艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 運悪く犯人扱いされた主人公は、まさかの獲物状態で運ばれる。
そして、辿り着いたのは牢屋の中。
そこでまたもや不幸の星が瞬きまくって大ピンチ!?

 更には、精根果てた主人公が、あろうことかあの艦娘に……


その2「地獄から天国へ……なんだろうか?」

「……見事に牢屋だな」

 

 視界に映るのはコンクリートの重厚な壁に囲まれた、2畳ほどの小さな部屋。

 

 唯一の出入り口である扉には、小さな窓が付いている。

 

 もちろん、鉄格子がバッチリと取りつけられているんだけれど。

 

「……はぁ」

 

 深いため息が室内に響き渡る中、俺はここに来るまでの経緯を思い出す。

 

 ――といっても、両手両足を棒に括りつけられて運ばれただけなんだけど。

 

 森の中に運ばれて小さなぬいぐるみのような獣人たちに囲まれ、そのまま焚火の上で丸焼きにされるという心配は杞憂に終わったので、ひとまずは安心しておく。

 

 そんな状況に陥ってしまったら最後、金色のロボットは近くに居ないし、特殊能力を使って浮き上がらせることもできない。

 

 そこから敵軍の基地に殴り込みをかけることもできないまま、美味しく頂かれる運命にあがなうこともできず、俺の人生は終えることになるだろう。

 

 ……いやいや、そもそもここは佐世保鎮守府であって、未開の惑星なんかじゃない。

 

 ただ単に、運ばれた方法がちょっと特殊だっただけである。

 

「……完全に羞恥プレイの一環にしか思えなかったけどな」

 

 ぼそりと呟く俺。

 

 牢屋の中で返事をしてくれる相手はいないので、非常に寂しい空気が漂っているが。

 

 これからどうなっちゃうんだろうなぁ……と思っていると、遠くの方からコツコツと歩く足音が聞こえてきた。

 

 誰かがこっちに近づいてきているのか……?

 

 ならば、これは千載一遇のチャンス!

 

 今こそ弁解をして、牢屋から出して貰わないとっ!

 

「お、お願いですっ! 俺をここから出して……」

 

「黙れクソ虫が……」

 

「……ちょっ、いきなり酷くないっ!?」

 

 俺は立ち上がって扉の方へ向かいながら声をあげると、思っていた以上の返答に驚いて固まってしまった。

 

 そんな俺を見るかのように、鉄格子の間から中を覗き込む1人の男性らしき顔が現れる。

 

「グダグダ言わずに、黙ってそこで大人しくしていろ」

 

「い、いや、しかし……」

 

「言っておくが、貴様は捕われの身だ。あまり騒ぐようなら、警棒でぶん殴られても文句は言えんぞ?」

 

「……う”っ。わ、分かりました」

 

 痛いのは勘弁して欲しいので、俺は仕方なくその場に座り込みながら、扉の方に向かって素直に頷いておいた。

 

「……チッ」

 

 なのに、なぜか覗きこんできた男は悔しそうに舌打ちをしながらも、ずっと俺を睨みつけている。

 

 ………………。

 

 え、どういうこと?

 

 もしかして……、オラオラしたいだけじゃないんですかね?

 

 俺を殴りつけてストレス発散したいとか、そういうことですかーーーっ!?

 

「……っ」

 

 慌てて両手で口を塞いだ俺は、できるだけ扉から離れようと部屋の隅へと床を這って移動する。

 

「……ほぅ」

 

 何やら感心する酔うな声が聞こえた気がするけれど、俺は聞こえていない振りをしながらうずくまった。

 

「……良いケツしてんじゃねぇか」

 

「………………」

 

 ちょっと待て。

 

 もしかして……アレか。

 

 外に居る男は俺を殴りつけたいんじゃなくて……

 

「じゅるり……」

 

 やっべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!

 

 マジで洒落にならねぇよっ! 無実の罪で牢屋に連行させられてオカマ掘られるって、冗談ってレベルで済まないからさぁっ!

 

 誰か助けてお願いぷりぃぃぃぃぃずっ!

 

 

 

 俺はそれから暫く、扉の外に居る男の視線に怯えながらガタガタと部屋の隅で神様にお祈りして命乞いをしていたのである。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

 物音が聞こえた俺は慌てて顔をあげる。

 

 どうやらあまりの精神的ストレスによって疲れてしまい、ぐっすりと眠ってしまっていたみたいである。

 

 ふてぶてしさにも程があるかもしれないが、考え方によっては非常に危うかった気がするのだが。

 

 念のために身体周りを見てみたが、特に気になる点は見当たらないので大丈夫だろう。

 

 ……いや、何かあったら洒落になんないけどさ。

 

 そんなことを考えていると、扉の方から金属音が鳴り響く。

 

 どうやら鍵を開けているようだ……って、ちょっと待ってっ!

