五の軌跡   作:クモガミ

7 / 30
また一万文字越えだ・・・・今度からはちょっと自重しようかなw


第一章ー3 4月18日 自由行動日 朝編

《4月18日 午前9:00 【トールズ士官学院】技術棟》

 

「ではジョルジュ部長。行ってきます」

「あぁ、頼んだよイビト君」

 

技術部の部長、ジョルジュ・ノーム先輩に期待の言葉を背中越しに送られた俺は工具を持って技術棟から出る。

今日から晴れて技術部に入部した俺は部長にその腕を買われて入部早々、ある部活の壊れた道力器を直してくるよう頼まれたのだ。

何でも今月から大量の修理の仕事が舞い込んで来て、とても一人では対処出来ないらしく、そこで新入部員である俺にその仕事の一つを回したという訳だ。

まぁ技術部に入部した以上、遅かれ早かれこういう仕事が回ってくるのは分かっていたので、特に戸惑ったり困ったりはしない。

それに以前、就いていた仕事でもこういう類いの仕事もこなしていたので、緊張も問題もない。

一方、部長の方は送られて来た道力器の修理と今日の朝に来る〝お手伝いさん〟の為にも技術棟に残るみたいだし。

 

「あっイビト」

「ん、リィン」

 

噂をすれば何とやら。

技術棟から出て、学生会館を差し掛かった時、リィンと鉢合わせする。

 

「おはよう。工具を持っているようだが、どうかしたのか?」

「部長に頼まれてな。今から演劇部で調子が悪くなった道力器を直しに行くところなんだ」

「へぇそうなのか。入部して早々そんな仕事を任されるなんて、よっぽど期待されているんだなイビトは」

 

俺の話を聞いてリィンは感心そうな表情を浮かべる。

期待ね………部長とは昨日会ったばかりだが、まぁ少なからずそう言った感情は抱いているのかもな。

 

「……俺が入るまで技術部は部長一人だけだったからな、しかも今月は仕事が立て込んでいるみたいだから、猫の手でも借りたい状況なんだろう」

「えっ? 技術部ってその部長一人しか居なかったのか?」

「そうだ。……で、お前はジョルジュ部長に用があるんだろう? 部長なら技術棟の中だ」

 

学生会館の隣に在る技術棟に親指を指して、部長は中に居ることをリィンに教える。

するとリィンは眼を丸くして俺を見る。

 

「良く分かったな? 俺がジョルジュ先輩に用が有るってことを」

「部長から聞いたんでな。それじゃあ俺はこれで失礼するぞ」

「あぁ、仕事頑張れよ」

 

リィンの応援の言葉を機に俺達は別れる。

しかし、リィンも大変だなぁと本人の後ろ姿をチラッと横目で見て思う。

部長の話によると生徒会の仕事の一部をサラ教官に押し付けられたという話だ。

お人好しだということは前々から分かっていたが、そこを突け込まれて面倒事を押し付けられるとは同情に禁じ得ない。

まぁそれを断り切れず、引き受けてしまうリィンのお人好しさにも呆れるが。

 

「あら、イビト」

「む、ゼオラ」

 

リィンに対して、同情と呆れの感情を抱いていると本校舎の前で今度はゼオラと鉢合わせする。

そういえば昨日、彼女は演劇部に入部したと言っていたな。

ということはこれから講堂で演劇の練習か。

煽てられて入部したとはいえ、ちゃんと練習には行くみたいだな。

『まぁ入部したんだから当然と言えば、当然か』と内心納得していると彼女もリィンと同様、視線を工具に落とす。

 

「工具なんて持ってどうしたのですの?」

「君が入部した演劇部の部員さんから道力器の修理を依頼されたんでな。これからその道力器を直しに行くところだ」

「道力器の修理? あぁ、そういえば貴方、技術部に入部したんでしたわね。しかも修理しに行くところが演劇部とは………一体何が壊れたんでしょう?」

「それは着けば分かるさ。あと良ければ演劇部の部長さんを紹介してくれないか? 調子が悪くなった道力器が何なのか聞きたいし」

「ええ、構いませんわ」

 

