東方天魔録   作:ミユメ

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やぁ。ご機嫌麗しゅう。皆さん。
うん、まあ、やっとの思いで出来ました。すんません。
謝って許してもらおうだなんて思っていない。
しかし新しいこの話が投稿されているのを見て、読者様は何とも言わぬ「懐かしさ」を感じたのではなかろうか。
たぶんこの先も少し長くなるようになると思うので、その気持を忘れないで欲しいな……。
ではまえがきはここまでにしておき、本編をどうぞ。


―其之4― 春冬異変 上

「――それでね、■■■ったらこう言ったのよ。友達なんか出来る訳ないってね」

「もー、■! そんな昔の事話さないでよ!」

 

 桜の花びらが舞う庭の縁側で、三人が楽しそうに話し合っていた。

 私はその三人の後姿をただ呆然と突っ立って見ていた。

 体が動かない。声が出せない。そんな中で私は何も疑問を抱かずに、ただその光景を目にしていた。

 

「あっはは! 友達が出来ない訳がないでしょ」

 

 二人は笑い、一人はむっと頬を膨らませているかの様に見える。顔がぼやけてよく見えない。それどころか、後姿も曖昧である。

 ただ見える色は、右からピンク、黄色、緑。

 ……何故だろう。こんな光景を、話を聞いていると、懐かしいと言う感情が心の底から湧き出る。

 こんな記憶ないのに、何で……。

 

「私は嫌われてるもん。私を好む人はおかしいわ」

「あらあら、じゃあ私達はおかしいのかしら」

「当然」

「何それ酷いッ」

「ふふっ、まあ良いじゃないの■。私達はおかしいでしょ?」

「認めたくないわぁ……」

「ふふふっ」

 

 手で口元を少し隠しながら笑っている様に見える黄色の人。

 あの人、何処かで……。貴女は、誰?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆーきーやこんこん、あーられーやこんこん。ふってーもふってーも……あれ、この後なんだっけ」

「よいしれず。じゃないのかの」

「んー、そうだったような、そうじゃなかったような」

 

 場所は天狗の里の天魔の屋敷。その一室で私と美咲はテーブルを囲んでべちゃべちゃとそんな事を話していた。

 私は呆然と庭の風景を見ながら呟き、美咲はゆっくりと二つの湯飲みに茶を注ぐ。

 

「それより、良いのか?」

「なにがー」

 

 私は美咲の方に顔を向けると、湯飲みを私の前に置いてもう一つの湯飲みに手をやり、一つ啜った。

 なんとものんびりしている様な……。

 

「決まっておろうに。今は春じゃぞ」

「おぉおぉ、おめでたい季節だよねー。何? お年玉でも欲しいの?」

「たわけ、まだ雪が降っている事に何も疑問に思わんのかお主は」

 

 雪が降っている。そう、美咲が言っているとおり今は雪が降っているのだ。春だというのに、何ともおめでたい事である。……たぶん。

 庭には雪が積もってり、開けている襖から寒い風が通り抜ける。

 おぉ寒い。

 

「これは異変じゃろ」

「まあ、異変よ。これは」

 

 まあ確かに異変だ。って言うか、はなから存じている。

 では何故向かわないのか。

 そりゃあ、まあ……何と言いますか。大人の事情と言いますか。怖いなーっていうか。しんどいっていうか。めんどいっていうか……。

 寒いの嫌いで御座る。

 だが行かない限り、冬は続く。いや、続きはしないか。けど冬が長くなる。

 

「じゃあ何故行かん」

「いや何処に行けと」

「異変解決に決まってるじゃろ」

「それは巫女の仕事」

 

 異変解決は巫女の仕事である。まあその他の人が解決しても良いには良いのだが、私は少し抵抗を持つ。っと言うか、原作では巫女が解決するのに、それを私が解決するのもおかしな話だ。それに最悪、未来が変わりかねない。

 故に、ただ遊びで行っている。紅霧異変の時も同じ理由であり、紫からの依頼があってだ。

 

「じゃあ今回は行かぬのか」

「いや行くけども。見るからに異変の元凶が居る場所が冥界だし……」

「死後の世界か」

「そうそう。死後の世界」

 

