艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 先生は決意する。
自らの責任を取るために。
それは、必要が無い事かも知れない。だけど、やろうと決めたのだ。

 みんなに別れを言った先生は、ヲ級と二人で呉に向かおうとした矢先、
高雄が何かを察知して、大きな声をあげた。


その13「別れと出会い」

 

「せ、先生は馬鹿なのですかっ!?」

 

 俺の言葉に即座に反応したのは、高雄だった。

 

「今、呉鎮守府は深海棲艦で溢れているのですよっ!? そんな中に行こうだなんて、正気の沙汰ではありませんっ!」

 

 高雄の言葉に、元帥や扶桑がコクコクと頷いた。子供達も心配そうに俺を見つめ、フルフルと首を左右に振っている。

 

 だけど、俺はすでに決めている。

 

 一番成功する可能性が高く、皆が最も傷つかない方法は、これなのだと。

 

 それともう一つ、おれにはある確信があるからこそ、この方法を言い出したのだ。

 

「ル級、一つ聞きたい」

 

「ナンダ……?」

 

 返事をしたル級の顔は、少しばかり不機嫌そうに見えた。高雄の言い分を聞けば、気分が悪くなるのもありえる話だが、それだけでは無いのかもしれない。

 

 だが俺は気にせずに、言葉を続けていく。

 

「ル級の考えに賛同する深海棲艦の仲間は、全体の何割なんだ?」

 

「ホボ、全テダト言イタイトコロダガ、奴側ニツイテイル者ガイナイトモ言エヌ。ソノ割合ハ一割程度ダト思ウガ……」

 

「とすれば、九割は味方だと思って良いんだよな?」

 

「し、しかしそれは余りに、楽観的ですっ!」

 

 俺の言葉に、高雄は怒鳴るように声をあげた。

 

 だけど、ル級が本気であるならば、俺の考えは決して無理なことでは無いはずだ。

 

「……先生の考えは分かるけど、その方法は余りにも危険だってことは分かっているんだよね?」

 

 そして、元帥は俺に問う。

 

「ええ。普通ならばこんな方法はありえないでしょうけれど……」

 

 俺はそう言って、ル級を見る。

 

 しっかりと眼を見て、笑みを浮かべながら。

 

「俺も元帥と一緒で、ル級のことを信じていますから」

 

 ハッキリと、俺は皆に聞こえるように、力強く言い切った。

 

「「「………………」」」

 

 皆は何も言わず、ただ、俺の顔を見つめていた。

 

 もしかすると、呆れられてしまっているのかもしれない。

 

 視線の先にいるル級は、目を閉じ、鼻で笑うような仕種を見せ、口を開く。

 

「ソコマデ言ワレテシマッテハ、応エナイトイケナイナ」

 

「できるか?」

 

「不可能デハナイ。タダシ、今スグ全テノ仲間ニ伝エルノハ難シイダロウ」

 

「なら、どれくらい経った後なら大丈夫だ?」

 

「ソウ――ダナ。今カラ一時間後ナラ、アル程度ノ仲間ニ通達ハ可能ダロウ。タダシ奴ノ目ガアル以上、アマリ大事ニモデキヌカラ、ソノ姿ノママ動キマワレルトハ思ワナイコトダ」

 

「そうですっ! もし見つかったりしたら……」

 

「ダガ、対策ガ無イ訳デモナイ……ソコハ任セテ貰オウ」

 

「ああ、期待しているぞ、ル級」

 

 俺はそう言って頷くと、ル級は笑みを浮かべながら同じように頷いた。

 

「よし、それじゃあ一時間後に……」

 

「ま、待ってください! 先生は本当に……っ!?」

 

「ええ、もちろんです」

 

 本気で止めようとする高雄に向かって、俺は言う。

 

「俺とヲ級で、呉鎮守府内に潜入します」

 

 そう言って、俺はもう一度、呉鎮守府の方向を見た――のだが、

 

「オ兄チャン……反応ガアルノハ、モウ少シ……北ノ方向……」

 

「向いている方向だと、別のところに行っちゃうよね……」

 

「ほ、本当に大丈夫なのかしら……」

 

「マァ、ソレモ先生ラシイガナ……」

 

 ――と、周りから大きなため息を吐かれて、顔面中が真っ赤になってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 ここにきて、バッチリ決まらなかったよ、うわぁぁぁぁぁんっ!