彼女が快く承諾すると俺達二人は講堂へと共に歩み出す。

そして俺達が講堂の中へ入ると。

 

「おはようゼオラ。時間通りね」

 

右側面の方から女性の声が響き、俺は声がした方に顔を向ける。

そこには白い制服を身に纏ったモミアゲ部分の髪をロールした銀髪の女子生徒が立っていた。

しかも制服のリボンから見て、二年の先輩だということが分かる。

 

直後にゼオラが彼女を部長と呼び、朝の挨拶を述べる。

今部長と言ったな、ということは彼女が演劇部の部長か、探す手間が省けたな。

と俺がラッキーだと思った瞬間、こちらに歩み寄ってきた演劇部の部長が俺の存在に気付く。

 

「あら、そこに居る貴方は誰かしら? ゼオラと同じ赤い制服を着ているから一年生よね?」

 

俺とゼオラの正面まで来て、演劇部の部長はそう投げ掛けた。

その投げ掛けに対して、俺はぺこりと軽く頭を下げる。

 

「はじめまして、今年から技術部に入部しました一年のイビト・バームストです。今日は調子が悪くなったっていう道力器の修理の依頼を受けてお伺いに来ました」

「技術部に? へぇ~……てっきりジョルジュ君が来てくれるのかと思ったんだけど、そっか~ジョルジュ君にも部活の後輩が出来たのね」

 

意外そうな表情を浮かべた後、今度はジョルジュ部長を祝福するようにうんうんと頷く演劇部の部長。

感じから察するに、この演劇部の部長さんとジョルジュ部長は友人関係のようだ。

 

「あっ、自己紹介が遅れたわね。私はシャルル・カリスワード、言わなくても分かっていると思うけど、演劇部の部長をやっているわ。今日はよろしくねイビト君!」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますシャルル先輩。では早速ですけど、修理して貰いたいという道力器を見せて貰いますか?」

「分かったわ、こっちよ」

 

用具置き場へ足を運ぶシャルル先輩の後に付いて行き、辿り着くと先輩は部屋の隅っこに置いて在った、三つの脚のような物が生えた箱型の道力器を引っ張り出す。

それが何なのか、見当が付かなかったゼオラは首を傾げて、

 

「何なのですか、それは?」

「これは道力撮影器って言う、景色や場面を映像として撮る道力器よ」

「少し古いタイプですね、一体どういった風に調子が悪いんですか?」

「うーんとね、録画ボタンを押しても映像を撮ってくれなかったり、録画を切っていないのに録画が勝手に切れちゃうのよねー」

 

コメカミに手を添えて困った表情を浮かべながら道力撮影器の故障内容を話すシャルル先輩。

結論から言うと、故障は録画ボタンにあるみたいだな。

だとすると接続系統に問題がある可能性が高い。

俺は三つ脚の道力撮影器をシャルル先輩から受け取り、フレームを取り外す。

 

「どう? 直せる?」

「問題ないと思います。1時間前後の時間をくれれば終わると思うのですが、大丈夫ですか?」

「ううん、今日中に直るんだったら時間なんて気にしないわ! お願いねイビト君!」

「了解しました、それじゃあ椅子をお借りしますね」

 

一言断ってから椅子を拝借し、工具のフタを開いて早速作業に取り掛かる。

 

「それじゃあゼオラ、練習に取り掛かるわよ」

「は、はいですわ」

 

俺が作業を始めるとシャルル先輩は練習を始めようとゼオラを連れて、ステージの方へ向かう。

二人が用具置き場から離れたことを期に俺は無言で作業に没頭するのであった。

 

 

≪視点変更:エレカ≫

 

 

時刻は午前10:00

喫茶店で朝食を終えた私は喫茶店の前で辺りを見渡す。

 

