艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 やっぱりル級はル級だった。
悲しくも、罠で無かった事に一安心する主人公。
そして、ル級との話し合いが開始する。


その9「アクタン・ゼロ」

 

 会っていきなり漫才開始。ぶっちゃけて緊張のかけらも無い再会だったのだが、それでも変わりが無いル級を見れた俺は、少しだけ安心していた。

 

 その理由として、罠で無かったというのも大きいのだけど。

 

 命の危機を瞬間的に感じちゃったこともあるし……って、それは勘違いだったのだけど。

 

 でも良く考えたら、皆に対する俺の信頼はガタ落ちした感じなので、危機に変わりは無いかもしれない……が。

 

「あー、先生。それにル級……さん?

 漫才はそれくらいにして、手紙の要件について話し合いたいんだけど……」

 

「あ、はいっ……す、すみません……」

 

 元帥の呆れ返った声に焦った俺は、慌てて頭を下げたのだが、

 

「コレダカラ先生ハ……」

 

 そんな俺を見たル級が両手の平を上に向けて、やれやれ……といったポーズでため息を吐いた。

 

「お前のせいだろうがっ!」

 

「イヤ、ムシロ先生ノツッコミガ原因ダロウ?」

 

「ツッコミがある時点でボケが存在しているんだよっ!」

 

 俺の見事な返しを受けて、またも笑うル級。そして、周りから突き刺さる冷たい視線がグサグサと俺の心をえぐっていく。

 

 うう……マジで勘弁してくれ……

 

「蔑まれてもツッコミを入れる先生……もしかして、不幸に打ち勝とうとしているのかしら……?」

 

 いやいや、そんな大それたことを考えてはいないんですが。

 

 扶桑の呟きに心の中でツッコミつつ大きく息を吐いた俺は、元帥に向かって頷く。

 

 無言で頷き返した元帥は、そのまま高雄に視線を移してアイコンタクトを取り、攻撃体制を解除させた。

 

「それじゃあ、会談を始めよう。

 ――と、言っても真冬の夜空の下では寒いだろうから、中に入るかな?」

 

「イヤ、気遣イハ無用ダ。我々ニトッテ、寒サハソレホド苦ニハナラナイカラナ」

 

「そうか……」と呟いた元帥は、一拍置いてから頷いた。

 

 ………………

 

 いやまぁ、ル級は良いかもしれないけど、俺達は結構寒いんだよね……

 

 一応、ダウンジャケットを着ているからマシではあるけれど、元帥に至っては軍服の上に何も着てないから、かなり寒いんじゃないだろうか……?

 

 話しが長引くと風邪をひいてしまう恐れもあるし、高雄に言って上着を持ってきてもらった方が良いと思い、視線を向けたのだが……

 

「………………」

 

 バッチリ高雄と視線が合った途端、何故か首を左右に振られてしまった。

 

 えっと……俺の言おうとしたことを予想していたのだろうか?

 

 しかしそうであったとしても、寒さで震える元帥を放置するのは、ちょっとばかし可哀相な気がするんだけれど。

 

 ――と、俺は心配しながら元帥を見たのだが、

 

「とりあえず、簡易だけれど机と椅子、それに飲み物を用意させるから少しだけ待ってくれるかな?」

 

「気遣イハ無用ダト言ッタノダガ、続ケテ無下ニ断ワルノモ失礼ダナ」

 

 ――と、全く寒くなさそうな元帥と、何故か礼節正しいル級が言葉を交わしていた。

 

 ……あれ、俺の気遣いは無用だったのか?

 

 心の中の問いに返す者はおらず、俺は仕方なく小さくため息を吐いて紛らわせることにした。

 

 

 

 

 

「大筋ハ手紙ニ書イタ通リ、我々ノ姫ガ、奴ニ捕ワレテイル」

 

 カチャリ……とティーカップの紅茶を啜ったル級は、受け皿に置いて小さく息を吐く。口元から吐き出される息は白く、真冬で深夜の海上がいかに寒いかを物語っていた。

 

「それで、先生に助けを求めてきた。そういう訳だよね?」

 

 元帥も同じように紅茶を啜り、問いかける。ル級は表情を全く変えることなく頷き、俺の顔をジッと見つめてきた。

 

