艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 結局龍驤には一歩及ばない主人公。
しかし本目的はそれではない。明石の行方が知りたいのだ。
主人公は龍驤にそのことを尋ねたのだが……


その13「病院送り」

 

「実は、明石のことについて聞きにきたんだけど……」

 

「……あ、明石やて?」

 

 その名を聞いた途端に顔色を曇らせる龍驤。

 

 前々から話しをして気づいてはいたが、龍驤って本当に明石が苦手っぽいな。

 

「ほ、ほんで、明石の何が聞きたいん?」

 

「それなんだけど、まずは……今回の騒動について龍驤はどこまで知っているんだ?」

 

「それって、明石によって不能にさせられてしまったキミがブチ切れて、部屋の中で大立ち回りを演じてから誘拐し、樹海まで連れ去った挙句にスコップで穴を掘らせて、生きたまんまドラム缶に詰めて埋葬したってヤツ?」

 

「どこをどうやったらそんな噂が流れるのか、一度本気で調べたくなってきたんだけど……」

 

「まぁ、冗談やけどね」

 

 そうだろうと思いましたけどねっ!

 

 でも、冗談を言っている割に龍驤の顔はぎこちない。

 

 何をそんなに明石のことを苦手としているのか分からないが、不能にされた俺ならともかく、過去に何かあったのだろうか?

 

 気にはなるけれど、掘り返すと地雷のような気がするんだよなぁ。

 

「とりあえず話を戻すけど、キミが明石を誘拐した犯人として捕まったとき聞いたんが昨日の夜。

 そやけど、今日の朝には安西提督からの通達で、誤認逮捕やと知らされたかな」

 

「……なるほど。ということは、一応犯人扱いされる心配はないってことだな」

 

「安西提督の言うことやし間違いはあらへんとみんな納得するはずやけど、こないだの噂もあることやし大人しくしておいた方がええんとちゃう?」

 

「こ、この間の噂って……?」

 

 思い当たる節はありまくるが、念のために聞いておく。

 

 聞けば間違いなく精神的ダメージを受けるだろうが、聞かないでおいて後々苦しむよりはマシだろう。

 

「そりゃあもちろん、幼稚園のプリンツを追いかけ回して抱き締めたロリコン先生ってやつやね」

 

「デスヨネー」

 

 白目になりながら棒読みで返事をする俺。

 

 分かっちゃいたけれど、本当に噂というモノは怖い。

 

 どういう経緯があってそうなったのとか、全くもって考慮されないからだんだんと腹が立ってきた。

 

 一度、全身全霊をもって演説でもしなければならないかもしれない。

 

 俺はロリコンじゃない――と。

 

「……もしかしてさっきのって……、そういうことなんっ!?」

 

「……は?」

 

 するといきなり表情を険しくした龍驤が、頬を真っ赤にしながら両手で脇を抱えて俺から後ずさった。

 

 な、なにやら警戒されまくっているみたいだけれど、さっきのは冗談だってことになってないのかな?

 

 ……あ、そういえば龍驤が嘘泣きをしていたのは分かったけれど、俺が口説いたように振舞ったのはからかう為だったのだと言い忘れていた気がする。

 

 これは直ちに誤解を解かなければ……と、思ったのも束の間、なぜか龍驤は飛行甲板の巻物を広げて……

 

「そういうことなら容赦はせんでっ!

 攻撃隊……発進っ!」

 

「ちょっ、おまっ!?」

 

 超絶至近距離から発進する戦闘機が俺の身体をかすめるように飛び立つと、それほど広くない整備室の中を縦横無尽に飛び回った。

 

「よし、一気に決めるで!」

 

「お前は馬鹿かっ!?