 

 も、もしかしてあの男が遂に俺を……っ!?

 

 い、嫌だっ! 誰か助け……

 

「待たせたな。今から尋問室に……って、そんな隅で大きく震えているなんて、どうしたんだ?」

 

 そう言ったのは、俺をここまで運んだ日向だった。

 

 彼女はガタガタ震える俺を不思議そうに見つめていたが、何かを理解したかのように小さくため息を吐いてから、ゆっくりと近づいてきた。

 

「ふむ。どうやら牢屋が苦手みたいだな」

 

 いや、普通は得意なヤツっていないと思うんだけど。

 

 だが今の俺にとって、外に居た男性ではなく日向が来てくれたことは、まさに地獄に仏である。

 

 あまりの嬉しさで目からボロボロと涙を流した俺は、思わず日向に抱きついてしまっていた。

 

「ちょっ、いきなり何をするんだっ!?」

 

「助かった……、怖かったんですよぉぉぉっ!」

 

 中腰のまま日向のおへその辺りに顔を埋めた俺は、大きな声をあげながら泣きじゃくる。

 

 今の俺はあまりにも情けない姿かもしれないが、男性の餌食にならなかったという思いがあまりに大きかったので勘弁して欲しい。

 

「そ、そうか……。それはすまないことをしてしまったな……」

 

 少し戸惑ったような感じの声をしていた日向だったが、気がつけば俺の頭を優しく撫でていてくれた。

 

 柔らかく包まれるような感触に、俺の心が次第に癒されていく。

 

 泣き声をあげ、言葉を吐くことでストレスは発散され、落ち着きを取り戻すまでにそれほどの時間はかからなかった。

 

 その間、日向はずっと俺の頭を優しく撫でていてくれた。

 

 最初に出会ったときの恐ろしい視線は一切せず、俺の身体を聖母のように包み込み、泣きやむまで待っていてくれたのである。

 

 このことについて、俺は日向に非常に感謝をするべきである。

 

 ただし、無罪なのに牢屋に入れられた件は別にしてだけどね。

 

 

 

 

 

「どうやら落ち着いたようだな。そろそろ場所を変えたいが、構わないか?」

 

「……はい、分かりました」

 

 日向に諭された俺は抱きついていた力を緩め、ゆっくりと立ち上がる。

 

 目の前には俺の涙で濡れてしまった日向の腹部が見えた。

 

「……あっ、す、すみませんっ!」

 

「ん、あ、あぁ。別に構わない」

 

「い、いや、しかし……」

 

「服は洗えば済むだけのこと。むしろ、苦手である牢屋にキミを閉じ込めたことを謝らなければならないが……」

 

 言って、日向は少しだけ顔を逸らして考えるような仕草をする。

 

「だが、キミが無実だという証拠が見つからない以上、こうするしかなかったことを分かってくれると助かる」

 

「それは……、仕方ないと思います。俺としては勘弁して欲しいですけど……ね」

 

「理解してくれて感謝する」

 

 日向は小さく頭を下げると、どこからか小さな2つの輪が鎖で繋がれたモノを取り出した。

 

「そして、すまないが……」

 

「そ……、そうですね」

 

 俺は少しばかり悲しげな表情を浮かべながら日向に向かって両手を突き出すと、カチャリと音が鳴って両手首に手錠がかけられる。

 

 不本意ではあるが、先程の礼もあるので素直に従っておこう。

 

 それに大人しくしておかないと、扉の向こう側に居るであろう男が何をしでかすか分からない。

 

 たぶんだけれど、日向の傍に居る方がずっと安心だろうからね。

 

「それじゃあ、少しばかりご足労を願おう」

 

「分かりました」

 

 牢屋に閉じ込められている段階でそれは違うと思うのだが、そこはまぁ、雰囲気に合わせたということにして頷いておく。

 

 日向に誘導されて先に扉を出ると、すぐ傍には例の男が立っていた。

 

 俺は視線を合わさないようにしながら横を通り過ぎると、先程と同じような舌打ちが小さく聞こえたけれど、聞こえない振りをしてそのまま進む。

 

 変に反応をしてしまったら、難癖をつけられたりするかもしれない。

 

 まさかとは思うが、強硬手段に出てくる可能性もないとは言えないからね。

 

「そのまままっすぐ進んで、角を曲がった付き辺りの扉に入ってくれ」

 

「……はい」

 