 吸い込まれるかのような澄んだ瞳は、闇に支配されたこの場所で、異様なまでに光っているように見える。

 

「でも、何故先生になのかな? 深海棲艦である君がわざわざ人間である先生に助けを求めなくても、他に仲間がたくさんいるんじゃないの?」

 

 顎元に右手を添えて元帥が問う。

 

 この質問は、本筋である問い以外にも含むことが多くあり、普通ならばル級は素直に答えないだろう。ありのまま答えてしまえば、今回捕われてしまったという姫以外の情報を俺達に渡してしまうことになりかねない。

 

 さすがは元帥――と言いたいところだが、正直に言って、俺はこういう駆け引きはあまり好きではない。だが、舞鶴を背負って立つだけでなく、人類の未来を見据えた行動と考えれば、それも仕方の無いことなのだろう。

 

 もしくは、元中将が裏切ったことの責任に対処するためかもしれない。言わば、元帥も崖っぷちなのだ。

 

 それらの全てを頭の中で考えていた俺は、ル級の口元に集中し、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 ほんの数秒の沈黙が流れ、額に汗が浮かぶ。

 

 そしてル級は目を閉じて小さくため息を吐き、見開いた目を元帥に向ける。

 

「恥ズカシイ話ダガ……」

 

 言って、またもや間を置いて……ル級は語り出した。

 

「深海棲艦ニモ、派閥トイウモノガアル。我々ハ北方棲姫様ノ元ニイルガ、連携ガ取レルノハ港湾棲姫様クライシカイナイ。ソノ港湾棲姫様モ、今デハ何モデキズニイルノダ……」

 

 そう答えたル級。

 

 表情は先ほどと同じまま。

 

 しかし、その声は明らかに重みが違っていた。

 

 それは、八方塞がりで自分達ではどうすることもできないからではない。

 

 ル級が俺達に喋ったことは、戦略的に知られてはいけない事柄で、

 

 弱点と言える事実を伝えなければならない心境が、ル級の声を変えさせたのだろう。

 

「………………ル級」

 

 俺は思わず呟いていた。

 

 誰に聞かせるためでもなく、ル級の思いを知ってしまったからこそ、零してしまった言葉。

 

 深海棲艦の仲間を裏切ってしまってでも、北方棲姫を助けたいという気持ちが俺の心を強く打ったのだ。

 

 そしてその思いは、俺だけではなく、

 

 ここに居る元帥や高雄にも、伝わっていた。

 

「それは……何故なんだろうか? 仮にも捕まっている北方棲姫と同じくらいの港湾棲姫が、何もできないというのは信じがたいんだけれど……」

 

「北方棲姫ガ捕マッテイルカラ、手ガ出セナイ。ソレ以外ニ理由ハ無イダロウ?」

 

「いや、それは変だ。何より僕が今回の件で一番引っ掛かっていることは、人間である元中将がどうやって北方棲姫を捕らえることができたのかなんだよ。

 これまでの戦いで分かっている通り、我々人間の兵器では君達に打撃を与えることはできず、艦娘達に頼るしかない。それなのに今、君達が置かれている状況は、余りにも異質過ぎるんだ」

 

 言って、元帥は真剣な表情でル級を見つめた。

 

 その姿を見た高雄が、ほんの一瞬だけ驚いた表情を浮かべるも、すぐに元の厳しい表情へと戻す。

 

 元帥の言葉もまた、伝える必要が無い内容だった。

 

 人間が深海棲艦に対する手だてが無い。

 

 それは、過去の戦いを振り返れば分かる話ではあるが、言葉にすることで意味合いは変わってくる。

 

 考え方によっては、艦娘さえなんとかすれば、人間を制圧するのは容易いと知らせてしまったのだ。例えそれがブラフであるかもしれないとル級が思ったとしても、言葉で伝えてしまった元帥の責任は軽いモノではない。

 

 元帥は、先ほどのル級の言葉に答えたのだ。

 

 あの言葉を信じ、ル級の思いを汲み取ったからこそ、返事をした。

 

 つまり、この瞬間――

 

 初めて、人間と深海棲艦が交渉の場に立ったと、俺は感じとることができたのだった。

 