「この後、どうしようかな……」

 

などと私は独り言を呟く。

今日は自由行動日なので授業は無く、一日中何をしても構わない日なのだけど。

何か予定が無い人にとっては何をしようか迷う日でもあり、私も現在進行形で何をしようか迷っている。

詰まる所、暇なのだ。

 

クラスの皆みたいにクラブに所属していれば、今頃そのクラブでクラブ活動に勤しんでいるだろうけど、生憎今の私はクラブには所属していない。

ブディックの【ル・サージュ】にでも行こうかな………と思ったその時。

 

「おっーす! エレカ!」

「っ、トモユキさん」

 

第三学生寮の方からトモユキさんが現れた。

そういえばトモユキさんも私と同じ、クラブには所属していないそうだがら、今日は彼も暇なのかな?

 

「いやー、今日は暇だぜー!」

 

案の定、その通りだった。

しかも恥ずかしげも無く、爽やかな声で言う辺り、流石と言うべきだろうかな。

 

「お前も暇そうだな?」

「う、うん。まぁそうだけど」

「なら丁度良い! これからクラブに入ったウチのクラスの奴等にちょっかいを兼ねて様子を見に行こうと思うだが、お前も来ないか?」

「えっ? そ、それって冷やか―――」

「細けぇこと良いんだよ! さっさと行こうぜ!」

「ちょ、ちょっと! 引っ張らないで!」

 

私の意思など関係なく、トモユキさんは強引に私の腕を引っ張り、学院まで連行し、私とトモユキさんはまず音楽室に辿り着いた。

 

「よぉ! おはようさんエリオット」

「お、おはようございます」

「あぁ、トモユ―――ッキとエ、エレカ。おはよう」

 

トモユキさんの次に私の姿を見て、慌てて言い直す様に朝の挨拶を送るエリオットさん。

………やっぱり、クラスの皆が自力で私の存在に気付いてくれるのはまだ遠いみたい。

それを改めて思い知り、私は内心溜息を吐く。

 

「どうだ、吹奏楽部は? 上手くやってイケそうか?」

「うん、部長も含めて皆音楽が好きだし、話も合うし、上手くやってイケそうだよ」

 

思っていた以上に環境が良かったみたいで、エリオットさんは嬉しそうに答える。

良いな……趣味が合う人が沢山居て。

私なんてこれと言った趣味が無いから、正直羨ましい。

 

「そりゃあ重畳……で、手に持っているそれはバイオリンだよな? バイオリンが得意なのか?」

「バイオリンだけじゃないよ、ピアノとかオルガンとかフルートとかも得意だし、その他にも楽器なら一通り弾けるよ」

「ひ、一通りもですか?」

 

私は眼を見開いて驚く。

楽器って全部で幾つ有るんだっけ?

確か10個以上は有る筈だから、エリオットさんそれ全部弾けるの?

す、凄いな………、私はハーモニカぐらいしか弾いたことがないのに。

トモユキさんも私程じゃないけど、眼を大きくして驚いているように見える。

 

「そいつはスゲーな。エリオットってホント音楽マニアだな」

「アハハハ、やっぱそう思う?」

 

己の音楽に対する熱意を自覚しているのか、エリオットさんは苦笑を浮かべる。

 

「……でも、それだけ音楽が好きってことなんですよね?」

「まぁね。音楽は僕が産まれた時からずっと傍に在ったから、僕の身体の一部と言ってもおかしくないかな」

 

産まれた時からずっとか…………。

そういう部分は私と一緒だな。

その後、私達二人はエリオットさんともうちょっと話してから次は美術室に向かう。

 

「お、おはようございますガイウスさん」

「おはようガイウスー」

「む………エレカにトモユキ、おはよう」

 

命の息吹きで私の存在を察知してくれたのか、私の存在に気付くのが遅くれてもガイウスさんは特に驚かず、いつもの穏やかな顔で朝の挨拶を送ってくれた。

挨拶を返されるとトモユキさんはガイウスのスケッチを横から覗き込む。

 

