東方天魔録   作:ミユメ

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紅魔館がメインなお話。
たぶん……全員出ていると思います。
え、門番さん?
……いえ、知らない子ですn(ry


―其之2― 紅魔館

 幻想郷での決闘方法は、実に非現実的なモノであった。

 

 「弾幕ごっこ」

 

 それが決闘の名前である。

 つまりは遊びだと捉えて貰って構わない。まあ現に、これは遊びなのだが……。

 遊び方法は実にシンプルな内容である。

 相手の弾を避けながら、自分の弾を相手に当てれば良い。それだけだ。

 弾、と言うのは。人間であれば霊力と言われる特別な力を丸く練り込み、それを手から解き放つようにして弾を出すのだ。それは「霊力弾」と言う。

 一方での妖怪もほぼ一緒だ。妖怪には人間にある霊力は無いが、妖怪にしかない妖力があり、それを練り込んで放てば良い。これは「妖力弾」だ。

 それら弾をまとめて言うと「弾幕」と言う。

 霊力弾はともかく、妖力弾なら私は分かる。

 妖力弾は、雑魚妖怪や妖術が苦手の者にも容易に扱え、燃費は良く、威力の加減も自由自在。使用者によっては連射や速射に追尾弾すら可能な超便利技法だ。

 

 次に、弾幕ごっこには、スペルカードルールと言うモノがある。

 幻想郷内での揉め事や紛争を解決する為の手段とされており、人間と妖怪が対等に戦う場合や、強い妖怪同士が戦う場合に必要以上に力を出さないようにする為の決闘ルールである。

 対決の際には自分の得意技を記した「スペルカード」、略して「スペカ」と呼ばれるお札を一定枚数所持しておき、すべての攻撃が相手に攻略された場合は負けとなる。

 また、カード使用の際には「カード宣言」が必要であるため、不意打ちによる攻撃は出来ない。

 その他、細かな取り決めでは

 

 ・決闘(弾幕)の美しさに意味を持たせる。

 ・意味の無い攻撃はしてはいけない。

 ・このルールで戦い、負けた場合は負けをちゃんと認める。余力があってもスペルカードルール以外の別の方法で倒してはいけない。

 

 となっている。

 

 

 して、このスペルカードルールが考案されたのは、高貴な妖怪である吸血鬼が起こした「紅霧異変」の三日程前の事である。

 幻想郷が外界と隔離されてからしばらくは、妖怪と人間の数的バランスを崩さないために妖怪は無闇に人を食する事を禁じられ、食料係が給仕する食料をただ与えられるまま食べる生活を送っていた。

 そのため、妖怪全体に無気力化が広がっており、強い外敵と戦う力を失いつつあった。

 そんな中、幻想郷に吸血鬼が現れる。

 強大な力を持った吸血鬼は幻想郷の支配を目論見、幻想郷に住んでいた妖怪は、その力の前に屈服し、あるものは恐れをなして寝返り、妖怪の大半が吸血鬼の傘下となっていた。

 最終的にはより強大なごく一部の妖怪によって辛うじて鎮圧されたが、この異変によって幻想郷の重大な欠陥に気が付いた妖怪たちは博麗霊夢と相談し、「スペルカードルール」と呼ばれる一連のルールを考案、導入することを決定した。

 これにより、無闇に人間を虐げる事無く「遊び感覚に近い決闘」と表現されるような闘いを行うことが可能となった。

 この「スペルカードルール」を用いて初めて起こされた異変が「紅霧異変」である。

 

 そしてその異変は、幻想郷にある『博麗神社』に住む異変解決が仕事である「博麗の巫女」によって解決された。

 

 

 しかしこれには、裏の話がある。

 博麗の巫女よりも速くその「紅霧異変」の元凶へ向かった妖怪が居たのだ。

 その妖怪は敵を倒して行き、異変を起こした張本人である吸血鬼とも、戦っていたのである……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想郷で初めての異変である「紅霧異変」は、悪魔の住む館と言われる『紅魔館』に住むとある吸血鬼。レミリア・スカーレットにより起こされた。

 紅霧異変――その名の通り、紅い霧が突如として紅魔館を中心に幻想郷を覆い隠した。

 これはゲームのシリーズで言うと「東方紅魔郷」だ。

 そんなゲームでの内容が実際に起こってしまった。

 私はその紅い霧を目にした時、すぐさま準備を整えて元凶へと出向した。

 ルーミア、大妖精、チルノ、紅美鈴、パチュリー・ノーレッジ、十六夜咲夜。

 以上の6名を「弾幕ごっこ」。即ち、遊びで倒し、紅魔館の屋上で現在は――

 

「あらあら、よく此処まで辿り着いたものね。妖怪」

「…………」

 

 吸血鬼姫キターーーーーーーー!!