 

 

 

 

「ツマリ、何故我々ガ人間……元中将トイウ奴ヲ殺シ、北方棲姫様ヲ助ケダサナイノカ。ソウ、聞イテイルノダナ?」

 

 ル級の言葉に元帥は頷く。

 

 俺も、高雄も、扶桑も同じように頷いていた。

 

 余りにも簡単にできるであろう方法を取らず、俺に頼ってきたル級。

 

 そこには確実に、なんらかの理由があるのは明白である――はずなのだ。

 

「ソノ話ヲスルニハ、北方棲姫様ガドノヨウニシテ捕ワレタカヲ、伝エタ方ガ良イダロウ……」

 

 そう言ったル級は、紅茶を一口啜ってから語り出した。

 

「アノ人間ガ我々ノ元ニヤッテキタ話ハ、手紙ノ通リダ。奴ハ我々ニ己ノ指揮ヲ披露シ、取リ入ッタ。ソシテ、多クノ戦績ヲアゲテ、チカラヲツケテイッタ。

 ソウスルコトデ、奴ハ我々ノ中デ発言力ヲ持チ、ツイニハ北方棲姫ノ近クニ居座ルヨウニナッタノダ……」

 

 ゆっくりとル級の口から紡ぎ出される言葉。

 

 それは何の違和感もなく、昔話をしているものと同じように聞き取れる。

 

「ソンナ状況ヲ好マナイ者ト、気ニシナイ者。二ツノ派閥ガ我々ノ中ニ生マレ出シタ頃、奴ハ本性ヲ現シタ。敵ト戦ウタメノ作戦ト称シ、無謀ナ策ヲ使ッテ、奴ヲ好マナイ者達ヲ少シズツ排除シテイッタノダ」

 

 過去にもあったであろう、一部の権力者が辿ってきた道筋。それを、元中将は深海棲艦の中でやってのけた。周りは敵だらけであるにも関わらず、己の力だけでそれをやってのけたのは、ある意味称賛に値するかもしれない。

 

「ソレニ気ヅイタ我々ハ、派閥ニ別レル仲間ヲ説得シ、奴ヲ追イ詰メヨウトシタ。気ニシナイ者達ノ多クハ、勝利デキル喜ビニ酔イシレテイタダケダッタノデ、冷静ニナッテ状況ガ危険デアルコトヲスグニ理解シタ。マァソレデモ、奴ノ方ニツイタ者モイナイ訳デハ無イノダガ……」

 

 そうなれば、独裁者は転落の一歩を辿ることになる。崖から足を滑らせば、後は転がり落ちるだけ――

 

「ダガ奴ハ、我々ヨリモ早ク先手ヲ打ッタノダ。北方棲姫様ヲ捕ラエルトイウ手段ヲ持ッテ……」

 

 言って、ル級は一息つくように息を吐く。

 

「そこまでは分かった。だけど、やっぱり僕が先ほど言った通り、元中将が北方棲姫を捕らえることができたとは思えないんだよね」

 

 元帥の言うことはもっともで、周りの皆は一様に頷いている。

 

 そんな中、ル級だけが表情を曇らせ、口を開いたり閉じたりと、戸惑うような仕種を見せている。

 

 仲間を裏切る言葉を吐いたときでさえ、表情を変えなかったル級が、

 

 まるで、悪いことをした子供が親にばれて叱られているときみたいに、うろたえているのだ。

 

 しかしこのままでは先に進めないと思ったのか、ル級は大きく息を吐き、元帥の顔を見ながら口を開いた。

 

「一ツ……問ウ。北方棲姫様ノ好キナ物ヲ知ッテイルカ……?」

 

「好きな物……?」

 

 問われた元帥は頭を捻り、考えるような仕種をした。

 

 そんな元帥を見つめる高雄と扶桑が、ほんの少し引き攣ったような顔を浮かべている。

 

「想像は……できなくはない。だけど……いや、だからこそ……ありえることなのか……?」

 

 独り言を呟く元帥の額には汗が浮かび、表情が徐々に変わっていく。

 

 それは、驚いたモノではなく――

 

 どちらかと言えば、呆れたモノに――見えてしまった。

 