「何描いてんだ?」

「さっき頭の中で思い浮かんだ物を描いている、これはライノの花だ」

「ライノの花ですか」

 

書いている物を知ると私もトモユキさんと同様、横からスケッチを覗き込む。

まだ色は塗られていないけど、そこには花弁を宙に舞いさせるライノの花があった。

『うわぁ、上手!』と私は思わず、口に出してしまう。

そんな私の感想にガイウスさんは『それ程ではない、まだまださ』と苦笑して返すが、少なくとも私なんかよりはずっと上手いと思う。

だけど直後にガイウスさんは少し困った顔を浮かべる。

 

「しかし、困ったな」

「何が?」

「白を切らしてしまったんだ。同じ新入部員のリンデも切らしているみたいなんでな」

 

ライノの花弁の色を塗る為の肝心な白が切れてしまったようで、どうしようかと悩むガイウスさん。

よくあるよね、描いている途中で肝心な色が切れていることって。

 

「……仕方ない、やっぱりトリスタの【ブランドン商店】に行って白を補充にし―――」

「いや、その必要はないぜ。ガイウス」

「む?」

「もしかしてトモユキさん、白の絵の具持っているんですか?」

「持ってたらさっさと出してるっつうの。そうじゃなくて、トリスタまで戻らなくても学生会館の購買に絵の具が売っているみたいだぜ」

「それは本当か?」

「あぁ、なんなら一緒に行こうぜ。俺達も学生会館に用が有るしな」

 

『分かった、行こう』とガイウスさんはトモユキさんの言葉を信じて、私達は学生会館へと足を運ぶ。

そして購買に顔を出すとそこにはトモユキさんが言った通り、絵の具が有り、それを確認したガイウスさんはこの際だから白だけじゃなく、他の色も全部買おうと判断したようで、絵の具を全色購入した。

買い物が終わるとすかさずトモユキさんがせっかくだから二階に居るエマとマキアスさんの様子を見に行かないか?と誘う。

付き合いの良いガイウスさんは特に断る理由が無かった為、快くその誘いに乗り、私達三人は二階へと登ってまずは文芸部に入る。

 

「おっすー委員長、搾りに来たぞ~」

「「おはよう、委員長」」

「トモユキさん、ガイウスさ―――んにエレカちゃん。お、おはようございます」

 

委員長も慌てて言い直すように朝の挨拶を送る。

……なんか今、デジャブを感じちゃったよ。

 

「――で、トモユキさん。何を搾り取りに来たんですか?」

「無論、その牛乳が詰まっていそうなち――――」

「訴えますよトモユキさん」

「………ごめんなさい」

 

威圧感を漂わせる氷のような笑顔から放たれた言葉に流石のトモユキさんも委縮する。

外野の私もガイウスさんも気圧されるところだった。

 

「それにしても三人とも、今日は一緒にどうしたんですか?」

「俺はトモユキに誘われて委員長の様子を見に来たんだ。邪魔だったか?」

「いえ、そんなことは」

 

首を横に振って、否定する委員長。

ところで今、何をしていたんだろう?ちょっと聞いてみよう。

 

「何していたの?」

「部長から勧められた小説を拝見していました」

「ふむ、どんな小説なんだ?」

「え、えっと、それは………」

 

あれ? どうしたのかな?

ガイウスさんが小説について尋ね出すと急に歯切れが悪くなる委員長。

もしかして、触れられたくないことでも?

 

「これがその小説か?」

「あっ! と、トモユキさん!」

 

テーブルに置いてあった、委員長が読んでいたと思われる小説をトモユキさんが拾い上げて中を拝見すると、委員長が慌てて声を出す。

そんな委員長の声を虚しく、ペラペラとトモユキさんがページを捲っていく。

 

「……………」

 

流し読みだけど、ページを捲っていく度、トモユキさんの眼から光が失っていき、やがて静かに小説を閉じる。

何が書かれたいたかは知らないけど、トモユキさんは小さな笑みを浮かべて小さく頷いた後、ボソッとこう呟く。

 

「腐ってやがる」

 

え? 何が?