 生吸血鬼まじ最高可愛いヤバイ。しかも相手があのレミリア・スカーレットでより一層テンション上がる。

 あ、やべ、さっきから東方キャラクターに会って私の脳内が色々おかしいことになっているぞ。

 このままでは心に「萌え」の感情がいっぱいになってどうにかなりそうだ。

 くそ! お前らは私をどうしたいんだ!?

 

「その動じない様子。恐怖を知らない妖怪は哀れね。私は吸血鬼、どの妖怪よりも高貴で強いのよ」

 

 え、あ、はい。

 正直そんな恐怖もしていません。レミィにはわからんと思うが。現在私の心は絶賛興奮中である。

 よくよく考えれば、レミィは威圧を掛けている。妖力全快……とまでは言わないが、かなり出している。

 私の方がお前よりも強いってアピールですね。わかります。

 そんなレミィが愛おしくて堪りませんな。

 例えるならば、小さな子供が「もう大人だもん!」と言っているみたいな感覚を味わっております。

 そんな感覚を味わいながら、私は無言で無表情に近い顔でレミリアを見ている。

 するとレミリアは私に興味を無くしたかのように、夜空に浮かぶ後ろの紅い満月を見上げた。

 

「今宵は、良い満月ね」

「……そうね」

 

 血に染められている様に紅い満月

 

「こんなにも綺麗で――」

「紅いから」

 

 レミリアの言葉を先読みし、続きを私が言うと、レミリアは少し不気味な笑みを浮かべて私に振り返る。

 

「本気で殺そうかしら」

「本気で遊ぼうかしら」

 

 お互い瞳を見ながら、一人は殺気を放ち、一人は快楽気分で告げた。

 同時に、それは戦闘開始の合図でもあった。

 先制攻撃を仕掛けてきたのは、レミリアである。

 並みの妖怪には捉えられない速度で一気に目の前へと現れ、初撃に私の心臓目掛けて殴りにくる。

 それを右に避けると、余っている左手で引っ掻く様に鋭い爪で攻撃してくる。

 だがそれも難なく避けた私は、反撃など一切せず一旦後退して十分な距離を置く。

 

「舐めているのかしら?」

「別に?」

 

 反撃しないのは、ただの気分だ。

 なんて、そんなカッコイイ理由などもない。しんどいだけである。

 まあ何て言うの……? さっきから紅魔館チームは弾幕ごっことかしてこないんだよね。

 チルノや大妖精、ルーミアは分かっていたのに、何故紅魔館チームはしないのか。

 そこに難義し、それを考えるのがしんどくなってきたのである。

 まあ紅魔館チームで唯一パチュリー・ノーレッジだけはスペルカードルール知ってたんだけどね。

 他のメンバーは「あったようななかったような」的な感じであった。

 まじふざけんな手前等……!

 おかげで本気の勝負となっているではないか。殺し合いとかやめてくれ、本当に勘弁してほしいんだが。

 

「じゃあ何で反撃しない」

「気分」

「……やっぱし舐めているのね」

 

 あ、やっちまった。つい反射的に即答してしまったじゃないか!

 おかげでレミィが怒っちゃってるよ。どうしよう。謝りたい。

 とか言っている間にレミィが神槍のグングニル持ってるし!?

 

「次は当てる」

「勘弁してほしいなぁ……」

 

 東方キャラクターとそんな戦いたくはないんだよね。って言うか殺し合いが嫌だ。

 っと、考えていた時だ。レミリアは紅く輝くグングニルを私に向けて力強く投げつけてきた。

 その速さは尋常ではないほど速く、正確に私の心臓を狙っていた。

 どんな妖怪でも、普通ならばぶっすり刺さって死ぬであろうその槍を、私は一歩も動かずして当たらずに済む。

 

「!?」

 

 不可思議な出来事に、レミリアは驚いていた。

 何故、私は当たらなかったのか。それは、私の目の前には切り裂かれた空間が出来上がっていたからだ。

 その空間の中にグングニルは入っていき、空間を切って消す。

 

「一体何を――」

 

 理由を聞こうと私に問い掛けようとしたが、その言葉は途中で途切れる。

 レミリアの真横を、先程投げたグングニルが通過したのだ。

 それはそのまま真っ直ぐ行き、やがて紅魔館の紅いレンガへと大きな音を立てて突き刺さる。

 その流れを、レミリアは見届けていた。何が起きたのかも分からず、少し動揺しているのが見て分かった。

 まあ当然であろうか。

 あれは私の能力である。グングニルを投げてきた際、空間を切り裂き、そして切る。次にレミリアの横の空間を切り裂き、そこから投げられたグングニルを出しただけだ。

 マジックな様なモノだと考えてもらって結構だ。

 私の能力名は

 

