五の軌跡   作:クモガミ

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第一章ー4  4月18日 自由行動日 昼編

《午後13:00 【旧校舎】 一階》

 

朝は色々なハプニングが起こったが、俺は学生会館の食堂で昼食を済ませ、この旧校舎へやって来た。

 

え? 俺が何で旧校舎(ここ)に来たかだって?

そりゃあ暇潰しとセピス稼ぎに決まっているだろう諸君!

 

しかもだ。

いざ来て見れば、なんと言うことだろうか!

旧校舎の中の構造が変わってるじゃん!!

何時リフォームしたんだよ!と言いたいぐらいに変わり過ぎているんですけど!?

具体的にどの辺が変わったかと言うと、以前の『特別オリエンテーリング』で使われた落とし穴が在った部屋に大きなリフトのような物が存在しているのだ。

 

数日前まではこんな物は無かった筈なのに、さも初めからそこに在ったかのように現れた謎のリフト。

此処で何が起こったかは知らないが、謎の変異を遂げたこの旧校舎の変わりように冒険心が擽られた俺は今の疑問全てを置いといて、早速そのリフトで下へ行こうとした。

 

「ーーーあれ、トモユキ?」

 

不意に後方から聞き覚えのある声が空間内に響いた。

俺は足を止めて、おもむろに振り向いてみると、扉の前にリィン、エリオット、ガイウスの姿があった。

 

「なんだお前等か、こんなところで何やってんだ? 空き巣か?」

「此処には誰も住んでいないだろう。それに何をしているかはこっちの台詞なんだが」

「入り口の扉の鍵が開けられていたが……トモユキ、お前が開けたのか?」

 

リィンが呆れ顔でツッコミを入れた後、ガイウスが旧校舎の出入り口の扉に訪ねた。

入り口の鍵? ……あぁ、あの事か。

 

「あぁ、俺が開けたぜ! チョロい鍵だったな」

「チョロいってお前な………」

「此処が不法侵入で訴えられる場所じゃなくて良かったものの……」

「勝手に入って良いわけじゃないんだよ、トモユキ」

 

呆れ果てた顔を浮かべてリィン、ガイウス、エリオットの順で俺に注意する。

やれやれ、三人とも真面目だねぇ。

 

「まぁそう言うな。爺ちゃんは言っていた、『興味あるものが出来たのなら、人に迷惑を掛けない程度に追求しろ』と! ……で、空き巣でないならお前達は旧校舎(ここ)に何しに来たんだ?」

「生徒会の仕事を通して学院長からこの旧校舎の調査するよう依頼されたんだ」

「リィンの話によると学院長も前々から旧校舎のことが気掛かりだったらしくてな。去年から度々聞く旧校舎の摩訶不思議な噂や現象が一体何なのか知りたいらしい」

「それでリィンは調査の為に此処へ来て、僕とガイウスはその手伝いの為に呼ばれたって訳」

「成る程、大体分かった」

 

つまり学院長は良い機会だからこの謎めいた旧校舎の解明を、生徒会を通してリィン達に頼んだってことか。

面白そうじゃねぇか……。

そうと分ければ!

 

「じゃあさっさと行こうぜ! 冒険がてらにその調査を手伝ってやるよ!」

「えっ? トモユキも来るの?」

「当たり前だろう、そんな面白そうな話を聞いたら首を突っ込みたくなるし! それにお前等だけじゃ心配だからな! 四人も居れば調査も幾らか捗るし、戦いも楽になると思うぜ!」

「お、面白いかどうかは分からないけど、トモユキも来てくれるなら丁度二組で戦術リンクが試せるね」

「俺もトモユキがそう言うなら歓迎したいが、どうするリィン?」

「……まぁ人数は多い方が助かるし、手伝ってくれるなら俺も大歓迎だ」

「決まりだな、ほらっ早く乗った乗った!」

 

