他の閃のSSを書いていらっしゃる方々もこんな感じなのでしょうかね?
第一章ー1 4月17日 朝の登校
《4月17日 午前7:00 【トリスタ】 第三学生寮》
その時間にセットしていた目覚ましのタイマーが鳴り、俺はそれを止める。
特科クラス《Ⅶ》組が発足されてから早2週間ちょいの時が経った。
名門の学院なだけあって、授業は予想以上にハードな部分が存在し、俺を含めてクラスメイトの殆どがそれに付いていくのがやっとだったが、最近その環境に少しだけ慣れてきたところだ。
季節はまだ春なだけあり、朝は少し肌寒いところがあるが俺は重たい身体を起こしてベッドから離れ、学院に行く支度を済ませる。
そして準備が整ったが眠気はまだ取れていない俺は学院へ行こうと部屋から出る。
「よっ! おはようイビト」
「……トモユキか」
同じタイミングで向かい側の部屋からトモユキが出てきた。
朝にも変わらず、元気で爽やかな声を出す奴だな。
こっちはまだ眠いっつうのに。
「珍しいな、今日は早起きじゃん」
「まぁ、たまにはな」
「他の皆はもう行ったようだし、せっかくだから一緒に学院に行かないか?」
「別に構わんぞ」
眠気がまだ抜けていない声でそう返して俺はトモユキと共に階段の方へ向かう。
自分で言うのも何だが………今の素っ気ない返事に対して全く気にしていないトモユキはあまり細かいことを気にしないタイプなのだろう。
まぁ見た目通りとも言えるが。
「あっ二人とも」
「おぅ、リィンとエリオット。おはよう」
階段の手前のところでリィンとエリオットに会い、トモユキが俺の分も入れて挨拶すると二人もおはようと返す。
彼等もこれから学院に向かうみたいだ。
するとエリオットが俺を見て笑う。
「あはは、今日は珍しく早起きだねイビト」
「お前もそれを言うか」
「だってこの2週間、寝坊で遅刻ばっかしてるじゃない。ねぇリィン」
「そうだな。夜遅くまで何か作ってみたいだけど………程ほどにしとけよ」
「このまま遅刻し続けたら、単位が足りなくなって卒業できなくなるぞ」
「むぅ…」
最後にトモユキにそう言われて俺は唸る。
三人掛かりで痛い所を突くなコイツ等。
だが、事実なので言い返さないのが悔しい。
リィンが言った通り、俺はほぼ毎日ある物を徹夜で作っていて、結果は三人が言った通り、睡眠不足で寝坊し、遅刻を多く繰り返している。
我ながら困った癖だと嘆きたくなる。
作業に没頭すると気付いたらもうこんな夜遅くだったとは、と何度思ったか。
とにかくもうこれ以上、遅刻しないよう夜中に部屋で作業するのは控えておくかと俺は心の中で悩む。
「まぁそれはそうと、このまま四人で学院へ行こうぜ。喋るなら人数は多い方が良いし」
「うん、良いよ」
「もちろんだ」
と、俺が悩んでいる中、トモユキが勝手に話を進める。
……まぁ、別に良いんだが。
こうして一緒に学院に行くことになった俺達四人は一階へと降りる。
降りてすぐにリィンは何かを見たのか、『あっ』と声を発して立ち止まった。
俺達はリィンの視線を辿ってみるとそこには玄関の扉の前で話し合っている女子四人の姿があった。
彼女達は話に夢中になっているようで降りて来た俺達に気付かず、彼女達の手前まで近付くと最初にエマがこちらの存在に気付いた。
「リィンさんとエリオットさん。それにイビトさんにトモユキさん。どうもおはようございます」
「四人とも、オッハー!」
「お、おはようございます皆さん」
「……………」
エマが行儀良く挨拶すると続くようにルーティー、エレカの順で挨拶する。
一人だけアリサが挨拶せず、リィンをジト眼で睨んでいるが、それは今に始まったことでは無いのでリィン以外は気にしなかった。
「うん、おはよう三―――って、え、エレカか!? い、居たんだね」
「……居ましたっ」
また自分の存在に気付いて貰えず、拗ねたのか、そっぽ向くエレカ。