 『切断する程度の能力』

 

 名称の通り、何でも切れてしまうのだ。

 それは物に限らず、記憶の消失を切断。と言った事なども出来る。

 正直、便利である。便利過ぎて世界征服とか余裕で出来るんじゃないかとry

 まあそれは出来ないと思うが、取り敢えず「向かう所敵無し」とは言えよう。

 ……にしてもなんだが。

 

「貴女、弾幕ごっこ知らないの?」

「……何よそれ」

 

 レミリアは私の声を聞いて此方に顔を向けて大人しくなり、威圧が少し薄れていた。

 話を聞いてくれそうな雰囲気。

 

「あら、スペルカードルールだけども……知らない?」

「…………」

 

 そこまで言うと、レミリアは何かを思い出そうと私から視線を逸らした。

 覚えてはいるのであろうか。頼むから覚えていてくれ。

 

「……あぁ」

「思い出した?」

「いちお、ね」

 

 あ、良かった。覚えてなかったらどうしようかと思った。

 まあ覚えてなかったら教えるのだが、長ったらしい説明は好まない。

 やれ美しさやら、やれスペルカードルールやらと……うん、確実に長くなるね。

 新聞見ろや。で終わらせたい気分でもある。

 実際、新聞には載っている。スペルカードルールについて詳しくだ。

 なので弾幕ごっこが知らない物達は、その新聞を見れば良かろう。

 因みにだが、新聞は我同士である報道天狗と言う者達が発行している物だ。

 

「それじゃあその、スペルカードルールに乗り沿って戦えば良いのね?」

「そうなる」

「じゃあ、早速――」

「あぁごめん、もう勝負は此処までで」

「……は?」

「いやさぁ、元々私、この異変を解決する為に来た訳じゃないもん」

「じゃあ何しに来たのよ」

「うーん……遊びに?」

「やっぱし舐めてるの?」

「舐めてはいない」

 

 まあ端から見れば、舐めている口調ではあるものの、心ではそんな事は微塵も思っていない。

 

「はぁ……アンタみたいな奴は初めて会ったわ」

「不思議な人……?」

「おかしな人、が一番合うわ」

「ありゃま、そっか」

 

 ま、私の事をどう思うかは、人によるであろう。

 

「んじゃまあ、私はこれで。楽しかったよ……えーと?」

 

 私は会話をこれ以上発展はさせず、さり気無く帰ろうとする中、名前を聞くことにした。

 本当は彼女の名前など知ってはいるが、名乗った覚えも無い者が相手の名前を知っていたらおかしいであろう。

 だから私は、敢えて名前を知らないを前提にして問いかける。

 

「レミリア・スカーレットよ。まあ覚えておきなさい」

「そ、じゃあレミリア。また会いましょう」

 

 そう言い、私はレミリアに背を向ける。

 帰ろうとした時、後ろから呼び止める声がする。

 

「待ちなさい」

「んー?」

 

 体を横にし、顔だけをレミリアに向けた。

 

「アンタは何者よ」

「んー……」

 

 何者……か。

 そうだね、強いて言うなら

 

「妖怪の山で天魔様をしているしがない天狗よ」

「!?」

 

 天魔様。と言うと、レミリアは一気に表情を驚きの顔へと変えて見せた。

 それもそうであろう。

 実は半年前に、レミリアからは手紙を貰っている。

 その内容はうれしい事でもない。簡単に言って「私の傘下となれ」って所だ。

 別に構わなかったが、全天狗が吸血鬼の言いなりになるのだ。我同士達は猛反対するであろう。

 そう考え、私はその手紙を返事無しで放置していた。

 そうなると吸血鬼は攻撃を仕掛けてくるであろうと思い、私はある結界を天狗の里周囲に張り巡らせた。

 それは「認識遮断結界」だ。

 天狗以外の者は、その結界内を認識する事が出来ないようにさせた。

 つまり、見られない。と解釈しておこう。

 そしてそれが半年張られた時には、紅い霧が発生した。

 

 ――初めての異変に行ってみたい。

 

 見た瞬間そう思った。そして気付けば、もうボス。現在に至ると言う訳だ。

 そのボスが、手紙を寄越して来た妖怪。レミリア・スカーレットである。

 

「貴女、が……天狗?」

「そうだけど?」

 

 不思議そうに聞いてくるレミリアに対し、私は普通に答えていた。

 しばらくレミリアは私をまじまじと見てくる。

 

「……翼が無いのに、良くそんな嘘が言えたものね」

「いや、あるよ?」

 

 私は肩に軽く力を入れる。

 すると、私の体の中から何かが外に出てくるかのような感覚が出始め、次には――黒い翼がバサリっと音を立てて私の肩から生える。

 それを見たレミリアは、この世の者ではない様な目で見ていた。

 

「ね?」

 

 そんなレミリアを他所に、私は証拠を示して少し満足気に言ってみる。

 

「……」

 

 そして無言になるレミリアである。

 まあさ、分かるよ? そうなるのも。

 だって、翼って本来”仕舞えない”モノだもん。

 なのに私は仕舞えてしまう。毎度毎度そこは不思議ではあるが、もうね。気にしたら負けかなって思って考えるのは辞めました。

 いやだってそんな考えても分からないもんは分からないもん! 「自分の体は自分が良く知ってる」っと言う言葉があるが、これに関してはどうしようもないんだもん!!

