ガタンガタン――と、響く音は線路を走る列車の音である。
ジャポンの国内を網の目のように走っている電車の一つに、よく見慣れた人物がそれぞれ立った状態で乗車をしている。
「なぁ、ビスケ? ……ビスケってばよ?」
「……何よ?」
眉間に皺を寄せ、幾分不満の色を浮かべながら言うユーマに対して、見るからに不満全開といった表情のビスケが返事をする。
ユーマはそんなビスケの反応に少しばかりムッとするが、ソレを飲み込んで質問をビスケへとぶつけることにする。
「なんだって、俺がビスケの仕事に付き合わないとイケない訳?」
「そんな事は、私のほうが聞きたいくらいだわさ」
現在の状況が全くと言っていい程に掴めていないユーマの問だったが、ビスケの答えは随分と完結的なものであった。
今現在、ビスケとユーマの二人は幻海の元を離れて行動をしている。
少し前までユーマのストレスはマッハだったのだが、前回の様な発散方法を適度に挟むことで修行にも身が入るように成っていた今日このごろ。
ビスケの持っていた文明の利器(携帯電話)に、一本の着信があったのだ。
内容は『コーラルの所在が判明、連絡されたし』といった内容だった。
連絡を受けた直後のビスケの眼の色がキラキラと輝いていたことを考えると、その例の物というのはカナリの価値が有る物なのだろう。
元々、幻海はビスケの協力を仰いだものの、明確な期間を設けては居なかった。未だ一人前とは言い難い状態のユーマを、半ば放り出す形になってしまうが、とは言え入ってきた情報を無視したくもない。そう考えたビスケは、一時的に間を開けるとことを幻海に申し出たのだが――
「あぁ、ソレじゃあ丁度いい。コイツに実戦を見せてやっておくれよ」
といった、軽い口調で幻海に注文を付けられてしまった。
無論、ビスケは断った。
自分が長年探し求めていた逸品に、手が届くかという瀬戸際なのだ。そんな中、半人前にも満たないユーマをプロの現場に連れて行くなどもっての外である。
しかし――
「あー、そうかい。まぁ、そういう事なら別に良いがな。元々コッチは頼む立場だからね、そんなに強くは言えないさ」
「や、やけにアッサリと引き下がるわね?」
「無理を通す話でもないだろうに。……ただ、ね」
「ただ?」
「お前さん、この写真を幾らで買う?」
「写真?」
懐からピッと取り出した一枚の写真。
ビスケは何事とかと思い、その写真を注視すると――
「んなぁああああああああああああ!!!」
「よく撮れてるだろ?」
「幻海! アンタ!」
「この写真、今回の報酬としてお前さんに渡そうじゃないか」
「いつの間に、そんな写真を……」
「よろしく頼むよ」
結果、一枚の写真に翻弄され、脅し同然にユーマを連れて歩くことに成ってしまったビスケなのであった。因みに、写真にはビスケの本当の姿が写されていた。
閑話休題
ビスケとユーマが向かっている場所、だが、それは同じジャポン国内であるトーキョーである。ジャポンの首都であるその都市に、ビスケはとある人物を訪ねに行くのだとか。
スルスルと流れていく車窓からの景色を眺めつつ、ユーマは
(こんなことするくらいなら、修行してるほうが良いのに……)
と、現在の状況に文句めいたことを考えていた。
もっとも、ユーマが理解をしていないだけで、幻海は今回のことを修行の一環だと思っているし、当然任せられたビスケもある程度はそのつもりである。
そのため、ユーマが考えているほど、コレからの時間は優しいものではないのだが……まぁ、今はソレを知るすべはない。
因みに、電車内はそれなりに席も空いているのだが、二人は決して座ろうとしない。これはビスケから、
