運命への挑戦   作:laimu

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えっと、初めまして。
こうやって投稿するのは初めてなので緊張しますが、
気楽に読んでいただければ幸いです。

それでは、本文をどうぞ。


序章 セカイの独立

真っ暗な部屋に一つのディスプレイがぼんやりと浮かび上がっている。

締め切られた窓の外からは激しい雨音が鳴り響くが、ヘッドフォンを付けた青年の耳に入ることはない。

時折青年が苛立たしげにキーボードを叩くだけで、部屋の中に変化はない。

ただ一か所、ディスプレイの中だけが淡々と時を刻んでいるようだった。

 

ディスプレイの中には、黒い森と紅い空、という明らかに現実には存在し得ない、しかし見慣れた風景が映し出されており、如何にもな格好をした黒髪の青年とその仲間らしき男女が複数人連れ立って歩いている。

つまるところこれはゲームであり、プレイしているのはもちろん画面前のヘッドフォンを付けた青年。

ヘッドフォンから漏れ聞こえるBGMと画面奥にそびえる高い塔が、このゲームがもう終盤を迎えつつある事を主張している。

結構な頻度で画面端から獣や魔物といった敵対mobが襲ってくるが、黒髪の青年(立ち位置からして恐らく主人公だと思われる)の鍛えられた一太刀の下に切り伏せられる。

青年の斬撃には心なしかプログラムによるモーションだけではない何かが滲み出ているような気がするが、こんな閉塞的な空間の中でプレイしているのだ。そんな錯覚が起きるのは仕方ないと言えるだろう。

ものの数十分としないうちにラスボス臭漂う黒々とした塔の根元に辿り着く。本来ならばこんなに早くたどり着くことはできないのかもしれないが、ヘッドフォンの青年は敵対mobの弱点、攻撃パターンを熟知しているようでほぼ最速で到達していた。

そしてこれまたよくある感じのセーブポイントでセーブ。

塔の真ん中にどっしりと構えた重そうな門をセレクトすると、最上階のボスを倒さない限り城(この塔はどうやら城らしい)からは出られない旨が書かれたウインドウが表示される。

青年は目の疲れを取るように目頭を一度強く抑え、画面を睨むようにしながらキーを叩いた。

 

先ほどよりも輝度が抑えられた空間に踏み込むと先ほどとは比べ物にならない数の敵がほぼ全方位から襲ってくる。しかし、おびただしい数の敵を前にしても主人公の豪剣は留まるところを知らず、全方位を薙ぎ払うように回転、間髪入れずに切り払い、吹き飛ばししながら敵の間に文字通り道を切り開いていく。

そうしてしばらく進むうちに敵の数が次第に減ってきて、その大軍と入れ替わるように大きな扉が現れた。

中には主人公の一回りも二回りも大きな巨人が二体待ち構えていた。けれど、やはりこれも数十分としないうちに打倒されてしまう。

 

ムービーが流れる。意気揚々と奥に出現した階段へ向かう主人公。と、巨人が最後の力を振り絞って鋭利な槍のようなものを投げつけてくる。主人公は避けようとするが間に合わない————そこに仲間の女剣士が走り寄り、主人公を思い切り突き飛ばす。しりもちをついた主人公が見たものは、体の中央を深々と貫かれた女剣士の姿だった……

 

そこでムービーは終了し、女剣士の仇を取ることを誓う主人公一同。このゲームのプレイヤーたるヘッドフォンの青年はこの展開をすでに知っていたようで、興味なさそうに会話文を眺めている。そして、会話文が終わると同時に次の階へと続く階段へダッシュ。

一階上るごとにダンジョンの装飾が複雑にかつ物々しくなっていくが、青年はそれらに目をくれることもなく現れるフロアボスを事務的に斬っていく。そしてついに最後の強敵が立ちはだかる扉の前へとたどり着いた。

 

「ここまでの内容をセーブしますか?」の問いに思考タイムほぼ0で「Yes」を選ぶと、青年はヘッドフォンを外して大きく息を吸う。

塔に入ってからは既に5時間以上が経過しているが、この規模のダンジョンなら5時間は早いほうの部類に入るだろう。いつの間にか窓の外は嵐になっているようで、時折雨戸が大きな音を立てて震えている。

青年は背もたれに身を預け、天井を仰いだ。すると薄暗い部屋の中で視界いっぱいに表彰状のような見た目をした紙が飛び込んでくる。(名前の欄や内容からして、数々のゲームの戦歴や実績と思われる。)それらを一通り眺めた青年は口元に微笑を湛えながら逸る気持ちを落ち着かせるように目を閉じた。

 

五分ほどそうしていただろうか。やがて青年はゆっくりと目を開いた。雨戸の向こうからは先程にも増して大きな音が聞こえている。それらの雑音を意識から排除するようにヘッドフォンを装着すると、再び画面を睨んだ。

 