 他の天狗は仕舞えないのに、私だけ仕舞えるとかどうなってんの。異常体質?

 はて、そうではないと私は信じたいものだが……。

 っと、話が脱線してしまった。

 うーん、もう話す事は無いと思うし、帰るとしようかな。それに――

 私は後ろから近付いて来る多大な霊力を持った者を感じ取り、振り返ってみる。

 

「何で、アンタが居るのよ」

 

 そこには、私に向かって聞いてくるある少女。

 黒髪で、後ろの髪に大きな赤いリボンを付けており、顔の両脇に髪を一総まとめている赤い髪飾りを付けている。

 服は袖がない紅白の色をした何ともめでたい巫女服を着ていた。

 そして驚くべき箇所が一つある。

 飛んでいるのだ。その少女が。

 いや、この場合は浮いていると言った方が良いのであろう。

 何分、彼女の能力は

 『空を飛ぶ程度の能力』

 である。

 それを持ってして、宙に居るのだ。

 して、何故私が此処に居るのか。

 

「気分」

「……退いてくれないかしら、さもないとアンタも纏めて退治するわよ?」

 

 おおぅ、何とも冷たいお言葉。

 

「貴女が、あの巫女かしら?」

 

 っと、そこで、先程から無言で居たレミリアが巫女に話をする。

 

「えぇそうよ、あの巫女よ」

「名前は確か……博麗霊夢(はくれいれいむ)、だったかしら?」

「妖怪が私の名前を知っているなんて、嫌になるわね」

「あらあら、貴女はこの幻想郷の守り人みたいなもんなんでしょう?」

「……まあ、あながち間違っては居ないわね

「なら覚えたくなくても、覚えてしまうわよ」

 

 私を真ん中に、二人が後ろ、前、後ろ、前……っと、話をする。

 私の事など眼中にないとして、話を続けている。

 何と言うか。動きづらいな。

 此処からこっそり抜け出すのが出来ないんだが、どうしたらいい。

 

「「で、貴女(アンタ)はいつまでそこに居るの?」」

 

 そこで、偶然にも二人の声が重なる。

 その言葉はどうやら私に向けて言ったらしい。いや、完全に私であろう。

 いやさ、抜け出したかったけどさ。出来なかったから仕方ないじゃん!?

 でもこうして言われて、やっと抜け出せれるぜ。

 

「いや、これは失礼。邪魔者はさっさと帰るわ」

 

 私は軽く呆れ、両手を少し挙げる。

 そして風に流される様に、私はその場から離れる。

 

「……さて、アンタがこの異変の元凶みたいね」

「ふふ、そうよ?」

「今すぐこの気持ちの悪い霧を消しなさい」

「言われて、消すと思うのかしら」

「そ、じゃあ力尽くでも止めさせるわ」

 

 二人の会話を聞きながら、見ながら、私は離れて行く。

 紅魔館の上空では、色鮮やかな弾が披露されていた。

 それは花火とか、そんなのでは収まらない程にこの夜を輝かせ、見事なまでに綺麗であった。

 あれが遊びだなんて、想像も出来やしない。

 

「……はぁ」

 

 私はその弾幕を見ながら溜め息を吐き、最後を見届けずに天狗の里へと戻っていった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「ん……」

 

 紅い部屋の一室の、ベッドの上で意識が覚醒する。

 重い瞼を開けていき、そして次に一気に体を起こして周りを見回す。

 あぁ……まさかあの異変を夢で見るとは思いもしなかったなぁ。

 レミリアと戦えなかったあの異変。

 結局私は本気でぶつかり合いは出来ず、そのまま保留となっている。

 まあ、私の目的は、戦うとかそんなんじゃないんだけどもね。

 私はそう心の中で呟き、ベッドから降りる。

 そして、隣にもあったベッドを見る。

 

「…………」

 

 ベッドの上に居る者を見て、私は思わず沈黙としてしまう。

 まてまてまてまて。何故に、何故に居る!?