俺が急かすと三人はリフトに乗り、俺達四人は【第一層】へと下りる。

そう経たない【第一層】に着き、ダンジョンの探索を始める。

このダンジョンは『特別オリエンテーリング』の時の地下のダンジョンと似た感じだが、構造や奥行きが全く異なり、徘徊している魔獣の気配や匂いも前のとは違う物だった。

それ等を入り口近くで確認した俺達は気を引き締めて奥へ進んでいると………。

 

「おいでなすったか」

 

入り口から数十アージュ程離れたところで、魔獣の群れと遭遇する。

その魔獣達は全てナメクジ型、名前は確かディゾルスラッグだったな。

女子が見たら悲鳴を上げそうな外見をしているが、男子のエリオットも悲鳴を上げそうな顔で魔獣を見詰める。

数は全部で20体。

相手は獲物を見付けたようにジィとこちらを睨み、殺意と敵意を向ける。

その意を察した俺達は各々の武器を取って構えた。

 

「初っぱなから大群だが、やれるか?」

「やるしかないだろう、相手がこちらを見逃してくれそうにないしな」

「ガイウスの言うとおりだ、それに戦術リンクを試すのに丁度良い」

「確かにあの力があれば、百人力だね」

 

それでこそ俺のクラスメイトだ。

しかし戦術リンク、『特別オリエンテーリング』で体験したあの力か。

あの時は全員と繋がった感じだったが、今回は一対一のリンク。

さて、この場合ならどんな感じになるのやら。

 

というわけで俺はエリオットと、リィンはガイウスと、以上の二組でリンクする。

これで準備は整った。

 

「OK……そんじゃやりますか!」

 

まずは最初に俺が先陣を切った。

引き摺るように右手の大剣を地面に擦り付けながら、魔獣の群れへと突進する。

一人で突っ込んでくる俺に魔獣達の20体中の7体が前に出て、向かい撃とうとした。

 

「(掛かった!)」

 

接近するから接近戦をする気だと思い込んで、前に出てきた7体のスラッグの行動を見た俺はすかさず地面を力強く蹴って、天井に当たらない程度に跳躍する。

4アージュぐらいの高さまで跳躍した俺の身体は魔獣の群れの頭上まで移動し、突進したきた相手が突然飛び上がって自分達の頭上に来たことに驚き、思わず視線を俺にだけ集中してしまう魔獣達。

 

「えいっ!」

 

敵の注意が俺に向いている隙を狙ってエリオットが魔導杖からアーツの力を帯びた球体を放出する。球体は俺の行動で前に出た7体のスラッグに命中し、不意を突かれた7体はダメージを貰い怯む。

直後に俺は前に宙返りする際、逆さまに状態になった時に左手の銃から十発の光弾を放ち、7体のスラッグを射抜く。

射抜かれた7体は全てセピスに変わり、撃った俺は魔獣達の背後に着地する。

フェイクにまんまと引掛かった魔獣達は背後に回り込まれたはいえ、状況的には孤立している俺を狙うべきだと思ったのか、身体を180度回頭し、襲い掛かろうとした。

 

「紅葉斬り!!」

「ゲイルスティング!!」

 

だがその前にリィンが眼にも止まらぬ速さで3体のスラッグを切り刻むと共に俺と同様に魔獣達の背後に入り込み、同時にガイウスが槍の鋭い突きで4体のスラッグを貫く。

リィンとガイウスが攻撃した奴等もセピスへと変わり、残り6体になってしまったスラッグ達は仲間が一瞬でやられてしまって戸惑ったのか、アタフタと顔を左右に振る。

『好機だ!』と俺は一気に畳み掛けようと駆け出す。

他の三人も達はそう思ったらしく、俺の後に続く。

対して残りのスラッグ達は成す術も無く、総攻撃を受け、やられた仲間と同じようにセピスに変わった。

これでディゾルスラッグは全て撃破し、俺達は武器を仕舞う。

 

「一丁上がりだな!」

「大群だったけど、あっという間に終わっちゃったね」

「あぁ、思ったよりも上手くいった」

「戦術リンクの力のお陰だな」

 

