まずは下見をしなければ……と、2人は幼稚園に向かう。
ターゲットである先生を見た大鯨は、舞鶴で出会った男性だと確認したのだが……
「それで、いったい大鯨さんはどこに行くんでしょうか?」
佐世保鎮守府内に潜入した私たちは何食わぬ顔で歩きながら会話をしていました。
私たちは艦娘ですから、中にさえ入ってしまえば怪しい行動をしない限り大方は大丈夫でしょう。
「とりあえずは先生の状態を知りたいんですよねー。
愛宕から話は聞いていましたけれど、この眼で見ておいた方が良いですからー」
「なるほど……。情報を送った本人としては少しへこんじゃいますけど、仕事をする上で必要とあれば仕方ありません。
早速先生が居る幼稚園の方へ案内いたしましょうっ」
青葉はそう言いながら私の前に出ると、建物の間にある細い通路に入って行きました。
ふむー。さすがは……というところでしょうか。
既に佐世保鎮守府の内部を知りつくしているとは抜け目ないですねぇ。
「あ、あのー……」
……と思ったら、青葉が苦笑いを浮かべて建物の影からひょっこりと顔を出してきたんですが。
「どうかしましたかー?」
「いやぁ……、その……ですね……。
幼稚園のある方向は、完全に逆方向でした……」
「………………」
前言撤回……ですね。
ちょっとばかり、オシオキしちゃいましょうか……。
「ひいっ!?」
一気に顔が青ざめる青葉ですけど、自業自得ですよー?
「ごめんなさいごめんなさいっ! もうしませんから許して下さいっ!」
「今度やったら、どうなるか知りませんよー?」
「わ、わわわっ、分かりましたっ!」
その場で土下座になった青葉は何度も地面におでこを叩きつけていましたけれど、あんまり騒ぐと周りの注目が集まってしまうので具合が悪いですねぇ。
「理解してくれたらおっけーです。
ほら、さっさと案内して下さいー」
「りょ、了解しましたっ!」
素早く立ちあがった青葉は慌てて敬礼をしてから、今度こそ先生が居るという幼稚園の方へと案内してくれました。
先導する青葉について歩くこと10分。
辿り着いた先は鉄製の柵で囲まれた平屋の建物で、結構真新しい感じに見受けられます。
柵や植え込みの隙間から内部を伺ってみると、窓から建物内が見えて小さな子たちが授業を受けていました。
「こ、ここが佐世保艦娘幼稚園です。
教師はビスマルクが担当していて、生徒はプリンツ、レーベ、マックス、ユーの4人。
先生はビスマルクの指導と子供たちの教育を担当するため、1ヶ月ほど前からここに配属されていますが……」
「うわぁ……。凄いちっちゃい……。可愛過ぎですよねぇ……」
「あ、あの……、大鯨さん……?」
「海外からこっちにきたちっちゃい子が……プニプニで……たまらんですよぉ……」
「け、憲兵を呼んで良いレベルの発言なんですけど……」
「呼んだらオシオキをすっ飛ばして刺しますよー。
あぁぁ……可愛いなぁ……」
「………………」
私の説得に怯えた青葉が少し離れた場所でガタガタと震えていますが、今の私にとってはどうでもよいことです。
この眼に……可愛い子たちを焼き付けなければいけません……っ!
今の私を邪魔する輩が現れたら、四の五の言わずに葬り去ってやる所存ですっ!
………………。
あっ、もちろん冗談ですよ?
更に青葉の顔がとんでもないことになっていますけど、しっかりと説明しておかなければなりませんねー。
私、ちょっとだけ可愛い子が好きなだけなんですよー……って。
「わ、わわわわわ、私は何も見ていませから許して下さいっ!」
「まだ何も言ってないんですけどー?」
「背中のオーラが既にヤバさを醸し出しちゃってますよぉっ!」
「あれれー、酷い言われようですねー」
「ひいっ! ご、ごめんなさいっ!」
「まぁ良いですけど、あんまり大きな声を出すと周りに気づかれちゃいますから静かにしましょうねー?」
「……っ、……っ!」
青葉は私に向かって激しく頭を上下に動かしながら、両手で自分の口を押さえつけていました。
聞きわけの良い子は偉いですねー。
よしよし。ご褒美に頭を撫でてあげましょうー。
「~~~~~~っ!?」
……あれ?
普通はこれで喜ぶと思ったのに、なんで口から泡を吹いて気絶しちゃっているんでしょうかー?
ちょっとばかり傷ついちゃいそうなんですけど……。
まぁ、私の心は鋼鉄製ですけどねー。
………………。
いや、本音はちょっぴりへこんでいますよ?
