艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※帰宅遅くなってしまい、更新時間が遅れて申し訳ありません。


 そろそろ本格的な根回しが必要ですねー。
ということで、安西提督の流れから秘書艦に会うことになりました。
明石を懲らしめて、先生にお灸をすえないといけませんからねー。

 ところがどっこい、いきなり険悪な雰囲気なんですがー。


その4「慈悲はない」

 

「それでは私はこれで……」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 バタン……と扉が閉まる音が鳴り、部屋の中には重い空気と沈黙が漂っていました。

 

 あれから青葉に先導してもらった私はお願いした通りに佐世保の憲兵=サンに会って話をし、目の前に居る2人を呼び出してもらいました。

 

 そして現在、応接間では一触即発……といった感じの空気が流れているんですけど、なんでなのかなー?

 

「………………」

 

「………………」

 

 私の顔を睨みつけているのは安西提督の秘書艦である日向と、その姉妹艦である伊勢。今までに会ったことはないんですけど、親の仇を見るような目を向けられちゃっています。

 

 うーむ……。別に2人に対して恨みを買ったような行動をした覚えはないんですけど、もしかして知らないうちになんかしちゃっていましたかねー?

 

 それとも今迄にオシオキした相手に仲の良い人とかが居たとか……?

 

「あ、あの……」

 

 そんなことを考えていると、部屋に漂う重い空気に耐えられなくなった青葉がおずおずと口を開きました……が、日向と伊勢の視線が向けられた途端に「ひいっ!?」と小さく叫んでから肩をすくめて後ろへ下がりました。

 

「どうしてそんなに睨みつけるんでしょう。

 私たちが何か悪いことでもしましたかー?」

 

「………………」

 

 私がそう言うと伊勢の表情が一気に険しくなりましたが、日向が宥めるように手を伸ばすと視線を私から逸らします。

 

 ふむふむ、なるほど。

 

 伊勢は短気そうですし、日向は冷静沈着といった感じに見えます。どうやら話をするのは日向の方がし易そうですねぇ。

 

 このままだと一向に前に進みませんから、用件をハッキリと伝えてしまいましょうかー。

 

「まぁ昔に何かあったとしてもどうでも良いです。

 それより今は、私がここにきた理由を話させてもらいたいのですが……」

 

「ふむ……、そちらから話してくれるのはありがたい。

 だが、嘘をついていると判断したら即座に斬るからな」

 

 言って、日向は腰につけた刀に手を伸ばそうとしましたが……、

 

「甘いですねー」

 

「「「……っ!?」」」

 

 私は即座にそれを察知し、懐に忍ばせてあるバタフライナイフを日向の首元に突きつけました。

 

 当の本人である日向はともかく、伊勢や青葉まで驚いていますけど……どうしてなんでしょうかねー?

 

「ひゅ、日向っ!」

 

「あまり動かないで下さいねー。ただでさえ重たいナイフなんですからー」

 

「なっ、なんという速さ……っ! 青葉全く見えませんでしたっ!」

 

 別に普段やっていることをしただけ……って、そんなことを言うと危ないヤツだと思われそうでアレなんですが。

 

 まぁやっていることがことだけに仕方ないのかもしれませんけどねー。

 

「一応言っておきますけど、別にあなた方と敵対するつもりはないんですよー。

 それに、今回の件は安西提督から許可をもらっていますので問題はないと思うのですがー」

 

「な……、なんだと……?」

 

「あ、安西提督の許可ですって……っ!?」

 

 その名を聞いた途端に日向と伊勢は大きく目を見開きました。

 

 やっぱり安西提督効果は抜群のようですし、最初からそう言っておけばよかったですねぇ。

 

「ですから、私に攻撃をするような意思は見せないで頂けると助かりますねー。

 あんまりお痛が過ぎると怒っちゃいますよー?」

 

「………………分かった」

 

 日向はコクリと頷いてから刀にかけていた手を離したので、私もバタフライナイフを懐に締まってニッコリと微笑みかけました。

 

 後ろの方で青葉の大きなため息が聞こえ、少しだけ部屋の空気が軽くなるような気がします。ですが伊勢の目つきは未だに厳しいままで、敵意はむき出しって感じですねー。

 

 グダグダ言ったって始まらないですし、無視して先に進めましょう。あんまりしつこいようだったら、身体で分からせてやれば良いですからねー。

 

