艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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※6月21日、インテックス大阪で開催される我、夜戦に突入す!3【獄炎】の4号館B37aにて、時雨のスピンオフ同人誌を新刊を頒布予定でありますっ!
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 死なない先生はただの変態だ。

 いえ、冗談です。
プリンツに踏まれるもなんとか助かった主人公。
なんだかんだで手加減してくれたんだろうと思っていると、やっぱりビス子が大暴れ?


その2「自己判断は危険の元?」

 

「痛っぅ……」

 

 スタッフルームにあるベンチで横になっていた俺は、鼻に詰めたティッシュを取って血が止まっているのを確認してから、ごみ箱に捨てた。

 

「まだ鼻がジンジンするな……」

 

 プリンツの踵によって意識を分断され、両鼻から鼻血を出すという結果になってしまったが、むしろ軽傷であったと思うべきだ。

 

 もしかするとビスマルクの手前ということもあって手加減されていたのかもしれないが、それならそれで背筋がゾッとしてしまう。

 

 踵は人体で一番固いと言われており、ましてやプリンツは艦娘なのだ。本気の一撃なら、俺の首から上は粉砕していたかもしれない。

 

 まさにグロテスク。阿鼻叫喚なんてもんじゃない。

 

「あら、もう大丈夫なのかしら?」

 

 そう言ってスタッフルームに入ってきたビスマルクは、少しばかり不機嫌な表情をしながら濡れタオルを渡してくれた。

 

「ああ、なんとか……って、感じだけどね」

 

 俺はタオルを受け取って顔を拭く。打撲による火照にヒンヤリとした感触が心地よく、思わず息を吐いてしまう。

 

「あなたを気絶させてしまうなんて……、本当に許せないわね」

 

「ま、まぁ……、プリンツも考えがあってのことだろうからさ……」

 

 元はと言えばビスマルクが俺を襲ったのが原因なのだが、ここでそれを蒸し返すのは色んな意味で危うい気がする。むしろ、プリンツが俺を気絶させなかったらと思うと、それはそれで恐ろしいのだ。

 

 いや……、気絶している間に口に出せない状況になってしまったという可能性もなくはないが。

 

 今のところ、鼻以外に違和感はないので大丈夫だとは思うんだけどね……。

 

 どちらにしろ、時間と場所を弁えろって話である。

 

 現在の俺は、ちょっぴり残念そうな顔に見えるかもしれないが、それは気のせいなので勘違いしないように。

 

 ………………。

 

 ほ、本当だからね?

 

「どうしてプリンツはあなたに攻撃をするのかしら……。何度注意をしても、言うことを聞かないのよね」

 

「う、うん……。まぁ……そうだね……」

 

 分かっていないだけにたちが悪いとは、こういうことなんだろう。

 

 プリンツはビスマルクが好き。そして、俺がビスマルクとくっつくのを防ごうとしている。

 

 もはやこれは誰が見ても分かるはず……なのに、当の本人は分かっていない。プリンツにとって、非常に可哀想な状況なのである。

 

 もちろん、俺はビスマルクとくっつくつもりはないし、それをハッキリとプリンツに伝えるべきなのだろう。しかしその場合、耳に挟んだビスマルクがどういう反応を取るかも予想できる。

 

 その後、俺は陽の目を見ることはできないかもしれない……。完全にBADENDコースへまっしぐら。さすがにそれは、嫌過ぎる。

 

 このことに関しては幼稚園に来た当初から考えまくっているけれど、未だに良い答えは出てこない。まさに八方塞がりの状態なのだ。

 

「こうなったらプリンツを一度、しっかりと教育するべきなのかしら……」

 

「……その、教育という言葉の意味が非常に怖いんだけど」

 

「あら、何を思い浮かべたのか知らないけれど、別にたいしたことはしないわよ?」

 

 言って、ビスマルクはどこから持ち出してきたのか、教鞭のようなモノをブンブンと振って空気を切り裂いていた。

 

 う、うぅん……。

 

 普通に見れば、教育熱心な教師みたいに見えなくもなんだけど……。

 

「フフフ……」

 

 ビスマルクの顔が、完全に紅潮しちゃってるんですが。

 

 明らかに変なことを考えている顔である。

 

 南無三! さらばプリンツ!

