艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

16 / 382
 視線が向けられている事を話した主人公。
 心配した子どもたちは気がついた事を口々に話し、お礼に頭を撫でてあげる。
 そうしているうちに、詳しい人物がいると夕立が話してくれて……

 艦娘幼稚園 ~幽霊の噂と視線の謎~ その2

 やんわりほんわかなシリーズから初期のシリアス展開に路線変更?
 いいえ、シリアスもあるけど、今シリーズもギャグ路線ですっ。


その2

 

「……と、言うことなんだ」

 

 子どもたちに視線のことを話し終えた俺は、ふぅ……とため息を吐いて天井を見上げた。心配させまいと思って誰にも話していなかったことを打ち明けられたおかげなのか、ほんの少しだけれど、体が軽くなった気がする。

 

「視線デスか……私は全然気づかなかったデスけど、みんなはどうデスかー?」

 

「私も……気づかなかったかな……」

 

 潮は顔を控えめに横に振り、金剛に答えた。

 

「夕立も気づかなかったっぽいー」

 

「うーん、俺も気になんなかったけど……」

 

 夕立も天龍も、同じように首を横に振る。天龍はすでにお手上げといった感じに両手の平を上に向けていたが、はっと顔を上げて龍田へと振り向いた。

 

「そういや、龍田はどうなんだ? 先生の周りでなんか感じたこと無かったのか?」

 

「そうねぇ~、そういえば……」

 

「おっ、何か知ってるのかよっ! さすが、龍田なだけはあるぜ!」

 

 喜ぶ天龍に、少し迷っている感じの龍田。対局的な表情に、俺は少しばかり嫌な予感がよぎった。

 

「でっ、いったい何を知ってんだよ!?」

 

「ん~、そんなに大したことじゃないのよ天龍ちゃ~ん。ただ、先生が変なことをしていないかって、ストー……じゃなくて、見ていた時なんだけど~」

 

 今、龍田はストーカーって言いかけなかったか……?

 

 それって犯罪行為なんだから、マジで止めて欲しいんだけど、犯人が子どもの場合は成立するんだろうか?

 

 どちらにしても、龍田がここ最近俺を見ていたというのならば、気になる視線というのも納得がいかなくもないんだけど、なんとなく俺は違う気がした。

 

「先生の近くで~、小さい音が聞こえたことがあるのよね~」

 

「……音?」

 

「うん、音よ~。とっても小さいから、聞こえなかったとしてもおかしくないのかも~。私も、たまたま聞こえただけだから~」

 

「ふむぅ……それは気になりますネー」

 

「夕立も気になるっぽい。でも、聞いたことは無いっぽいー」

 

「う、うん……私も無いかな……」

 

「小さい音か……。全然気づかなかったけど、どんな感じの音なんだ、龍田?」

 

「そうねぇ~。カチャ……とか、パシッ……とかかなぁ~」

 

「んー、なんだか的を得ないなぁ……」

 

「ごめんね~、偶然聞こえただけなのよ~」

 

「あ、いや。それだけでも十分ありがたいよ。サンキューな」

 

「いえいえ~、どういたしまして、せーんせっ」

 

 龍田は微笑みながら頭を差し出したので、俺は手を置いて優しく撫でてあげた。ちょっぴり頬を染めて恥ずかしげに、でも嬉しそうにする龍田に、やっぱり子どもなんだなぁと、ちょっとばかし安心したのだけれど……

 

 周りの子どもたちが不満げな表情で俺と龍田を見ていたので、気づかない振りをしながら撫でていた手を離した。

 

 ……みんなの眼が、ちょっとばかし怖かったです。はい。

 

「うふふ~、褒められちゃった~」

 

 そして周りに自慢するように言う龍田だが、ホント色々と怖いんで、空気を読んでもらえると嬉しいんだけどなぁ……

 

 

 

「ごほん……っ。で、音についてデスネー」

 

 わざとらしく咳払いをして金剛が言う。

 

「あ、あぁ……やっぱり気になるな……」

 

「小さくて、乾いた感じっぽい?」

 

「うーん、乾いた感じって言われてもなぁ」

 

「……ひっ!」

 

 夕立と天龍の呟きを聞いた途端、潮が急に顔をこわばらせながら身体を震わせた。

 

「ん、どうしたんだ潮、何か怖いことでもあったのか?」

 

「そ、その……あの……」

 