地面に落ちたセピスを拾いながら俺達は今日最初の勝利を喜び合う。

戦術リンクも上手く活用出来たようだし、上出来だろう。

 

「しっかし便利なもんだよな~戦術リンクって。言葉で伝えなくてもエリオットが俺のフェイントに気付いてくれるだからな~」

「そうだね。トモユキが最初に一人で突っ込んだ時は驚いたけど、飛ぶ前に飛ぶ事が分かったから、そのフェイントに合わせて攻撃が出来たしね」

「俺もリィンと同じタイミングで攻撃を出すことが出来た。サラ教官が言ってた通り、この戦術リンクを更に使いこなせば、戦略性がもっと上がるだろうな」

「よし、この調子で戦術リンクのコツを確かめながら奥へ進むとしよう」

「先は長いみたいだし、焦らず行こうぜ」

 

こうして俺達は先が長いと思われるダンジョンと戦術リンクに少しでも慣れるよう、ゆっくり慎重に奥を探索する。

途中で遭遇する魔獣の群れとは戦術リンクを駆使して次々と撃破した。

更に戦いを終えた後、リンクする相手が偏らないようにリンクする相手を度々変えながら、奥へ奥へと進む。

 

やがて数時間の時が経ち、俺達はようやくゴールらしき扉の前に辿り着く。

おまけにその扉の近くに回復装置が設置していたので、回復ついでに暫しの休憩を取った。

そして十分に身体を休めると俺達は扉を開けて、中へと入る。

 

「此処は………」

 

リィンが中を見て、そう呟く。

そこはリフトがあったあの部屋と同じぐらいの広さの部屋で、壷や仕掛けのような物など一切何も置いていないダンジョンの中で一番殺風景な空間だった。

 

「何にも無いね、何なんだろうこの部屋?」

「少なくともただの普通に広い部屋ではないようだ、妙な風を感じる……」

「みたいだな、此処まで来て何も起こらないって言うのは流石にないだろうぜ」

「とにかく用心に越したことはない、皆警戒してーーーっ!!」

 

俺達が部屋の中央まで移動しようとしたその時だった。

突然、中央の空間が黒く歪み始め、同時に魔獣の匂いが漂い始めた。

予感が的中し、俺達は武器を取り出す。

すると黒い歪みから4アージュは余裕であるだろう、不潔感漂う体毛に覆われ、頭部には角、手足には鋭い爪、そして甲冑のような物を顔に被った二本立ちの魔獣が出現した。

 

ミノスデーモン。

名前通り、悪魔を彷彿とさせる外見と全身から放つなんとも言えぬ威圧感が特徴の魔獣だった。

空間の歪みが消えた直後、その外見と威圧感に気圧されたエリオットが驚きと怯えが合わさった表情を浮かべる。

 

「あわわわわわっ!」

「くっ! 妙な風の正体はコイツか!」

「どうやら【第一層(ここ)】の親玉みたいだな!」

 

出現の仕方といい、全身から威圧感といい、コイツがボスと見て間違いない!

俺がそう断定するとデーモンの甲冑から鈍く光る眼光が俺達に向き、他の魔獣達とは比べ物にならない程の大きな敵意と殺意を感じる。

 

「来るぞっ!!」

 

リィンが警告した次の瞬間、デーモンは咆哮と共に地響きを立てながらこちらへ突進してきた。

4アージュ以上もある、その巨体には似合わない程の速度で間合いを詰め、接近戦に持ち掛けようとする。

 

そうはさせない!と俺はすかさず左手の銃で光弾を放ち、走るデーモンの胴体に当てた。

ギャオオオ!とデーモンは身が溶けるような痛みに悲鳴を上げる。

威力に自信のある光弾でもその身体に風穴を空けれなかったが、かなりのダメージを与えられたようで、走る速度が急激に遅くなった。

 

「今だエリオット、エコー!」

「う、うん! エコーズビート!」

 

デーモンの足が遅くなっている内に身体のコンディションを上げようと俺の促しに応えてエリオットは魔導杖の柄頭で地面に叩き、エコーズビートを起こす。

空間内にメロディが響き渡ると発生者のエリオットも含めて俺達は自動回復と防御強化の恩恵を得る。

 

良し、間に合った!