 こんな場所で爆撃なんかしたら、部屋中が大惨事になるだろうがっ!」

 

「うっさいわっ! ウチをそんな目で見てたなんて、許せる訳があらへんやろっ!」

 

「いったいどういう理解をしたのか知らないけれど、早く攻撃を中止して……うわああああっ!?」

 

 何とか止めようと龍驤に向かって叫び声をあげるも、急降下爆撃のように飛来してきた戦闘機が爆弾を雨のように降らせてくる。

 

「こんなの避けれるかーーーっ!」

 

「ウチに喧嘩を売るからこうなるねんっ! あの世で後悔してきぃやっ!」

 

「完全に殺す気じゃねえかぁぁぁっ!」

 

 いくら金剛やプリンツのタックルを避け続けてきた俺だとしても、頭上から雨のように降り注ぐ爆弾を全て回避することは不可能であり、

 

「のわあぁぁぁーーーーっ!?」

 

 爆撃音と共に、呆気なくキリモミ状に吹き飛ぶ俺の姿があった。

 

「よっしゃっ! ざまあ見ろやでっ!」

 

 そして歓喜する龍驤だが、問題はこの後であり――

 

「……えっ!?」

 

 吹っ飛んだ俺の身体が放物線を描いて龍驤へと向かう。

 

「うわあああっ!?」

 

 少しでもぶつかる際のダメージを落とそうと、俺は龍驤の身体に手を伸ばす。

 

 その行動が完全に裏目に出てしまったのは、予想しろと言っても無理であり、

 

 

 

 ドスンッ!

 

 

 

「ふぇえっ!?」

 

「ぐえっ!」

 

 俺が龍驤を押し倒したように、覆い被さってしまったのである。

 

「い、いたたたた……って、なんなんこれぇっ!?」

 

 完全に龍驤を襲っているような状況にしか見えないが、これは不可抗力だと声を大にして言いたい。

 

 そして、最も大事なことは……

 

 

 

 龍驤の胸部装甲? の辺りに俺の右手が、バッチリと添えられているのもやむを得ないのである。

 

「な、なななっ、なにしてはるんっ!?」

 

「い、いや、こ、これはわざとじゃなくてだなっ!」

 

「そ、そんなんええからはよどいて……って、やばっ!」

 

「……え?」

 

 急に顔色を変えた龍驤を見た俺は、咄嗟に後ろへと振り向いた。

 

 そこには眼前に迫った黒い塊が、まるで時を止めたかのように浮いていて、

 

「くそっ!」

 

「ひゃわっ!?」

 

 俺が龍驤の身体を力強く抱きしめた瞬間、大きな音と共に意識が吹き飛んだ。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「そ、その……、ホンマ、堪忍や……」

 

 申し訳なさそうに頭を下げ、上目づかいで俺を見る龍驤。

 

 いつものからかいまくるときとは似ても似つかない姿に、俺の背中がなんだかムズ痒くなってしまう。

 

 とはいえ、包帯でグルグル巻きになった俺はろくに身体を動かすこともできず、背中を掻くのは不可能であった。

 

「いったい何を考えたら整備室の中で爆撃なんかするのかしらっ!

 先生が無事だったから良かったものの、一つ間違えれば死人がでるところだったのよっ!?」

 

「うぅぅ……、何も言い返すことができへんわ……」

 

 ビスマルクが激しく糾弾し、ガックリと肩を落とす龍驤。

 

 しかし全部が全部、龍驤が悪いという訳でもないので、フォローをしておかなければならない。

 

「ま、まぁ……なんだ。俺も誤解を招く発言があったことだし、それくらいにしてあげてくれ」

 

「け、けど……っ!」

 

「それに龍驤も怪我をしたんだから、おあいこってヤツだろ?」

 

「あなたの怪我は龍驤と比べ物にならないくらい酷いのよっ!?」

 

「だ、大丈夫だって。

 これくらいの傷なら、2、3日寝ていたら回復するからさ……」

 

「い、いや、さすがにそれは難しいと思うんだけど……」

 

 俺の言葉に冷や汗を垂らすビスマルクだが、それは重々承知の上だ。

 