 俺の後ろにピッタリと張り付いている日向が言う。

 

 この状況から察するに、俺は完全に疑いが晴れたという訳ではないのだろう。

 

 だからこそ牢屋に入れられていたんだし、逃げ出さないように見張っているということではあるが……。

 

「あ、あの……」

 

「なんだ?」

 

「い、いや……えっとですね……」

 

 どうしてそこまで俺にくっついているんだろうか。

 

 俺が逃げ出さないようにするのなら、手錠にロープでも掛ければ良いだけの話である。

 

 しかしそんなモノは一切なく、なぜか日向は俺の背中に身体を密着するが如くなのだ。

 

 それがどれくらいなのかと言うと……、

 

 俺の肩甲骨の辺りにやわらかい2つのモノが、ふよふよと……ふにふにと……。

 

 ……え、何これ。誘ってやってんの?

 

 そう間違えてもおかしくないくらい、密着度が半端ない。

 

 これが日向でなくて愛宕だったのなら、どれほど良かったのだろう……と、へこみたくもなるが、それだと色々と失礼である。

 

 ただ、ここで良かったのかどうかは分からないが、俺のアレは全く反応する気配がない。

 

 さすがは明石のEDツボ。こんなものでは完治しないっ!

 

 ………………。

 

 やばい。マジで泣きたくなってきた。

 

 明石の半裸で視覚は試したが、物理的接触ですらダメだというのだろうか……。

 

 こうなったら、後試すのは……

 

「何をさっきからブツブツと言っているんだ?」

 

「ひゃいっ!?」

 

 いきなり日向の声が大きくなったので慌てる俺。

 

 なぜかと思って振り向こうとすると、ガッチリと頭のてっぺんを掴まれて固定されてしまった。

 

「あ、あの……っ!」

 

「良いから前を向いて歩くんだ」

 

「は、はい……」

 

 俺は日向に言われるがまま歩いて行くが、背中に伝わってくる柔らかい感触は消えるどころか、更に強くなって……

 

「いやいやいやっ、さすがにおかしいでしょうよっ!」

 

「ん、何がだ?」

 

「だって日向さんっ、完全に俺の背中に体重を預けてますよねっ!?」

 

「正確にはおんぶと変わらない状態だが……、何だ、重かったのか?」

 

「そういう訳じゃないですけどっ!」

 

 ここで頷くと色んな意味で失礼だし、下手をすればぶん殴られてもおかしくはない。

 

 とはいえ、今の状況はあまりにも不可思議過ぎるってモノだ。

 

 EDじゃなければ、ほぼ間違いなくヤバいことになっている。

 

 どういう状態かは……察知してくれるとありがたいが。

 

 もちろん、今の俺はピクリとも反応しないけどねっ!

 

「それじゃあ別に、問題はないのだろう?」

 

「いやいやいや、問題ありまくりですって!」

 

 うぶなヤツなら好意を持たれているって勘違いしちゃってもおかしくない状況ですよっ!?

 

 もちろん俺も含めてですけどね。

 

「それともアレか。キミは小さい方が好きなのか?」

 

「いきなり何を問われちゃってるんですかっ!?」

 

「それだと困ったな。私はどちらかと言うと大きい部類に入ってしまうのだが……」

 

 そっちの方が大好きですから問題ないっス!

 

 ――とは言えないので、俺は黙りこくるしかない。

 

「しかしそうなると、キミの勤め先が幼稚園というのはいささか問題が……」

 

「大好きですっ! 俺は日向さんみたいにおっきいおっぱいが大好きですってっ!」

 

「ふむ、そうか。ならば問題はないな」

 

 心なしか嬉しそうに言う日向は……って、問題ありまくりですからーーーっ!

 

 完全に暴露しちゃったじゃん! つーか、言わされた感がMAXですけどねっ!

 

 それでもおっぱい星人って言いきっちゃったから取り返しがつかないよ、うわああああああああああああああんっ!

 

 無実の罪で牢屋に入れられ、看守らしき男からはケツを狙われ、更には日向からセクハラを受けた挙句におっぱい星人であると公言させられてしまうことになったのは、やっぱり俺の不幸体質が原因であると思うしかなかった。

 

 

 

 本当に……、俺はこれからどうなるんでしょうか……。

 




次回予告

 踏んだり蹴ったりはいつものこと。
それでも頑張る主人公は、日向に連れられた先である部屋の中に入る。
そこにいた伊勢から、様々な話をするのだが……


 艦娘幼稚園 第二部 第四章
 ~明石誘拐事件発生!?~ その3「日向=天国+地獄=伊勢」

 乞うご期待!

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