見慣れた光景にエマとルーティーは苦笑を浮かべ、エリオットがバツ悪そうに『ごめん』と謝る。
俺達が出会ってからもう2週間ちょい経ったが相変わらず、クラスの殆どがコイツの存在に気付かない。
やれやれ困ったもんだなぁと心の内で溜め息を吐くとトモユキが、
「おっす四人とも、並んで見るとひでぇ格差だな」
「トモユキ、何でそれを私を見ながら言うのかな?」
「胸囲の格差社会って奴だ、ルーティー」
朝っぱらから息を吐くように胸を比較すると、コメカミに青筋を立ててマグナムを引き抜こうとするルーティーをエマが羽交い締めで止める。
その様子を反省の色など微塵も感じない顔でだはははと笑うトモユキにアリサとエレカは冷たい眼差しを送り、俺とエリオットとリィンは呆れ顔を浮かべる。
コイツも懲りずにこの2週間ちょい、よく女子にセクハラ発言を行っているのだ。
「ーーーエマ、ルーティー、エレカ。時間が無くなってないし、そろそろ学院に行きましょう」
するとアリサが時間的にまだ余裕がある筈なのに、そう言って誰かから逃げるようにそそくさと第三学生寮から出て行った。
そのアリサの突然の行動に他の女子達は驚きつつも、
「リィンさん達、これで失礼します」
「後で覚えおきなさいよ、トモユキ!」
「そ、それじゃあ!」
エマ、ルーティー、エレカの順で俺達に告げると一足先に学院へ向かったアリサの後を追った。
そして彼女達が立ち去るとリィンが『はぁ………』と深い溜め息を溢した。
《視点変更:視点者ルーティー》
「もう待ってよ! アリサっ!」
私達三人は勝手に一人で第三学生寮から出たアリサを追い掛け、すぐそこにある小さな広場の前で合流し、横に一列に並びながら学院に向かう。
「はぁ……もう、勝手に一人で行かないでよ」
「アリサさん、何も逃げくても……」
「ご、ごめんなさい」
私と委員長がそう言うと流石に反省したのか、アリサは俯いて謝る。
まぁ今に始まったことじゃない無いから、そこまで怒っていない。
何故、アリサがあの場から逃げるように離れたか、私達は知っている。
あの場にリィンが居たからだ。
と言ってもアリサは2週間前のあの『特別オリエンテーリング』で起こったリィンの〝あれ〟について、まだ根に持っている訳じゃない。
彼女もあれは自分を助けようとして、ああなったということはもう分かっている。
だから、本人も仲直りしたいと思っているのだが、思う様にも引っ込みが付かなくなってしまったみたいで。
当人と顔を合わせると、さっきのようについつい避けてしまうらしい。
私や委員長もその事について何度も相談に乗っているのだが、見ての通り進展がない。
ただでさえ、ユーシスとマキアスの仲の悪さ所為でクラスがギスギスしているというのに、せめてこの二人だけは仲直りして欲しいと私は切に願う。
するとアリサは何かを探す様にキョロキョロと辺りを見渡す。
「あら? エレカは?」
「こ、此処に居るよ」
「うわわぁ!? ……そ、そこに居たのね」
声を聞いて私の隣にエレカが居ると気付いたアリサは初めて存在を認知した時と同じような驚き方をした。
かく言う私もエレカが私の隣に居ると気付いた時、内心驚いたのは秘密だ。
『ついさっきまで一緒に居たのに……』と言いたそうな顔でエレカはアリサの反応に凹み、慌てて謝るアリサ。
私達はエレカと会う度に、今のようなやり取りを繰り返している。
自身の存在感の無さにコンプレックスを抱いているエレカにとってはそろそろ皆に自然な形で自身の存在に気付いてほしいと思っているらしく、私達もクラスメイトになってもう2週間ぐらい経ったのだから、そろそろ自然にエレカの存在に気付きたいと思っているのだが、中々上手くいかない。
……ある意味、リィンとアリサの仲直りよりもこっちの方が難問な気がしてきた。
いやいや! めげちゃ駄目だ、私!
