艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 もう一度言おう。どうしてこうなった。

 天龍とあきつ丸から始まった言い合いは止まる事を知らず、
 まさかのメイド服論争へと発展してしまう。

 更には聞き逃せない言葉に反応してしまった主人公によって……


その5「メイド服は多種多様」

「異議ありっ! 確かにナイスバディな女性にミニスカメイド服は栄えるかもしれないけど、ちっちゃなつるぺたガールも需要はあるよっ!」

 

 あきつ丸の爆弾発言から開始されたメイド服論争は、白熱した戦いとなっていた。

 

 ……ちなみに大声をあげながら立ち上がって、あきつ丸を指さしたのは時雨の姿である。

 

 ………………

 

 とりあえず言わせてくれ。

 

 時雨に何があったんだっ!?

 

「確かにそれも一理ありますな。しかし、あくまでその需要は全体から比べると些細なもの……であります」

 

「待つのです! その一部を無視するなんて、ダメなのですっ! 大きな塀であっても、小さな傷を無視すればやがて崩れてしまうこともあるのですっ!」

 

 あきつ丸の言葉に対し立ち上がったのは電だった。いつもの弱気な電ではなく、確固たる意志を持って机を両手で叩いた……って、本当に何をやっているんだよおまえ達は……

 

 俺は椅子に座って席に両肘を着き、頭を抱えながら悶絶しかけている。

 

 おかしい。この状況は明らかに変過ぎる。

 

 なんでちっちゃな子供達が揃いも揃って、メイド服に関する論争で白熱したバトルを広げているんだよ……

 

 更に言えば、しおいは面白そうにソワソワしながら見ているし、愛宕も満面の笑みで見守っている。確かに、子供達がこうやって話し合うというのは決して悪いことではないとは思うのだが、それにしたって題材が問題だ。

 

 もうちょっとこう……子供らしい題材とか……無いのだろうか。

 

「デスガ、やっぱり成熟した女性にクラシカルなメイド服は完璧デスネー。私も大きくなったら是非着てみたいデース!」

 

「こ、金剛お姉さまのメイド服……比叡は気合いが入りますっ!」

 

 目をつむって顔を真っ赤にし、両手で机をバンバンと叩く比叡の鼻からタラリと赤いモノが流れているんですけど……

 

 言っても聞かなさそうなので、俺は何も言わずに比叡の後ろに回り込んで丸めたティッシュを鼻に詰めてやった。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

「は、榛名は……比叡お姉さまが羨ましいです……」

 

「ん、何か言ったか榛名?」

 

「い、いえっ、何でもありません……」

 

 ボソリと呟いたような気がして振り返ってみると、榛名も同じように顔を真っ赤にして俯きながらそう言っていた。

 

 ふむ……白熱しすぎもどうかと思うが、愛宕は未だ動かずって感じだし、とりあえず子供達の様子を見続けることにするかと思っていたのだが……

 

「しかし、あまり男性に媚びを売るのはどうかと霧島は考えます。確かにメイド服は男性趣向に合った服装かもしれませんが、元々は作業用の服であって、それを武器にするようなものでは……」

 

 ――と、霧島が少し不満げに立ち上がって喋った内容を聞き、思わず俺は大きく口を開いてしまった。

 

「異議ありっ!」

 

「「「……え?」」」

 

 一同、俺の顔をガッツリと見る。

 

 そして頬に流れる一筋の汗。

 

 …………………

 

 これは……やっちゃった……?

 

「あ、いや……その……」

 

「先生は……メイド服がお好きなのですか……?」

 

「き、霧島。それは……思い違いというやつであってだな……」

 

「でもそれなら、どうして大声で叫んだっぽい?」

 

「い、いや……俺はそんなに真剣に言ったつもりは……」

 

「あら~。ガチで真顔だったわよ~?」

 

「き、気のせいじゃ……ないかな……?」

 

 冷や汗を背筋にダラダラとかきながら弁解する俺の顔を、ジト目半分、真顔半分の子供達が見つめてくる。ちなみにしおいは、驚いた顔から既に感心したモノへと変えながらなにやらメモを取っているし、愛宕は変わらず満面の笑みのままである。

 

 できれば助けてほしいんだけど……そんな気は無さそうである。

 

 まさに四面楚歌。孤立無援。

 

 やっぱりこの幼稚園はどこかおかしいよっ!

 

「「「………………」」」

 

「………………」

 

 俺と子供達は一歩も動かずに睨み合い、そして1分ほどが過ぎようとした時、時雨が手を挙げた。

 

「愛宕先生。僕に提案があるんだけど」

 

「はい。なんでしょうか~?」

 

「明日から幼稚園の制服として、メイド服の導入を提案したいんだけど……どうかな?」

 

「却下で~す。あなた達の服装は、単なるお洒落の為じゃないのですよ~?」

 

「むぅ……やっぱりそうだよね……」

 

 ガックリと肩を落とした時雨が席に座り、子供達は一同に重いため息を吐いた。

 

 そして、部屋中に沈黙が流れ……って、何だよこの状況は!?

