艦娘幼稚園   作:リュウ@立月己田

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 艦娘幼稚園100話目になります。

 長々とお付き合い頂いた方々にお礼と感謝を。
そして、これからも宜しくお願い致します。




 ビスマルクは佐世保へと帰って行った。
しかし、主人公はすっかり忘れかけていた。比叡、榛名、霧島からロリコン扱いされていた事を。
――そう。この話は、ビスマルクが帰ってからすぐのお話です。


~金剛4姉妹の恋~
その1「またもや犠牲者が?」


「断固」

 

「お断り」

 

「致します」

 

 順に発せられた言葉に、俺は肩を落とす。

 

 そんな姿を、比叡、榛名、霧島は不機嫌な表情のまま睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 まず、どうしてこんな状況になってしまったのかを説明しよう。

 

 とは言っても、先日佐世保からやってきたビスマルクと子供達を幼稚園に案内する際の事を知ってくれている方なら、大体は理解してくれていると思うのだが。

 

 俺が初めて幼稚園にやってきた日、金剛から急に抱き着かれたのが始まりである。それから毎日のようにタックルをしてくるのに耐えながら、怪我をしないように受け止めてやったのがいけなかったのか、金剛はいつしか俺を未来のハズバンドと呼ぶ事になった。問題は他の子達も俺を好いてくれているらしく、それはそれでありがたい事なんだけれど、子供らしからぬ行動を多々取る事があり、そこにヲ級が編入して余計な事を言いまくったおかげで、俺の争奪戦が行われる事態にまでなってしまったのである。

 

 結果は俺の勝利で終わったのだが、そのおかげで愛宕からのご褒美とヲ級を鎮守府内に紹介する事ができたので、結果オーライといえば聞こえは良い。その裏で何かが行われたような気がするが、それを知ろうとする気は無いし、危険な事にはできる限り触れたくない。

 

 それから金剛は以前と同じようにアタックをしてくるので、何も変わってはいなかった。ただ、その状況を妹達が良しと思わなかったのが問題なのである。

 

 長く会えなかった姉にやっと会えたと思ったら、いきなり彼氏を紹介された。普通に考えればその相手がどんなヤツなのか――と考えるだろう。もちろん俺がその立場なら同じ事を考えるだろうし、そこについて異論を挟む気は無い。

 

 ここでの問題は、金剛の説明による誤解によって俺がロリコンであると認識されてしまった事である。それとハッキリと言っておくが、俺は金剛と付き合っていない。あくまで先生と園児という間柄である。

 

 俺には前々から気になっている女性がいるし、つい先日には他の女性から告白されてしまったのだ。そりゃあ、子供達を見て可愛いなぁと思いながら家にお持ち帰りしたくなる衝動を抑えたりもしているが、決してロリコンではないと断言しておく。

 

 ……本当だよ?

 

 抱きしめて頭を撫で撫でしながら布団の上でゴロゴロしたいとか思ってないよ?

 

 え、説得力が無い?

 

 でもでも、これって普通の可愛いもの好きの思考だよね!?

 

 ………………

 

 ごほん。

 

 話が逸れたので元に戻そう。

 

 つまりはその後、比叡、榛名、霧島に俺がロリコンと誤解されて、近寄りたくないと言われてしまった翌日の事だった。

 

 

 

 

 

「あら~、先生のどこがダメなのかしら~?」

 

 肩を落としてへこんでいる俺を見ながら、愛宕は3人に問い掛けた。

 

「ロリコン先生が私達の担当になったら、翌日には妊娠しちゃうじゃないですかっ!」

 

「ぶはっ! なんつー事を言うんだよっ!」

 

 そんな事を言われては落ち込んでる場合じゃないと、俺は声を荒らげた。しかし比叡は、全く動じないどころか完全無視といった感じで、愛宕に顔を向ける。

 

「金剛お姉様が今まで大丈夫だった事が奇跡なんです! だから私達だけでなく、金剛お姉様もこのロリコン先生の担当から離してください!」

 

「う~ん……そう言われてもねぇ……」

 

 愛宕は困った表情を浮かべながら頭を捻る。これが子供から出た苦情であれば、今までの経験から宥めすかす事もできようが、比叡と霧島は少し前まで普通の艦娘だったのだ。身体的能力は子供になってしまっているが、頭脳に関しては以前のまま。つまり、小さな身体に大きな頭脳。どこぞの名探偵と一緒なのである。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。昨日にも話したけど、俺はロリコンじゃ……」

 

「残念ながら裏は取ってあります」

 

 俺の反論を遮るように霧島が言葉を挟んだ。眼鏡のブリッジを指で押し上げる仕種は子供じみたソレではなく、大人の雰囲気を漂わせる。

 

「金剛姉様はともかくとして、天龍、時雨、雷、電、そして以前は弟だったヲ級。この子達は胸を張って先生を嫁にすると言ってます」

 

 旦那じゃなくて嫁なの……?

 

 つーか、その発言は天龍だけじゃなかったのかよっ!