 ぶっちゃけて身体は殆ど動かないし、食事を取ることすらままならない。しかし、それを言ってしまえば龍驤はとことんへこんでしまうだろうから、顔にも出さないように注意しておくべきなのだ。

 

 そりゃまぁ、爆撃したのは龍驤だから少しくらいは反省してもらえるとありがたい。だけど、くよくよしている龍驤を見ているのも同じくらい辛いのだ。

 

「ほ、ほんま堪忍や……。このとおりやさかい、許してーな……」

 

 両手を合わせて拝むようにしている龍驤をこれ以上責め立てる訳にもいかず、ビスマルクは大きくため息を吐く。

 

「まぁ、先生がこう言っている以上仕方ないわね……」

 

「ゆ、許して……くれるん……?」

 

「本人から許しが出ているんだから、私がこれ以上言うことではないわ。

 だけど、整備室の中で爆撃をしたことについては安西提督に謝ることね」

 

「う”……っ!」

 

 安西提督の名がでた途端に顔色を曇らせた龍驤は、俺とビスマルクの顔を交互に見てから大きくため息を吐いて肩を落とした。

 

「ば、爆撃したんはウチやし、しゃーないよね……」

 

「しかし、どうして爆撃なんかしたのかしら?

 まさか鎮守府内に深海棲艦が現れた訳でもあるまいし……」

 

「そ、それは……その……」

 

 気まずそうにしながらこちらを見てくる龍驤だが、俺の反応を待たずに目を閉じながら小さく頭を左右に振った。

 

「え、ええっと……、乙女の……秘密っちゅーやっちゃな……。

 なーんて……あは、あははは……」

 

 龍驤の乾いた笑い声が室内に響く。

 

 全くもって言い訳らしく聞こえない内容だが、ビスマルクもこれ以上問い詰めたところで龍驤が口を割らないと見たのか、それとも安西提督に任せておけばよいと考えたのか、もう一度深いため息を吐いてから両手の平を上にして、呆れた表情を浮かべていた。

 

「しかし……、これだと幼稚園の業務は暫く無理よね……」

 

「あー、そ、そうだな……。

 まぁ、少しの間だけ悪いんだけど……」

 

「ええ、任されたわ。

 まずはしっかりと身体を休めなさい」

 

「ああ。ありがとな、ビスマルク」

 

「いいえ、これくらいお茶の子さいさいよ」

 

 そう言って、ビスマルクは小さく手を振って部屋から出て行った。

 

「……ふぅ」

 

 ビスマルクの姿を見送ってからため息を吐いた俺は、龍驤の方を見る。

 

「い、今どきお茶の子さいさいって……、なかなか言わへんで?」

 

「……そこは突っ込むところじゃないんだけどな」

 

「ま、まぁ、アレやん。

 噂が収まるまで引き籠れるんやし、ちょうど良かったと思えば……」

 

「龍驤って全く反省してないよね?」

 

「ちゃっ、ちゃうねんっ!

 今のは暗い雰囲気を明るくしてあげようっていう、芸人気質のノリってやつで……」

 

 焦りながら弁解する龍驤だけれど、その時点で反省してないってことを分かっていないんだろうか?

 

「まぁ、良いけどね。

 どうせ明石が返ってくるまでは治りそうもないし……」

 

 俺はため息を吐きながらぼそりと呟くと、龍驤がこちらを見ながら首を傾げている。

 

「それって、その……、アレのことやんな?」

 

「……そ、そうやってマジマジと顔と下の方を見られながら聞かれるのは拷問に近いんだけど?」

 

「あっ、ご、ごめんっ。堪忍やっ!」

 

 そう言って素早く俺から顔を逸らした龍驤だったが、暫くすると間が持たなくなったのか、ゆっくりとこちらを伺ってきた。

 

「そ、その……、ウチ、どうしたらええんかな……?」

 

「どうしたら……って?」

 

「い、いや、だからさ……。キミに大怪我を負わせてしまったお詫びっちゅーやつを……やね……」

 