 そこに居た者とは――金髪の少女。

 歪な形をした翼が印象的なある少女であった。

 その少女を、私は知っている。

 少女……フランドール・スカーレットであった。

 うん、何で居る? 何で居る!?

 何なんですかこの朝のサプライズドッキリは!

 興奮と驚きで眠気が消えたじゃんか!!

 いやそれはそれで良いけどもさ。けどもさ!

 さすがにこれは私にとっては嬉しいと言うか、何と言うか……言葉では表せない。

 とにかくだ。これは私にとって興奮させてしまう展開だ。

 

「んー……」

 

 フランが体の向きを変えさせ、私の方へ体を向けさせた。

 私はフランの寝顔を、意識的に見てしまう。

 天使の様な、いや、もしかしたらそれ以上かもしれない可愛らしい寝顔。

 見る者に癒しを与えてくれるその寝顔は、私の精神に大きくダメージを受けてしまう。

 もう、あの。抱かせて下さい。もしくは撫でさせてくれ……!

 っと、考えているうちに、もう私の手はフランの顔を撫でていた。

 その撫でる手は優しく。小柄の小動物を撫でるようにしていた。

 

「……お姉、ちゃん?」

 

 そこで、フランが目を覚ます。

 寝惚けた顔で私を見て、私を呼ぶ。

 は、いかん。起こしてしまった! 起こさせない様に撫でていたのに、起こしてしまった……!

 あわわわ、こ、これには深い事情がありまして。

 頭の中で混乱する私は、撫でていた手を退かそうとするが、フランに手首を持たれた。

 

「やだ、まだ、撫でて……?」

 

 そして放たれたフランの言葉は、子猫が甘える様な感じであった。

 あ、死んだ。

 私の精神死んだ!

 こんな可愛らしく甘えた言葉言われたら、私の心がフランの愛で埋め尽くされてしまう……!

 

 如何せんこれはヤバイ。

 

 だがフランの頼みを断れる訳も無く、私はそのままフランの顔を撫で続けていた。

 フランのやらわかいその頬の肌触りは、何とも言えず気持ちが良かった。

 そしてさっきからお互い見つめ続けているフランと私の瞳。

 今私はどんな表情を取っているのであろうか。

 きっと気持ちが悪い表情なんだと、私は想像してしまい、自分の顔を隠してしまいたいくらいであった。

 

「お姉ちゃん」

「うん?」

「何度見ても……綺麗だよね」

 

 え、そう? あぁでもよく言われるかな。それ。

 綺麗だとか美女だとか、挙句の果てには結婚してくれまで言ってくる者も居る。

 同時に、もう聞き飽きた言葉でもあるのだ。

 何度も何度もそう言われ、綺麗とか美人が当たり前。みたいな感じとなっている。

 あぁ、いかんなこれ。完全に女の敵となっちまうじゃんか。

 

「ありがとう。でも私からしたらフランの方が綺麗よ……?」

「え、綺麗……?」

「うん」

 

 まあ綺麗と言うより、可愛い。が一番似合うんだけどもね。

 それはさておき、フランよ、そろそろ手を離してほしい所。

 

「フラン、行く所があるから、手……離してほしいのだけれども」

「……ごめんなさい」

 

 言うと、素直に離してくれる。ありがたや。

 

「や、別に謝らなくても良いわよ。フランはこの後どうするのかしら?」

「もう少し、寝とく」

「あら、そう」

 

 あまり力無くフランが言う。

 たぶん相当疲れているのであろう。

 

「じゃ、私は行って来るねー」

「うん」

 

 そうして、私は静かに部屋から出て行くのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 ――さて、グッドモーニング。

 朝ですよ。

 朝って嫌になるよね。何て言うか、新しい今日が始まっちまったなぁ……って言うか、うん。

 わからん。

 まあこんなどうでも良い事はゴミ箱に入れておき、私は今とある大図書館に居る。

 紅魔館の中で唯一本が管理されている場所であるこの図書館だが、数が多すぎるし、一つの本棚だけで大きすぎる。

 だが、軽く力を加えただけで倒れてしまうんじゃないかと思うその本棚には、倒れない様に術が施されていた。

 それをもってして、倒れないようにしているのであろう。

 しかし、本当に驚くべき点は本棚ではない。その数だ。

 大きな本棚が何列にも渡って並べられている。

 そんな本棚を見つつ、私は図書館の中心部へと足を進ませていた。

 奥は薄暗くて遠くは見れない為、今どのくらいの距離を歩いたのかが分からない。

 まあそんな事はあまり気にしなくても良いんだけどね。

 私は先が見えない図書館を歩いていく。

 そんな時、分厚い本を両手に持って空を飛んでいる女が隣から現れ、私の存在に気づいた様に此方に顔を向けて止まる。

 腰まである赤髪に、黒いワンピースを着た女だ。

 よくよくと見れば、頭の左右には小さな悪魔の翼が付いているが、気にしなくても良かろう。

 