「それじゃあ単刀直入に言いますけど、私はとある依頼者からの仕事でここに居る明石を懲らしめにきました。

 この件については先程も言ったように安西提督には了解を得ていますので、あなた達にも協力して欲しいんですよねー」

 

「ちょっと待て……。そのような内容を安西提督が本当に了解したというのか……?」

 

「ええ、もちろん直談判をしての結果です。

 その代わりと言っちゃあなんですけど、明石の命を奪わないことと後遺症が残らないようにすると約束しましたよー」

 

「で、でもそれじゃあ、安西提督は明石を差しだしたことになるじゃないっ!」

 

「んー……、そうじゃないとは思うんですけどねー」

 

 私の言葉を聞いて怒りを露わにした伊勢ですが、先程の脅しが効いているみたいで掴みかかろうとはしないみたいです。

 

「なんでよっ! どこからどう考えても生贄と同じじゃないっ!」

 

「命を奪わない。そして後遺症が残らない。

 この2つを了承した時点でかなりの妥協案だと思うのですがー」

 

 もちろん愛宕との約束でもあるので安西提督が絡んでなくてもそうするつもりではありますけど、物は言いようってことですよー。

 

「そ、そんな物騒なこと、絶対に私が止めるんだからっ!」

 

「つまりそれは、私に楯突くってことですかー?」

 

「……っ!?」

 

 グダグダと五月蠅く叫ぶ伊勢をジロリ……と睨みつけると、大きく身体を震わせて、たたらを踏んでいます。

 

 その程度の根性しかないのなら黙っていて欲しいんですが、協力者が必要なのもまた然り。ここは上手く言葉で転がしておいた方が良さそうです。

 

「まぁ、さっきも言った通りあなたたちと敵対するつもりはありません。

 もちろん鎮守府内に騒動を起こす気もないですし、安西提督に迷惑をかけるようなこともしたくないですから、ぜひ協力して欲しいんですよ」

 

「その……、協力というのは何をすれば良いんだ?」

 

 日向は私の顔をいぶかしげに見ながら問い掛けてきます。

 

「それはもちろん、明石の身柄の拘束と……」

 

 そして私は2人に向かって、ここにくるまでに練っていた作戦を話すことにしました。

 

 

 

 

 

 はいはーい。私は今、ターゲットの明石が居る部屋の扉前にやってきていまーす。

 

 今からバッチリとっ捕まえて懲らしめという名のオシオキタイムに入りたいと思うんですが、さすがに他の人や艦娘がやってこないとも限らないということで攫っちゃうことになりましたー。

 

 この辺りは日向に半ばお願いされたからなんですけど、協力してもらうのですから聞いておくべきなんですよー。

 

 まぁどちらにしてもオシオキし易い環境の方が良いですし、私の狙いにも一役買ってくれそうですからねー。

 

 ということで、第一段階開始ですー。

 

 まずは扉をノックしまーす。

 

 コンコン……

 

「はーい。開いてるから入って良いよー」

 

 許可もバッチリ得ましたので、さっそく中に入っちゃいますねー。

 

「失礼しまーす」

 

「……あれ、聞いたことのない声にその姿……。いったいあなたは、だ……れ……えぇぇぇっ!?」

 

 部屋の奥にある机に向かって座っていた明石ですが、私の顔を見て喋りながらいきなり驚愕しました。

 

「な、なななっ、なんでヤン鯨がここに居るのっ!?」

 

「あれあれー。私のことをご存じな挙句にそっちの名まで知っているとは、なかなかの情報通なんですねー」

 

 今までに明石とは会ったことはない筈なので、写真か何かで知ったんでしょうかねー。

 

「わ、私は何も悪いことしてないからっ! だからここにくるのは間違いって言うか……」

 

「別にオシオキをしにきたとは言っていませんけど、そんなに焦っていると逆に怪しまれますよー?」

 

「ぎくぅっ!」

 

 大袈裟に驚く明石ですけど、身に覚えがあり過ぎにしか見えないですよー?

