まさに絶体絶命。どうなる主人公。
そんな感じの次回予告が明けた後、主人公は牢屋に戻されていた。
すると、牢屋の外から声がする。
それは敵か味方なのか。それともただの……?
「はぁ……」
結局、俺は元居た牢屋に戻されていた。
あれから何とかして伊勢や日向に俺の無実を信じてもらおうと色々話したのだが、処刑という言葉を聞いた途端にしゃべり出したとなれば不審がってもおかしくはなく、無事に解放してもらう目的は果たせなかった。
ちなみに部屋から牢屋に帰る際、俺は日向にどうしても……と、お願いをして、俺を狙っていると思われる男を遠ざけてもらえるように頼み込んだ。
その結果、扉の側から牢屋内を覗き込む男の姿はなく、胸を撫で下ろすことができたのは大きいだろう。
それでも牢屋に捕われているということに代わりはないので、どうにかして解放してもらえるようにしなければならないのだが。
「しかし、どうすれば良いんだろうなぁ……」
近くに人の気配はなく、話し相手は望めない。
大きな声で誰かを呼ぶことはできるかもしれないが、例の男が来る可能性もあるのであまりしたくない。
それに、ここから俺を出すことができる人物……となれば、それ相当の権限を持つ人物か艦娘でないとダメだろう。
後者で思いつくのは伊勢と日向だろうが、先ほど話をしたばかりなので再度呼び出すのは難しい。
それに、明石の部屋の調査も進めてほしいところなので、避けておいた方が良いだろう。
部屋の中にはほとんど入っていないので、俺が中に居た痕跡はまずないはずだ。それが分かれば、俺の無実も証明されると思う。
ただし、それとは別に気になることもある。
もし今回の件が、俺を罠にかけようとしたのであれば……、話は変わってくるのだ。
佐世保に着いた当初、俺は元帥が罠にかけたのではないかと疑ったことがあるが、その件について完全に疑いが晴れた訳ではない。
あれから1ヶ月以上経っているので可能性としては低いかもしれないけれど、俺が油断をしたであろう時期を狙ってということも考えられなくはないのだ。
「考えすぎかもしれない……が、全くの零でもなし……か」
独り呟く声が牢屋内に響き渡る。
返事をする人物はなく、俺は深いため息を吐く。
頼みの綱は安西提督に陳情することなのだが、外に連絡を取る手段を持ち得ていない以上それも難しい。
なんとかして……と、思っていると、何やら言い争うような声が扉の向こうから聞こえてきた。
「ん……、何の騒ぎだろう……?」
床から立ち上がって扉の窓から通路を見る。
突き当たりにある角の辺りに例の男が見え、思わず顔をしかめてしまいそうになるが、何やら様子がおかしいようだ。
「喧嘩……か?」
男は激昂した顔で怒鳴っているように見えるのだが、距離があるせいで何と言っているのかハッキリとは分からない。
ただ、どう見ても穏やかでないと思うんだけど……
「……っ、…………っ!」
そうこうしているうちに、男が腰元に携帯している警棒に手をかけようとするのが見え、俺は思わず唾を飲み込んだ。
さすがにただ事ではないと思ったけれど、俺ができるのは大声で叫ぶことだけで、それではあまり意味がない。
牢屋の位置は通路の奥であり、日向に連れられて部屋に向かうところまで上へと向かう階段は見当たらなかった。
つまり、ここから叫んで誰かに聞こえるのなら、通路の先にいる男の声が既に耳に入っているだろう。
つまり、俺のできることは何もない……と、いうことなのだが。
「……がぁっ!?」
あ……、男が吹っ飛んだ。
壁に激突してピクリとも動かなくなった男の身体は、そのまま床へと崩れ落ちる。
ざまあみろ……と、思ったけれど、これってあまり良い状況じゃない気がする。
男と言い争っていた相手の目的が何なのか。
わざわざ牢屋がある地下室まで来て、見張りをしていた男を昏倒させる必要性を考えれば、
それは、自ずと答が出てしまうのではないだろうか。
つまりそれは、
暗殺――である。
「……っ!?」
通路の角から人影が見えた俺は、咄嗟に窓から離れて見を隠す。
コツコツと足音が近づいてくるのが聞こえ、俺は慌てて口を両手で塞ぎながら息を潜めた。
俺がここに居ることを知られてはいけない。
もし、あの人影が俺の位置を見つけられていないのであれば、時間は稼げるはず。
その間に誰かが助けに来てくれれば、生き残れる可能性があるかもしれない。
だが、現実は残酷で――
足音は、まっすぐ俺が居る牢屋へと向かってきた。
(来るな……来るんじゃない……っ!)