ゲームは最後の扉をくぐるところから再開する。扉の先には、今までのボスフロアの倍以上の面積を持つ、大広間のような空間が広がっていた。そこへ、黒髪両手剣装備の主人公が飛び込みむと、体を鎧で固め、長い剣と大きな盾を抱えた盾戦士、少し傷んだ服に身を包み、蛮刀を腰に吊るした盗賊、紅ローブに黒っぽい杖を携えた摩導師が続く。広間の奥には階段が続き、一番上にはいわゆる「魔王」が堂々とした態度で巨きな椅子に身を沈めている。

扉から飛び込んできた侵入者を認識した魔王は過剰なまでに装飾された兜の奥でせせら嗤ったうと、そのうちの一人——盗賊だった——に声をかける。

盗賊はふらふらとした足取りで4~5m進んだところで足を止める。主人公達に見詰められる中、盗賊は俯いたままゆっくり振り返ると————主人公達に向けて蛮刀を抜き放った。

 

画面から発せられる赤や黄色のライトエフェクトがヘッドフォンの青年の白い肌を染める。

だんだんとキーボードを叩く音が速く、激しくなっていくことから、今までになく苦戦しているのがわかる。

それもそのはず。先程まで主人公達と一緒に強敵を屠ってきた強者なのである。下手をすればこの塔のフロアボスを一度に相手するよりも強いかもしれない。残りの三人で一気に畳み掛ければ数的優位でゴリ押しできるのかもしれないが、主人公一人で挑むのは(そういうイベントなのだ)やはりつらい。

さらに、こちらは両手剣なのに対し、向こうは蛮刀である。ダメージ量で勝っていても手数や反応速度で後れを取ってしまう。したがって、必然的に防御に回ることが増えてくる。

それでもなんとか相手のヒットポイントを半分以上削ると、ムービーが流れだす。

 

盗賊が一瞬ふらつく。その僅かな隙を逃さず、脇をすり抜けると魔王に切りかかるべく走り出す。

目の端に、追いかけてこようとした盗賊を盾戦士と摩導師が引き留めているのを確認すると、完全に意識を魔王のみに向ける。階段を駆け上がり、振り下ろされた刃が魔王の剣を捉え火花を散らした。

 

弾く、躱す、流す、斬る、斬る、斬る……

魔王との戦いはほとんど互角で、互いの斬撃は直撃はしないものの少しずつ、しかし着実な速さでHPを削っていく。そしてついに魔王のHPが半分を下回りかけたその時、主人公の両手剣が魔王の鎧の留め具を叩き割った。

砕けた鎧の中からは、主人公によく似た白髪の青年が姿を現す。

後ろで戦っていた三人が息を飲むのがわかる。しかし今は容姿を気にしている余裕などないのだ。鎧を失った魔王は防御力こそ落ちているものの、身軽になり、回避されやすくなっているので油断はできない。

それでもなんとか魔王のHPを削りきると、ムービーが流れ出した。

 

片膝をついて崩れ落ちる魔王。主人公が止めを刺そうとしたとき、後ろから悲鳴が聞こえる。思わず振り返った主人公は、後ろで戦っていた三人が相討ちになって倒れるところを目撃する。主人公が視線を外した隙に魔王が体勢を建て直し、討ちかかる。刃が体に届く寸前に剣で受け止めたものの階段まで押されてしまう。勢いが付いているうえに相手のほうが高い位置にいるので、徐々に押され気味になる。もはやこれまで、と思った瞬間、今までの記憶が走馬灯のように蘇った。生まれ育った村、旅の途中で出会った人たち、自分を信じて戦ってくれた仲間……

主人公は自分の中に力が湧き出してくるのを感じ、それを魔王めがけて解き放った!

 

薄暗い部屋の中を眩しいほどの光が染め上げる。

青年はヘッドフォンを投げ捨てると大きくガッツポーズを決めた。画面にはエンドロールに加え、ゲームのスコア、プレイタイム、総クリア数が表示されていた。(ちなみに12回目のクリア、となっていた。)

突如部屋を襲う轟音。

爆弾でもおちたのか、という衝撃が家を揺らす。

先程の閃光はボスが爆散したエフェクト光ではなく、落雷の光だったのだ。

驚いた青年が目にしたのは真っ暗な部屋を映し出す、ほとんどのデータが吹き飛ばされた部屋以上に真っ暗なディスプレイだった……

 

こうしてゲームのデータは消滅する。

しかし、ゲーム自体は現実世界との繋がりを絶たれたまま存在し続けた。

プログラムされた定め(シナリオ)を繰り返すために。

 

そして世界は廻りだす。決められた物語(ストーリー)に逆らう青年達(キャラクター)を中心に。

彼等の進む先に在るのは闇か、光か—————




今回は序章でした。
次回から物語は進みますが、序章が後々絡んでくる予定なので、
気に留めておいてもらえると嬉しいです。

今年受験生なのであまり頻繁には投稿できませんが、次回もよろしくお願いします!

それでは、また次回お会いできることを願って。
良い運命を。

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