 冥界――簡単に言えば死後の世界と言えばひとくくり出来る。もしくはあの世、であろう。

 冥界には霊魂……つまり、肉体とは別の精神的実体である。肉体から離れたり、死後も存続することが可能だ。

 そんな冥界に生身で行けと申すか。無理無理。

 

「何故元凶が冥界に居ると分かったんじゃ?」

「勘」

「お主らしいな……」

 

 実際はゲーム上の情報だけどね。

 私は湯飲みを片手で手に取り、少量飲む。

 うむ、温い。やっぱ冬だからかなぁ……。

 ため息を吐き捨てると、白い息が口から出る。こう言うのを見ると、本場の冬だなと感じさせられる。春だと言うのに。本当に、春だと言うのに……。

 

「たのもー!!」

「んにゃ?」

 

 突如として現る者。私は声がした庭の方へと再び顔を向ける。

 

「何者じゃお主等」

「あたいはチルノだ! よーく覚えとけこのバカっ!」

 

 ……おぉう。あの馬鹿が現れたか。

 水色髪のショートヘアで、白いシャツの上に青と白のワンピースを着て、美咲に指を差している彼女。

 彼女は氷の妖精こと、バカで有名なチルノだ。

 妖精内では随一に最強とされちているが、知識では最下位とされている。それもそのはず。馬鹿なのである。

 

「ちょっとチルノ、人に指を差さないの。……私はレティ・ホワイトロックです」

 

 チルノの指を降ろさせながら答えたのは、雪女であるレティ・ホワイトロック。

 薄紫または薄水色のショートボブに白いターバンのようなものを巻き、ゆったりとした服装だ。

 この二人が合わせて来るか……。チルノはもう一度対面しているものの、レティに関しては一度も会った事がないな。

 いや待て、その前に……。

 私はチラッと美咲の方を目だけで見る。無表情にも近い様な顔。これは少し怒っているかな。

 美咲は他人に図々しい態度を取られるのはあまり好まない。それは長い間の付き合いで分かった事だ。

 

「はぁ……美咲、ちょっと」

 

 一度溜め息を吐き捨てて美咲を手招く。すると美咲はテーブルの下を潜り抜けて私の方へと向かい、顔だけをひょこりと出す。

 

「なんじゃ」

「なんじゃじゃないわよ」

 

 私は美咲の頭を撫でる。するとどうであろう、美咲はみるみる内に機嫌が戻っているのが分かる。同時にチルノ達が居る方向とは逆の方に顔を向けて横になった。恥ずかしいのであろう。

 前から美咲は、こうして頭を撫でられるのが好きであり、こうしていると機嫌が戻ったりする。だがその頭を撫でられるのは私だしかできないらしく、他の人がすると噛み付いたり機嫌を悪化させる事となる。

 彼女曰く「茜は初めて妾に頭を撫でてくれた者だ。他の人が触れると感触が違くて反吐が出る」との事。

 

「あ、申し訳ないわね。この子の機嫌ちょっと悪いのよ」

「そ、そうなんですか」

「弱っちい体ね!」

 

 チルノの言葉に、美咲の片耳がピクリと動いた。

 

「あっはは、まあ仕方ないよ。狐は寒いの苦手だもの」

「へぇ、そうなんだ!」

 

 全くもって嘘ですけどね。

 

「で、貴女達は何で此処に……? って言うか、どう入ってきたの」

 

 そう言えば、彼女達が侵入してきていると言うのに、全く白狼天狗やその他の者達が来ない。

 

「あぁ、それは……会った者達を片っ端らから私が凍らせて来たんです」

 

 こ、凍らせてって……。大丈夫なのかその凍らされた天狗達は。

 

「あ、少々凍らせた程度なので、死に至るものでもありません。数時間経てばそのうち元に戻りますよ」

「そうなんだ。じゃあ良いか」

 

 案外天狗が無事ならそれで良い派。

 

「それで、今日此処まで来た理由なのですが――」

「冬を終わらせてほしい!」

「……です」

「は?」

 

 へ? え?? 冬を終わらせて欲しいとな。あんたらにとっては最高に良い時期が続いていると言うのに、これはどういうことだ。

 

「その、もうそろそろ満喫したから、終わらせておきたいなって思いまして」

「雪女がそんな事を言いますかな」

「……疲れてきたんです」

「さいで」

 

 つまり子供みたいにはしゃぎまくって、疲れたから寝たいみたいな感じか?