 ビクビクと辺りを見回しながらおびえる潮に、心配になった俺は声をかけたのだが、うろたえるだけで上手く喋れない様だった。相当怖がっているようで、誰かの手を握ろうと自分の手を震わせながらオロオロしていた潮に気づいた天龍は、うっすらと頬を染めながら、恥ずかしそうにそっと手を差し伸べた。

 

「あらあら天龍ちゃ~ん、優しいのね~」

 

「べ、別に、そんなんじゃねーしっ!」

 

「ご、ごご、ごめんね……天龍ちゃん……」

 

「あ、いや、別に気にしなくていいし……」

 

 木登りの件があってから、潮は天龍と、とても良い仲になったようだ。もちろん、天龍に対する龍田や、北上と大井のような感じではなく、面倒見の良い天龍の性格が、怖がる潮にベストマッチのようだった。

 

 とは言え、龍田や北上、大井に関しては目に余るものがあるから、しっかりと愛宕と相談して対策をとらないといけない気がするのだけれど、この間の龍田のこともあるので、正直一歩前にでるのが恐ろしかったりする。

 

 頑張らないといけないんだけどなぁ……俺。

 

「それで潮、何をそんなに怖がっているんだ?」

 

 俺はこれ以上怖がらせないように、優しく潮に問いかける。

 

「か、乾いた音……って、もしかして……その……ラップ音とか……いうのじゃ……」

 

「ラップ……音?」

 

「聞いたことあるっぽい?」

 

「俺は全然知らねーな。龍田はどうだ?」

 

「あら~、天龍ちゃんったらおバカなんだから~」

 

「ちょっ、なんだと龍田っ!」

 

「まぁまぁ、喧嘩はしないで下さいデース」

 

 怒る天龍をなだめながら金剛が言う。

 

「ラップ音とは、ポルターガイスト現象などで起こる音と言われてマース。乾いた音が部屋に響いたりして、一緒に物がガタガタと動いたり、飛んだりするのが一般的デース」

 

 一般的と言われても、ポルターガイスト現象の段階でもはや非現実的であり、一般的ではないと思うのだが、そこんところはひとまず置いておこう。

 

 しかし、乾いた音だけでそれと決めつけるには早急すぎる気もするのだが……

 

「や、やっぱり……出るんだ……うわぁぁ……」

 

「おっ、おい潮、泣くんじゃねーよ! 俺がついてるから心配すんなって!」

 

「う、うん……で、でも……怖いよぉ……」

 

 更に震えが強くなる潮を慰めるように、天龍はギュッと手を握った。

 

「そっか~、やっぱり出るって前から噂されてたわよね~」

 

「むっ、そんな噂……俺は聞いたこと無いぞ?」

 

「先生が来るずっと前から、噂はあったのよ~。ただ、最近は全然聞かなかったけどね~」

 

「そう言えば、そうだったっぽいー」

 

「確かに、最近は聞かなかったデスねー。でも、そんな噂は何度か聞いたことありマスよー」

 

「あー、そういやちょっと前に噂してるやつがいたよなぁ……。まぁ、全然興味なかったけどさ」

 

「あら~、その割には、噂を聞いた夜眠れないからって、天龍ちゃんが一緒に寝てって言ってきた気が……」

 

「たっ、龍田ぁっ! お、俺はそんなこと言ってねーぞっ!」

 

「そうだったかしら~」

 

 クスクスと笑いながら逃げる龍田を追いかける天龍。うむ、これもいつも通りだけれど……

 

「うぅぅ……」

 

 天龍が離れてしまい、潮の恐がり方が半端なく強くなった。見かねた俺は、潮の頭を優しく撫でてやる。

 

「心配しなくて良いぞ潮。幽霊なんか、全然怖いものじゃないんだから」

 

「そ、そうなの……先生……?」

 

「あぁ、幽霊には人に害を与えるものとそうでないものがいるんだけど、今までに誰かが被害にあったとかそう言うのは無いんだろ?」

 

「う、うん……聞いたことは……無いです……」

 

「それじゃあ、幽霊がいたとしても悪いことをするやつじゃないってことだ。もし、悪いことをするやつだったとしても、潮の周りには頼りになる友達がいっぱいいるだろ?」

 

「う……うんっ! 潮には、天龍ちゃんや、夕立ちゃんに金剛ちゃん……それに、ちょっと怖いけど龍田ちゃんもいる……」

 

 あ、やっぱり潮も龍田が怖いんだ。

 

「そ、それに……先生も……いるし……」

 

「あぁ、俺も潮をしっかりと守ってやるからな」

 

