きちんと読んで返事いたしますので、ご了解の程よろしくお願い致します。
新章突入ですー。
雨が降る前にお菓子を買いに行こうとする先生とヲ級。
ちょっとばかりコンビニ店長には引き気味だけど、あれからは問題もない……と思っていた矢先のことだった。
その1「言っとくけど、真冬だからね?」
とある日の夜。
天気はどんよりと曇り空。星が雲の隙間から微かに見えるが、気になるのはこれから降るであろう雨のことである。
最近の天気予報の的中率はかなり高く、今日は夜から雨が降るらしい。それを新聞の天気欄で知った俺は、夜食用のお菓子が切れていたことを思い出し、雨が降る前にコンビニに行こうと決めた。たまたま傍にいたヲ級も会話の流れでついてくることになったのだが、つい先日の事件を思い出して少々戸惑ったものの、弟の頼みとあらば断ることもできず首を縦に振ってあげるのが兄の務めでもある。
もちろん、普段の日常での行動の範囲であることをあしからず。間違っても一緒に寝ようという提案には首を左右に振る。そうでなければ、次の日から俺は暗い地下室で過ごすことになるからだ。
何故そうなるのかと言われれば俺も困ってしまうのだが、最近舞鶴鎮守府では仕置人という人物の噂が広まっているのである。何か悪いことをすれば、その人に酷い目にあわされるらしいのだ。
世話になる気は全くないし、俺から悪いことをしようとも思わない。しかし、例えヲ級からであったとしても世間体的に具合の悪いことであるのは確かなのだ。
いったい何を話しているのだと思う方もいるかもしれないが、ヲ級の一緒に寝ようという提案は完全にエロいこと前提である。
年齢以前に元兄弟。現在は深海棲艦という種族すら変わってしまってはいるが、とてもじゃないがそんな気にはならないし、年齢的にも大問題である。それに、現在の俺とあいつの関係は兄弟だけでなく(性別的には兄妹だが)、先生と教え子という立場でもあるのだ。
それなのに手を出した――なんて誤解が広まっては、間違いなく仕置人とかいう人のお世話になるのは必定。確実に暗い地下室行きなのだ。
……こほん。
少し話が逸れてしまった感じはあるが、問題が起こらないことであればヲ級の頼みを聞くのは兄の仕事であるということを理解してほしい。それが、小さい頃に死別してしまった俺のせめてもの償いと考えているのだ。
さて、話を戻そう。
そうして俺とヲ級は鎮守府の正門を通って外に出た。もちろん門衛はしっかりと俺の顔を覚えてくれていたし、拳銃を構えられることもなかったのだが、ヲ級が随時目を光らせる――というかは完全に睨んでいたのが大きかったのかもしれない。
もしかすると、一人で門を通ろうとしたらまだダメなんじゃないかと思ってしまったりもするが、そうであればしっかりと説明して覚えてもらうしかない。その場合、言葉だけでは済まないんだろうけれど。
仏の顔も三度まで……と言うからね。
まぁ、そんなちょっとした冗談は置いといて、それからいつものコンビニへと向かって歩いていた。他愛のない会話をヲ級としながら、手を繋いでいると、本当にこの間のことを思い出してしまうのだが、以前とは違ってヲ級を観察する為に後をつけている訳でもなく、コンビニの店長とも顔見知りになったので問題は起こらないと――思う。
正直に言えば、違うコンビニに行く方が気は楽なんだけどね。
ただまぁ、別のコンビニはここから結構遠いし、品揃えが微妙なんだよな……
それに、ヲ級の目当てであるデザート類はいつものコンビニがベストだそうだ。何やら生クリームのクオリティがかなり良いとか言っていたが、俺にはその違いがイマイチ分からない。
それを一度話したことがあるのだが、その時ヲ級は激怒して、
「乙女ニ甘イモノハ必須ナンダヨ! オ兄チャンモ、ソレクライノコトハ分カッテヨネ!」
――と、大きな声で説教させられた。しかも正座で小一時間。
お前は元男だろうと何度も言いたかったのだが、男の娘だったのだからその考えは間違っていないのか……? ――と、何やらややこしい思考のループにはまってしまい、説教は右耳から左耳へと流れていくだけだったのはここだけの話である。
まぁ、元々そんなに詳しく聞く気もなかったと言えばそれまでなのだが。
そんなことを考えながらいつもの道を歩き、途中にある橋を渡っていた時に小さな鳴き声のようなモノが耳に入ってきた。
「ん……なんだ?」
少し高めの小さな声。悲しみに満ちたようなソレは興味を持つには十分であり、ヲ級も同様に不思議そうな表情を浮かべながら辺りを見回していた。