 

「んー、何で私に頼むの?」

「アタイが教えたんだ!」

 

 いやなにを。

 

「最初は冬を終わらせて欲しいと巫女に頼んだのですが、寒いから嫌だと言って断られ、次の宛が無かったので今度は何処に頼もうかと考えているとチルノが来て、前の異変で解決しに行こうとしていた妖怪が居ると聞いて……」

「私なら前の異変みたいに今回も解決してくれるだろう、と」

「はい」

 

 ほげええええええええぇぇぇぇぇーっ! 何か変な誤解されているような!? 別に私は解決しに行ったんじゃなく、遊びに行ってただけなんですがっ! この様な結末を辿るとは、くっ……なんたる屈辱。

 

「駄目でしたら、諦めます」

「……良いわ、引き受ける」

「本当ですか!」

「まあ、行かなきゃなんなかったしね。どうせ」

「お! やっぱしアタイを倒しただけの事はある人だ!! 頼れる!」

 

 はて、ご期待に答えられるかどうか……。なんせ、私は解決しに行くんじゃない。ただ紫からの依頼をこなすだけである。ただまあそろそろあの巫女も、動き出す頃だと思うんだけどね。

 

「さーて美咲、そういう事だからちょっと出掛けるわね」

「……茜」

「うん?」

 

 立ち上がろうとすると、美咲は私の服を掴んで止めてきた。

 

「死ぬのか」

「へ?」

「行き先は冥界、なんじゃろ?」

「あぁ、そう言うことね。大丈夫、死なずに行けるよ」

「そうか……」

「何、死んでほしかった?」

 

 冗談ぎみに言ってみると、美咲は顔を私に向けてお互い見詰め合う。真剣な顔であった。

 

「はいはい、嘘よ嘘。美咲がそんな事望まない狐だってのはもう知ってるわよ」

 

 最後にぽんぽんっと軽く頭を叩く。美咲は掴んでいた手を離し、また顔を横にする。

 んー、こんな事初めてだなぁ。どう対処するべきか全く検討もつかない。だがまあ、大丈夫であろう。たぶん。きっと、うん。

 私は立ち上がり、軽く伸びをしてチルノとレティの方へ向かう。

 

「んじゃ、この里出るまで一緒に行こうか。まぁた天狗凍らせられたら堪ったもんじゃないし」

「あ、はい。分かりました」

 

 

 

 

 っと、まあ。色々かくかくしかじかで天狗の里を歩いている。

 ……しかし今更なんだが、何故レティが敬語なのか分からりゃあせん。こんなキャラだったかな? まあ原作と同じってのはあまりに有り得ない話でもあるのだが。

 

「何でれてぃはコイツに敬語なんだ?」

 

 ここでチルノが私に指を差してレティに問う。

 おうふ、流石やチルノ。恐れを無くしてその態度、まじぱねぇ。しかも私が聞きたかった事を質問してくれた。まじぱねぇ。冗談抜きでまじ(以下略)

 いやまあ、私は別に誰に対してもそう怒りはしないから良いけども、他の人だとキレるんだろうなぁ……うん。

 

「チルノ、貴女は馬鹿だから感じ取れないのかも知れないけど、この人は……」

 

 言葉を止め、ジッと私を見てくるレティ氏。何か弄りたくなる。

 

「そんなに見詰めて、私の顔に何か付いてる?」

「何も」

 

 冗談半分で言ってみるが、レティは私から目を離して前に向き直る。

 

「兎に角チルノ。貴女は少し黙っていなさい」

「なんでだ?」

「…………はぁ」

 

 流石チルノ天然だっ!

