お待たせいたしましたっ!
1ヶ月のお休みから復帰し、艦娘幼稚園の更新を再開いたします。
まずは第二回リクエスト上位の「しおい編」を数話。
そして、ついに第二部の開始ですっ!
艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『しおいの潜水艦談話』
その1「久しぶりに集まったのに」
先生になったしおいは、久しぶりの休日に潜水艦の仲間たちと会うことに。
だけど、なんだかみんなの表情が優れない。
気になったしおいは話を聞いてみるんだけれど……
その1「久しぶりに集まったのに」
やっほー。みんな、ごきげんよー。
私は伊400型潜水艦二番艦、伊401。気軽にしおいって呼んでね。
しおいはちょっと前まで艦娘として頑張っていたんだけど、今は色々あって、舞鶴鎮守府にある艦娘幼稚園でちっちゃい子たちの先生をしているんだよね。
子供たちは毎日元気にはしゃぎまわっているから、さすがのしおいも疲れちゃうんです。
だから、せっかくの休日は部屋でゴロゴロしよう――なんて思っていたんだけれど、今日は久しぶりに友人と会う約束があるんだよね。
友人とはもちろん、しおいが艦隊に所属しているときの潜水艦たち。みんな個性が強いんだけど、とっても面白くて喋っているだけで楽しいの。
今からどんな会話をしようかと考えているだけで、ドキドキワクワクが止まらなくなってきちゃった!
約束の時間まではまだ少しあるけれど、身だしなみをちゃんと整えとかないとね。
それじゃあ、今回はしおいの休日を少しだけ……お話ししちゃいますっ!
◆ ◆ ◆
「よし、大丈夫だよねっ」
自室にあるクローゼットの鏡で髪型と服装のチェックをしてから、軽く頬を叩いた。みんなと会うのは久しぶりなので、いつもよりちょっぴり気合を入れちゃった感じかな。
「時間は……そろそろかな」
壁時計に目をやると、針は約束した時間の15分前を指していた。今から鳳翔さんの食堂に向かえば、ちょうど良い感じに到着すると思う。折角の集まりなんだから遅刻しちゃったらみんなに悪いもんね。
「それじゃあ、いってきまーす」
誰も居ない自室に向かって挨拶をし、扉の鍵をカチャリとかけた。これだけだと、なんだか寂しいヤツ……みたいな感じに見えるかもしれないけれど、挨拶をちゃんとするのは大事なんだからねっ!
………………
うん。やっぱり今日のしおい、ちょっとテンションが高いかもしれない。友人と会うのが久しぶりだから、昨日から高揚しちゃっているのかな。
最後に会ったのは、幼稚園の先生になると決まってお別れ会をしてくれたときだから……結構前になるかもしれない。それから食堂で出会うこともなく、少しだけ寂しい思いをしていたこともあったの。
そんな経緯があるんだから、今のしおいの心境も分かってくれると嬉しいんだけれど。
――とまぁ、こんな感じで色々考えられるくらい、今日の休日が楽しみなんだよね。
「あら、しおいちゃん、いらっしゃい」
「こんにちわー、鳳翔さん」
鳳翔さんの食堂に入って挨拶をし、キョロキョロと辺りを見回してみる。すると鳳翔さんはニッコリと笑って、しおいに見えるように奥の方へ手を向けてくれた。
「ついさっき、みなさんが奥の席に座られましたよ」
「ありがとうございますっ」
しっかりと頭を下げて鳳翔さんにお礼を言い、奥の方へと進んだの。食堂の中はお昼ご飯のピークが過ぎたこともあって、お客さんの数はまばらだったかな。
これからしばらくの時間はこちらよりも間宮さんの甘味処の方が混むだろうし、その辺りも踏まえた上で鳳翔さんの食堂を待ち合わせにしたんだけれど、実は定食や晩酌以外にも隠れたメニューもあって、なかなかいけちゃうんだよね。
しおいのお勧めは飲茶とかカレーパンかな。甘い物は間宮さんのところで、小腹が空いたら鳳翔さんの食堂って感じで分けているの。
「あっ、しおいがきたのねー」
「お待たせー。もしかして待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫でち」
「はっちゃんたちも、ついさっきついたばっかりだから」
「そうそう。だから、注文もまだしていないわ」
イクが声をかけてくれたのを皮切りに、ゴーヤやハチ、イムヤが手を振ってしおいを迎えてくれた。
以前に会ったときと変わらず、みんなは元気そうだ……と、思っていたんだけれど、なんだかほんの少しだけ違和感を覚えてしまうのはなぜなのかな?