「あれ、何で貴女がまた此処に?」

 

 して、不思議そうに見てくる彼女に、私は片手を軽く上げて「やほ」っと言う。

 

「ただの暇潰しかな」

「はー……そうですか」

 

 呆れている様な、そうでもない様な仕草を取る女である。

 彼女はこの大図書館に住む魔女の召使いの様な者だ。

 種族は悪魔だが、下っ端に近い小悪魔である。

 

「で、コアは毎度ご苦労なものね。働き尽くしで」

 

 名前をコアと言う。

 正式には小悪魔と呼ばれているが、私はコアの方が何かとシックリくるのだ。

 

「まあそうですねぇ。使い勝手が荒すぎる感じです」

「……何処かでひっそりと愚痴とか言ってそうね」

「そりゃ言ってますよ」

 

 ですよねー。

 

「それはさておき、今日は何の御用で? またあの人とあの勝負ですか?」

「いや、それはないわ。今回は穏便に話しをするくらいよ……って言っても、前もそうではあったんだけどね」

 

 穏便に話しだけして終わらせようと思いきや、弾幕勝負へと発展してしまったのは異変の時だ。

 今ならば普通に会話だけで終わると思いたい。いや、信じたい。

 まあ話の話題なんざ無いんだがな。

 なのにどうして話をしたいのか。

 それは、ただの私の願望である。

 東方キャラクターとは全員一度は話をしてみたいと、そう目標らしきものを立てているのだ。

 話題なんてその場しのぎで行けるであろう。

 

「そうですか。私はまだ仕事があるのでこれで失礼しますね」

「ん、頑張って」

 

 コアは手を振らず、そのままふらふらと隣を通っていく。

 まあ手を振れないであろうがな……何分、両手に本持ってたし。

 

「さて、まあ先に行きますか」

 

 コアを見届け、止まっていた足を再度前へと動かす。

 

 

 

 

 

 ――こちらスネーク、目標を確認した。

 ってえ、私蛇じゃないか。天狗だし。

 まあそれはさておき、奥に目標を確認出来た。

 私はそのまま何の迷いも無く進んでいくと、椅子に座っている目標人物……彼女が私の気配に気付き、先ほどまで夢中で読んでいたであろう本を目から離して私を見る。

 此方を見た時のその顔は、また来たのか。みたいな事を顔で表していた。

 

「……また来たのね」

 

 みたいな。ではなく、本当にそうだったらしい。酷い。

 

「良いじゃない、この前はまともに会話も出来なかったんだから」

 

 そう言いながら、私は何処か座る所はないか辺りを見渡したが、何も無かったので隣の空間を切り裂きいて中から背凭れがある木で出来た普通の椅子を取り出し、背凭れの方を彼女に向けて両腕を上に置いてつまらなさそうな顔で見てみる。

 

「何よその顔」

「いや別に」

 

 気に食わなかったようで。残念。

 そんでもって紹介が遅れたのだが、彼女の名前はパチュリー・ノーレッジだ。

 百年近く生きている魔法使いなのだが、吸血鬼が住むこの館は悪魔の住む館とも言われ、その悪魔の住む館に居るから『魔女』と言われる。

 今居る此処は、パチュリーが住む大図書館だ。家とも言えるらしい。

 大図書館には、何も普通の本があるだけではない。大概は魔導書である。

 グリモアとかありそうで怖いですな。

 

「それで、今回は何? また弾幕勝負かしら?」

「ややっ、そうじゃないよ。今日は普通に穏便に語り合おうかとね」

「そう」

 

 パチュリーは読んでいた本を閉じ、テーブルに置く。

 

「……変な事聞くけど、貴女は人間をどう思っているの?」

「ん、どう思っている……か」

 

 突如として振られた話題。

 私はその話題に乗り、考え始める。

 人間……昔、いや。前世では私は人間であった。どんな事を考えるのかも、分かっている。

 でも今は、人間とはかけ離れた妖怪。

 妖怪から見ての人間は、どうも何かを感じさせるかのように心苦しい。

 嫌い。

 ではなく。

 もし人間だったら、くだらない毎日を送っていたのかな。

 っと、そんな風に思ってしまう。

 人間は軟弱だ。ナイフで刺されれば簡単に死んでしまう。

 それでは妖怪と軽くお話なんてナンセンスだ。すぐに殺されるであろう。

 だが、妖怪は人間よりも再生能力が強いし、力だって持っている。

 こうして紅魔館を攻略出来たのも、それのおかげだと思う。

 ――人間。か……。

 

「……退屈な毎日を送ってそう」

 

 私の考えを纏めてから、結果を簡潔的に言う。

 するとパチュリーは私から視線を逸らして深く考え始めたが、すぐにその考えが付いたのか、また視線を私に向ける。

 

「貴女は、変わっているわね」

「あら、そう?」

「普通、妖怪は人間に対してなんら興味も持たないし、考えもしない。それどころか、ただの食料として見る輩も居る。

 なのに、貴女は違う。的確な答えを言ったわ。それは、よく人間を観察してきた意味でもある」

「まあ、そうなるわねぇ」

「……貴女は、妖怪なの?」

「妖怪よ?」

 

 まあ、前世は人間ですけどね!