とりあえず、今は落ち込んでいるエレカを励まさないと。
「え、エレカちゃん、元気出してください」
「そうだよ。その内、私達や他の皆もイビトやトモユキみたいに気付けるようになるって」
自信は無いけどと思いつつ、委員長と私が励ますと沈んだ気持ちが和らいだのか、『はい』と言って顔に明るさが戻るエレカ。
とそこでアリサがコホンと咳払いする。
「ところで皆は2ヶ月先の中間試験は大丈夫なの?」
「中間試験? やだなぁアリサ、気が早いよ。まだ2ヶ月もあるんだよ」
「逆を言えば、あと2ヶ月しか無いでしょ。エマはどう?」
「私は特に問題は無いと思います。授業で分からないところは殆どありませんし、予習もちゃんとしてますから」
凄いな委員長は。
私なんて授業を真面目に受けててもチンプンカンプンなところが多いし、おまけに睡魔が襲ってきて徐々にウトウトしちゃのに。
しかも予習もしてるなんて、非の打ち所が無いって言うのはこの事を言うんだね。
「そう、流石ね。エレカは?」
「わ、私は……不安しかないかな。授業でも追い付くのがやっとって感じだし」
追い付くのがやっとか、それでも私にとっては大した物だと思えるよエレカ。
私なんて置いてけぼりって感じなんだよ。
…………はぁ、頭の悪い私でも日曜学校の授業には一応付いて来れたのに、
このままだと中間試験なんか!と私が内心焦っていると委員長がこんな提案を出す。
「じゃあ、中間試験の前の週辺りに皆で勉強会でも開きませんか?」
「あっ、それ良いかも。ねぇエレカ?」
「う、うん、正直助かる」
「私も賛成賛成! 勉強会しようよ!」
委員長が出した名案に私は飛び付くように大賛成する。
「ふふ、じゃあラウラさんやゼオラさん、それにフィーちゃんにも声を掛けてみますね」
「良いね良いね! ラウラも成績が上位の方だし、なにより入試試験首位の委員長とゼオラが揃えば、百人引きだよ!」
「そ、そんな大袈裟な……」
私の反応に苦笑する委員長。
そんな委員長の反応など気にせず、やっぱ持つべき者は友達だよね!と私がはしゃいでいると、エレカが思い詰めたような顔を浮かべて、
「………でも、良いのかな?」
「え?」
急に意味深なことを言い始めて、私のテンションが通常に戻り、アリサがその言葉の意味を問おうとする。
「良いって、何が?」
「その……ラウラとゼオラのこと、二人とも貴族だから本当に対等に接して良いのかなって思うっちゃうの。特にゼオラの実家は帝国西部を治める大貴族だし………そもそも私、貴族の人と会うことも話すことも初めてで……」
「あ~、成る程ね」
確かにエレカが言いたい事は分かる。
私も
だからその貴族とどう接して良いのか、最初は分からなかった。
つまりエレカは身分として上下関係がある以上、もし何か気の障ることをしてしまったら、と不安で気後れしているみたいなのだ。
だけどあの二人に関しては、そんな心配は要らないと私は思う。
何故なら二人はこう言っていたから。
「でもあの二人、〝普通に接してくれて構わない〟って言ってたんだし、気にする必要ないと思うよ」
「そうね、本人達が言っているんだし、逆にそう接しないと二人に失礼だと思うわ。かと言ってマキアスみたいに喧嘩腰になるのもどうかと思うけど」
「それは……そうだよね」
私に続くようにアリサがもっともなことを言ったお陰で、エレカは対等に接して良いのだと再認識したようだ。
これでエレカが気後れすることは無いだろうと思った瞬間、委員長が『そういえば』と呟き、
「マキアスさんのことで思い出したんですが……私達の《Ⅶ》組が発足されてからゼオラさんに対して、何故か険悪な態度を取っていますよね?」