 

 そんなにメイド服が良いのかっ!? そりゃ俺だって好きだけどさっ!

 

 ……って、暴露しちゃっているよ俺。心の中だけど。

 

「確かにみなさんの言いたいことも分からなくはないですけどね~。妖精さんに頼んで、服装の改造ができないわけでもないですし……」

 

 ――と、愛宕が言った瞬間、子供達の顔がパァァ……と明るくなる。

 

 それは火に油を注いでいるのと一緒なんですけどっ!?

 

「でも、もしそうなっちゃった場合、間違いなくやっかいな虫……じゃなくて、元帥とか一部の提督がイヤラシイ目をしながら覗きにきちゃいますよ~?」

 

「「「……うっ」」」

 

 焦った表情や嫌そうな顔を浮かべる子供達。

 

 ……いや、それ以前に元帥とか提督のことを虫って……言ったよな?

 

 色んな意味で恐るべしなんだけど……元帥だから仕方ないね。

 

 まさに日頃の行いが何とやら。身から出た錆である。

 

「とりあえず、みなさんがメイド服が好きな事は、よ~く分かりました。討論もしっかりしていましたけど、一つ忘れていることがあるんじゃないでしょうか~?」

 

 愛宕が右手の人差し指を立ててニッコリと笑みを浮かべながら子供達に問う。

 

 子供達の視線は愛宕の指へ。

 

 愛宕は続けて指を下に向け、机を指差した。

 

 それを見た子供達は愛宕の指の先を見て、そしてゆっくりと自分達の机を見る。

 

 そこにあるのは、お弁当箱。

 

 子供によっては、まだ食べきっていない……お弁当箱がある。

 

 重い沈黙と冷めていく部屋の空気。

 

 何人かの子供達はガタガタと身体を小刻みに震わせながらお箸を取ろうとするが、手がいうことを聞かないのか何度も机の上に落として音を鳴らす。

 

 そんな子供達を見ながら、愛宕は口をゆっくりと開き……

 

 

 

「死にたい船は、どこかしら~?」

 

 

 

 ――と、呟いた。

 

 ………………

 

 いやいやいやっ、それ違う子のセリフですからっ!

 

 ――って、数人の子供と何故かしおいまでもが、天井を見上げながら泡を吹いて気絶しているんですけどっ!?

 

 いったい子供達に何をしたんですかっ、愛宕先生ーーーっ!?

 

 そう心の中で叫びながら、俺は愛宕の顔を見る。

 

 そこには「どうしたのでしょうか?」と言いたげな愛宕が、不思議そうな表情で俺の顔を見つめ返していた。

 

 ………………

 

 何を言ってもヤバイ気がした俺は何も言うことができず、

 

 ただ、愛想笑いを浮かべながら――席に座りなおしたのだった。

 

 

 

 

 

 気絶した子を介抱し、まだ食事が終わっていない子をやんわりと急かして食事を終えさせた後、俺は後片付けに入っていた。

 

 ちなみにしおいは気絶しっぱなしだったのだが、先に子供達の方を済ませるべく放っておいた。酷い風に取られるかもしれないが、慣れない仕事をやり始めて疲れていたのもあるんじゃないかという先輩ながらの心遣いと思ってくれるとありがたい。

 

 まぁ、ぶっちゃけた話をすると、メイド服論争の時に助けてくれなかったお返しなんだけどね。

 

 ううむ。小さいぞ俺。

 

 そんなこんなで食事の後片付けを終わらせた俺は、休憩していた子供達を連れてお昼寝先である大部屋へ連れて行った。その部屋には、俺が食事の後片付けをしている間に布団を敷いてくれていた愛宕が待っていて、子供達に向かって笑顔を向けていた。

 

「お食事の後はちゃんとお昼寝しましょうね~」

 

「「「は、はい……」」」

 

 元気が無い返事をする子供達だが、これは仕方が無いだろう。未だ身体を小刻みに震わせている暁が、愛宕の顔を見ないように俯きながら、そそくさと自分の布団に入って――って、完全に心に傷を負っているレベルじゃね?

