艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 彼らは考えてしまった――戦う相手が同じではないかということを。
 彼らは知ってしまった――戦う相手も仲間意識があることを。
 ならばどうするのか――と思う皆の耳に、新たな事実が突き付けられる。


その10「flagship」

「何て……酷い手を……」

 

 ギリリ……と歯ぎしりをする音が聞こえる。

 

 その音を鳴らしていたのは、ル級の行動を監視するため睨みつけていた高雄だった。

 

 いつも冷静で、元帥が女性関係のいざこざを起こしたときでさえ、なかなかうろたえない高雄が、感情を露わにして怒っている。

 

 それは、元中将の策に対する怒りであり、

 

 非道の手段を取った者に対する憎しみで、

 

 敵や味方という関係ではなく、高雄自身の心の表れだったのだろう。

 

 そして、それは高雄だけではなく、

 

 他の艦娘や、元帥、俺も同じ思いだった。

 

「恥ズカシイ話ダガ、全テハ我々ノ落チ度ダ。シカシ、北方棲姫様ノ行方ガ分カラナイ以上、港湾棲姫様モ奴ニ手ヲ出スコトガデキズ、今ハ従ッテイルヨウニ振舞ッテイル……」

 

 小さく、か細い声がル級の口から紡がれた。

 

 空気が重く、高雄の歯ぎしりと、時折聞こえるため息だけが闇に染まった甲板に響く。

 

 そんな沈黙を破るかのように、紅茶のカップを手に持った元帥は、ル級に問いかけた。

 

「だけど……それでも納得ができないことがある」

 

「……ナンダ?」

 

 ほんの少しだけ顔をあげたル級は、ティーカップを持って問い返す。

 

「それでも何故、君は先生に助けを求めたのかな?」

 

 その問いに、ル級の目が動く。

 

 視線の先は元帥ではなく、俺の顔に。

 

 澄んだ瞳がキラリと光り、俺と視線が合う。

 

 そして――ル級はハッキリと答えた。

 

「先生ガ連レテイッタ……ヲ級ノ『チカラ』ガ必要ナノダ……」

 

 ル級の言葉を聞いた俺は、驚いて大きく眼を見開いた。

 

 今回の作戦に参加する思いの切っ掛けになった元中将。

 

 そして、海底からヲ級を連れて帰った行動。

 

 つまり、今回の呉鎮守府襲撃は全て――

 

 

 

 俺の責任なのではないかと、後悔のようなモノが胸の中に渦巻いたのだった。

 

 

 

 

 

 自分がやったことを思い返しながら、拳を握り締める。

 

 そんな俺を見つめるル級。

 

 その瞳は、ずっと俺の顔に向けられて、

 

 心を見透かすように、キラリと光る。

 

「ダガ、コレダケハ言ワセテ貰ウ。先生ハ何モ悪クナイ」

 

「……え?」

 

 信じられない言葉に、俺は小さく呟いた。

 

 それは周りの皆も同じだったようで、大きく眼を見開いたり、ぽかんと口を開けていた。

 

 深海棲艦が、人間である俺を庇ったという事実に、驚くのも無理は無い。

 

 前例があるとか、そういうのではない。

 

 コンタクトを取ることすらできないと思われていた深海棲艦から、手紙が届いただけではなく、

 

 再開と同時に漫才のような会話を交わし、

 

 状況がそうであったとは言え、話し合いの場が設けられただけでなく、

 

 ル級は、敵である人間――俺を庇ったのである。

 

 それは、以前に顔見知りだったという理由だけでは到底済まされることではなく、

 

 更には、人間や艦娘と同じように、深海棲艦もまた、仲間意識を強く持つことを知った皆にとって、

 

 今までの考えを完全に改めさせるには十分な出来事だった。

 

 ――もし、ル級が今回のことを全て仕組んだとするならば、この作戦は完全に成功であると言える。

 

 だけど、

 

 もしそうだったとしても、

 

 この場でル級に関心を寄せない者は、誰一人よして居なかっただろう。

 

「北ノ基地ニ向カウトキ、ヲ級ノ願イヲ聞キ入レタノハ私ダ。ソノ結果、今回ノコトニ対処デキナカッタトシテモ、ソレハ私ノ責任ナノダ」

 

 ル級の瞳は、ずっと俺に向けられたまま。

 