 レティがチルノを見て呆れているご様子。

 まあレティよ、仕方がないよ。だってこの子チルノだもん! 簡単な問題出されてもほぼ必ず外れると言う超お馬鹿な最強妖精(笑)だから仕方ない。

 てかてか、チルノは気付いていないと思うが、回りの天狗が痛い目で見れてるよ。まあ痛い目ってか、憎い目ってか、殺気立ってるってか……あぁ、なんだろ。わかんね。

 取り敢えず、どれかの目で見られている。どれかって言ったらどれかだ。

 っと、色々語っているうちに私達は天狗の里の門へと辿り着いていた。そして定番の門番が居る。

 私の里では、私の屋敷の門番。里の門番っと、私に会う為には二つに渡ってセキュリティー擬きを通らなければ行けない。めっちゃめんどくさいよね。ね?

 大丈夫。私もものすんごいめんどくさいなって思うから。

 じゃあ何故辞めさせないかって言うと、この門番の設置は私がしたわけでは無いからだ。天狗達が話し合い、勝手に決めたことである。故に何を言っても辞めてくれない。辞めてと言っても「これは全て天魔様の安全の為です」の一言である。

 よくあるゲームで何度話しても同じ文しか出ないNPUの如しである。

 ……あれ、ってかよく見たら門番の髪が白髪だ。

 え? まさか知らない間に門番さん年取った!? 私が知らない間に……なんてこった。

 まあ取り敢えず。

 

「ご愁傷様です」

 

 っと、優しく門番さんに言う。

 

「え、何がです?」

 

 そして当然、疑問に思う門番さんであってだな。

 と言うか門番さんと言うか。

 

「何で白狼である椛が門番しちゃってるの?」

 

 そう、椛である。あの椛である。葉っぱのほうではない妖の方。

 

「えぇっと、何と言いますか、ついさっきの話ではあるのですが。此処を通ろうとした時に大天狗様が私に少しの間留守番を頼むと言って何処かに……」

「なるほろ。ご愁傷様です」

「……はい。お気遣いありがとうございます」

 

 ぺこりと一礼する椛。葉っぱのほうではない妖の(以下略)

 

「これからお出掛けですか?」

「うん、そうそうお出掛け。ちょっくら冥界行ってくる程度だよ」

「へぇ、冥界……え、冥界!?」

 

 冥界を二度言ってそれが何処かが気付き、驚きの声を上げる椛。葉っぱのほうでは(以下略)

 

「死んで行くつもりですか!?」

「たぶん……そうなるかも」

「やめてくださいよ!」

 

 ちょっと真顔で茶化してみたり。

 やはり椛で遊ぶのは楽しいものだ。わんわん。

 

「まあご冗談。別に死ななくても行く方法はあるから」

「え、そうなんですか?」

「うん」

 

 まあその冥界って場所が何処にあるか分かんないんですけどね。取り敢えず原作では何か大きい四角い柱が四つある所にあったから、たぶんそこに行けば良い。

 しかしだな、私は一度この幻想郷をぐるっと一周回ったことが何度かあるが、そんな大きい柱を見たことがない。

 やはり、原作と現実の違いなのであろうか……。まあ探すだけ探すけどね。無かったら死んでいくかも。

 

「ところで、そちらに居られる二人は?」

 

 椛が私の左右を見て言う。

 

「レティ・ホワイトロック、よ」

「アタイはチルノだ!」

「……まあ、ちょっとした連れってところかな?」

「は、はぁ」

 

 此処で椛がたぶん納得をしたところで、閉ざされていた門が開かれ、中から一人の天狗が入ってくる。本物の門番さんである。

 

「椛、もう良いぞご苦労だったな」

「あ、はい」

「ん? き、貴様等は……!」

 

 本物の門番さんがレティとチルノを見て驚きの顔へと変えた。

 

「お前等が我ら天狗達を凍らせているのは聞いている! 椛、ソイツ等を捕らえるのを手伝え!!」

「え、は、はい!」

 

 本物の門番さんが留守番をしていた門番さんに二人を捕らえるのを手伝えと言う。

 あ、これもうわかんねぇな。

 留守番をしていた門番さん……もとい、椛は端に置いておいた剣と椛のマークが入っている丸い盾を手に取った。

 因みに椛のマークと言うのは妖の方の椛ではなく、葉っぱの方の椛である。

 で、門番の方は手に持っていた薙槍を構える。

 