 

エコーが効いている間はダメージをある程度軽減出来る上に中小規模の怪我ぐらいなら自動回復ですぐ治る。

三分間の効果だが、かなり便利な技だ。

これで戦闘が少し楽になったと思ったところで、デーモンの走る速度が戻り、俺達の眼前まで距離を詰めた。

俺とエリオットは左翼へ、リィンとガイウスは右翼へ即座に飛ぶ。

 

直後に俺達が居たところにデーモンの巨大な手が振り下ろされ、そこの地面が叩き割れる。

あと1秒でも離れるのが遅かったら誰かの身体が無慈悲に潰されていただろう。

その光景を見たエリオットは顔を引きつかせる。

 

「まともに喰らうなよ、喰らったらペシャンコだぞ!」

「こ、怖いこと言わないでよ!」

 

言われて想像してしまったのか、俺の注意にエリオットが抗議した。

その抗議をもっと聞いてやりたいところだが、デーモンはそんな暇は当然与えてくれず、攻撃を再び開始し、俺達は熾烈な攻防戦を繰り広げた。

 

 

戦いの火蓋が切られてから数分後。

俺達は戦術リンクの力を利用して上手くお互いにカバーしながら、デーモンの攻撃を凌ぎしつつ、攻撃を当てる作業を繰り返していた。

相手は『特別オリエンテーリング』で戦ったガーゴイルよりも硬い皮膚と高い体力を持っていて、四人掛かりの攻撃でも中々膝を着かせることが出来ないが。

確実にダメージを与えているので、僅かだが手足を振るパワーが弱まっていた。

 

一方こちらは特に大きな怪我は負っておらず、戦闘に支障はない。

だが時間的にもそろそろ二度目のエコーズビートが切れそうで、もし切れたら自動回復と防御強化の恩恵が無くなる。

三度目のエコーを掛けたい時は後ろの方でエリオットの近くに集まらなければならないというリスクを犯さなければならない。

しかも何分も気が抜けない攻防を繰り広げている所為で、俺と共に最前線で戦っているリィンとガイウスが疲れてきたようで、二人の動きが少しずつ鈍くなっていくのが分かった。

 

早く勝負を着けなれば二人がヤバイと思った矢先………。

予期していたことが起きてしまう。

 

「ぐアァ……ッ!!」

 

動きが鈍くなって避けれないと判断し、咄嗟にデーモンの攻撃を防ごうとしたガイウスだったが、槍では衝撃を殺し切れず、豪快に後ろへ突き飛ばされる。

パワーが弱まったとはいえ、馬鹿力なのは変わらず、ガイウスの身体は一回地面にバウンドしてから後ろに居たエリオットよりも更に後ろへ後退した。

 

「「「ガイウス!!」」」

 

仲間が吹き飛ばされ、俺達が呼び掛けた瞬間。

タイミングが悪いことにエコーズビートが切れてしまった。

これでは今受けたガイウスのダメージを自動回復で消すことが出来ない。

 

「だ、大丈夫だ………まだ……」

 

心配を掛けますまいと『まだ戦える』と言って、仰向けの状態から立ち上がろうとするガイウスだが、やはり受けたダメージが大きいようで、上半身すら起き上げれない状態だった。

あれ程のダメージを受けたのなら、回復魔法じゃないと!