 

 それに本音を言えばオシオキ目的ですけど、いきなり大声をあげて逃げられるのは避けたいです。

 

 とはいえ、入口は私が抑えていますし、この部屋に窓はありません。脱出経路は見当たりませんから、逃げるのはまず無理でしょう。

 

 もちろん逃がすつもりは毛頭ないですし、そんなヘマはやらかしませんけどねー。

 

「ど、どうしてっ!? 私何もヘマなんかしていないのにっ!」

 

 ……なんですかこのパターンは。

 

 まだ私、明石をそこまで追い詰めちゃったりしてないですよ?

 

 ここは明石の部屋ですし、間違っても崖の先端近くではないです。

 

 犯人がいきなり語りだす刑事ドラマ的な展開は……楽なんで良いですけどねー。

 

「榛名ちゃんが舞鶴に行っちゃってストレス発散ができないから、最近は整体をしにくる提督の激痛ツボで遊んでいただけなのにっ!」

 

「はぁ……。でもそれでやり過ぎて恨まれたりしないんですかねー?」

 

「大半の提督は大丈夫に決まっているじゃないっ。イベント海域で限定艦が出ないからって何十周もしちゃうMばかりだから、むしろ喜んじゃう人も居ますっ!」

 

「需要と供給が合っていれば文句はないですけどねー」

 

「それじゃあやっぱり私にヤン鯨がくるなんておかしいでしょっ!?」

 

「どうですかねー。他にも身に覚えはないですかー?」

 

「そ。それは……、うーん……」

 

 明石は右手を顎の下につけて悩みだすと、頭を何度も傾げながら何かを思い返しているようでした。

 

「この間の中年提督にやった整体も間違って関節外しちゃったけど、その痛みが逆に心地よいとか言って恍惚とした表情を浮かべていたから今更怒られてもって感じだから……」

 

 ……整体師の免許、持っているんですかね?

 

「最近は駆逐艦たちを使って無理矢理着せ替えをするのはやっていないし、その動画もネットに上げたりしていないから……問題ないわよね……」

 

 ……その魅力的なイベントは何なんでしょう。

 

「艤装の装着チェックや修理のときに隠しビデオで撮影しているのも気づかれていないはずだし、ちょくちょくおさわりなんかしちゃっているけど不審な顔はしてなかったし……」

 

 ……職務を利用したセクハラじゃないですか。羨ましい。

 

「修理のときに性欲が徐々に増大するツボを刺激してきたら真っ赤な顔をしちゃった駆逐艦の娘がいたけど、その後用事があったから……って、げふんげふん」

 

 ……明石死すべし。慈悲は無い。

 

 まぁ、私も人のことは言えませんけどねー。

 

「今までのことを聞いている限り、オシオキされても文句は言えないレベルだと思うんですがー」

 

「……はっ!? 図ったなヤン鯨ぃぃぃっ!」

 

「そんな同期の部下に騙されて敵に背後を突かれた将校のような叫び声をあげなくてもですねー」

 

 私はそう言いながら、ゆらりゆらりと明石の元へ近づきます。

 

「ひ、ひいっ!」

 

「大丈夫ですよー。今回のお仕事は命を取らないように約束していますから、安心して下さいー」

 

「そ、それでも痛い思いはしますよねっ!?」

 

「今まで同じようなことをしてきたんじゃないんですかー?」

 

「ち、違うよっ! あれは治療だからっ!」

 

「私の方も同じですよー。あなたのやり過ぎた行為を自制させるための治療なんですー」

 

「や、やだぁっ! 誰か助けて殺され……うぐっ!」

 

「あんまり大きな声を出すと周りに気づかれちゃうじゃないですかー」

 

 私は明石の腹部当て身を喰らわせて言いましたが、既に意識は飛んでいっちゃって聞こえていないようですねー。

 

 これでひとまず明石の身柄は確保できましたので、後は待つだけです。

 

 えっ、誰かがここにくるのか……ですか?

 

 それは、もうすぐ……

 

 

 

 ガチャリ……

 

 

 

「待たせたな……と、既に仕事は終えていたか」

 

 そう言いながら扉を開けて部屋に入ってきた日向の目が半ば疲れたような色になっていたのは、気のせいってことにしておきますねー。

 





次回予告

 明石の身柄を確保したヤン鯨。
そこにやってきた日向は、非常に嫌そうな顔をしつつも手伝っていた。

 そして、明石の部屋の謎がすべて明らかに……?


 艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
 ~ヤン鯨編~ その5「工作活動」


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