 

 ……って、さすがに見捨てたりはしないけどさ。

 

「はいはい、ストップね」

 

 俺はそう言って、ビスマルクに手のひらを向けて首を左右に振る。

 

「残念ね……」

 

 本当に残念そうな顔だけに、更に怖さもひとしおです。

 

「ああ、でもアレね。代わりにあなたを……」

 

「それもストップさせてもらうっ!」

 

「……チッ」

 

「反応が凄く違うんですけどっ!?」

 

「冗談よ?」

 

「語尾が怪しいっ!」

 

「実は本気だったわ」

 

「本音を暴露されたーーーっ!?」

 

 何だかんだで、毎回こんな感じである。

 

 一応、俺は怪我人なんですけどねぇ……。

 

「まぁ、冗談はこの辺にして……、怪我の具合もあるだろうから今日はもう帰っても良いわよ?」

 

「いやいや、これくらい何ともないよ」

 

「……それこそ冗談よ。いくら小さいとはいえ、艦娘であるプリンツの踏みつけを食らって……」

 

「よいしょっと」

 

 俺はタオルをソファーに置いて立ち上がる。かけ声がおっさん臭いとか言わないように。

 

「………………」

 

「……ん?」

 

「い、いや……あの……」

 

 ビスマルクは大きく目を見開きながら口をパクパクと開いているんだけど、何をそんなに驚いているんだろうか。

 

「ほ、本当に大丈夫なの……?」

 

「大丈夫だって。プリンツも何だかんだといって、手加減してくれたみたいだし……」

 そうじゃなかったら、俺の頭は粉砕しちゃっていたからね。

 

「そ、そうかし……ら……。アレが……手加減した……踏みつけだと……?」

 

「おいおい、そういう冗談はなしの方向で頼むよ。何だかんだといって、食らった側としては背筋が凍っちゃうからさ」

 

「う、うん……。そう……ね……」

 

 何やら納得がいかないような顔で頷いたビスマルクだが、普通に考えれば分かるモノだろう。

 

 プリンツが手加減してなかったら、俺はもうこの世には居ない。

 

 誰がどう考えても、簡単な公式みたいなモノである。

 

「アレは……本気にしか見えなかったのだけれど……」

 

「んっ、何か言った?」

 

「い、いえ。何でもないわ。何でも……」

 

 そう呟きながらビスマルクは顔を伏せたんだけど、何なんだろ?

 

 普段とは違う感じにドキッとは……してないけどさ。

 

 まぁ、たまにはこういうのも良いかもしれない。

 

 ビスマルクとの会話で痛みも少しはまぎれてきたし、早いところ子供たちのところに戻って授業を再開させないといけない。

 

 壁にかけてある時計の針は昼よりもまだ少しあるので、残った時間をちゃんとしなければ……と、俺はビスマルクに声をかけてスタッフルームから出ることにした。

 

 

 

 

 

「あっ、先生……おかえり」

 

「ただいま。授業を中断しちゃって悪かったな」

 

 子供たちが居る部屋の扉を開けると、いち早く俺に気づいたレーベが声をかけてくれたので謝りながら中に入った。レーベにマックス、ユーは椅子にちゃんと座って俺の方を見ているが、プリンツだけは不機嫌そうな顔で明後日の方を向いている。

 

 俺が気絶している間に幼稚園の外に出て行っていないだけマシだとは思うが、反省の態度は全くないようだ。

 

 まぁ、俺はそんなに怒ってはいないんだけど、暴力的な癖がついてもダメだから注意はしておかなければならない……と、思っていると、

 

「……ふうん」

 

 急にマックスが俺の顔を睨みつけながら、独り言のように呟いた。

 

「ど、どうしたんだ、マックス?」

 

「先生は……大丈夫なの?」

 

「だ、大丈夫って、何が……だ?」

 

「いえ……。ふうん、そう……」

 

 一人で納得するように頷いたマックスは俺から視線を逸らして……って、いったい何なんだ?