 そして、その表情は高雄も扶桑も同じであり、それを見たル級は言葉を待たずに口を開いた。

 

「一人以外ハ分カッタヨウダガ……」

 

 何故か、俺の顔をガン見して。

 

「あ……え、えっと……」

 

 ル級の顔にうろたえた俺は、どうして良いのか分からずに、両手をワタワタと動かした。

 

 ぶっちゃけちゃうと、ル級の言った通りである。答えなんか、分かるはずが無い。

 

 だって、触り程度の話を聞いたことがあるだけで、北方棲姫がどんな深海棲艦か全然知らないのだから。

 

 提督になるために勉強した書籍に、その名前は載っていなかった。名前を知っていたのも、食堂で話す艦娘達の会話をたまたま聞いたことがあるだけなのだ。

 

「先生は提督じゃないから知らなくても仕方ないさ。むしろ、知っている方がおかしいんだよ」

 

 俺をフォローする元帥の言葉を聞いたル級は、やれやれと言った風にため息を吐いてから語り出した。

 

「北方棲姫ノ好キナ物。欲シガル物ハ、ゼロ……ナノダ」

 

「ゼロ……?」

 

 聞き返すように呟いた俺に、皆が一斉に頷いた。

 

 こんな状況に置かれると、もの凄く恥ずかしくなっちゃうんですけど……

 

「零戦だよ、先生」

 

「あっ……」

 

 元帥の言葉で理解した俺は、手を叩いて納得する。

 

 でも、なんで零戦なんか欲しがるんだ……?

 

「後ハ言ワナクテモ理解デキルダロウガ、先生ノタメニ、ヒト肌脱イデヤル」

 

 そして何故か、ル級は言葉ではなく自らの服を脱ごうとする。

 

「いや……そういうのはやんなくていいから、さっさと話してくれ」

 

 ジト目を返す俺。

 

 そうじゃないと、周りの目が痛過ぎるんで。

 

「ムゥ……重イ空気ニ飽キテキタノニ……」

 

 若干凹みながら呟いたル級であったが、確かに空気は変わったようだ。

 

 もちろん、悪い意味でだけど。

 

「先手ヲ打ッタ奴ハ、北方棲姫様ニ烈風ヲ見セテ誘イダシ、ドコカニ監禁シタラシイノダ。ソノ場所ハ分カラズ、奴ニ危害ヲ加エテシマエバ、北方棲姫様ガ捕ワレテイル場所ガ分カラナクナル。ソシテ、我々ガ従ワナケレバ北方棲姫様ヲ解放シナイドコロカ、アラユル手段ヲ使ッテ死ニ追イヤルト言イ、無謀ナ作戦ニ付キ合ワサレルコトトナッタノダ……」

 

 そう語ったル級は椅子もたれ、俯くように身体の力を抜いた。

 

 自分にはどうすることもできなかった。

 

 己の未熟さを痛感し、うなだれる姿は人間と同じに見える。

 

 決してわざと、そんな姿を俺達に見せ付けるようにしているのでは無い。

 

 それは、ル級の顔を見れば明らかで――

 

 悲しみと、苦悩に満ちた色が、顔全体に表れていた。

 

「「「………………」」」

 

 誰も、何も言えない。

 

 それは、深海棲艦と自分達が同じだと気づいたから。

 

 それをこの場所に来る前から知っていたのは、俺一人だったと思う。

 

 心の中で秘めていた思い。皆に知ってもらいたかったこと。

 

 ヲ級を連れて帰ってきたときに、しおいと話し合ったときに、何度か伝えはしたけれど、

 

 言葉で伝えても分からないモノは、見て、知るしかない。

 

 そして、この瞬間――皆は知ってしまったのだ。

 

 

 

 人と、艦娘と、深海棲艦は――ほとんど変わりが無いのだと。

 

 




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次回予告

 彼らは考えてしまった――戦う相手が同じではないかということを。
 彼らは知ってしまった――戦う相手も仲間意識があることを。
 ならばどうするのか――と思う皆の耳に、新たな事実が突き付けられる。

 艦娘幼稚園 ~決戦、呉鎮守府~ その10「flagship」

 乞うご期待!

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