心の中で大きく叫ぶも、声には出さずに我慢する。
しかし、そんな俺の思いも虚しく、
足音がピタリと止まり、扉を叩く音が聞こえてきた。
コンコン……。
先ほどの男が吹っ飛ぶような力強さはなく、礼儀正しく中に居る者へと知らせる合図のような音。
しかし俺にはそれが、死へのカウントダウンにしか聞こえない。
返事をすれば男が吹っ飛んだように扉は破られ、数分と経たずに俺は消されてしまうだろう。
だがどちらにしろ、返事をしなくても窓から中を確認すれば俺の姿はすぐに見つかってしまう。
つまり俺の命の灯は、どちらにしても数分である――と、思われた。
――だが、俺の想像とは全く違う、聞き覚えのある声が聞こえてきたのである。
「待たせたわね」
「……へ?」
その声に俺は驚き、窓の方へと目をやった。
鉄格子が付いた扉の窓。そこに見えるのは、いつもなら頼りなさ過ぎてどうしようもない艦娘――ビスマルクの顔だった。
「ビ、ビスマルク……ッ!?」
予想だにしていなかった登場に、俺は呆気に取られるような顔をしながら扉へと駆け寄る。
「あら、そんな顔をしてどうしたのかしら……と、言いたいところだけれど、その表情もそそるモノがあるわね」
言って、ほんのりと頬を赤く染めているビスマルクの顔が見えた瞬間、俺は大きくため息を吐いた。
「状況が状況なだけに、笑えないんだけどさ……」
「酷いわね。私はいつでも本気なのよ?」
だからこそなんだけどねっ!
いや、良く考えてみれば、これはビスマルクが気を利かせてくれたのかもしれない。
牢屋に閉じ込められて参ってしまっている俺にいつもの姿を見せることで、気分を紛らわそうとしてくれたのであれば……。
何それ。すんごい嬉しいんですけど。
抱かれたいランキングの順位が一つだけ上がった気がしたが、その辺りは顔に出さないでおく。
ビスマルクを調子に乗らせてしまうと色々と大変なことになりそうだし……って、男に危害を加えた時点ですでに大問題な気もするが。
「さぁ、それじゃあこの扉をぶっ飛ばすから、部屋の隅へ寄ってくれないかしら」
「あ、ああ……って、ちょっと待ってくれ」
「待つって……どうしてかしら?」
何を言っているのかさっぱり分からないといった表情で首を傾げるビスマルクだが、ちゃんと考えてから行動したのだろうか?
いや、もしかすると全てを済ました上で……というのであれば問題はないのだが、その場合扉を破壊する必要はない。
「一つ質問をさせて欲しいんだが、ここにはどうして来たんだ?」
「……あなたが何を言っているのか分かっているのかしら?
「もちろんだ。むしろ、ビスマルクの行動の方が気になって仕方がないから聞いているんだけどな」
俺はそう言って、キリリと引き締まった顔をビスマルクへと向ける。
こういうときはハッタリをかますのが一番……って、別に大した意味はないんだけれど。
別に腹の探り合いをしているのではないし、素直に話を聞けば良いだけのこと。なのに、こういった態度を取ってしまった訳は、ビスマルクを調子に乗せてはならないという気持ちがあったからなのであるが……。
「ぐっ……、そ、その顔……やるわね……っ!」
何やら顔を真っ赤にさせて、扉をガンガンと叩きまくってるんですけど。
助けに来たヤツが周りにばれちゃうような音を出すんじゃねぇよっ!
「両手でハートマークを作って、萌え萌えビームを出してくれないかしらっ!」
「出す訳ねーだろこの馬鹿ーーーっ!」
アレはメイド服のベーシストがやってこそなんだよっ!
男の俺がやったところで、ビスマルク以外誰特になるってんだっ!?
