尋問をしてはいかがでしょうかー」

 

「……なんだと?」

 

「噂が本当かどうかを、取り調べのときに調べれば良いんですよ。

 もちろん露骨に聞くとおかしいですから、上手く引きだす感じで……」

 

「なるほどっ! それは良い考えじゃないっ!」

 

「……ふむ」

 

 両手を叩いて歓喜する伊勢に、考え込む日向。

 

 これはもうひと押しってところですねー。

 

「先生の女癖が本当に悪いかどうか。そして放置しておいて大丈夫かなどは……こういった手で……ごにょごにょ」

 

 私は日向の傍によって耳打ちし、尋問する手はずの案を伝えます。

 

「ふむ……ふむ……。い、いや、しかしこれは……」

 

「……ぶっ! そ、それは……ぷくくく……」

 

 気になって近づいてきた伊勢は私の話を聞くと、日向を指差しながら急に笑い出しました。

 

「こうすれば先生の本質が分かるでしょうし、それからどうすれば良いか考えられると思いますよー」

 

「頑張っちゃいないよー、日向ー」

 

 完全に笑った目で日向の肩をパンパンと叩く伊勢は、面白半分といった風に押していました。

 

 こうなれば折れるのは日向の方……といった風に、肩を落としながらも頷きます。

 

 全ては計算通り……。

 

 それじゃあ続けて捏造作戦ですねー。

 

「それじゃあその方向で進めるとして……、まずはやらなくてはいけないことがありますよねー」

 

 私は2人に向かって笑いかけてからパンッと両手を叩くと、日向はいぶかしげに、伊勢は待っていましたという風な表情を浮かべました。

 

「先程打ち合わせた通り日向がその辺にある物を荒らした後、伊勢は血糊をぶちまけて下さいねー」

 

「……本当に、ここまでしなければいけないのだろうか?」

 

「やるならとことんやらないとダメなんですよー。

 それに途中でばれちゃったら、尋問も行えなくなりますよ?」

 

「そうだよ日向ー。それじゃあ折角の……ぷくく……」

 

「……伊勢。そこまで言うなら私の代わりに……」

 

「それはやだよー……っと」

 

 伊勢は日向の冷たい視線を避けるように移動しながら、持ってきたポリタンクの蓋を開けました。中には私がお願いしていた赤い液体がなみなみと入っていますが、これは動物の血液なんですよー。

 

「うー……。分かっているとはいえ、やっぱり血なまぐさいなぁ……」

 

「偽物を使うとばれる恐れがありますからねー。

 ここは本格的にやらないとダメなんですよー」

 

「……後始末が大変そうだな」

 

「費用はこちらが負担しますから、日頃のストレスを発散するという感じで宜しくどうぞー」

 

 私はそう言ってから部屋の壁に向かい、腰だめをしてから右手を大きく振りかぶります。

 

「素手で解剖してやるぜぁーーーっ!」

 

「……何故その台詞なんだ」

 

「……それ以前に、素手で壁を切り裂く段階で恐ろしいんだけど」

 

「あれあれー? お2人はできないんですかー?」

 

「「無理無理」」

 

 2人は揃って首を左右にブンブンと振ってから、仕事に取り掛かりました。

 

 ふむー。私たちは艦娘なんですから、これくらいのことはできると思うんですけどねぇ。

 

 まぁ、グチグチ言っていても仕方ないので、さっさとやることをやっちゃいましょうー。

 

 私は素手で壁紙を破き、バタフライナイフで壁材を深く切り裂き、あたかも部屋の中で争った感じを演出します。日向はベッドのシーツを破いたり、本棚の中身を床に散乱させたりしていました。

 

 そして最後に伊勢が持った動物の血液を壁やベッドに塗りたくったりぶちまけたりして、惨劇現場を作り上げていくんですよー。

 

 更に私は明石が座っていた椅子の軸を両手で持って……ていっ!

 

 

 

 ギギギギギ……ッ

 

 

 

「よし、こんな感じですかねー」

 

 力任せに軸をグニャリとねじり、更に背もたれを思いっきり曲げ終えた私は、納得した表情で床に転がします。

 

「「………………」」

 

 そんな私を見る日向と伊勢がなんだか恐ろしいモノを見る目に感じましたけど、別に気にしなくても良いですよねー?

