助けに来てくれたビスマルクにあることを伝えた主人公。
看守が襲われたことを聞きつけた伊勢と日向が再度尋問をし、恐ろしい内容を伝えてくる。
余りにもありえないと思えるそれに、主人公は決心した。
「信じられないな……」
「ええ、信じられないわね」
床に座り込んだ俺を見下ろしながら、2人の艦娘が呟いている。
「どうして……ですか?」
「どうしても何も、さっきビスマルクが先生を助けに来たわよね?」
「ええ、確かに来ましたけれど……それが何か?」
「そ、それが何かって……、本気で言っているのっ!?」
首を傾げながら問い掛けた俺に、伊勢は怒鳴りながら俺の胸倉に掴みかかろうと近づいてきた。
「伊勢。何度も言うが、どうしてそんなに先生を攻撃しようとするんだ?」
「ど、どうしてって……、言っていることが無茶苦茶だからじゃないっ!」
日向の止めようとする言葉に顔を赤くした伊勢は、右手で俺を無理矢理立ち上がらせる。
「ぐっ……」
力強く胸倉を締めあげられて息苦しくなった俺だが、引きはがそうとしても無理なのは分かっている。
ならばここは言葉で抵抗するしかないと、俺はゆっくりと口を開く。
「俺の……どこが無茶苦茶なんですか?」
「逃げられる状況にあったにもかかわらずにそうしないなんて、どう考えても変じゃないっ!」
「だけど、俺がビスマルクと一緒に逃げた場合、2人揃って追われますよね?」
「そんなこと、聞かなくても分かることでしょう!」
「それじゃあ、あまりにもビスマルクが可哀想じゃないですか」
「………………え?」
俺の言葉にキョトンとした顔を浮かべた伊勢は、掴んでいる右手の力を少しだけ緩めた。
「な、な、な……」
しかしその力はすぐに元へと戻るどころか、更に強くなって俺の首を締めつけてくる。
「何を言っているのよ先生はっ! 自分の立場を分かっているのっ!?」
「……いえ、全く分かっていません」
「………………は?」
そして再び驚きながら大きく目を見開く伊勢。
そんな様子を見ながら小さい笑い声をあげた日向は、伊勢の肩をポンと叩いてから俺の首元を締めつけている右手を解くように諭す。
伊勢は日向の顔を見てから右手を離し、俺にジト目を向けた。
少しよろめきながら首元を抑え、大きく息を吸って呼吸を正す。
そして、伊勢の顔をしっかりと見つめながら、ハッキリと問う。
「俺は明石が行方不明になった件について怪しいという理由で、ここに閉じ込められたと思っています。
しかし、伊勢の言葉や反応を見る限りそうとは思えないように感じるんですが、説明して頂けませんか?」
いつもとは違う喋り方。
実は元帥を真似てみたのだが、はたして効果があったかどうか……
「くく……っ、なるほど。確かにキミの言う通りだな」
言って、日向は先程よりも分かり易いように笑い、何度も伊勢の肩を叩く。
ちなみに伊勢は、完全に固まっているといった感じなんだけどね。
「分かった。キミの問いに答えようじゃないか」
「ちょっ、ひゅ、日向っ!?」
伊勢は金縛りから解けたように叫び、日向に言葉を畳みかける。
「ど、どうしてそんな無駄なことをするのよっ! どうせ、ビスマルクから話を聞いているに決まっているじゃないっ!」
「しかし、絶対にそうとも限らないだろう?」
「で、でも……」
「それとも伊勢は、先生に現状を伝えない方が良いと思っているのか?」
「べ、別にそんなつもりは……」
「自分が決めたことなのに?」
「………………」
日向の問いかけに、伊勢は顔を床に逸らして黙り込む。
明らかに気まずい感じは見て取れるんだけれど、実際には内心ドキドキなんだよね。
まず一つは、伊勢が言ったように俺はビスマルクから現状を聞いて知っている。
しかし、それ以上に驚いたのは、
伊勢が――俺の処遇を決めたという点であった。
お、俺って……、そんなに伊勢に恨まれてたの……?
「それでは、説明をしようか」
日向はそう言いながら両腕を組み、真剣な表情へと変えた。
視線が俺の顔に向けられ、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。
「キミは現在、明石を誘拐してどこかに埋めた犯人として確定し、明日の早朝には査問会にかけられることになっている」
「そ、そんな……」
ここまではビスマルクから聞いたのとほとんど同じであるが、一応念のために驚いたフリをしておく。
「なお、ことがことだけに鎮守府内の関心も高いだろうと判断して公開式にしておいたが、混乱を避けるためにも簡易的に済ませ、処刑は即日行う手筈となった」
「………………は?」
だが、次の言葉を聞いた俺は唖然とし、耳を疑った。
「い、いやいや。それって冗談ですよね?」
「どうして冗談だと決めつけるのだ?」
「だ、だって、いくらなんでもおかしいでしょうっ!?
ことが露見した翌日には査問会が開かれて、次の日には処刑って……さすがにありえないですって!」
「だが、これは既に決まったことだからな。今更変えようとしても私たちには無理だ」
「だ、だけど決めたのは伊勢って……」
「……私も頼まれたことをしただけだし、準備を開始している以上手遅れよ」
「た、頼まれたって……誰にですかっ!?」
「そ、それは……言えないわ……」
そう言って、伊勢は俺から大きく目を逸らした。
その表情は明らかに怯えのようなモノが混じり、小刻みに肩を震わせている。
こ、これはいったい……、どういうことなんだ……?