「お、アタイとやるのか!」

「……チルノ、私も含まれているのよ?」

「えぇい黙れ貴様等! 此処で亡き者としてやる!」

 

 堪忍の緒が切れたのか、門番が薙槍をレティに振るう。

 しかし力任せに振ったその薙槍は簡単に避けられ、空を切るだけで終わった。

 レティは門番の体へ手を当てた。刹那、門番の動きが止まる。まるで凍らせられたかのように、ピクリとも動かない。

 妖力は確かに感じられる。しかし動かない。生きているが、筋肉そのものが死んでいるかのような。

 

「これは興味深いわねぇ」

 

 思わず声を出す私は、その門番に近付いて手を触れてみる。感じられるのは、冷たい感触。脈は若干あるにはある。

 たぶんこれは、体だけを凍らせ、内部……つまり、心臓など止めさせたら死ぬであろう部分は凍らせていないのかも知れない。

 何とも器用なものだ。

 

「あぁ椛、攻撃なんてしなくて良いよー」

「……何で大天狗様には止めなかったんですか?」

「興味本位。あと何か私の存在気付いてなかったみたいだから、続けさせたらなんか面白そうだなぁって」

「何か扱い酷くないですか? 大天狗様とか、そんな人に」

「気の所為じゃない?」

 

 きっとたぶんそれは気の所為。

 

「やいお前! 急に動かなくなってどうしたんだ! アタイの怖さに怖気づいたのか? どいつもこいつも弱いわね!!」

 

 チルノが動かぬ門番にズビシと指を差す。どうやら門番が凍っていることに気付いては居ないご様子。

 チル坊、相手をよく見るんだ! 門番はいちおまだ生きているが凍って動けないだけなんだ! 察してやってくれ!!

 

「チルノ、もうこの人は動かないわよ」

「そうなのか。やっぱしアタイはさいきょうだから皆こうなるんだな!」

 

 だとすると私達も動けない様になりますね。

 まあチル坊……チルノの茶番は放っておき、私は門番の隣を抜け、門を片手で開ける。

 

「んじゃあ椛、あとは頼んだよー。門番が復活するまでの間、適当に遊んどいて良いから」

「……おとなしく門番の代わりをしておきます」

「そっかぁ、随分とつまらない選択をするのねぇ」

「白狼たるものが、サボる行為と言うのは許されない事です」

「ふぅん……相変わらず真面目さんね。まあそう言う所が可愛いんだけど」

「何処と無く可愛いと言うのはよしてください」

 

 ムスッとした顔で、頬を少し赤く染めて言う。椛のデレ要素とか誰得。いや嫌いじゃあないが。

 

「ばいばーい」

 

 空いている手を軽く振り、私達は天狗の里から出た。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 騒霊三姉妹、と言う三人組の少女がこの幻想郷に居る。

 騒霊(ポルターガイスト)とは、騒々しい幽霊を略された言葉である。

 三人組は楽器を使って演奏をする。

 一人はキーボードを。一人はトランペットを。一人はヴァイオリンを。

 そして、三人組は同じ能力を持ち合わせて居た。

 それは「手を使わずに楽器を演奏する程度の能力」である。

 そんな三人組が居る。

 そして私は、四人目を知っている。

 名を、レイラ・プリズムリバーと言う。

 彼女は先程話した騒霊三姉妹……即ち三人組を生み出した者である。

 言うなれば、人を作った。と言うことにもなる。

 

 彼女は此処、幻想郷に来る前までは貴族であった。男爵が住んでいる洋館で三人の姉達と暮らして居た。

 しかしその男爵はどうやって手に入れたのか、幻想郷にあったマジックアイテムを手に入れた。

 そしてそのマジックアイテムが原因で男爵は死に、三人の姉達は生き別れとなった。レイラは一人洋館で暮らした。

 孤独、という言葉が心に蝕まれていた。レイラはそれに耐えられずに男爵が持っていたマジックアイテムを使って騒霊を生み出し、同時に洋館ごと幻想入りとなった。

 その洋館は紅魔館のある霧の湖の近くにある。今は廃洋館であるが……。

 最後、レイラは寿命で死んだ。

 