『アンタ、どうせ暇だとか思ってるんでしょ? だったら少しの時間でも身体を鍛えられるように、爪先立ちでもしてなさいな』
との御達しがあったからである。
ソレを律儀に護る辺り、ユーマの調教は順当に進んでいるようである。
※
目的の駅に到着してから、ユーマは色んな意味で面を喰らうことに成った。
「コッチだわよ、ユーマ」
「こ、子供扱いすんな!」
トーキョーは都会である。
つまり人が多い。
山奥から出てきたユーマは、紛れも無くお上りさんであった。
人混みに飲まれてアッチへふらふら、コッチへふらふらと流されるユーマを、ビスケは腕を掴んで引っ張っていく。反抗するように声を上げるユーマだが、力では明らかにビスケのほうが強く、振り解こうにもどうすることも出来そうになかった。
ユーマは子供扱いされることが恥ずかしいのだろうが、とは言えビスケにしてみれば迷子にでも成られたらその分だけ余計に時間を食うことになるのでユーマの意見は却下であるし、そのうえ他人が見れば、先ず間違いなくお姉さんに引率されている様にしか見えない為、周囲の者達が干渉してくることは先ず無いだろうだろう。
「グヌヌヌヌ――!!」
「余計な労力を使わせるんじゃないわさ。……それとも、気絶させて無理やり運ばれたいのかしら?」
「――ッ!? ……ぐ、畜生」
「解れば良いのよ」
尚も腕を引き剥がそうと(無駄な)努力をしていたユーマに、ビスケが幾分どすの利いた声で脅しをかける。ユーマはその声に普段の組手を思い起こされ、アッサリと抵抗を諦めるのであった。
「目的の場所は、そんなに遠くはないわ。簡単に言えば裏の職業斡旋所――って、言ってもアンタにはまだ解らないか」
「知ってるよ、ハロー何とかだろ?」
「『何とか』って言ってる時点で、解かったとは言えないでしょうよ?」
若干呆れたように溜め息を吐いたビスケだったが、ユーマの歳相応にも見える反応に幾分表情を綻ばせていた。ビスケがユーマの腕を掴んで歩き出し、10分程が経っただろうか? お通りから裏通りへと入り込み、狭い路地を抜け、薄暗い日陰の更に奥、人通りの皆無であろう地下へと続く階段の前に、二人は到着をする。
「此処だわよ」
「いったい、なんなんだ、此処?」
「流石に、言わなくても解るようだわね」
感の鋭い者や、念に目覚めているものならば、この場所の異質さがより際立ってよく分かるだろう。階段の先……そこから、来る者を拒むようなオーラが漏れているのだ。
来る者に害を与える類の物ではないが、それでもこの念を浴びれば無意識にこの場所から生き物は遠ざかっていくであろう。
簡単に言えば、この場所に来ようとするもの以外を、自然と遠ざけてしまう念が、この場所から発せられているのだ。
「此処はね、念能力者御用達の場所なのよ」
「能力者の?」
「そう。凄腕の人間を雇いたいって連中が、こういった場所に求人なんかを出したり、情報提供を求めたりしてるのよ。……もっとも、情報の量や正確さで言ったら、ハンターサイトの方が圧倒的なんだけどね。ただ、中にはこういった所にしか出回らない情報も有るのよ」
ビスケの説明に途中からチンプンカンプンな状態になってきたユーマだったが、取り敢えず頷いておこうと考えて
「成る程」
と、答えながら首を縦に振る。ビスケはそんなユーマの反応に、
(コイツ、きっと私の説明を全く理解してないわね)
なんて、見事に看破するのだった。
「――邪魔するわよ」
階段を降り、古臭い木製の扉を押し開けながら、ビスケは店の中へと入っていく。
中は予想通りに薄暗く、地下に造られているから当然だろうが、陽の光も届かない陰気臭い場所であった。
「おや、客かい? ――っと、ビスケか? 随分と早くに来たもんだな」
対応をしてきたのは、この店の店主だろうか?