言葉の意味が分からず、私とガイウスさんは首を傾げる。

しかし、委員長はその言葉の意味が分かったのか、慌てた表情を浮かべ、

 

「と、トモユキさん! 違うんです! それはそのーーー」

「大丈夫だ委員長、趣味や趣向は人それぞれだ。だから俺は委員長の趣味を否定も拒絶しないさ」

「いえ、だから誤解なんです! その小説は部長から勧められて読んだだけで、決してそんな趣味はーーー」

「安心しろ、リィン以外には言わないから」

「それってリィンさんには言うってことですよね!?」

「気にするな。さて……エレカ、ガイウス、もう行くぞ。委員長邪魔したな」

「ま、待って下さいトモユキさん! 私の話をっ!!」

 

何かを弁明しようとする委員長の言葉に耳を貸さず、トモユキさんは私とガイウスさんの背中を押して、私達三人は文芸部を後にし、チェス部に向かう。

途中、文芸部の方から『待って~~~』と乾いた声が響いた。

 

チェス部に入るとテーブルの上に置いてあるチェス盤を椅子に座りながら睨むマキアスさんが居た。

考え事でもしているのか、こちらが入ってきたことに気付いていない。

私達はそんなマキアスさんの傍まで近寄り、まずはトモユキさんが声を掛ける。

 

「マッキー、何やってんだ?」

「ん、トモユキ、それにガイウス。君達二人がどうして此処に?」

「いや、三人だマキアス」

「へっ?」

 

ガイウスさんの訂正にマキアスさんはすっとんきょうな声を出す。

………いつもことだけど、慣れたくないなこういうのは。

そんな愚痴を内心吐きつつ、例の如く、私は私の存在に気付いない人に声を掛ける。

 

「………わ、私も居るんだけど」

「へっ? う、うわぁあああ!!?」

 

私の存在に気付いて、まるで幽霊に出会したように声を裏返して驚くマキアスさん。

むぅ………何もそんなに驚かなくても。

『傷付くな……』と私がそう思った時、マキアスさんが驚いた拍子にバランスを崩して、椅子ごとひっくり返る。

そして更に不運なことに、ひっくり返る際、下から上へと振り上がるマキアスさんの脚がチェス盤を乗せたテーブルに引っ掛かり、よってチェス盤もテーブルごとひっくり返った。

 

「「「…………」」」

 

会ってからまだ数十秒しか経っていないのに、目の前に広がるクラスメイトの惨状に私達三人は黙り込む。

そして数秒の間を置いて、トモユキさんがコホンと咳払いすると。

 

「マッキーの方も大丈夫そうだし、そろそろ行こうか!」

「む、そうなのか? 俺にはそう見えないが………」

「そういうことにしときましょう、ガイウスさん」

「エレカの言うとおりだぜガイウス。これも尺――いや、風の導きって奴だ」

 

納得できないガイウスさんを宥めつつ、私達は踵を返してチェス部を後にする。

 

「―――ちょっと待ちたまえ!! 君達一体何しに来たんだ!? まさか嫌がらせか!? 嫌がらせなのか!?」

 

チェス部の方からそんな声が響いたけど、私達は聞こえないフリをして階段を降りる。

流石に少しは可哀想だと思ったけど、私に気付いてくれなかったことに対しての怒りが勝ったので、このまま学生会館からも出る。

直後に『あれ!? 僕の出番これで終わりーーーっ!?』という叫びが学生会館から聞こえたような気がした。

 