 怒っている訳でもなく、攻めている訳でもない。

 

 全てを包み込むかのように、母性に溢れるかのように、

 

 言葉と一緒に、俺に向けられている。

 

「ソレニ、ヲ級ガ『チカラ』ヲ持ッテイルコト自体、ホンノ少シ前マデ知ラナカッタノダカラ……」

 

 言って、ル級はため息を吐いて視線を逸らした。

 

「それは……どういった『チカラ』なんだろう……?」

 

「ウム……話ガ少シ長クナルカモシレナイガ、語ルコトニシヨウ……」

 

 

 

 

 

「北方棲姫様ガ捕ワレタコトガ分カッテカラ、奴ニバレナイヨウニ港湾棲姫様ニ連絡ヲ取ッタノダ。心配シテクレタ港湾棲姫様ハスグニ自ラガ捜索シヨウトシタガ、奴ノ監視ノ目ガアル以上ウカツニ動ケズ、比較的自由ニ動ケル者達ニ頼ムコトニシタ」

 

「なるほど……確かに港湾棲姫クラスがうろうろしだしたら、元中将も気づいちゃうかもしれないね……」

 

 元帥はそう言って、表情を険しくする。

 

 普通ならば、俺も元帥と同じように考えるだろう。

 

 しかし、表情を険しくした理由は他にもあることが、俺にも予想することができる。

 

 元中将は人間だ。深海棲艦の中に、仲間と呼べる者がいるのだろうか?

 

 いくら北方棲姫を人質にしたとしても、目が届かない場所で動かれては分かりようが無い。

 

 ならば、港湾棲姫だったとしても、元中将が知らぬところで動けば問題が無いはずなのだ。

 

 だがル級は、奴の監視の目があると言った。つまりこれは、元中将自身の目だけではなく、他の何かの要素があるということになる。

 

 それはつまり、深海棲艦の中に元中将に賛同する者がいるということだ。例え監視カメラなどを利用したとしても、この広大な海ではほんの一部しか調べることができないだろう。

 

 それに、そもそも水中監視カメラの段階でかなり無理がある。

 

 そんな予算を、左遷された元中将が手に入れることは難しいだろうし、そもそも深海棲艦側についた時点で地上との交信は難しいだろう。

 

 ――そう思った俺の頭に、ある考えが浮かんできた。

 

 だが、その思考をまとめる前に、ル級は再び口を開く。

 

「ソコデ、港湾棲姫様ニ命ジラレタ者達ト共ニ、北方棲姫様ヲ捜索シタ。シカシ、奴ニバレナイヨウニ探シ出スノハ難シク、一向ニ成果ハ出ナカッタ……」

 

 言って、大きくため息を吐いたル級は、紅茶で喉を潤す。

 

「ソレヲ伝エタ後、港湾棲姫様ハ思イ出シタカノヨウニ『チカラ』ニツイテ教エテクレタノダ。北方棲姫様ノ気配ヲ感ジ取レル者ガ、居ルカモシレナイト……」

 

「そして、その『チカラ』を持つのが……ヲ級ちゃんだと?」

 

「ソウダ。先生ガ連レテ帰ッタヲ級ハ、成長スレバフラグシップニナル存在ダッタ。マァソレモ、後カラ聞カサレタコトナノダガナ」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

 元帥の表情は一変して驚きへと変わり、若干うろたえながら呟いた。かく言う俺も驚きを隠せないのだけれど、ル級の表情を見る限り嘘を言っている感じは無い。

 

 深海棲艦に生まれ変わるだけでは飽き足らず、後にフラグシップになるなんて、弟はチートコードでも使用したんじゃなかろうかと疑ってしまう。

 

 しかし、当の本に聞いたとしても答えが返ってくるとは思えないし、もし明確な返事ができようものなら、それはそれで恐ろしい。

 

 だが、今この場にヲ級が居る訳ではないので、それも無理な話だ。むしろ、居たら居たで厄介なことこの上ない気がするし。

 

 ル級と久しぶりに再会できるのは嬉しいだろうが、それ以上にボケキャラが増えるのは避けておきたい。とは言え、今のル級は真剣そのものなので、そういった心配は必要なさそうではあるが。

 

「しかしそれだと、困ったね……」

 

 元帥は気を取り直し、姿勢を正して紅茶を啜りながら、ル級に言う。

 