寝ぼけたような顔をした、中年の男である。
「ずっと探してた情報だもの、そりゃ急ぎもするわよ」
「それもそうか。……しかし、そっちの坊主はなんだ?」
「コイツは一応、私の弟子になるのかしらね? 知り合いに、暫く預かるように頼まれてね」
「へぇ、あのビスケット・クルーガーに頼み事ねぇ」
店主は何か、関心したような呟きを漏らしてユーマをまじまじと見つめている。ユーマはその視線に、少しだけ居心地の悪さを感じていた。
「それで? 例の情報ってのは?」
「あぁ、お目当ての『コーラルダイヤモンド』のことだろ? ちゃんと調べは付いてるぜ」
寝ぼけたような表情は其の侭ではあるが、ビスケに向かってビッとサムズアップをしてみせる店主。なんともチグハグな感が否めないが、それでもビスケの表情には喜色が浮かぶ。
「ビスケ、コーラルダイヤモンドって?」
「私が宝石専門のハンターだって、前に話したこと有ったかしら?」
「いんや。――ってか、ハンターって何?」
「其処から!? ……まぁ、簡単に言うと多種多様な専門職ってところよ」
「解ったような、解らないような」
「まぁ、私の場合、変わった宝石を探し出すことを仕事にしてる――ってことで納得しなさいな」
「了解。んで、コーラルダイヤモンドってのは?」
「それはね……」
と、ユーマは世間一般では常識と成っているような、ハンターという職種について殆ど何も知らないような状態だったようだ。近いうちにそういった、一般的な常識の部分も含めて教育せねば――と、ビスケは思いつつ、もう一つの質問内容であった『コーラルダイヤモンド』について説明をする。
~コーラルダイヤモンド~
名前にダイヤモンドと入ってはいても、コレは宝石としてのダイヤモンドは全くの別物である。一般的にダイヤモンドは炭素原子の同素体であり、単純な石と言うのとも少し違うが、その特徴的な原子配列によって見るものを魅了する光の屈折率と、輝きを持つに至る。
しかし、このコーラルダイヤモンドは炭素ではなくカルシウム。名前からも解るように、海に存在する珊瑚(コーラル)なのである。
ヨルビアン大陸などでも産出される希少種、ベニシラエ珊瑚が基ではないか? とも言われるが、この珊瑚は成長過程でその本体部分の根っこに『無色透明の骨格』を幹の部分に形成する事がある。とは言え、この珊瑚の寿命は酷く短く、一般的には約5年。長い物でも10年は無いとされているのだ。
5年で産出される量は僅かに数グラム。10年でも10グラムに届くかどうかといった量しか取れず、とてもではないが宝石に加工するには少なすぎる。しかし、件のコーラルダイヤモンドは噂に登るだけでも約100グラム相当の大きさであり、仮にベニシラエ珊瑚が創りだしたのだとしても推定100年以上の珊瑚から取り出されたことになる、超一級品なのだ。
「――しかも、たいように翳すと、こう無職の部分が淡く紅色に発色するらしくてね。もう、私はソレが欲しくて欲しくて♡」
「そ、そうなんだ」
嬉々として宝石について語るビスケに対し、ユーマは若干引き気味に成りながら相槌を打った。まぁ。『聞かなきゃ良かった』とでも思っているのだろう。
「それでねぇ――」
「オイ、ビスケ。そろそろ良いか? さっさと情報のやりとりを済ませたいんだが?」
未だに語り足りないのか? 続けて説明をしようとするビスケに、店主の方から待ったが掛かる。ビスケはそれで動きを止めると、若干不満そうにではあるが
「ん~、ソレもそうだわね。解ったわよ」
と、納得をして店主の方へと向き直った。その隙に、ユーマはホッと溜め息を吐き、心底に助かった――と思うのだった。
「金額は2000万ジェニーだ、先払いだぜ?」
「良いけど、ちゃんとした情報なんでしょうね? 私の知ってる内容だけだったら、後で酷いわよ?」
「……怖いこと言うなよな」
店主は軽口の中に、ほんのちょっとの苦笑いを混ぜる。