「と、とにかく、俺の質問に答えてくれ」
「質問も何も、私はあなたを助けようとここに来たのよ?」
「それは非常に嬉しいけれど、ちゃんとした手続きを取った上で来てくれたんだよな?」
「………………」
思いっきり目を逸らすビスマルク。
うん。まぁ、分かってはいたんだけどね。
そもそも男を気絶させた段階で、強行策を取ったのは丸分かり。
本当に、後先を考えないで行動するヤツだよなぁ。
……嬉しいけどさ。
「はぁ……。そんなことじゃないかとは思ってたけど、もちろん後々のことをちゃんと考えているんだよな?」
「………………」
窓から俺が見えない位置まで身体を逸らすビスマルク。
完全に無策で来たのかよ。
「それじゃあ、ビスマルクにこの扉を破ってもらう訳にはいかないな……」
「なっ!? ど、どうしてよっ!」
「仮にここから脱出できたとしても、俺もビスマルクも完全に犯罪者扱いだぞ?」
「だ、だけどすでにあなたは……」
「まぁ、今のところ犯人と思われる人物の一番上……って感じだよなぁ……」
「……え?」
なぜかキョトンとした顔で首を大きく傾げるビスマルク。
あれ……、俺って何か変なことを言ったか?
「それっておかしいわよね?」
「え、えっと……どこがどう、おかしいんだ?」
「だって、私はあなたが明石を誘拐してどこかに埋めた犯人として逮捕されたと聞いたから、ここに駆けつけたのよ?」
「……はい?」
ビスマルクはいったい何を言っているんでしょうか?
伊勢の方はさておいても、まだ俺の立場は怪しい人物という段階であって、犯人であると決めつけられた訳では……
「明日の早朝には公開式の査問会が開かれるから、それまでに何とか助け出さなければと思って……」
「な、なんだよそれ……っ!?」
いくらなんでも初耳過ぎるし、そもそも査問会を公開式にする必要性が全く感じられない。
更に言えば、明石が居なくなったことで誘拐されたと思われてもおかしくはないにしても、どこかに埋めたって決めつけられるのはあまりに酷過ぎるだろう。
どこかに――の時点で、まだ見つかっていないことは充分に予想できるが、そんな段階で査問会にかけるということは……
「それじゃあまるで、中将のときと一緒じゃないかっ!」
俺は自分が置かれた状況に怒りが沸騰し、思わず壁に拳を叩きつけた。
俺が舞鶴の幼稚園に務めることになってからすぐのこと。
元帥に対立する過激派であった元中将は、幼稚園を取り潰す理由を作るために行動を起こした。
子供たちの前で反抗できない俺を殴り続け、仕組まれた査問会に出席させて一方的に断罪する。
そうして口実を作るつもりだったのだろうが、元帥は既にその動きを察知し、手を打ってくれたことで助かった。
しかし、今俺が居るのは舞鶴ではなく佐世保だ。
ここに元帥はおらず、味方になる人物はそう多くない。
その中の一人が、目の前に居るビスマルクなのだが……。
殴りつけた拳の痛みが治まり、頭の中は冷静さを取り戻した。
ならば、これからどうするべきか――と、考える。
いくつか大きな音を出してしまった以上、騒ぎに気づいた伊勢や日向がここに来る可能性は高い。
その前に、何かしらの方法を取るとするならば……これしかないはずだ。
俺はまとめ上げた思考を組み合わせ、ゆっくりと小さな声でビスマルクを呼ぶ。
「……分かった。それじゃあビスマルクに、お願いがあるんだけど……」
「ええ、何でも言ってちょうだい。あなたのためなら、例え火の中水の中……よ」
真剣な表情を浮かべながらそう言ったビスマルクに頷いた俺は、小さい声でいくつかの願いを伝えた。
舞鶴のときとは全く違う、未知なる相手を想像しながら――
次回予告
助けに来てくれたビスマルクにあることを伝えた主人公。
看守が襲われたことを聞きつけた伊勢と日向が再度尋問をし、恐ろしい内容を伝えてくる。
余りにもありえないと思えるそれに、主人公は決心した。
艦娘幼稚園 第二部 第四章
~明石誘拐事件発生!?~ その6「即決即日即処刑」
乞うご期待!
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