「言われてみれば、確かにそういうところがあるわね」
アリサが委員長の言葉に同意する。
『特別オリエンテーリング』の時、マキアスが貴族に批判的なのは私も含めてクラスの全員が知っているが、何も誰振り構わず、貴族に反発的な態度を取っている訳じゃない。
少なくとも今日まで私達が見てきた限り、貴族であるイビトやラウラに対してはそのような態度を見せたことはない。
……ユーシスを除いては。
「ユーシスはともかく、イビトやラウラには普通に接しているけど、何でだろう?」
「二人の間で何か遭ったのかしら?」
「いえ、ゼオラさんによると『そんな覚えはない』って言っていました」
じゃあ何が原因なんだろうと私達は頭を揃えて考えていると……。
「もしかして………〝憎んでいる〟のかな?」
「「「え?」」」
突然、エレカが口から零れた予想外の言葉に私達は耳を疑った。
「に、憎んでいるってどうして?」
「あっ! ご、ごめん! 今のはただ何となくそう思っただけの、忘れて……」
「でも、〝憎んでいる〟なんて普通じゃ出てこないわよ。何か根拠でもあるの?」
確かにアリサの言うとおり、根拠が無ければ普通じゃ〝憎んでいる〟なんて言葉が出て来る訳がない。
私達三人の視線がエレカに集まり、本人は緊張した顔を浮かべながらもその重い口を開く。
「………ほら、『特別オリエンテーリング』が終わってゼオラが《Ⅶ》組への参加を表明した時、一緒に名前も言ったよね? その時一瞬だったけど、マキアスさんの顔が怖い顔になったの」
「怖い顔?」
「うん。それに私達が同じクラスになってからも時々、マキアスさんがゼオラを見る時、その時と同じ怖い顔で見るの………まるで〝憎んでいる〟みたいに」
エレカの妙に説得力のある根拠に私達は沈黙する。
……言われてみれば、マキアスがゼオラに対する険悪な態度はユーシスとは何処か違う。
例えるならユーシスには反抗的な感じで、ゼオラには拒絶的な感じと言った方が良いだろうか。
エレカの証言以外にも思い当たる節が浮かび上がって、私達はお互いの顔を見合う。
もし本当にマキアスがゼオラの事を憎んでいるなら、その憎んでいる理由は何だ?と私達は勘ぐる。
だがそれは本人に聞いてみない限り、分かる訳が無く、考えても無駄なことであった。
そして気付けば、私達が沈黙したことで気まずい空気が流れ始める。
このままではいけない!と思った私は、その沈黙を打ち破ろうと、
「ま、まさか! 思い過ごしだよ! だって出会って間もないのにマキアスがゼオラを憎むなんて色々と飛ばし過ぎだよ! きっと………そう、ユーシスと同じ大貴族の子だからユーシスと同じぐらい傲岸不遜な性格なんだって思い込んでいるだけだって! ねぇアリサ?」
「えっ、あっ、そ、そうね! あのマキアスならそう思っていても不思議じゃないわ。ねぇエマ?」
「そ、そうですね! あはははは………」
強引に私はマキアスの憎しみ説を否定して場の空気を整える。
そして私達はその話題を終わらせ、違う話題に変え、女子特有のガールズトークを繰り広げながら学院へ向かうのだった。
次回の4月17日 放課後の部活探索にはトモユキ視点、エレカ視点、ゼオラ視点で書きたいと思っています~
~おまけ~
「今回の私の出番がおまけしかないなんて………納得がいきませんわ!」
「何を言っているのだ?」
「頭でも打っておかしくなったか?」
「ッ! こうなったらこのおまけで盛大にアピールタイムを―――」
「「いや、もうこのおまけは終わりだぞ」」
「えぇっ!?」
ラウラとユーシスの容赦ない勧告に崩れ落ちるゼオラだった。