そしてカウンターからカードリーダーを取り出すと、ビスケはその機械に一枚のカードを通した。ユーマは目聡くそのカードに目を通すと、其処には幾つかの数字と記号が羅列されている。
とは言え、クレジットカードやキャッシュカードとは違った物のようであった。
「……認証完了。当然のことかも知れないが、本物のハンター証だな」
「当たり前でしょ」
「解ってるよ。登録されてる口座から、2000万ジェニー引き出すぞ?」
「良いわよ、やって頂戴な」
「ホイッと……」
ビスケの同意を得た後で、店主は手元で何やらキーボードをカタカタと操作して手続きを済ませていく。すると程無くして作業が終了したようで、店主は寝惚けたような表情を若干笑みへと変化させる。
「よし、入金を確認したぞ。早速、情報の伝達を始めよう」
ビスケは店主の話に、若干前のめりに成って耳を傾け始めた。
「コーラルダイヤモンドの行方を語った数々の逸話……お前さんは知ってるよな?」
「勿論知ってるわよ。元々、コーラルダイヤモンドが最後に確認されたのは、100年ほど前。当時のアイジエン大陸に有る、クルソン国立美術館に展示されていた。しかしある日、その美術館からコーラルダイヤモンドは忽然と姿を消す。一説には『凄腕の泥棒が盗んだ』なんてモノから、『美術館側が秘密裏に売却した』なんて物までが有ったけれども詳細は不明。でもその後、世界各地でコーラルダイヤモンドのその後を語ったトンデモ話が後を絶たずに語られるように成った」
余程のこの手の話が好きなのだろうか? 相変わらず喜色満面といったビスケの説明は、普段の修行中以上に活き活きとして見える。
その後に続けてされたビスケの説明によると、なんでもコーラルダイヤモンドのその後は、『裏社会の人間が代々受け継いでいる』や『海の底に沈んでいる』や『既に粉々に砕かれて存在しない』などと、多岐に渡るらしい。
「――とまぁ、コーラルダイヤモンドに関する逸話はこんなところかしらね?」
「ふへぇ~、流石は宝石専門のハンターだ。空でよくもまぁそれだけスラスラと言えるもんだな」
「おべっかは要らないから、早くアンタの方で仕入れた情報を教えなさいよ」
「その坊主に聞かせても良いのか?」
「構わないわよ。今回はこの子にも手伝わせるつもりだし」
「そんな子供にか?」
ビスケの言葉が余程に驚きだったのか? 男は訝しむように眉根を顰めてユーマを凝視する。しかしユーマは『そんな子供』の部分に反応をしたようで、
「なんだよオッサン、イチャモン付けるつもりか?」
と、まるでチンピラのような台詞を吐いて睨みつける。
もっとも、念が使えるとはいえユーマは子供だ。10歳にも満たない子供の声でそんな事を言われても、当然『凄み』など有るわけもない。
「ビスケ……俺、スッゴい睨まれちゃったぞ?」
「絡んでないで、さっさと仕事しなさいよ。ユーマも、いちいち突っ掛かるんじゃないわさ」
「……解ったよ」
ムスッとしたままにであるが、鼻を鳴らしながら返事を返すユーマ。ビスケはやれやれ――といった風に息を吐くと、
(やっぱり、まだまだ子供だわね)
と、そう思うのであった。
「ウチで仕入れた情報ってのは、まぁ、昔からあった与太話の延長みたいなもんなんだが」
「与太話の延長? ……ちょっと、そんな情報に2000万とか吹っ掛けたわけ?」
「話をぶった斬るなよ? ちゃんと聴き終わってから判断してくれ」
「解ってるわよ」
「……内容は、お前さんも知ってる『海の底に沈んでる』って内容の延長さ。元々、その話しの最初はある富豪が買い取ったものを輸送中に――って話だっただろ?」
「そうね。でも結局、その船の存在が確認されることはなかった」
「そのとおりだ。買い手だと言われた金持ちも、そんな事実はない――って、答えていたらしいからな」
「そうね。でも、態々そう言うってことは、何か新しいことが解ったんだ?」