 ――っと、まあ昔の話は此処までにしておき、レティとチルノと別れた私は、雲の上。白い四角い四柱を見つけていた。

 

「いやぁ、にしてもいつの間にこんなのがあったのやらか……」

 

 ほんとまじでいつの間に。

 

「って言うか暖かいわねぇ、雲の上が暖かいってこれは如何に」

 

 上昇気流? いやまったくもって意味ない言葉だな。

 はてでは何故暖かいのか。まあ何故かは、だいたいわかっているのだが。

 暖かい、それ即ち何処かで暖かい空気があるからである。暖かい空気。春、と言っても良いのではなかろうか。四柱の奥は大きな魔法陣があり、何かを封印している結界。

 だがこの結界、薄い。結界は薄くなっていると簡単に出入りする事が出来る。たぶんそれで中の暖かい空気がこちらに来ているのであろう。

 ……うーむ、このまま入ってしまっても良いのだが、一つ忘れている事がある。

 プリズムリバー三姉妹。

 彼女達を忘れている。と言うかここに居ない。

 

「んー、速めに来すぎたとか……?」

 

 有り得る。めちゃくちゃ有り得る。

 なんてこったい。私が折角過去話をしてあげたというのに、この仕打ちはあんまりだろ。あんまりすぎる。あ、あーんまーりd(ry)

 

「あれ、誰か居るよ?」

「えー? 何処何処」

 

 何やら後ろの方で声が聞こえる。少女の声が二人。

 私は後ろに振り返ると此方に近付きつつある三人の姿が見える。水色髪の少女が私に指を差し、赤い服を着ているもう一人はキョロキョロと当たりを見渡していた。黒服のもう一人はと言うと、無関心な顔である。

 やがて三人は私の元へと辿り着き、水色髪の少女と赤い服の少女が私を見て不可思議そうな顔をする。

 

「貴女、何処かで……」

「え、気の所為じゃない?」

 

 水色髪の少女が声を出すが、取り敢えず気の所為だと即答する。

 知らない知らない。私がレイラと会っており、彼女達とももうすでに会っているだなんて知らない知らない。

 

「いやでも何処かで見たことあるよー?」

「絶対気の所為だよ」

 

 今度は赤い服の少女が声を出す。此処でも取り敢えず気の所為だと即答。

 

「……レイラが居た時の――」

「気の所為だっつってげふんげふん、気の所為だよ」

 

 危うくチンピラみたいな言葉になるところであった。

 全くもってしつこい。しつこい以外の言葉が出ない。

 

「あぁそうそう! レイラが居た時のあの――」

「いやその話題そろそろ切ってよ!」

 

 赤い服を着た少女がぽんっと手を叩いて納得&思い出し。それに続いて水色髪の少女も納得&思い出し。唯一覚えていたのは黒い服の少女である。

 と言うかまじでその話題もう良いでしょ。気の所為だと言ったのに全く聞かないこいつらまじで……。

 因みに彼女達の名前。水色髪の少女はメルラン・プリズムリバーである。赤い服の少女はリリカ・プリズムリバー。黒い服の少女はルナサ・プリズムリバーだ。

 そして彼女を生み出した者がレイラ・プリズムリバー。

 この四人組は、洋館が幻想入りされた時にすでに会っている。なので一応は初対面でもない。

 で、何でこの三人組にわざと知らない振りをしたかというと、こいつらは騒霊だ。

 騒霊、もう言わずとも分かると思うが騒々しい。ただそれだけである。

 え、さっき会いたくて過去話をしていたんじゃないかって? それはきっと気の所為であろう。

 

「何でアンタが此処に居るの? もしかして冥界に誘われた?」

「んなわきゃないない」

「じゃあ死にに来たの?」

「それもないない」

「暇を潰しに?」

「んー、たぶん?」

 

 メルランの質問攻めの最後、正解に近かったので私はたぶんと答える。

 半分は暇つぶし、半分は依頼だからである。

 

「毎日が暇な人だもんね」

「悪かったわね」

 