だからこのフラストレーションは可愛い子たちを眺めることで解消するんですー。
窓から見えるちっちゃい子供たち……。
うーん……、本当に可愛いですねぇ……。
肌のつやとか半端じゃないですよ……。プニプニスベスベ……、ああ……触りたいなぁ……。
ギュッと抱きしめてから頬っぺたを合わせてスリスリして……、そのまま転がってキャッキャウフフ……。
おっと……、これ以上先は言えません。ついでによだれも止まりません。
あんまりやり過ぎると別のタグをつけなければならなくなりますので、自重しておかなければ……と、頭の中で何かが。
残念ですけど子供たちを見るのはこれくらいにしておきましょう……。
本当に……残念ですけど……。
「……そういえば、ターゲットをまだ確認していませんでしたねぇ」
独り言を呟いた私は柵の周りを少し移動して、窓越しに見える角度を変えてみます。すると子供たちが居る部屋に男性の姿を発見しました。
やはり……、舞鶴の食堂で会ったあの男性ですねぇ。
なんという羨ましい環境……じゃなくて、仕事熱心なんでしょうか。
愛宕から聞いた話だと、既に明石から受けたツボによって不能になっているはず。
そんな身体の状態を押してまで授業をするとは……、なかなか見上げた根性です。
私は性別的に言うと女性ですけど、もし似たようなことになったのなら……鬱憤を晴らす為にどこぞの鎮守府の1つや2つ、滅ぼしちゃうかもしれません。
もちろん証拠は一切残さず、可愛い娘も残さずですねー……って、冗談ですよ?
それくらい精神的にきちゃうって例えですから、本気にしないようにお願いしますねー。
「……さて、先生の顔も確認できましたし、目の保養もできましたから……そろそろ行きましょうかー」
私はニッコリと笑みを浮かべて青葉の方を見ましたが、未だ泡を吹いたまま地面に倒れているみたいですねー。
「……うーん。青葉が居ないと色々と面倒臭いですからねぇ……っと」
「ごふっ!?」
「あっ、起きましたかー?」
「い、今……、わき腹に凄い激痛が……うぅぅ……」
そう言いながら青葉が痛みが走った部分を見ようとすると、そこには私のつま先がー。
「ただの気付けですよー?」
「………………」
「ちょっと鉄板入りの安全靴なだけですよー?」
「……酷いっ!」
「本気でやったらあばらどころか分断できちゃいますよー?」
「ひいぃぃぃっ!」
「冗談ですよー?」
「ごめんなさいごめんなさいっ! 何も知らないし覚えてませんから許して下さいっ!」
「人聞きが悪い気がしますねー?」
「い、痛みなんてなかったですぅぅぅ!」
「ならさっさと次に行きましょうかー」
「はいぃぃぃっ!」
青葉はわき腹を擦りながら半泣きの表情で立ち上がり、私に背を向けて走り出そうとしましたが……、
「と、ところで、どこに向かうんでしょうか……?」
「そう言えばまだ決めていませんねー」
「………………」
「とりあえず、ここの鎮守府に所属する憲兵=サンに会いたいですねー」
「そ、それは大丈夫なんでしょうか……?
仮にも青葉たちは無許可で潜入している訳ですが……」
「その辺りは大丈夫ですよー。
佐世保でそれなりに権力のある安西提督に許可はもらってあるのでー」
そう説明した途端、青葉は急に首を傾げました。
「……それだったら、堂々と正面から入れたんじゃないんでしょうか?」
「残念ですけど非公式なので、許可証とかは出して貰えないんですよー」
さすがに佐世保に所属する艦娘に危害を与える目的で堂々と入るとはいきませんし、安西提督がそれに対して許可を出したと鎮守府内のみんなに知られる訳にもいかないでしょう。
その辺りのケアもしっかりとやる。
これこそ一流の仕置人なのですよー?
「ふむぅ……、それなら仕方がないのでしょうか……」
青葉は少し怪訝そうな顔を浮かべたものの、私にそれ以上は何も言わずに頷きました。
「それじゃあ、憲兵が居る所まで案内します……」
「ええ。宜しくお願いしますねー」
私も同じように頷いてから、先導する青葉の後に続いて歩き始めます。
最後にもう一度、幼稚園に居る子供たちを一目見てから……。
うぅぅ……、可愛いなぁ……。
次回予告
そろそろ本格的な根回しが必要ですねー。
ということで、安西提督の流れから秘書艦に会うことになりました。
明石を懲らしめて、先生にお灸をすえないといけませんからねー。
ところがどっこい、いきなり険悪な雰囲気なんですがー。
艦娘幼稚園 第二部 スピンオフシリーズ
~ヤン鯨編~ その3「慈悲はない」
乞うご期待!
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