 

 もしかして、授業を停滞してしまったことに対して怒っているのだろうか。原因はビスマルクとプリンツにあるのだが、俺も全くの無関係ではないので、無視する訳にもいかないのだが……。

 

「ま、マックス……?」

 

「………………」

 

 完全に顔を逸らされちゃっている。呼びかけても返事もしない。

 

 うーむ、これはマズイ。

 

 幼稚園に来た当初から信頼度は0だったけれど、これはマイナス方向へ振りきっているのかもしれないぞ……。

 

「あ、あの……、先生……」

 

「んっ、どうしたんだ、ユー?」

 

「ほ、本当に大丈夫なの……かな?」

 

「あー、いや……。その、大丈夫って意味が、ちょっと分からないというか……」

 

 俺はなんだか申し訳ない気持になって、後頭部をポリポリと掻く。

 

 舞鶴幼稚園に居る子供たちなら言葉以外の反応から大体は読み取ることができるんだけど、残念ながら付き合いが長くないここの子供たちを理解するには、まだまだ難しいようだ。

 

「「「………………」」」

 

 そして、向けられる視線。

 

 レーベ、マックス、ユーは一様に、俺の顔を大きく開いた目で見つめている。

 

 ついでにプリンツも、驚いた表情に変わっている……ようにも見えたりするんだけれど。

 

 本当に、俺って何に悪いことやっちゃった?

 

「はいはい。驚くのはその辺にして、授業を再開するわよ」

 

 パンパンと手を叩いたビスマルクがホワイトボードの前に立ってみんなに声をかけると、レーベが素早く手をあげて口を開いた。

 

「び、ビスマルク……、本当に先生は大丈夫? 頭を強く打ち過ぎて、分かっていないだけじゃないのかな?」

 

「頭を強く打ったときは、動かさない方が良いと聞いたのだけれど」

 

 そして、同じく手をあげてマックスが言う……って、そういう意味だったの?

 

 別に俺は大丈夫なんだけど、これって心配してくれているってことだよね。

 

「そうね。あなたたちの言う通りよ。だけど、先生は本当に大丈夫だから、心配しなくても良いのよ」

 

「でも、脳内出血をした場合、本人の自覚症状が出にくいときがあるから……」

 

「気づいたら手遅れだった……。なんてことが、あったりするかもしれないわね……」

 

 レーベとマックスは頷きながら言う……って、なんか滅茶苦茶怖くなってきたんですけど。

 

「そ、それじゃあ先生って……死んじゃうの……?」

 

 ユーはおどおどしながら俺を見たんだけれど、勝手に殺さないでくれるかなっ!?

 

「それは大丈夫よ。先生が気を失っている間に、電探でちゃんとチェックをしておいたわ」

 

 電探って、そんな使い方できるのっ!?

 

 超が付くくらい、初耳なんですけどっ!

 

「あ、あうぅ……」

 

 そして、非常に気まずいような表情を浮かべたプリンツがどうしたら良いのかと、俺やビスマルクの顔を伺っていた。

 

「それに、もし先生が大変なことになったら……」

 

 縁起でもないことを言いだしたビスマルクに、俺は止めてもらおうと声をかけようとしたのだが、

 

「介護と称して色んなことができるから、それはそれでアリじゃないかしら?」

 

「「「………………」」」

 

 素晴らしい考えだ……と、言わんばかりに自慢気な顔を浮かべて胸を張るビスマルク。

 

 呆れまくった顔を浮かべる子供たち。

 

 そして、当の本人である俺は……

 

「今すぐ医務室に行って、検査してきます」

 

 そう言って、スタスタと部屋から立ち去ろうと扉へと向かう。

 

「ああっ、私の野望がっ!」

 

「野望じゃねえよっ! 本気だったとしたら、口に出した時点でアウトだよ! ついでに俺としては洒落になんないよっ!」

 

 全くもって理不尽。

 

 まさに外道である。

 

 どっちもどっち……かもしんないけどね。

 

「待って! 授業を放ったらかしにして、どこへ向かうというのっ!?」

 

「一番授業を崩壊させているビスマルクがそれをいうんじゃねえっ!」

 

 俺は大きく叫んでから扉を激しく閉じ、反論するビスマルクの声に全く聞き耳を持たず、脱兎の如く医務室へと向かった。

 





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次回予告

 ビスマルクの前から逃走した主人公。
やっと安息の時間は訪れる……と、思いきや、またもや惨事が舞い降りる?
更には追加で、やっぱりこうなっちゃうって感じです。

 もうね……、ラノベの主人公ってレベルじゃないんスよ……。


 艦娘幼稚園 第二部 第二章
 ~明石という名の艦娘~ その3「好かれ過ぎるのも問題か?」

 乞うご期待!

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