「ヲ級ちゃんは今、舞鶴鎮守府に居る。君の言うようにヲ級ちゃんの『チカラ』を使うとなると、一度戻らなければならないんだけど……」

 

 そう言って、元帥は落胆する。

 

 今回、ル級の手紙が罠だったとき、もしくは、話し合いがうまくいかなかった場合は、このまま呉鎮守府に連合艦隊で攻撃すると決めていた。

 

 その理由について元帥は語らなかったけれど、時間が無いことは、まず間違いないだろう。今から舞鶴に戻り、ここに戻ってくるときには夜は明けている。

 

 つまりそれは、呉に夜襲をかけるチャンスが失われてしまうのだ。再度編成し直して日を変えるとなれば、更なる費用や資材がかかってしまうだろうし、何より時間が無いと思われる元帥にとって、その方法は非常に厳しいのだろう。

 

 結果、ル級の頼みを聞くことは難しい。それが元帥の出した答えであり、ル級に伝えようと口を開く瞬間だった。

 

「何ヲ言ッテイルノダ?」

 

「「……え?」」

 

 呆気に取られた元帥と俺が同時に呟いた。

 

 ル級は不思議そうな表情を浮かべ、何故か俺の方へと視線を向ける。

 

 いや、俺は何もしてないぞ……?

 

「ヲ級ハ舞鶴ニ居ルト言ウガ、ソレジャアソコニ隠レテイルノハ一体誰ナノダ?」

 

 言って、俺を指差したル級はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 その顔に見覚えのある俺は、ゾクリと背筋が凍り、

 

 更に他の皆の視線も集まって、うろたえてしまいそうになった。

 

 そんな俺を見たル級は、首を左右に振ってから指をクイクイと動かし、

 

「先生デハナク、モット後ロノ方ダ」

 

 ――と、言った。

 

 その瞬間俺は後ろへと振り向き、他の皆の視線もそちらに向く。

 

 そこに見えるのは艦橋の影。

 

 暗くてよく分からないが、ル級は気にせず声をかける。

 

「ジット隠レタママダト疲レルダロウシ、久シブリノ再会ナノダカラ、早ク顔ヲ見セテクレナイカ?」

 

 その言葉が闇に響き、一拍置いた後――

 

 

 

 小さな影が、おずおずと現れた。

 

 

 

 しかも、その数は一つではなく、

 

 まさか六つの影が、俺達の前に現れるとは思っていなかった。

 

「な……なんで……?」

 

 俺はビックリして声をあげる。

 

 ル級を除く他の皆も同じように驚き、口を開けたまま立ち尽くす。

 

 そんな様子を見た影達は、どうして良いか分からずといった風にうろたえながら、その場で止まってしまった。

 

 真っ暗な闇の中でも、俺にはその仕草で誰であるか理解でき、大きくため息を吐きながら、影達に呟く。

 

「……怒っていないから、出てきなさい」

 

「う……うん……」

 

 一つの影はビクリと大きく震えながら返事をし、すぐ近くまでやってくる。

 

 そうして俺の前に現れたのは、幼稚園に居るはずだった天龍だった。

 

「そ、その……せ、先生、ごめんなさい……」

 

 今すぐにでも涙を零しそうな潤んだ目を俺に向けながら、天龍は言う。

 

 続けて後ろから現れてくる子供達は、天龍と同じように謝りながら、俺の周りを取り囲むように集まった。

 

 最初に出てきた天龍は泣きそうで、

 

 その隣に立った潮はすでに泣いていて、

 

 天龍を挟んで潮の反対側に立った龍田は笑みを浮かべ、

 

 同じように悪びれることの無い金剛が右手をあげ、

 

 気まずそうな表情を浮かべる夕立は視線を逸らし、

 

 最後にヲ級が――

 

 

 

 ル級と全く同じように、ニヤリと笑みを浮かべて現れた。

 

 




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 いつもならもう終わっている話数ですが、チラッと前に言った通り……まだ半分です。


次回予告

 ええええええっ、いつの間にっっっ!?
主人公の心の中は大パニック状態。
だけど、良く考えれば思い当たる節はあった。

 そして感動の再会が……恐ろしい悲劇を巻き起こすっ!?

 ……色んな意味で、ゴメンナサイ。


 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その11「我、感動ノ為、戦闘ス」


 乞うご期待!

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