二人の様子を確認したことでガイウスさんは美術部に戻り、二人に戻った私とトモユキさんは次の目標としてギンナジウムまで歩く。

道中でベンチに寝ているフィーを見掛けるけど、気持ち良さそうに寝ていたのでそっとしておくにした。

やがて私達はギンナジウムに着き、水泳部の方に顔を出すとリィンさんと水着姿のラウラを見付ける。

二人は何かを話し合っているみたいで、邪魔したらまずいかな?と思ったけど、そんなことなどお構い無しにトモユキさんが二人に声を掛ける。

 

「よぉリィン、ラウラ!」

「トモユキ」

「そなたも来たか」

「わ、私も居るよ」

 

二人も私の存在に気付いていなかったので、声を掛けると二人は眼を見開いて驚く。

 

「え、エレカも居たのか」

「………うむ、相変わらず見事な透明感だな」

 

ラウラそれ褒めてるの?

感心そうな顔で言われても嬉しくないよ……。

隣のリィンさんも『あはは』と苦笑してるし。

 

「ところで、二人は何してたんだ?」

「通り掛かったリィンに泳ぎのタイムを測ってもらっていたのだ」

「へぇ、タイムは?」

「22.34秒だ」

 

に、20秒代!? す、凄いな………ラウラ。

往復を入れて1000リジュのプールをそんなに早く泳げるなんて、まるでお魚みたい。

トモユキさんも瞼を大きく開いて、驚いているよ。

私も見たかったなー、ラウラの泳ぎ。

そう惜しんでいると今度はラウラ達がこちらに訊ねる。

 

「それで、そなた達は何のようで此処に?」

「あぁ実はな、エレカがどうしてもラウラの水着姿が見たいって言うから此処に連れて来たんだ」

「うん、そうーーーって、えぇ!!?」

「私の水着姿を? ………エレカ、何故そのような物を」

 

し、信じないでよラウラ!!

あとトモユキさん、サラッとそんな嘘付かないください!!

下心丸出しの男子ですか、私は!?

 

「いやラウラ、嘘だから真に受けるな」

「なに? 嘘なのか?」

 

呆れ顔を浮かべたリィンさんが嘘だと教える。

よ、良かったリィンさんが居て……。

居なかったら私一人じゃどうにもならなかったと思う。

そう私が安堵すると、

 

「ぶっはっはっはっは! バレたかー!」

 

嘘はバレたけど、ラウラと私の反応が面白かったのか、爆笑するトモユキさん。

もう! ダシにされたこっちの気持ちも知らないで!

むぅと私はトモユキさんを睨む。

 

「そう脹れるなエレカ、まぁその脹れ顔も可愛いが」

「し、知りません!」

 

妙に良い声で言われて、慌ててプイッと顔を逸らす。

調子の良いこと言って!

そんな褒め文句で許す程、安くないもん私!

 

「………エレカ」

 

すると急にトモユキさんの声が真面目な物になったかと思うと、

 

「見えてるぞ」

 

はい? 何が?

唐突にトモユキさんはそう言って、人差し指を私のすぐ横にあるプールを指した。

リィンさんとラウラと私はその場所に眼を向けると、そこにはプールの水に映った私が居て、しかも水に映っている私はスカートの中まで映っていた。

 

「!!?」

「リィン! 見るでないッ!」

「うわわっ!!」

 

それを見た瞬間、ラウラがリィンさんの眼を塞ぎ、私は咄嗟にスカートを両手で抑えた。

同時にカァと自身の顔に熱が入るのが分かる。

 

み、見られた! ラウラやリィンさんにまで!

というかトモユキさん、何でわざわざそんなことを教えるですか!?

教えるなら私だけにしてください!!