「あ、ありがと……先生……」

 

 涙を滲ませながら、俺を見上げる潮はニッコリと笑ってそう言った。

 

 呼ばれなかったらどうしようと、ちょっとだけヒヤヒヤしたのは内緒だけどね。

 

 

 

「とりあえず~、幽霊が先生を見てるってことだとしたら、どうすればいいのかしら~」

 

 いつの間にかそばに戻っていた龍田と、そのすぐ後ろで息を切らせて膝をついた天龍がジト目を向けている。龍田は天龍の視線にまったく気にする素振りを見せずに、いつもと変わらぬ表情で立っていた。

 

 龍田並の鋼鉄強度を持つ心臓を持っていたら、こんなことにはならないんだろうなぁと、ちょっぴりへこむ俺。

 

 しかし、潮にはああ言ったけれど、もし幽霊が本当にいて、俺に視線を送り続けているのならば、その結果、体調を崩した時点で悪くない幽霊ではないということになる。

 

 まぁ正直な話、幽霊は信じていないから、何か他に理由があと思うのだけれど。

 

 ひ、膝が小刻みに揺れてたりするのは、気のせいなんだからね!(二回目のツンデレ風でごめんなさい)

 

「うーん、幽霊に対処する方法なんて、先生全く持ってわからないぞ?」

 

「詳しい人に聞く必要がありマスねー」

 

「あっ、それなら、夕立が良い人知ってるっぽい!」

 

「あら~、それは助かるわね~」

 

「早速お願いしマース!」

 

「夕立、逝ってくるっぽいー!」

 

 その言い方だと幽霊になっちゃうんじゃないかとヒヤヒヤしながら、夕立の背を見送る。

 

 本当に幽霊の仕業なのだろうかと半信半疑な俺だけれど、子どもたちがこうして俺のことを思ってくれているのだから、無碍に断ることもできない。それに、今出来る対処が思いつかないこの状況に置いて、誰かの助言を得ることは非常に助かるから、ここは素直に流れに乗ってみようと、心の中で頷きながら天井を見上げた。

 

「幽霊か……本当にいるのかな……」

 

 海に沈んだ艦の怨念が実体化したという深海棲艦。

 

 ならば、幽霊がいても、なんらおかしくは無いのかもしれない。

 

 それならば、海に沈んだ人も。

 

 幽霊に、なるのだろうか?

 

 それならば、あの日、沈んでいった家族は。

 

 幽霊に、なるのだろうか?

 

 出来るならば、安らかに眠っていて欲しい。

 

 でも、出来るならば、もう一度会いたい。

 

 父と、母と、弟に。

 

「いや、死んだ人は……戻らないんだ……」

 

「……先生?」

 

 俺の小さく呟いた声に気づいた潮が、手を握ったまま見上げてくる。

 

「ん、大丈夫。なんでもないよ、潮」

 

「う、うん……でも、先生……すごく悲しそうだよ……」

 

「あぁ、悲しい……かな。でも、大丈夫だから」

 

「そ、そうだよね……悲しくても、泣いちゃだめ……だよねっ」

 

 ギュッと握った手の温もりが、伝わってくる。

 

 あの時の記憶は忘れない。忘れられない。

 

 だけど、後ろは振り向かないと強く心に決めた。

 

 必死に伸ばして、天龍の手を掴むことが出来たあの日に、俺は誓ったのだから。

 

「よし、悪い幽霊なら、サクッと退治すればいいだけのことだ!」

 

「へ……へへ……さすがは、先生だぜ……」

 

 息を切らしたまま立ち上がった天龍が、俺を見つめる。

 

 うん、もう少し落ちついてからで良いからね。

 

「よし、それじゃあ、夕立が連れてくる人と相談するかっ!」

 

「う、うん……頑張ろうね、先生……」

 

「あぁ、そうだな!」

 

 笑顔を浮かべる潮をと顔を合わせ、俺も同じように笑みを浮かべる。

 

 さて、それでは幽霊退治といきますか!

 




 次回予告

 夕立が連れてきた人物……それは以前にもお世話になったあの子だった。
 過去に流れた幽霊の噂を検証し、どうすれば良いかと相談する子どもたちと主人公。
 あと、ちょっとだけ潮ちゃんが大変です。

 明日も連日更新予定です。
 お楽しみにお待ちくださいませー。


 昨日の日間ランキング1位なっちゃいました。
 マジでありがとうございますっ!

 感想、評価励みになってます。
 是非是非よろしくお願いしますっ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。