 

 

 

 

 

 作戦を伝えよう。

 

 まず、俺とヲ級は海の中を移動し、呉鎮守府へと向かう。そしてヲ級の『チカラ』を使って北方棲姫の居場所を突き止め、可能であれば解放する。無理だったとしても、正確な位置をル級に知らせれば、後は数の力で押し込める。そうすればル級達の弱みは消え、元中将に従う理由は無くなり、呉鎮守府は解放へと進む……はずである。

 

 ここでいくつかの問題は、どうやって鎮守府内を動き回るかだ。ヲ級は深海棲艦の子供だから、多少動き回っても問題が無いのかもしれないが、俺はそういう訳にもいかない。ル級から話を聞いてみたのだが、呉鎮守府にいた職員や艦娘達は一ヶ所に監禁されているらしく、捕虜を装って動き回るのはほぼ不可能らしい。

 

 ならば隠れていた人間を見つけたと言って、ル級に連行されるように潜入するのはどうかと提案したが、ヲ級が感知した大きな建物と監禁場所とはかなり離れているらしいのだ。鎮守府内までは入り込めたとしても、それ以降の行動は難しいとのことである。

 

 しかし、ル級は他に考えがあるらしく、「任セテオケ」と言って、一旦呉鎮守府に戻って行った。余り長い時間持ち場を離れていると元中将にばれてしまう恐れもあるし、他の仲間に作戦の連絡を取って欲しいので、宜しく頼むと言って見送った。

 

 そして今、俺は急遽着替えを済ませて甲板に戻ってきたのである。

 

 真っ黒なウエットスーツに身を包み、酸素ボンベを背負った姿。ぶっちゃけて目茶苦茶重いんだけど、海の中を移動するなら仕方がないだろう。

 

「いやー、なんだかんだで凄いことになっちゃったね……」

 

「凄いで済まされる訳がありませんっ! 今からやろうとしていることは、自殺行為と変わらないのですよっ!?」

 

 俺の姿を見ながら元帥は言う。そこにすかさず、ジト目の高雄がツッコミを入れた。

 

「高雄さんの言い分はわかりますが、それでもこの方法が最善だと思うんです。これが成功すれば、誰一人傷つくことなく呉鎮守府を解放できるかもしれない……」

 

「ですけど、特殊な訓練を受けた軍人さんでもなく、ただの先生がすることじゃないんですけどね~」

 

 そう、俺に投げ掛けられた声を聞き、慌てて振り返った。

 

 一塊になって俺を見つめている子供達の真ん中に、不機嫌な表情で経っている艦娘――俺の上司であり、淡い気持ちを秘めている相手、愛宕の姿があった。

 

「えっ……あ、愛宕……先生?」

 

「そうですよ~。話を姉さんから聞いて、やってきたんですよ~」

 

 間延びした声の感じはいつもと変わらない。だけど、俺を見つめる眼も、表情も、明らかに怒っている感じだった。

 

「こんな無茶な作戦……いえ、作戦と言えるかどうかも分かりませんけど、それでも先生は行くんですよね……?」

 

 愛宕は子供達の頭を優しく撫でながら呟いた。言葉のトーンは一定で、聞かなくても答えを知っているかのように――

 

「はい。仮に皆が止めたとしても、向かいます」

 

「それは……誰のためですか?」

 

「………………」

 

 愛宕の問いに、俺は迷う。

 

 頭の中に、様々な理由が溢れてくる。

 

 元中将という切っ掛けを作ってしまったのは俺だから。

 

 その時に俺を助けてくれた元帥が、崖っぷちまで追い込まれているから。

 

 海底で助けてくれたル級の恩に報いるため。

 

 そして何より――俺の願う未来のために。

 

「誰のためでも無く、自分のためです」

 

「ヲ級ちゃんを巻き込んでもですか……?」

 

「本人が嫌だと言うなら……俺一人で行きます」

 

「ソレハ僕ガ許サナイヨ。オ兄チャン一人デ向カワセルナンテ、天変地異ガ起コッテモヤラセナイヨ」

 

「そう……ですか……」

 

 俺とヲ級の答えを聞いて、愛宕は俯いた。

 

 何を言っても俺とヲ級は引かないだろうと、分かってくれたのだろう。

 