 

 本当に何をやったんですか……愛宕先生……と、本日何度目かの心の呟きをしつつ、子供達を布団に寝かしつけていく。

 

「あ、あのさ……先生……」

 

 布団に入った天龍が、俺の顔を見つめながら口を開く。

 

「ん、どうしたんだ、天龍?」

 

「えっと……俺が料理するのって変かな?」

 

「いや、全然変じゃないぞ。それに、自分のやりたいことは気が収まるまでやれば良いんだ。もちろん、それが他の人とかに迷惑がかかることならダメだけど、色んな経験を積むのは悪いことじゃないからな」

 

 そう言って、横になっている天龍の頭を優しく撫でてやった。

 

「うん……そうだよな。別に変じゃないよな……」

 

 呟きながら笑みを浮かべた天龍は、少し恥ずかしそうに頬を赤くさせながら「ありがとな、先生……」と言って、掛け布団を頭のてっぺんまで被った。

 

 うむ。恥ずかしそうにする天龍か。

 

 ちくしょう……ちょっと可愛かったぞ……

 

 だが俺は先生なので、変な気は起こさない。もちろん俺と天龍が喋っている間、ずっと睨みつけるようにしていた龍田が怖い訳ではない。

 

 なんだか他からの視線も刺さっていたような気がしたけれど、周りを見渡してみてもそれらしきモノは見当たらない。まさか青葉が……とも思ったけれど、この前のことを考えれば可能性は限りなく低いだろう。

 

 ともあれ、子供達全員を寝かしつけ終えた俺と愛宕はお互いに頷いて部屋の外に出た。

 

「お疲れ様です、先生」

 

「お疲れ様です。次は洗濯物ですよね?」

 

「ええ。そろそろ一回目の洗濯が終わると思いますので、しおい先生と一緒に干していただけると助かります~」

 

「了解です。それじゃあ、いつも通りに……」

 

 そう言って、俺は洗濯室へと向かおうとしたのだが、

 

「あっ、先生。一つよろしいですか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 呼び止められて振り向く俺の視界に、とんでもないモノが現れた。

 

 いつもと変わらない愛宕。ただ、その手には広げた布切れがあり、

 

「先生って、こんな感じのメイド服がお好みなんでしょうか~?」

 

 ――と、問い掛けられたのだった。

 

「い、いや、その……ですね……」

 

 なんで持ってんの?

 

 つーか、いつの間に持ってきたんですかっ!?

 

「実はロッカーの中に色々と~」

 

「心の中を読んだ挙句に返答しないでくださいっ!」

 

「先生は読みやすいですからね~」

 

「ってか、論点はそこじゃないですよねっ!?」

 

 なんでよりによって、超ミニスカタイプのメイド服なんですかっ!? しかも、胸元が露わになっちゃうタイプって……もはやメイド服かどうかも怪しいよっ!

 

「結構似合うと思うんですけどね~」

 

 ……それって、愛宕自身が着たらってことでファイナルアンサー?

 

 ………………

 

 胸部装甲をガッツリ目視しちゃいますよっ!?

 

 やっぱり昔ながらのクラシカルタイプで丈は長い方が好きなんだけど、愛宕が着るなら完全に俺の好み変わっちゃうじゃんそれーーーっ!

 

 つーか、やっぱりメイド服最高っ! 異論は認めないっ!

 

 なんでメイド型艦娘とか居ないんですかーーーっ!?

 

 ………………

 

 あー、いや……そう言えば、一人居たような居なかったような……まぁ、いいや。

 

 あれは漢字がちょっと違った気がするし。冥土だった気がするし。

 

「……で、どうでしょうか先生?」

 

「あ、え、えっと……はい。凄く似合うと思います……」

 

「本当ですか~♪」

 

 満面の笑みを浮かべて喜ぶ愛宕だが、その服を着たところを想像してしまい、恥ずかし過ぎて直視できない。

 

 このままだと、出会ったばかりの状況に戻って、JOJO立ちしなくちゃいけなくなっちゃうよっ!

 

 そんなところを青葉に撮られた日には……生きていけなくなっちまうっ!

 

 暫く幼稚園には近づかないとは思うけど、青葉の鼻を舐めちゃダメだっ! スクープあるところに青葉あり……確実に狙ってやってくるっ!

 

 それを防ぐには……やはりこれしかないっ!

 

「そ、そそっ、それじゃあ俺は洗濯物を干してきますねっ!」

 

 俺は叫びながら通路を走り、愛宕から離れるように逃げ去った。

 

 うぅぅ……色んな意味でもったいなかったよなぁ……

 

 けど、不審者扱いされちゃうのもあれだから……と嘆きつつ、ひとまずしおいを呼びに部屋に向かう。

 

 

 

 もちろん平常時に戻る為、部屋の前で落ち着かせてから……ね。

 




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次回予告

 昼食後のお昼寝タイム。そして洗濯タイムへと。
しおいに仕事を教えながら、俺はいつものように仕事をこなしていた。

 一段落して休憩中。
しおいが昼食中に俺の顔色が変わったことを指摘する。
過去の自分の考えや、今までの出来事を話すうちに……とんでもない情報がもたらされたっ!?


 艦娘幼稚園 ~新規配属されました……であります~ その6「捏造したのはヤツの仕業」

 乞うご期待!

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