普通に考えれば捨て犬なんかが橋のたもとに段ボール箱に入れられて……と、そんな感じを思い浮かべるんだけれど、残念ながらそれらしき物体は見当たらなかった。
橋のたもとには――なんだけど。
「オ、オ兄チャン。川ニ浮カンデイルノッテ……」
「ああ……完全に段ボール箱。しかも子犬入りだな……」
それはもうベタベタな展開しか思い浮かばない。
寒空の下、川の中に入れば確実に凍えてしまうような気温。そんな状況下で子犬が今にも崩れてしまいそうな段ボール箱の中にいて泣き声を上げている。
これを見逃すなんてことは、やっちゃあいけないんだろうけれど……
川に飛び込むのは自殺行為だよなぁ。
川の深さもハッキリ分からないし、安全に助ける方法は無いかと俺は辺りを見回した。すると、橋からほど近いところにある壁梯子が目に入り、そこから川の近くへと降りることができそうだった。
「よし……俺はあそこから下に降りるから、ヲ級は何か長めの棒とかそういうのを探してくれないか?」
「ソレハ良インダケド、僕ノ艦載機ヲ使エバ段ボール箱ヲ引ッ張レルンジャ……」
「その場合、犬が驚いて暴れてしまうと川にハマってしまわないか?」
「アッ……確カニ……」
ハッと顔を上げた後しょげたヲ級だが、良く考えればこんな会話をしている暇はない。こうしている間にも段ボール箱は流され、手が届かないところまで行ってしまう恐れがある。
「とりあえず、今言ったことを頼んだ……」
「それじゃあ遅いです!」
「えっ!?」
梯子に向かおうとした瞬間、急に後ろから聞こえてきた声に驚いた俺は咄嗟り振り向いた。そこには女子中学生くらいの少し小柄な女の子が、今まさに橋の上から川に飛び込もうと助走をつけ、
「どぼーんしてきますっ!」
プールに飛び込むように、勢いよく橋からダイブした。
ドッボーーーンッ!
「えええええっ!?」
俺は慌てて橋から身を乗り出して川を見る。
「ちょっ、沈んだまま浮いて来ないぞっ!?」
――と、そう言った途端、水しぶきが上がった場所からゴポゴポと泡が浮き上がり、うっすらと影が水面に見えた。そしてその影は素早い動きで流れていく段ボール箱へと近づき、急に水面から空中に浮き上がった。
「ぷはーーーっ」
どうやら女の子が段ボール箱を両手で持ち上げていたんだけれど……
いやいやいや、今の気温分かってるのっ!?
確実に風邪ひいちゃうレベルだよっ! ――ってか、今冬だかんねっ!
「泳ぎにくいからこっちに来て受け取って下さいっ!」
「あ、ああっ! 分かったからちょっと待って!」
女の子の声を聞いた俺は急いで梯子を下り、川に近づいて段ボール箱を受け取った。
その中には脅えるようにブルブルと震えていた子犬が悲しそうな目をしながら、俺の顔を見上げている。
「もう大丈夫だからな……」
落ち着かせるように優しく頭を撫でてから後に続いてきたヲ級に段ボール箱を預け、俺は急いで女の子に手を伸ばそうとしたのだが……
「よいしょ――っと」
軽々と川から上がってきた女の子は濡れた服をまったく気にせずに額を腕で拭い、ニッコリと笑いながら近づいてきて箱の中の子犬を見た。
「うん。元気そうだね! 良かった良かった」
「あ、ありがとう。だけど、そんなに濡れていたらこの寒さじゃ……」
「ん? あ、全然大丈夫。これくらいいつものことだから!」
言って、女の子は満面の笑みを浮かべる。
「い、いや……しかし……」
「本当に大丈夫ですって……って、そういえば用事の途中だったんだっ!」
「あっ、ちょ、ちょっと、君っ!」
「それじゃあねー、先生っ」
「……え?」
きびすを返しながら手を振った女の子は、梯子を上がらずにそのまま川に沿って走って行き、見えなくなった。しかし、そのことよりも気になるのは……
「俺のことを……知っていた……?」
今確かに、俺のことを先生と女の子は言ったのだ。だけど、俺は女の子を見た記憶は無いし、話したのも初めてだと思う。
「………………」
そんな俺にジト目を向けていたヲ級は大きなため息を吐き、
「……デ、コノ犬ヲドウスルノカナ?」
「……あっ」
俺に、新たな問題がぶち当たったのだった。
次回予告
犬を抱いて三千里……ではなく、コンビニについた主人公とヲ級。
そこで出会った店長に、子犬の飼い主をと聞いてみたのだが……
艦娘幼稚園 ~新しい仲間がやってきた!~
その2「ア~ク~ロ~ス~」
乞うご期待!
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