 

「エリオット、早く回復を!」

「わ、分かったよ!」

 

俺が指示する前にリィンが一瞬早く指示を出し、エリオットは慌ててガイウスの元に駆け寄り、回復魔法を唱えようと詠唱を始める。

二人が一時的に戦闘から外れたことにより、俺はリンクの相手をリィンに変え。

変えた直後、俺等二人は後方の二人を守り易くする為、バックステップでデーモンから少し距離を取る。

 

「トモユキ! 俺達でガイウスが回復する時間をーーー」

「待てリィン」

 

言葉の途中だが俺は手を翳して制止させた。

疲労している今のリィンに無理をさせたら危険だと判断したからだ。

 

「お前も疲れてるだろう、無理すんな。下手したらガイウス以上のダメージを受けるぞ」

「けど、この状況じゃそれしかーーー」

「早まるなって! 俺に良い案がある」

「案?」

 

それはなんだ?と言いたげにリィンはキョトンとさせ、俺はその案を見せる為、印を結ぶ。

 

「忍法、分身!」

 

次の瞬間、俺の周囲にボン!と煙が20体も生じる。

するとそのすぐ後、隣に居るリィンだけではなく、後方のエリオットやガイウスも眼を見開いて驚愕した。

まぁ無理もないだろう。

何故なら、煙が晴れるとそこには〝20人の俺〟が居るのだから。

 

「と、ととととととトモユキが!」

「増えた………!?」

 

後方の二人が、俺が20人も増えたことに眼を疑う。

説明してやりたいところだが、時間が無いので後回しだ。

 

「散開!」

 

オリジナルの俺が指示を出すと分身達は移動を始め、デーモンの周囲に集まる。

相手の数が急に増えてデーモンも戸惑う挙動を見せていたが、俺の分身達が自分の周りに寄って来たことで防衛本能が働き、その内の一体を攻撃にした。

攻撃されたその分身体はボン!と音を立てて、消滅する。

 

「き、消えたちゃった!」

「あのトモユキ達、実体が無いのか!?」

「その通りだリィン! あの分身達は実体が無い、故に攻撃は出来ないがああやって敵の注意を引くが出来る!」

 

一早く分身達に実体が無いことに気付いたリィンに俺は分身達の主な使い方を簡潔的に伝える。

 

「だからアイツ等が敵を引き付けている間、お前も少しは身体を休めておけ! このチャンスを最大限に活すんだ!」

「……分かった! 助かるトモユキ」

 

促しを素直に受け入れたリィンはガイウスの回復が終わるまで、一旦身体を休めた。

 

そして20秒ぐらいの時が経ち、分身達の数が残り4体になったところで、

 

「ティアラ!」

 

ようやくエリオットの回復魔法が発動し、ガイウスのダメージを取り除く。

回復を施してくれたエリオットに『ありがとう』と言って、ガイウスはむくりと起き上がる。

 

「三人とも心配を掛けた、もう一度加勢する!」

 

頼もしい言葉と共に戦線に復帰するガイウス。

元気な声が聞こえて俺とリィンは自然と笑みが零れる。

するとガイウスは自分を突き飛ばしてくれたデーモンを一睨みし、

 

「さっきのお返しだ! ゲイルスティング!!」

 

受けた借りを返すべく鋭い槍の突きを飛ばして、デーモンの角の一本を跳ねた。

デーモンはご自慢の角の跳ねられ、悲鳴を上げる。

『今だ!!』とそれを機に俺達は総攻撃を仕掛けた。

 

「忍法、大車輪!!」

 

ブーメランのように俺は右手の大剣を投げ飛ばし、回転の力でデーモンの胸に大きな切り傷を付ける。

更に大剣は標的を通り過ぎるとカーブを描いて180度方向転換し、次は背中にも切り傷を付けて俺の手元に戻って来た。

 

「アクアブリード!!」

 

続いてエリオットが攻撃アーツを発動させ、水の一塊を溝にぶつけた。

ゴフゥ!!とデーモンは空気を吹き出し、とうとうダメージが許容範囲を超え、膝が地面に着く。

そして敵が姿勢を低くしたことで、身体を休めていたリィンが見計らったように駆け出し、

 

「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

雄叫びと共に跳躍して、勢い良くデーモンの眉間に太刀の切っ先を突き刺した。

殆どの生物を含めて人間で言うと急所に当たる場所を刺されたデーモンは声にならない声を吐き出し、仰向けに崩れ落ちる。

 

「やった!」

 

おいエリオット、それはフラグだぞ。

……まぁ頭を刺したし、これで終わっただろう。

 