どうして俺はこんなに伊勢に恨まれているのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
しかし、どちらにしても俺を嵌めようとしている誰かが居るのはまず間違いないと思うし、その準備も佳境に入っていると言える。
――というか、既にまな板の上で切られるのを待っている状態にしか思えないんですが。
もしかして、ビスマルクと一緒に逃げた方が良かったんじゃ……。
「ともあれ、キミの今の状況はこんな感じだが……問題はあるか?」
「ありまくりでしょうっ!」
即座に叫び声をあげる俺だが、予想していたかのように日向は目を閉じて「うんうん」と、頷いていた。
「いくらなんでも、こんなのって無茶苦茶ですっ!
まるで前もって準備されていたかのようなことの進み方と手際の良さは、どう考えてもおかし過ぎますし、俺を陥れるための罠にしか……」
「待った」
「……え?」
俺の言葉を遮るように手の平を目の前に突き出した日向は、閉じていた目を細くしながら口を開く。
「それ以上は……言わない方が良い」
「そ、それって……」
問いかけようとする俺に向かって、日向は「何も言うんじゃない」と、首を左右に振る。
そして伊勢もまた視線を逸らしたまま、ガタガタと身体を小刻みに震わせていた。
まさか、この場所が盗聴されている……とでも、いうのだろうか?
そうだったのなら、ビスマルクと俺の会話も筒抜けだったことになるのだが……。
「キミの発言は全て査問会に使用されることになっている。従って、不用意なことは言わない方が良い」
「……そ、そうですか」
日向の言葉を聞き、俺はガックリと肩を落としながら顔を見る。
何かを隠しているようには見えないし、怪しい感じもない。
どうやら盗聴されていたというのは思い過ごしだったようだが、日向が言葉を遮ったタイミングがどうにも違和感があるような気がするのはなぜなのだろうか?
伊勢も日向も、どうやら脅されている感じがする。
つまりそれは、自分たちではかなわないのか、逆らえない相手なのだろう。
そんな相手が俺の敵にまわっているのなら、それはもう絶望的に思えてしまうのだが……。
「おっと……、そろそろ時間だな」
日向が手首を見る振りをしながらそう言って、牢屋から出て行こうとする。
「あ、あの……、一つだけ良いですか……?」
「……ん、なんだ?」
「ビスマルクのことなんですが……、俺を助けようとしてくれたのは好意から来るものであって、決して悪気はなかったと思うんです。だから……」
「ああ、そのことか」
俺が最後まで言い終える前に日向が振り向きながら遮ると、小さくため息を吐きながら言葉を続けた。
「ビスマルクが無理矢理ここまでやって来たことは問題だが、既に事情は尋問で確認し、注意をしておいた。
本来ならば看守を気絶させたことによる罰則があるのだが、被害者である本人がそれを拒否したためたいしたことにはならないだろう」
「そうですか……って、拒否……ですか?」
「ああ。あの男は……少しばかり問題があってな」
それは大いに存じています。
俺のケツを狙おうとしている時点で大問題なのだから。
つーか、そんな問題のあるヤツを看守にしておくなと小一時間問い詰めたいんだが、それは余裕があるときにしておこう。
そんな機会があれば……だけどね。
「真性のドMだ」
「………………はい?」
「ふむ、これでは分かり難かったか?
それじゃあ、えーっと……、そう。マゾなのだ」
「いやいやいや。それはまぁ、分かりますけど」
「そして更に両刀まで付く」
「そんなヤツを看守にするんじゃねぇよっ!」
遂に言っちゃったじゃないですかー。
「残念ながら、人手が足りなくてだな……」
「それにしたって、もう少しマシなヤツくらい居るでしょうにっ!」
「ふむう……。他の者だとすると、小太りでサングラスが似合ってガムを常時クチャクチャと噛んでいるくらいしか……」
「滅茶苦茶似合うじゃんっ! 映画で間違いなく警棒を手でパシパシしながら鬱陶しく映ってるヤツだよねっ!?」
「そ、そうなのかっ!?」
「なんでここ一番の驚き方をするのかなっ!?」
「私は瑞雲以外のことは、あまり良く分からんからな……」
「確かに……、日向ってそういうヤツだからねー……」
完全に目を逸らしっぱなしで呟く伊勢……って、そんなレベルの会話じゃねーよっ!
「まぁ、そういうことだから、ビスマルクは口頭注意だけで済んでいる」
「そ、そうですか……。分かりました」
言いたいことはまだまだあるが、あまり引き留める訳にもいかないだろうと、俺は頭を下げる。
「私たちもこれから準備のためにここから離れる。問題は起こさぬよう、静かにしておいてくれ」
そう言った日向は、ゆっくりとした足取りで牢屋を出る。
「人の心配ができるほど、余裕がある訳でもないのに……」
俺を見ずに伊勢が言った言葉が牢屋の中に置き去りにされ、大きな音を立てて扉が閉められ鍵がかけられる。
金属音が鳴り響く中、俺は壁を背にしながら床へと座る。
あまりにも信じられない仕打ちに頭を抱え、そして――俺は意を決した。
それから30分後、俺の姿は牢屋から消え失せる。
ビスマルクに頼んで看守から奪った、牢屋の鍵を使用して――。
次回予告
牢屋を脱走した主人公は、夜の佐世保鎮守府を潜みながらある場所へと向かう。
自らの無実を証明するために、約束をしたあの場所へ。
そして再び出会ったあいつと共に、調査を開始したのだが……
艦娘幼稚園 第二部 第四章
~明石誘拐事件発生!?~ その7「急上昇から大転落」
乞うご期待!
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