「それじゃあ、全員集まったから注文するのー」
「そうだね。それじゃあ……鳳翔さーん、注文良いですかー?」
「はーい。今行きますからねー」
そう言って注文を取りにきてくれた鳳翔さんに軽食を頼んでから、しおいたちはお喋りを開始した。すると、先ほどの違和感が何であるかがすぐに分かったの。
「最近のしおいは忙しいなの?」
「んー、そうだね。子供たちは元気いっぱいだから、結構体力を使っちゃうかな」
イクの質問にハキハキと答えると、ハチが急に顔を曇らせたんだよね。
「なんだか楽しそうで羨ましいですよね……」
「えっと……ハチたちは今、厳しい海域に出撃しているのかな?」
「そ、それは……その……」
質問を投げかけると、ハチはさらに顔を曇らせちゃったの。しおいが艦隊にいた頃は、東京急行にみんなで一緒に出撃したりしていたけれど、もしかしてあそこより厳しいのかな……?
「あの……ね、しおい。今イムヤたちは、南西諸島方面に出撃しているんだけど……」
「南西諸島って……それ程厳しいところじゃないよね?」
「う、うん……そうなんだけど……」
ハチと同じようにイムヤが顔を曇らせると、いきなりゴーヤが机を叩いて大きな声をあげちゃったの。
「元帥の下で働いていた方が断然マシだったでち!」
顔を真っ赤にして怒っていたゴーヤは、半泣きでしおいの胸に飛び込んできたんだよね。
さすがにこれは変だと思ったしおいは、みんなにどうしてかと尋ねたの。すると、みんなが所属する潜水艦隊が元帥の直轄ではなく、別の提督の指示によって動くことになったらしい。
しおいが艦隊から離れて幼稚園の先生になっている間に、そんなことが起こっていたんだ……って、驚いたんだけれど、実際に想像していた以上に状況は過酷だったの。
「くる日もくる日もオリョクルばっかりでち……」
「たまにカレクルもあるけどなの……」
「はっちゃん……ドックで修復中に読む本の在庫がなくなっちゃった……」
そう話しているみんなの目は、完全に光を失っている。さすがにこれはマズイと思ったので、今から気分転換をしようとみんなを誘ったんだけれど……
「残念だけど、もう少ししたらオリョクルの時間なの……」
「え……? 今日は休みだって言ってたんじゃ……」
「現在発動中の作戦によって、燃料が枯渇しかかっているらしいでち……。だから、休日返上でオリョクル確定でち……」
「はっちゃん……もうそろそろ限界かも……」
「イムヤも……さすがに疲れ切ってるわ……」
完全にみんなの顔色がおかしくなっている。このまま話を続けたらストレスでどうにかなってしまうんじゃないかと思ったので、話を変えるために自分の代わりに配属された新人について尋ねることにしたんだよね。
「そう言えば、陸軍から配属された……まるゆはどうなのかな?」
「まるゆ……でちか?」
「そうそう。私の代わりに潜水艦隊に入ったんだよね?」
「まるゆは最初、イムヤたちと一緒にオリョクルに出撃していたわ。だけど、攻撃能力がないから使えないって言われて……」
イムヤがそう言って、みんなは顔を伏せていた。
え、もしかしてしおい……聞いちゃいけないことを……?
「まるゆは今、別任務についているでち……」
「べ、別任務って……?」
「キス島沖に……出撃しているわ……」
「ああ、なるほどねー。練度を上げるために、頑張ってるんだね」
「ち、違うなの……。あれは、完全に鬼の戦術……なの」
「……え?」
イクがそう言った途端、みんなの目が死んだ魚のように変わったの。
「そ、それって……どういうこと……?」
「デコイ……でち……」
「で、デコ……イ……?」
「そうなの……。まるゆは、艦隊にいる他の艦娘に攻撃がいかないように、囮になっているの……」
「な、な、な、なによそれっ!?」
「だから……鬼の戦術でち……」
「そ、そんなことが許される訳が……」
「元帥なら、そんなことはしないなの……。でも、暗黙の了解で……他の提督はやっているなの……」
「その結果、まるゆはたった1日で改造できるように……」
そう、ハチが重々しく語っていると、後ろの方から小さな足音が聞こえてきた。
「み、みなさん……お疲れ様……です……」
「あ……ま、まるゆ……」
噂をすれば何とやら。足取りがおぼつかない状態でフラフラとこちらに歩いてくるまるゆを見て、あまりの酷さに目を覆いたくなってしまった。いくらなんでも、正常には見えない。こんなになるまで出撃させられるなんて、ブラックにも程があるじゃない!