と思い込んだその時。

 

「ーーーまだだ! まだ命の息吹きが残っている!」

「ッ!?」

 

ガイウスがまだ息があると叫んだ瞬間、デーモンの腕が自分の上で股がっているリィンを掴もうと伸びる。

しかし、ガイウスの警告のお陰でリィンは後ろに飛び下がり、寸のところでそれをかわした。

あぶねぇと俺も含めて皆が肝を冷すとデーモンは眉間に太刀が刺さったまま、おもむろに立ち上がる。

 

生物の授業で聞いていたが、魔獣は他の生物とは身体の構造がかなり違うようだ。

それを身を持って知った俺は左手の銃を構え、

 

「リィン!」

 

『伏せろ!』と言わなくてもリンクで繋がっているお陰で、名前を呼ばれただけで身を屈めた。

直後に銃口から三角形状の金色の柱のような光弾が発射され、先端部分がデーモンの腹に張り付く。

 

「でぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

俺も雄叫びながら跳躍し、蹴り飛ばすようにその三角形状の光弾の中に両足から飛び込む。

中に入ると光弾はドリルのように回転し始め、デーモンのドテッ腹を削り取り、瞬く間に人間一人分の風穴を開けた。

 

『トライデントハンマー』

左手の銃から三角形状のドリルの光弾を放ち、ドリルの中に飛び込みことでドリルが回転する、破壊力と貫通力が高い技だ。

 

腹にトンネルような風穴を開けられデーモンは今度こそ絶命し、セピスへと変わった。

さっきの空間の歪みや他の魔獣が出る気配はなく、俺達は戦いが終わったことを確信すると溜め息を溢す。

同時に俺は分身達を消す。

 

「ふぅ~~~、危ないところだったぁ……」

「戦術リンクが無ければ、殺られていたかもしれんな」

「そうだな……だが、此処まで戦った甲斐もあって戦術リンクに大分慣れてきた」

「おまけに実戦経験もセピスも得て一石二鳥、いや一石三鳥だな!」

 

各々が地面に落ちた大量のセピスを拾いながらそう話している中、リィン、エリオット、ガイウスの視線が俺に集まる。

 

「ところでトモユキ、さっきのトモユキ達は何だったの?」

「あれか? あれは分身の術って言う実体の無い俺の分身を作り出す忍法だ」

「「忍法?」」

 

やはり聞き慣れない言葉だったのか、ガイウスとエリオットが首を傾げる。

だが、リィンだけは。

 

「そうか、今のが忍法なのか」

「知ってるのリィン?」

「あぁ、昔老師から聞いたことがある。東洋の極東には忍法と言う名の不思議な術を扱う【ニンジャー】と名乗る者達が居るって」

 

いや、【ニンジャー】じゃなくて【忍者】な。

こっち方面ではそういう風に伝わっているのか?

まぁ大した違いじゃないし、訂正するのも面倒だからその名で通すとするかね。

 

「……ふっ、その通り! 俺が【ニンジャー】だぁ!」

 

堂々と【忍者】もとい【ニンジャー】を肯定した俺は景気付けに印を結び、ある術を発動させる。

ボン!と煙と共に発動させたのは忍法、変化の術。

そして変化したのは全裸の美女。

 

これから仲良くやっていく仲間なんだから、これぐらいのサービスはしないとな!

俺って良い奴~~~。

さ~て、三人の反応は………。

 

「「「…………」」」

 

カッ!!と三人の目蓋が大きく開いたと思えば。

三人同時に鼻血を噴き出して倒れ込んだ。

 

その予想外のピュアなリアクションに流石の俺も呆気取られる。

 

「って、うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!! 純情過ぎるだろうお前等ァーーーーーーーー!!?」

 

俺の叫びが旧校舎内に響き渡る。

こうして俺は鼻血出して逆上せた三人を引き摺って旧校舎を後にするのであった。




ストーリーの進行をスムーズにする為に第二章から出てくる旧校舎のエレベーターを出しました~

次回は自由行動日 夕方編 を載せたいと思います

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