 

「はいはいー。手が止まっていますよー?」

 

「……あ、あぁ。すまない……」

 

 一瞬ビクリと身体を震わせた2人は、すぐさま前に向き直って作業を再開させます。

 

 そして隙を見計らった私は、机の引き出しにカードを入れてから……って、なんですかこれは。

 

 何やら気になるディスクが数枚……。これは預かっておきましょう。

 

 そして両手を使って……とうっ!

 

 

 

 バキバキバキ……ッ

 

 

 

 机を両側から圧縮するように挟みこんで引き出しを開けにくくしてから、4本ある足を全てグニャリと曲げちゃいましたー。

 

 もはやこれはアートです。

 

 そう――。この部屋は私の作品なんですよー。

 

 そしてこの部屋が有名になり、はれて私は芸術家に……。

 

「うひゃひゃうひうひ」

 

「「………………」」

 

 ……あっ、ちょっと変な笑い方をしちゃったので2人の視線が痛いですねー。

 

 ここはちょっとばかり、フォローをしておいた方が良さそうです。

 

「精神鑑定は結構ですよ。私はまともですからー」

 

「……狂っているとしか見えないんだがな」

 

「さ、さすがに今の笑い方は……ね」

 

 2人は冷や汗を額に浮かべながら呆れた顔を浮かべ、私から距離を置くようにして作業に戻りました。

 

 うぅ……。いつの世も天才は疎まれちゃうんでしょうか……。

 

 私の……、才能が……、憎いっ!

 

 ………………。

 

 あれ、違いましたかねー?

 

 と、とりあえず作業に集中した方が良いですね。時間もあまりありませんからー。

 

 ということで、頑張っちゃいますよー。

 

 

 

 

 

「ふぅー。こんな感じですかねー」

 

「改めてみると……凄いな」

 

「もはや後始末ができる状況じゃないわよね……」

 

 私たちは息をついて完成した部屋を見渡します。

 

 壁も、床も、部屋にあった家具も、全てが元の形からはかけ離れ、たっぷりの血が撒き散らされています。

 

 どこからどう見ても殺害現場にしか見えません。誘拐事件を捏造するのにやったことですが、ちょっとばかりやり過ぎた感すら漂っています。

 

「ひとまずはこれで完成ってことで、次の段階に移りましょうかー」

 

「あぁ……と言いたいところだが、次はいったい何をすれば良いのだろう?」

 

「そうですねー。お2人は先生の行動を見張って下さればおっけーですよー。

 不能を治療しようと考える先生は近いうちにここを訪れるでしょうし、タイミングを合わせて犯人扱いして下さればー」

 

「そして日向の出番……って訳よね! ぷくく……」

 

「……伊勢。あまりからかうと後が怖いぞ?」

 

「き、気のせいじゃないの? 別に私はからかってなんかないよ?」

 

 そう言った伊勢ですけど、目は完全に逸らしていますよねー。

 

「……まぁ良い。それで、大鯨はこれからどうするつもりなのだ?」

 

「それはもちろん、私の仕事が始まるんですよー」

 

 答えた瞬間、2人は首を傾げながら互いの顔を見合いました。

 

「い、いや……。これも仕事ではなかったのだろうか?」

 

「ええ。もちろんそうですけど、本番はここからですねー」

 

「ほ、本番……」

 

 伊勢が察知したように視線を落としましたが、私は気にせず答えます。

 

「はいっ。明石のオシオキタイムの始まりですー」

 

 そう言った私は2人に向かってニッコリと満面の笑みを浮かべ、明石の部屋を出ることにしました。

 




次回予告

 今からヤン鯨には明石をお仕置きしてもらいまーす。
……と、冗談じゃなくて本当です。
でもあくまでお手柔らかにということなので控えめですが。

 とりあえず用事をちゃっちゃと済ませてしまいましょうねー。


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ヤン鯨編~ その6「オシオキタイム」


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