 

そういう意味を含めてトモユキさんを怒りの眼差しで睨むと、当の本人はしてやったりのような顔を見せて、疾風の如く逃走した。

 

「ま、待て~~~~~っ!!」

 

全く反省の色を見せないこと流石の私も頭に来たので、逃げ出した覗き魔に鉄槌を下すべく、全力で追い掛けた。

 

 

《視点変更:視点者イビト》

 

 

時刻は午前10:30。

演劇部から頼まれた修理品を直し始めたから一時間半の時が流れ。

作業が終わったので俺は修理した道力撮影器を持って、ステージの方に居るシャルル先輩の元へ向かう。

 

「よーしゼオラ、最後にもう一回!」

「ハイ!」

 

ステージに着くと衣装姿に着替えたシャルル先輩がゼオラに指示を出し、部長と同じくドレスのような衣装に着替えたゼオラがその指示に応えて飛び上がる。

すると眼には見え難い細長いワイヤーがゼオラの身体を宙高く持ち上げ、600リジュぐらいの高さまで上げると、その後はゆっくりと下ろす。

更にゼオラは降下の最中、円を描くように降下し、ピタリと床に着地する。

 

「ハーイ!それじゃ皆、一旦休憩ね。ゼオラ、その立体装置外して良いわよ」

「分かりましたわ」

 

部長の指示で演劇部の部員達は休憩に入り、部長から許しを貰えたゼオラは身体に取り付けたワイヤーを取り外す。

休憩に入るとシャルル先輩は新人部員のゼオラの練習具合を見て、嬉しそうに頷く。

 

「うんうん、初めてやる割には良い線イッテるわ! やっぱり貴方は私が見込んだ通りの人材よ、ゼオラ」

「ふ、フッ! これくらいどうってことはありませんわ!」

 

息遣いが少し乱れながらも後ろ髪を撫で上げて、余裕ぶるゼオラ。

プライドの高い奴………。

しかし、ワイヤーを使ったアクションか。

まるで何処かの劇団のアーティストの練習みたいだな。

 

……と、考察してる場合じゃない。

先輩に修理が終わったことを伝えねェと。

 

「お疲れ様です、シャルル先輩」

「あっイビト君、お疲れ様。どう、直った?」

「はい、これで大丈夫です」

 

俺は修理した道力撮影器を渡し、先輩は『どれどれ』と故障した部分が直っているどうか確かめる。

録画ボタンを押し、録画が取れることを確認。

次は録画が勝手に切れないか、数秒間録画状態を継続し、勝手に切れないことも確認。

故障箇所が直っていることが分かるとシャルル先輩は満足そうな顔を浮かべる。

 

「上出来! ジョルジュ君も良い後輩が出来たわね~」

「ありがとうございます」

 

お褒めの言葉を貰い、俺は感謝と共に軽く頭を下げる。

簡単な仕事なだったが喜んで貰えて何よりだ、それに褒めてくれるのは正直俺としても悪い気はしない。

だがその後、ゼオラがシャルル先輩の隣に並び、

 

「流石は天才技師の息子と言ったところかしら。貴方のお父様もさぞかし鼻が高いのではなくて?」

「………………俺は、ただの落ちこぼれだ」

「え?」

 

自虐するような顔で答えた俺の返答にゼオラや先輩までも眼を丸くする。

っ……しまった、つい口を滑らせた。

こんなことで感情に露わにしてしまうとは、俺もまだまだだな。

チラリと彼女達の方に眼を向け直すとは二人はさっきの俺の言葉に戸惑っている。

もう手遅れだが、これ以上気まずい空気に成る前に退散した方が良さそうだ。

 

「ではシャルル先輩。仕事が終わったので自分はこれで失礼します」

「―――あ、うん………ご苦労様」

 

気が抜けたような返事だが、先輩の了承を得ると俺は用具置き場に戻り、工具を持って講堂から出る。

出てすぐに俺が溜め息を吐いた時、ARCUS(アークス)が鳴った。

誰かだ?と思いつつ、ARCUS(アークス)を取って通信ボタンを押す。

 

『やぁご苦労様、イビト君。仕事は終わったかい?』

「ジョルジュ部長」

 

通信してきたのはジョルジュ部長からだった。

わざわざARCUS(アークス)で連絡を取るとは、何か遭ったのか?