 

「濁してはいましたが、他の子達も先生の事を好いているみたいですね。まぁ、若干歪んだ子もいましたけれど」

 

 言って、霧島は少し目線を逸らした。

 

 歪んでるって事は……龍田辺りだったりするんだろうか。

 

 嬉しかったり怖かったり。ううむ、複雑な気分である。

 

「そんな状況に置かれ、唯一の男性である先生が……一切手を出さないとは考えにくいっ!」

 

 ビシッと俺に向けて、霧島が指を突きつける。

 

「男は狼! 甘い誘惑の言葉を囁きかけて、油断したところをパックリいっちゃうのは目に見えていますっ!」

 

「偏見にもほどがあるっ!」

 

「偏見なんかじゃありません! 国民的アイドルの歌にだって、ちゃんとありましたっ!」

 

 よ……よりにもよって歌からかよ……

 

「ちなみに霧島ちゃんは、どのアイドルの事を言っているのかしら~?」

 

「ピンクとかおニャンとか、これでもかってくらい歌いまくってます!」

 

「「「………………」」」

 

 霧島の言葉に俺達は言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くす。

 

「……ど、どうしたのかしら?」

 

「あー、いや、その……さ。ふ、古過ぎないかなって……」

 

「人の趣味にケチつけないでくださいっ!」

 

 大声で怒鳴った霧島は、大きく頬を膨らませて腕組みをした。

 

 なるほど……単に趣味だったって訳ね……

 

 別に悪い事は無いんだけど、愛宕や俺どころか、身内である比叡や榛名まで目を逸らしてるんだけど。

 

「と・に・か・くっ! 先生は非常に危険な存在ですから、金剛お姉様や私達の担当になんてなってほしくありません!」

 

「困りましたねぇ~」

 

 そんな全力ともいえる霧島の訴えを聞いて、愛宕は先ほど以上に頭を捻った。そんな愛宕の顔を、比叡、榛名、霧島が睨みつける。

 

「実は、金剛ちゃんからも要望を聞いてるんですけど、あなた達とは全く正反対なんですよ~。『手を出すのは許さないケド、先生の魅力は知ってほしいデース!』と、是非先生の担当でよろしくって言われてるんですよね~」

 

「こ、金剛お姉様がそんな事を……?」

 

 ビックリした表情を浮かべた榛名がそう呟くと、比叡と霧島は不愉快な顔で小さく舌打ちをした。

 

 ……いやいや、ちょっとマナー的にどうなのかと思うのだが。

 

 仮にも子供の姿なんだから、もうちょっと……ね……

 

「榛名、金剛お姉様がそう言うのは読めていたはずよね?」

 

「で、ですけど……榛名はやっぱり金剛お姉様の意思を尊重する方が……」

 

「その結果、金剛姉様が不幸になっても良いと?」

 

「そ、それは……」

 

 比叡と霧島に説得され、榛名は顔を伏せた。

 

 つーか、2人は言いたい放題だよなっ!

 

 ちょっぴり怒っちゃいそうだぞ、俺っ!

 

「とにかく、ロリコン先生が担当なんて事は、何があっても許す事ができませんっ! もし聞き入れてくれないなら、直接元帥に訴えに行きますっ!」

 

 床を思いっきり踏み付けた比叡が愛宕に告げる。

 

 さすがにその言葉を聞いては、俺も黙ってはいられない。幼稚園の中だけでなく、外部(元帥は幼稚園の設立者だけど)まで影響を及ぼそうとするのを見逃す訳にはいかない。

 

「ちょっとまってくれ……って、え?」

 

 口を開いた俺の目の前に愛宕の手の平が突きつけられ、頷きながら一歩下がる。

 

 ぶっちゃけて情けない姿だけど、上司である愛宕を優先するのは当然である。

 

 面子は……丸つぶれかもしんないけど……ね……

 

「分かりました~。それじゃあこうしましょう~」

 

 愛宕はそう言って、両手をパンッと叩いてニッコリと微笑んだ顔を比叡に向ける。

 

「……ひっ!?」

 

「あれれ~、どうしたんですか、比叡ちゃん~?」

 

 ゆっくり、ゆっくりと愛宕は比叡に向かって歩を進める。

 

 その1歩1歩が地響きを鳴らすかのように感じられ、俺は口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

 

「ちゃんと話し合って納得しないといけませんから、2人きりになりましょうか~」

 

「あ、あわわわわわ……っ!」

 

 後ずさる比叡が部屋の片隅に追いやられ、壁に背をつけてガタガタと身体を震わせる。

 

「そんなに震えなくても大丈夫ですよ~。別に取って食う訳じゃないんですから~」

 

 ガッシリと比叡の頭を掴んだ愛宕は、笑みを浮かべたまま俺達の方を見る。

 

「それじゃあ先生、暫く子供達をお任せして良いですよね~?」

 

「は、はいっ! お任せくださいっ!」

 

 俺の返事に頷いた愛宕はコクリと頷いて、比叡の首元の襟を掴んでズルズルと部屋の外へ向かっていく。

 

「た、助けてっ、榛名っ、霧島っ!」

 

 声を上げて助けを求めるが、榛名も比叡も、そして俺さえも、身体をピクリと動かす事ができないくらい固まってしまっている。

 

「さぁさぁ~、久しぶりの指導室ですよ~」

 

「ひ、ひえぇぇぇっ!」

 

 比叡の悲鳴は徐々に遠ざかり、部屋の扉が閉められると同時に聞こえなくなった。

 

「「「………………」」」

 

 重い空気が部屋中に充満し、耐えられなくなった俺は何とか口を開く。

 

「……と、とりあえず……2人が帰ってくるまで、この話は保留という事で……良いな?」

 

「は、はい……分かりました……」

 

 3人はそう言って頷き合い、安心と落胆が混じった大きなため息を吐いた。




次回予告

 またもやこのオチかよと思った貴方! 正解だよ?(ぉ

 いやいや、これで終わらないのはいつものこと。
比叡は尊い犠牲になっちゃったけれど、はたしてどんな状態に?
それは、いきなり語られます……

艦娘幼稚園 ~金剛4姉妹の恋~ その2「ガン見レベル1」


 乞うご期待!

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