 リリカがトドメと言わんばかりに言う。暇人で悪かったな。

 

「……んで、あんたらはこのまま中に?」

「あーうぅん、まだ時間でもないから入らないよ」

「あ、そう」

 

 答えたのはメルランであった。私は適当に相槌を挟む。

 

「じゃあ私はこのまま入ろうかな」

「え、死ににいくの?」

「アンタしつこいわねぇ……」

 

 再度おんなじ事を聞いてくるメルラン氏。

 

「ただ私は冥界の姫に会いに行くだけよ」

「それって死ににいくことじゃないの?」

「アンタはなに、そんなに私に死んで欲しいの?」

「そうでもないわよ」

「あぁそう……」

 

 やたら「死」を連呼してくるメルランは放っておき、私は冥界の結界のほうへとゆらりとゆっくり近付く。

 結界にゆっくりと手から入れた。するとそれは容易に入る。バチバチっと電流が流れて拒絶されることはなかった。

 

「今度また私達の演奏聞いてねー!」

「何時かね、何時か」

 

 リリカが大声を上げているに対して、私は聞こえるか聞こえないかくらいの声で答えた。

 結界を通ると、そこには大きな門が開かれていた。そこから覗かせるは、長き長き階段。ただただ階段が上に続いており、奥があまり見えない。

 

「うわ、これきつくないっすか……」

 

 奥を見ながらつぶやく。

 だが結構まじで答えている。普通に歩いて登って行けば相当な疲れと足の疲労がくるであろう。

 しかし普通に歩いて登れば、の話しである。私には飛ぶことが出来る。

 故にきついとかそんな言葉とは無縁なのである。

 私は妖力を操り、背中から翼を生やして飛ぶかのようなそんなイメージを立ててふわりと浮き、前へと進む。

 周りは桜、桜、桜……ばかりである。と言うか桜以外ない件について。クソワロ。

 いやまあ上を見ればふよふよと、白くて丸い何かが何匹とゆらゆらと動いている。

 あれが所謂「霊魂」であろう。ふむ、取って触ってみたいものだ。きっと冷たいのではなかろうか。それとも生暖かい?

 むむむ、どっちなんだ。わかんねぇや。わかんねぇからもうどうでもいい。

 ……っというか、階段長い。もう奥が見えているには見えているが、何かこうやってだらだらとして行くのはめんどい。

 なんかこう、パッとして移動出来るような効率の良い移動方法はないものか。

 

「……あ、ある」

 

 能力発動。隣に私と同じくらいの大きさの切れ目を作り、そこに私は入り込む。

 そして着いたのは、庭。目の前には今まで見た桜の木とは比べ物にならない程大きな木があった。しかし葉は付いていない。

 西行妖(さいぎょうあやかし)……その木の名である。妖怪桜と言っても強(あなが)ち間違いではない。

 

 ――時に、こんな話がある。

 『歌聖』という者が昔居た。彼の歌う和歌は多くの者を魅力していた。ファンとも呼べる者までもが居た。

 そんな人気な『歌聖』はある時、桜の木の下で自殺した。

 その話を聞いたファン達はショックを受け、その『歌聖』が自殺した桜の木の元で自殺をする者があとを継がなかった。

 やがてその桜は人間の血を吸って成長し、それは妖怪桜ともなり、人を死に誘う西行妖という桜の木へとなった。

 

 そんな世にも恐ろしい死の桜が、目の前にそびえ立っている。

 だが死を誘う様なそれらしき気配はなく、普通の桜としか見えない。

 それもその筈、この桜は封印されたからである。死を誘う能力を抑えているのは、きっと、下で埋まっている……。

 

「あらあらあらー、お客さんかしらー?」

「んー?」

 

 何とも呑気なそんな声が何処から聞こえるかを探るかのように探してみると、後ろの屋敷の縁側で座って団子を食べている者が居た。

 ピンク髪の少女。彼女こそがこの冥界の管理者でありこの異変の主犯人である亡霊。

 西行寺幽々子がそこに居た。




たぶんこのまま、上、中、下っとなるかもしれませんが。お付き合いください。
だんだんと月間小説みたいになっているけど、気にしないで。

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