 でも今は完全な妖怪なんだし、何も躊躇わずに、私は妖怪だ。っと言い張れる。

 

「まあさ、妖怪にだって人間好きは居るじゃない。元とは言えど、鬼は昔、人間が好きだったわよ?」

「そう、ね」

「それに、人間にだって妖怪好きが居るんじゃないかな?」

 

 主にあのメイド長である。

 

「ええ、そうよね」

「……パチュリーは、私達妖怪をどう思っている?」

「え?」

 

 話題を振られたのなら振り返す。ってね。

 まあ気分転換に、今人間が妖怪をどう思っているのかを聞いても良いであろう。

 

「そうね……」

 

 そこで、また考え始めるパチュリー氏。

 おぉう、暇である。何かそこらへんの本でも読んでおこうかしら。

 私は適当に下にあった魔導書を手に取り、適当な所を広げる。

 その広げたページには、魔術者にしか分からない文字が書かれていた。

 言わば、暗号。

 日本人が海外の言葉を、暗号の様に捉える感じだ。

 だが、一度覚えてしまえば今後ずっと使える海外の言葉。

 しかしながらこれら魔導書は、ややこしい所がある。

 それは、年代によって文字の読み方が変わることだ。

 魔術者により出来た術は危険なモノが多いため、こうして人間や妖怪がいつまでも分からないように工夫している。

 同時に、魔術者でも読めない魔導書はいくらか出てくるのだ。

 年代の差。であろうか。

 読めない年代の魔導書はあるものだ。

 私はそんな事を頭の中で語りつつ、ページを捲る。

 

「……ちょっと待って、貴女その魔導書が読めるの?」

「んあ?」

 

 っと、魔導書を”読む”のに夢中になっていた私は、パチュリーの声によって途切れた。

 

「あぁ、これ? 読めるよ」

「はぁ!?」

 

 机をバンっと強く手で叩き、立ち上がる。

 その衝撃で、机の上に積み上げられた本が何冊か崩れ落ちた。

 そんな驚く事でもないと私は思うのだが、これはいかに。

 

「貴女それ、私が読めない魔導書よ?」

「そりゃそうでしょ。だってこれ、千年前の魔導書だもん」

「…………」

 

 パチュリーが読めない魔導書。つまりは、何時頃の文字かが分からずで解読しようにも出来なかったのであろう。

 しかし私が読める事に驚き、黙り込んでしまう。

 

「何で、貴女が……いえ、妖怪である貴女が魔導書の文字を読めるのよ」

「ん、独自で勉強して覚えた」

「……は?」

「いやだから、独自で勉強して覚えた」

「いや、それは分かるわよ」

 

 さいで。

 

「何処でその魔導書の文字を読める様になったのよ。この文字は代々魔法使いのみでしか伝えられなくて、私が覚えたのは親からの指導でよ」

「そうね」

「……何処で覚えたの」

 

 威圧を掛けて聞くパチュリー氏。

 おぉ、怖い怖い。

 

「さあ、何処でしょう」

 

 だが、その威圧を私は物ともしずに敢えて言わない様にする。

 別に隠す事でもあるまいが、そこはそこ、気分である。

 

「もったいぶらないで。白状しなさい」

「えー」

「えーじゃないわよ」

「んー」

「んーでもない」

「むきゅー」

「むきゅー、って何言わせてんのよ!」

 

 ぎゃーぎゃーと喚くパチュリー。

 中々反応が面白くてこれはこれで楽しい。

 

「まあそうおこらなさんな」

「誰がそうさせていると思うのよ」

「はて、何処の誰でしょうね」

 

 そう言うと、パチュリーは溜め息を吐いて座る。

 

「まあ何、単に魔導書翻訳の本を貰ってそれを読んで覚えただけ」

「誰から貰ったのよ」

「旧友」

「その旧友は魔法使いなのかしら……?」

「違うよ?」

「……もう余計訳が分からないわ」

 

 まあ無理も無いであろう。

 何せ、魔法使いでもない旧友が魔導書の翻訳本を書いたのだ。

 それはつまり、私の旧友は魔導書の本が読める。と言う事を意味している。

 まあ読めるらしいんだけども……。てか読めるか。

 

「分からないなら、気にしなくても良いんじゃない?」

 

 分からない事をそうも長く考えても仕方が無かろうと思う。

 だから私はそこで、元の話題に戻る事にした。

 

「それより、パチュリーからして妖怪はどう思う?」

 

 私は魔導書を元の場所に戻しながら聞く。

 

「……分からないわ」

「ありゃ、そりゃまたどうして」

「どうしても何も、貴女みたいな妖怪と話をしたら変わってしまうわ」

「ふむ」

 

 それほど、私の印象はビックバン並に強いのであろうか?