問いかけるビスケに対し、店主は口元をニヤリと持ち上げて笑みを浮かべた。
「クヌギ・ゴロウ教授って知ってるか?」
「クヌギ? ……さぁ? 聞いたことないわね。どんな人なのよ?」
「主に民俗学の研究してるって人なんだが、その教授さんがつい最近に成って、とある企業の海洋調査チームに協力依頼をされてな」
「民俗学の教授が、海洋調査に?」
腕組をしながら、店主の言葉に同意するように頷くビスケ。
ユーマは既に話について行けていないようで、難しそうに眉間に皺を作っていた。
「変な話だろ? 元々、この教授ってのが結構な変わり者らしくてな、世界中の奇妙な逸話について調べてるって専らの噂なんだよ。んで、件のコーラルダイヤモンドについても、海底に沈没してるって主張してたらしいんだ」
「……確かに不思議な話ではあるけれど、その教授が海洋調査に協力依頼をされたってだけじゃ、お宝の確かな情報とは言えないでしょ?」
「話には続きがあるんだよ」
言いながら、店主はカウンターの下から数枚の便箋を取り出した。
そこには何らかの建物が映しだされている写真と、何人かの人物の顔写真が一緒に添付されている。
「これは?」
「M/D(ミッシングディテクティブ)コーポレーションの社長と、会社の概要を調べた物だよ」
「それって、もしかして教授に依頼をしたっていう?」
「そうだ。教授に協力を要請したっていうこの企業は、元々遺跡発掘(トレジャー)が専門の企業らしくてな、海洋調査なんて言ってても、ヤルことは毎回宝探しがメインに成ってるんだ」
宝探し――とは、なんとも心の踊る言葉ではあるが、しかし今回の場合はそういった、『男のロマン』的な話だけでは事は済まないような雰囲気である。
「今回も宝探し(ソレ)が目的なんだろうが、問題なのは教授がその協力要請を断ったってことだ」
「要請を断った? どうしてよ? だって、タダで研究内容を調査してくれるってことでしょ?」
「あぁ。教授からしてみれば、自身の調べてきた内容が正しいってことを証明する、またとない機会な訳だ。だってのに、その話を教授は蹴ってる。此処で出てくる可能性としては、教授の調べてる内容が取るに足らない内容で、とても人前に出せない代物だった場合と、もしくは、噂通りに例の企業が録でもない連中だったって場合だな」
店主の説明に耳を傾けながら、ビスケはM/Dコーポレーションに関する資料に目を通していく。すると、その会社の運営に携わる人間の項目で視線を止めた。
「この会社って、プロハンターが運営してるわけ?」
「どうやら、そうみたいだな。ハンター連中ってのは、それだけで普通の人間よりも優れた能力を持ってる。そういった連中で徒党を組んで――まぁ雇ってって事だけど、そうやって人を集めて手広い仕事を行ってる。中には要人警護から、マフィア紛いの脅し専門の部署まで有るって話だな」
「マフィア紛いって言うより、それじゃマフィアの企業舎弟と変わらなじゃない」
「まぁ、実際の所、念の能力者が社員をやってるって意味じゃ、下手なマフィアより厄介だろ」
普通に話を聞くだけでも、かなり真っ黒な会社とトラブルを起こしていることが容易に想像がつく。ビスケは若干面倒になりそうだ――なんて思いながら、ホンの少しだけ溜め息を吐いた。
「因みにM/Dの連中、教授に断られたってのに、何度もしつこく教授にアタックを続けてるらしいぞ。そのことを踏まえて考えると……」
「教授の研究内容が取るに足らない内容だ――って可能性は、低い、か」
「そー言うことだ」
「ふーん。成る程ね、解ったわ。教授の自宅の住所は、ちゃんと教えてくれるんでしょうね?」
「別料金――と言いたいところだが、サービスしておくよ」
「当然でしょ」
一瞬ギロッと視線の強くなったビスケの迫力に押されてか、店主は苦笑いを浮かべる。ビスケはそんな視線の強さの変化などまるで無かったかのように、直ぐ様に柔らかい笑みを浮かべて微笑みを返していた。