 子供達も同じく理解してくれたようであり、潤んだ瞳を俺とヲ級に向けながら黙って立ち尽くしていた。

 

「だけど、これだけは知っていてください。俺は死にに行く気なんてありません。一番良いと思った方法で問題を解決するために、行こうと決めたんです。だから、俺が帰ってくるまで……待っていてくれますよね……?」

 

 そう言って、俺は皆の顔を見た。

 

「もちろんだよ」

 

 元帥がうっすらと笑みを浮かべて頷く。

 

「ここで先生を置いて帰ると言うなら、元帥を海へ叩き落としますわ」

 

 呆れながらも頷く高雄。

 

「私よりも不幸かもしれませんが……それでも頑張ってくださいね……」

 

 不安になりまくるけれど、励ましてくれる扶桑。

 

「ぜ、絶対……絶対帰ってこいよ……先生っ!」

 

 瞳に涙をたくさん溜めながら叫ぶ天龍。

 

「帰ってこなかったら、ぜ~ったいに許さないんだから……」

 

 いつもの笑みではなく、真剣な表情の龍田。

 

「絶対に……無事に……帰ってきてね……」

 

 天龍と龍田の手を握りながら、泣かずに我慢する潮。

 

「帰ってきたら、皆で一緒に遊ぶっぽいっ!」

 

 前向きな言葉をかけてくれる夕立。

 

「私の未来のハズバンドは、こんな所でくたばらないんだからネー!」

 

 無理矢理笑みを作って送り出してくれる金剛。

 

「先生……」

 

 そして――最後に愛宕が口を開く。

 

 瞳には、小さな光る雫が見え、

 

「必ず帰ってきてください……そして、そのときにお伝えしたい……」

 

 最後まで話そうとする愛宕の口を、人差し指で優しく塞いだ。

 

「それ以上はストップです。そうじゃないと……」

 

「死亡フラグニナッチャウヨネー」

 

 間髪入れたヲ級のツッコミに、周りの人達が苦笑を浮かべる。

 

「そう……ですよね」

 

 愛宕は少し驚いた表情をしたものの、すぐに笑みを浮かべながら俺とヲ級の顔を見る。

 

 そして――いつものように、言ってくれた。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

「イッテクルネ」

 

 別れの挨拶を交わし、愛宕に背を向ける。

 

 ――が、ここで一つ問題があった。

 

「いや、まだ時間までは少しあるんだけど……さ……」

 

 腕時計を見た元帥が呟く。

 

 目を何度もパチパチと瞬きをする俺。

 

 苦笑を浮かべるヲ級。

 

 うむ……目茶苦茶格好がつかないよな。

 

 皆の方に、振り返ることもできなくね?

 

 そんな、どうして良いか分からない空気が漂う中、急に何かに気づいた高雄が声をあげた。

 

「……っ、近くの海中に反応ありっ!」

 

「なにっ!?」

 

 慌てる高雄の声に驚く元帥。

 

「ル級が戻ってきたんじゃ……?」

 

「いえ、これはもっと小さい反応……もうそこまできていますっ!」

 

「ぜ、全艦迎撃体制っ!」

 

 無線で叫ぶ元帥の指示で、甲板に居た艦娘や作業員達が慌てて走り回る中、なぜかヲ級が艦首の方へと歩き出した。

 

「お、おいっ、危ないぞヲ級!」

 

 俺はヲ級を止めようと手を伸ばしたのだが、触手で払いのけられてしまった。気にせず進んだヲ級は艦首に辿り着き、身を乗り出して海面を覗き込みながら、触手をバタバタと振っていた。

 

 何を……やっているんだ?

 

 緊張感のかけらも無いし、それになんでこんな場所に……?

 

 気になった俺は、ヲ級と同じように恐る恐る海面を覗き込んでみる。

 

 そこには、海面に映る丸い月。

 

 そう――見えたのだが、何やら左右に動いている感じがする。

 

 眼を凝らしてみると、それは月ではなく、

 

 確かに見覚えのある小さな顔が――

 

 

 

 ぷかりと浮いていた。

 




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次回予告

 再開を喜ぶ二名。そして不安がる者多数。
だけど大丈夫……。いや、多分大丈夫。
約束を胸に、先生は呉へと向かう。

 しかし、先生は真夜中の海を甘く見ていたのだった。


 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その14「再開、そして出発へ」


 乞うご期待!

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