 それはそれで照れるなおい。

 だが逆に考えれば、それは煩いと言う結論にも至るわけだが、気にしなくても良かろう。

 

「ん……」

 

 考えていると、ふと、図書館内で薄い魔力を感じ取れた。

 それを知り、私は微笑む。

 いやまさか、あの魔法使いにも会える機会が出来るとは。これはまた幸運だ。

 

「どうして笑っているのよ」

「いや何、ちょっと会いたい人が此処に居るものでね」

「……は?」

 

 私が何を言っているのか分からず、頭の上に?が浮いている。気もする。

 まあ何にせよ、その魔力は徐々にと近付いて来ている。

 待てばすぐに此処まで来るであろう。

 

「よおパチュリー」

「……次はまた貴女なのね。魔理沙」

 

 そして此処まで着き、何気ない挨拶言葉の様な振る舞いをする二人。

 腰まである金髪の少女……人間の霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)だ。

 白と黒の服を着ており、実に魔法使い定番であるツバデカイ黒の帽子を被っている。

 男口調なのが印象に強く、パチュリーと同じく魔法使いである。

 

「……アンタ誰だ?」

 

 私に質問をする魔理沙氏。

 何を隠そう、実は魔理沙とは一度も会った事がない。

 会える所は分かっては居たが、会いに行くのは無理であった。

 その当時は、天魔様を勤めて居たからね。まあもう辞めたけども。

 

「これは失礼。私はしがない天狗よ」

「いや、名前を言えよ」

 

 ごもっとも。

 

「紅夜茜よ。貴女は?」

「私は霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)。普通の魔法使いだぜ」

「普通の泥棒の間違いでしょ」

 

 っと、パチュリーが言うと、魔理沙はそちらに目を向ける。

 

「違うぜパチュリー。私はちゃんと返すぞ」

「何時?」

「死んだらだ」

 

 それを聞き、パチュリーはさも頭痛でも起きたのか、頭が痛そうに手を額に当てて溜め息を吐く。

 まあ、仕方が無かろう。死ぬまでっと言われても、それは自らが返す訳でも無し。

 つまり泥棒にも発展する。

 

「今日も借りてくぜ」

「盗むの間違いでしょ」

「死んだら返す」

「どう返すのよ」

「え、そりゃああれだ。パチュリーが取りに来てくれ」

 

 ……私まで頭が痛くなりそうだ。

 よもや無茶苦茶だな。

 まあ最初からこんなキャラであると覚悟は決めては居たものの、やはり想像と現実は違うものだ。

 所詮、想像に過ぎない。

 

「うん、私は帰ろうかな」

「急ね」

「急だな」

 

 二人に言われる始末。

 いやまあ、これ以上此処に居てもあれなので私は帰る事にする。

 紅魔館の部屋に。

 ではない。

 我同士達が居る天狗の里だ。

 追われる身なのにも関らず、何故帰るのか。

 いやね、もうそろそろ良いかなってね。

 一日もすれば、天狗等も納得行くと言うか、諦めて居る頃であろう。

 それに、白亜の様子も気になるしね。

 

「うん、今考えたからね。パチュリー、レミリア達に伝えておいて」

「いえ、その必要は御座いません。私が伝えておきます」

 

 そこに、突如として現れたメイド長。咲夜。

 こうして突如として現れる所を見ると、どこぞのスキマ妖怪を思い出す。

 

「そ、じゃあ頼んだわ、咲夜」

「畏まりました」

「んじゃ、またね皆ー」

 

 私は軽く片手を振り、唾を返して背を向ける。

 目の前の空間を切り裂き、天狗の里前まで繋げて中へと入って行った。

 

「さて、どうなっているかな……」

 

 

 

 

 一方、紅魔館の図書館では本を借りようとしている魔法使いと、それを止める魔女が弾幕ごっこをし始めたのは余談である。。




此処で一段落、紅魔館での短い生活は終わりです。
フランの可愛さが強すぎて、ついそこに力を入れてしまいます。
にしてもなんですが。
最近、10,000文字行ったら疲れて書くペースが落ちます。
これはいかに……。

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