 

「はい。今丁度終わったところですが、何か遭ったんですか?」

「うん、実はね―――」

 

 

……そして二分後。

ジョルジュ部長の話を聞いた俺は調理室に赴いた。

数分前にARCUS(アークス)で通信してきた部長の話によるとつい先程、料理部の道力器の一つが壊れたようだ。

何でも丸太のような貴族生徒の新入部員が調理中、何故か壊れてしまったとのこと。

 

で、俺は手が離せない部長の代わりにその壊れた道力器を直しに来た訳だ。

入ってすぐに部長らしき人と眼が合ったので、その人に話を掛ける。

 

「料理部のニコラス部長ですか?」

「あっ君! もしかして技術部の人かい?」

「はいそうです。ジョルジュ部長から話を伺い、参上致しました」

「早くて助かるよ! これが修理してもらいたい物なんだけど」

 

とニコラス部長が黒板の前に在るテーブルの前まで案内し、そのテーブルの上には道力オーブンが置いて在った。

……何が起こったんだ? 

テーブルの上に在るオーブンの中が爆発でも起こったかのように黒焦げになっているぞ、取っ手の部分のガラスも砕けているし。

しかも中から死体が腐ったかのような、腐臭みたいな匂いがするんだが。

俺が鼻を摘まむとニコラス部長が深刻そうな顔で聞いてくる。

 

「どうだい? 直せそうかい?」

「……やれるだけやってみます。あとマスクを貸して頂けませんか?」

 

『ちょっと待ってて、取って来るから!』とニコラス部長は調理室の準備室からマスクを取りに行った。

そして部長と入れ替わるように出入り口の方から、

 

「おぉイビトじゃん! 何やってんのこんなところで?」

「トモユキ」

 

相変わらず爽やかな顔と声でウチのクラスメイトが入ってきて、俺の前で止まる。

そういえばコイツはどのクラブにも所属していなかったな。

此処に来たのは単なる暇潰しか?

 

「俺は料理部の依頼で壊れた道力器を直しに来ただけだ。で、お前は何しに来たんだ?」

「いや~少し前までエレカに追われててさ~。ちょうど今さっき撒いたところなんだよ。

で、適当にブラブラしてたら此処に着いたって訳」

 

エレカに追われてた? コイツまさか、また何かやったのか? 

………まぁいつものことか、気にしないでおこう。

 

「ところで学院から入った時からすげぇ臭くてすげぇ嫌な匂いが漂っているんだが、一体何が遭ったんだ? 匂いの発生源はこの調理室みたいだけど」

「それはこの道力オーブ――――」

「……やっと見付けましたよトモユキさん!」

 

俺の言葉を遮るように出入り口の方から聞き覚えのある声が響いた。

トモユキと共にそちらへ顔を向けると、背後から怒りのオーラを放ったエレカが立っていた。

何があったかは知らんが、トモユキを睨んでいる。

 

「もう逃がしませんよ! 観念してくださいっ!!」

「おい、何をしたんだお前?」

「話せば長いが、俺がエレカの水色―――」

「そ、それは言わないでくださいっ!!」

 

バッ!と阻止する様にエレカがトモユキに向けてナイフを投げた。

後ろには俺が居るんだが、まぁ避けれるから心配ないか。

だがその必要も無く、トモユキは自分のところへ飛んできたナイフを片手で難なく弾く。

弾かれたナイフはクルクルと回りながら軌道を変え、空いた窓を通り抜け、そのまま外へ落ちて行った。

 

―――するとその後、外からグサッと何か嫌な音が俺達の鼓膜を掠った。

それが気になったトモユキはナイフが通った窓から顔を出し、外を見渡すと、

 

「あっ……教頭ーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

トモユキの叫びが学院中に響き渡る。

後に頭にナイフが刺さった教頭が保健室に運ばれるのであった。




教頭死す!!  (嘘です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。