「べ、別に気にしなくても良いんだけど……」

 

 恥ずかしそうにされるとこっちもなんだかなぁって感じなのだが、頬を染めながら上目づかいは勘弁願いたい。

 

 ただでさえ……その、幼稚園に居る子供たちと同じ背格好なだけに……って、どうしてこんな考えが浮かんでくるのだろうか。

 

 俺はロリコンじゃないのに……。全くもって、そういう性癖じゃないのに……。

 

「そ、そやけど……、その、助けてくれたお返しも……あるっていうか……、その……」

 

「ん……? あーあー、うん。別にそれも気にしなくても良いんだけどね」

 

 あの時は咄嗟に身体が動いてしまったのだが、仮に龍驤じゃなくても同じことをしていただろう。

 

 それに、あの状況で俺だけ逃げたのなら、龍驤に爆弾が直撃していただろうからね。

 

 ……その前に、龍驤が居たのにもかかわらず爆弾を落としたのって、問題がありまくりのような気がするのだが。

 

 そっちの方が大丈夫なのかと心配になるが、その辺りは俺では分からない関係というのがあるのだろう。

 

「あ、あんな守られ方したら……、気にならへんモノも気になるよね……」

 

「え……っと、何か言った?」

 

「い、いやっ、何でもあらへん。なんでもあらへんにょっ!」

 

 ………………。

 

 うん。めっちゃっ噛んだね。

 

 ぶっちゃけて可愛過ぎです。

 

「うぅぅぅ……。今のは思いっきり恥ずかしいわ……。

 頼むから聞かんかったことにしといてくれへん……?」

 

「えー、どうしよっかなー」

 

「うーーーーーっ!」

 

 初めて龍驤の弱みを見つけた気がしてからかう俺だが、調子に乗るとまた怪我をしかねない。

 

「冗談だよ。誰にも言わないから、安心して良いよ」

 

「そ、そっか……。ならかまへんかな……」

 

 少し不安げながらも胸を撫で下ろした龍驤は、小さく息を吐いてから思い出したように顔をあげた。

 

「そ、それじゃあ、安西提督にも謝りにいかなあかへんし……、ちょっとだけ席離すわね」

 

「うん――って、別に俺の了解なんて取らなくても良いんだけど?」

 

「で、でも、色々と身の世話周りなんかをせなあかんやろ……」

 

「……はい?」

 

 身の世話……って、どういうことだ?

 

「キミの怪我の具合やったら食事もままならへんやろうし、つきっきりで看病せんとあかんからね」

 

「あ、いや、その辺は……ほら、他の人が……」

 

「いやいや、他のモンに任せたらビスマルクがまたキレるさかい……」

 

「そ、そうかなぁ……?」

 

 むしろビスマルクなら率先しそうな感じなんだけど。

 

 でも、幼稚園の業務がある以上それも難しいか。

 

 ………………。

 

 いや、ビスマルクの場合、幼稚園を投げ出してきちゃいそうだよね。

 

「そやから、後でまた来るさかい……待っててや?」

 

「あー、うん。分かったよ……」

 

 どちらにしたってベッドの上から動けないんだけれど……と、言いそうになった言葉を飲み込んで、俺は龍驤に頷いた。

 

 しおらしく頷き返した龍驤は立ち上がり、俺に手を振ってから部屋から出る。

 

 なんだか変な雰囲気だな……と、思いながら、俺は天井を見上げて息を吐いたのだった。

 

 

 

 まぁ、久しぶりにゆっくりできるし、満喫しちゃおうかな……。

 





次回予告

 自業自得による龍驤の爆撃で怪我を負った主人公。
暫くはゆっくりできるのかも……と、考え方を変えようとしたのだが、変な夢にうなされてしまう。

 そして、寝汗で不快な主人公に龍驤が……?


 艦娘幼稚園 第二部 第四章
 ~明石誘拐事件発生!?~ その13「まな板タイム2」

 乞うご期待!

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