「つ、疲れが酷そう……なの」
「あ、いえいえ……これはちょっと……その……」
「ま、まるゆちゃん!」
「は、はいっ!?」
しおいは我慢できずに立ち上がって、まるゆの両肩をがっしりと掴んだんだよね。
「今から抗議にいこう! さすがにこんなになってまで出撃させるなんて、ありえないっ!」
「え、あ、でも……」
「どこからどうみてもオーバーワークによる疲労じゃない! こんなんで出撃したら、いつかは轟沈しちゃうんだからっ!」
「あ、ち、違うんですっ。まるゆが疲れているのは出撃のせいじゃないんですっ!」
「そ、そうなの?」
そうは言うけど、さっきのおぼつかない足取りはどう考えても普通じゃないと思うんだけどね。
「じ、実は……最近改造してもらってから、戦艦や空母の方々がやたら近づいてこられるんですけど……」
「それって、一緒に出撃している艦隊の?」
「い、いえ、違います。よくドックの近くで会うんですけど、扶桑さんや山城さん、それに陸奥さんと……大鳳さんや翔鶴さんが、まるゆを……その……」
「ま、まさか虐められているとかっ?」
「そ、そうじゃなくて……、なぜかペタペタとまるゆを触ったり、祀り上げられたりするんです……」
「なんだか怪しいのね……」
「触るって……もしかして禁断の百合……っ!?」
「は、ハチの鼻から赤いモノが出てきてるでち……」
ゴーヤに言われたはちは、急いでティッシュを鼻に詰めていた。
うーん……。どうやらまるゆは運の低い艦娘たちに狙われているみたいだけれど、祀り上げられているというのだから心配しなくても良いのかな?
「ですから、しおいさんが言うようにオーバーワークではないんです。確かに練度は一気に上がりましたけど、まるゆは感謝しているんですっ」
「まぁ、まるゆ自身がそう言うなら大丈夫なんだろうけれど……」
「はい! まるゆはもっともっと頑張って、みなさんに早く追いつきたいと思いますっ!」
「……追いつかない方が良いかもしれないでち」
「そうよね……。強くなったら、オリョクルかカレクルが待ってるからね……」
「はっちゃん……恨み辛みをお地蔵さんに語ってこようかな……」
みんなは遠い目をしながら口々にそう言って、「「「はぁ……」」」と、大きなため息を吐いた。
ちなみにお地蔵さんに恨み辛みって……やっぱりトランペットが鳴り響いちゃうのかな……?
それとも、元帥や先生をも震えあがらせたと鎮守府で一時話題になった、噂の仕置人が……?
額に汗を浮かばせながらそんなことを考えていると、イクが遂に吹っ切れたのか、「こうなったら……提督にオシオキするのっ!」と、言いながらテーブルを拳で叩いていた。
その目は完全に光が消えていて、時折浮かべる薄ら笑いが非常に怖いんだけど……
「ちょっ、ちょっとイクッ! さすがにそれは良くないから……」
このまま放っておけば非常に危ないと思ったんだけれど、イクの言葉に感化されたみんなは「キラーン」という効果音が似合うように目を光らせてから、一斉に声をあげだした。
「良い考えね……。こうなったら、提督に静かに近づいて……寝首かっ切ってやるわ……」
「そのなのっ、その意気なのっ!」
「イクとイムヤの目が光ってるし……」
「思う存分ヤっちゃってくだちっ!」
早く止めないとかなりヤバいと思ったしおいは、近くにいたまるゆの顔を見たんだけれど……
「な、なんだか面白そう……ですねっ!」
まるゆの顔をよく見てみると、目の下に隈ができているし……って、やっぱりオーバーワークだったんじゃないっ!
これはどうにかしないと、鎮守府内で大惨事が起きてしまう。だけど、すでにみんなの耳にしおいの声は聞こえていないようだし、手に負えそうにない……と、思う。
なんとかこの騒ぎの収拾をつけるため、しおいは急いで席から立ち上がって、ある場所へ向かうために食堂から飛び出たんだよね。
お休みを頂いたおかげで、6月のイベントに向けて執筆していた同人誌が形になってきました。
上手くいけば近いうちにサンプルもアップできると思いますので、是非宜しくお願い致しますっ!
次回予告
みんなのテンションがかなりヤバいっ!
しおいは慌ててあの人の元に向かったんだけれど、どうやらいつもの出来事が……
いい加減に学習して下さいよーーーっ!
艦娘幼稚園 スピンオフシリーズ『しおいの潜水艦談話』
その2「やっぱりいつもの様子でした」
乞うご期待!
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