運命への挑戦   作:laimu

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えっと、こんにちは。
今回からやっと物語に触れていきます。

主人公であるハーラルト(ハルト)は何を見、聞き、考えるのか。

少しでも楽しんでもらえれば幸いです。

では、本編をどうぞ。


一章 未来の記憶

藁の上に薄布を敷いただけの簡素な寝床で目が覚める。

嫌な夢でも見ていたのだろうか。

頭が重く、気分も優れない。

いっそもう一度寝てしまおうか、とも考えたが、頭が冴えてしまってはどうしようもない。

かつてない寝覚めの悪さに毒づきながらも起き上がる。

凝り固まった肩や腕をほぐすように軽く伸びをすると、顔を洗うべく家の裏手の川に向かった。

 

掌に水を掬い、水面に映った顔を見て少し驚く。

「泣いてる……?」

眼は赤く腫れ、頬は涙でぐしゃぐしゃだった。

誰かに見られはしなかっただろうか、と心配しつつ急いで洗い流す。

春先の川の水は冷たく透き通っていて、落ち込んだ気分を少なからず洗い落としてくれた。

 

なぜ泣いていたんだろう。そもそも自分は何の夢を見ていたんだったか。

考え事をしながら歩いていると、前から向かってきた人影に思いきりぶつかってしまう。

向こうもこちらに気付いていなかったようで、わきゃ、と情けない声を上げながらしりもちをついていた。

咄嗟のことにどうするべきか迷ってしまう。

 

「女の子にぶつかっておきながら助けもしないなんて。どんな神経してんのー」

 

目の前でへたり込んだままの少女が不満そうな声を上げる。

 

「あ、あぁ。すまん。大丈夫か?」

 

反射的に手を伸ばしてしまって、しまった、と思う。

急いで引っ込めようとした俺の手を白い二つの腕が捕まえる。

視界が反転し、背中に強い衝撃を感じたことで自分が投げられたことを理解する。

鈍痛に小さく唸りを上げていると、頭上から勝ち誇ったような声が降りかかる。

 

「ホントはもう少し痛くしてもよかったんだけど。今日は気分が良いからこのくらいで勘弁してあげるわ。」

 

自分の警戒心のなさに歯噛みしながらも、平静を装って挨拶を試みる。

 

「お、おはよう。キル。」

 

「はいはい。おはよう。ハルト。」

 

彼女の名前はキルシュ。

10年ほど前にこの村に引っ越してきて、今やこの村の顔とも言えるほどの有名人になってしまっている。

北の方の国出身で肌は白く、繊細な陶器のようだ。

スタイルもそれなりに良い。

さらに明るく面倒見が良いので、引っ越してきたその日にはもう村のほとんどの子供と友達になっていた。

此処だけ見ればいう事なしなのだが、彼女もやはり人間。

問題の一つや二つもある。

なかでも一番マイナスポイントなのが……

 

「今絶対失礼な事考えてたでしょ。」

 

言うや否や当然のように飛んでくるアッパーブロー。

暴力癖(これ)である。

北国の人は荒っぽいのだろうか……

珍しく一発で気が済んだらしい。

また癇癪を起さないうちに本題を済まして帰ってもらおう。

 

「えっと……それで?何の用だったんだ?」

 

「えっとねぇ。なぁんだったかなぁ?」

 

わざとらしく考え込むふりを始める。

焦らしているつもりなのだろうが、内容にあまり興味のない俺にとってはあまり意味を成さなかった。

いや、早く帰ってほしい、という俺の願いはかなっていないのでこれは意味を成しているのだろうか?

などとどうでもいいようなことを考えている内に向こうも飽きたらしい。

反応してもらえなかったことに拗ねているかのような口調で口にされた内容は、

俺にあの(・・)キルシュさんの肩を揺さぶりながら聞き直させるに値するものだった。

 

服の上からでも分かるほど腫れあがった腹部を庇うようにして、村の中心部に向かう。

目的地が近くなるにつれて人通りが増え、すれ違う人の中に見慣れない格好をした人達(たぶん行商人)が増えてくる。

此処に来るたびに思うのだが、この規模は村ではない。

一度、村長に改名しては?というような提案をしたのだが、「昔からの歴史ある名前を改名など以ての外」……だそうだ。

 

「おぉ。ハーラルト。思いの外早かったな。お前のことだから明後日位になると思っていたのだが。」

 

物思いに耽っていて、危うく目的の人物をスルーしてしまうところだった。

そんな俺の心の底を見透かすように“村長”は顔を近づけ、目を覗きこんでいる。

 

「村長」というとたくさんの髭を蓄えたお爺さん、というイメージが強いのではないだろうか。

しかし、この村の村長は俺より見た目4,5歳ほど年上のお姉さんだった。

実年齢を知る人は居ない、という事になっている。

 

そんな村長さんに目を覗きこまれ少しどぎまぎしていると、呆れたような表情で挨拶を促される。先ほどのキルシュにしてもそうだが、この村は挨拶やしきたりを大事にする傾向がある。それ自体はとても良い事なのだが、時としてそれが災いすることもあるらしい。

否。あった。今遭っている(・・・・・)。俺が村長に合いに来た目的こそ、現在進行形で「昔からのしきたり」に振り回されていると言えるだろう。

 

戦争もなく、誰もが平和を望み武器を手放した世界。

俺に与えられたのは一振りの剣。

課された使命は―――――

 

 

 

 

 

 

「「――世界を、守れ」」

 

 

 

 

 

 

ん?

今俺以外の人の声も聞こえたような……

嫌な予感を感じながらも後ろを振り返る。

そこには

 

「キル?なんで此処に?」

 

対する答えは村長から帰ってきた。

 

「ハーラルト。キルシュ。今代はお前たち二人が選ばれた。頑張れよ。」

 

村長、ニヤニヤしないでください。

 

俺の抗議の視線を無視して村長は表情を真剣なものへと切り替えた。

 

「さて、立ち話もなんだ。どこか静かに話ができるところはないかな?」

 

「そこの喫茶店とかはどうです?」

 

「……。」

 

あぁ、そういう事か。

つまり部外者に聞かれると困る内容なんだな(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「では、少し狭いですが俺の家でどうですかね?」

 

「そうだな。あそこなら……」

 

一人会話の意図を掴み損ねているキルを促しつつ元来た道を辿る。

今説明せずとも直にわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「この世界は、滅びの危機に瀕している。」」

純粋に驚きの念が込められた二つの視線を浴びながら、やっぱりか、と気を落とす。

 

俺の家に到着した村長は扉を閉めるなり本題に入る。

そしてその内容は“知っているものだった”。

否、“知るはずのものだった”?

 

わからない。

この記憶はなんなのか。

今朝観た夢でもこういうことがあった。

しかし、何というのだろう。

 

夢の中とはどこかが違う。

 

頭の中に様々な疑問を抱えながら村長に先を促した。

何か言いたげな表情をしたが、小さく頷くと神妙な面持ちで話し始めた。

 




以上で一章は幕を閉じます。

未来の記憶、と銘打っておきながら、
記憶はあまり蘇りませんでしたね……なんかゴメンナサイ

ハーラルト、はどこぞやの王族、
キルシュはさくらんぼ、という意味です。

これからも全力で執筆させていただきますので、
最後までお付き合いください。

それでは。良い運命を。

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