五の軌跡   作:クモガミ

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第二章ー15 5月30日 闘技場 

《5月30日 午後12:15 『セントアーク』ショッピングモール内》

 

「遅いな……」

「ノルマ達成に手間取っているのでしょうか?」

「それ程難しいモノでは無いと思うのだが……」

 

私の言葉にラウラが返してくれる。

現在、私達は二つ目の課題の最中で、それぞれの組はノルマを終えて今この集合場所で待機しているのだけれど。

集合時間を過ぎてもアリサとゼオラの組が姿を現さず、先に着いた私達は二人の到着をまだかなぁ?と待っていた。

 

「まさか……迷子か?」

「あの二人がか? 確かにこのショッピングモールは広いが迷子になるほど二人は間抜けじゃないだろう」

「もしやーーー良からぬ不埒な輩に絡まれているのかもしれん」

「あり得るね。二人とも綺麗だもん」

「その可能性は十分あるがあの二人にそんなのに気圧されるタマか? 軽くあしらうだろうさ。例え手を上げられそうになっても返り討ちにすると思うぞ」

「うーむ、想像するのに苦じゃないな」

「ーーじゃあ、ひょっとして誘拐されてたりな!」

「それはーー」

「皆ッ!!」

 

噂をすればアリサの声が響く。

私達はやっと着たかと声の方に振り向くが、どうも様子がおかしかった。

二人一組の筈なのに、そこにはアリサ一人だけだった。

しかも此処に来るまで全力疾走でもしたのか、姿を現したアリサは息が乱れ、眼の焦点も定まっていない。

 

「どうしたんだよアリサ? ゼオラは?」

「―――いの……」

「うん?」

「何処にも居ないの! ゼオラがッ!!」

「………何?」

 

突然の告白に私達は眼を丸くし、遅れて戸惑いが込み上げた。

 

 

 

……それから5分後。

一人だけ現れたアリサに私達は事情を聞いて、事態の現状を把握する。

睡眠不足でボーッとしていたアリサに気を遣ってゼオラは課せられたノルマを自分一人で達成させるから少しの間休んでいなさいと言い。

甘んじてそうすることにしたことで二人は別れ、ゼオラの到着を待つのも兼ねて待ち合わせ時間まで休んでいたアリサだったけど約束の時間を過ぎてもゼオラは現れなかった。

それでアリサはショッピングモール内を探し回ったけど見付からず、【ARCUS(アークス)】で連絡を取ろうとしても反応は無く、そして今に至るという訳。

 

「ーー成る程、事情は大体分かったぜ」

「ごめんなさい。私がちゃんと一緒に居ればこんなことには……」

「……お前だけの責任じゃない。効率性を考えてメンバーを安易に2.2.3に分けた俺にも責任である」

 

責任を感じるアリサを庇うようにイビトさんは自分にも責任があると述べる。

二人とも責任を感じるのは分かるけど、私個人としてはどちらにも責任は無いと思う。

だって誰もこんなことになるとは思いもしなかったのだから。

 

「それよりもゼオラは本当に誘拐されたのだろうか……?」

「まだ確定していないが可能性は有る。昨日話した貴族の誘拐について覚えているな?」

 

それは勿論、覚えている。

貴族の子供を対象とした誘拐事件がここ最近多発して起こっていると言われているとのこと。

つまりゼオラはその誘拐事件に巻き込まれた可能性が有るとイビトは践んでいるみたい。

 

「知って通りゼオラは貴族だ。しかも『四大名門』のトップ【カイエン】家の娘、誘拐されてもおかしくない」

「しかし、本当に誘拐されたとして我々も含めてゼオラもこの都市に来たばかりだと言うのに。誘拐犯は何故、ゼオラが【カイエン】家の娘だと分かったのだ?」

「それなりの地位がある者なら俺達が此処へ来た時点で知り得ることが出来る。誘拐犯は恐らくこの都市の中でも相当顔が利く人物なんだろう」

「一体誰が……」

「現時点では情報が少な過ぎる、誘拐犯が誰なのか詮索しても無駄だ。それよりも今はゼオラを探すぞ」

 

イビトさんの指示に私達は同意して頷く。

手掛かりは少ないけどクラスメイトを放っておく訳にはいかない。

本当に誘拐なのかどうか、もしそうだったらゼオラは無事なのか?

それ等を確かめるべく、私達はゼオラ捜索を開始した。

 

 

 

それから一時間後………。

私達はまず現場でもあるショッピングモールを汲まなく捜索する共にゼオラに関する目撃情報の収集を始めたところ、此処の従業員から闘技場の警備員が大きな包みを担いで職員玄関から出て行ったという情報を入手する。

怪しいとそう思った私達は早速闘技場へ足を運ぶ。

例えハズレだとしても手掛かりが少な過ぎるこの状況で少しでも怪しいと思ったモノは調べた方が良いとイビトさんは言う。

イビトさんがそう言うなら私はそれに従うつもりだ。

 

という訳で私達は闘技場から少し離れた茂みの多い場所に到着する。

何故そんな所ではなく、闘技場の前に行かないのかと言うと、もし闘技場に誘拐犯が本当に居たのなら自分達の存在に気付き、警戒されると不味いとイビトさんが考え、この場所で闘技場を偵察することになったと言う訳。

此処からでも闘技場は良く見えるし、茂みがカーテンに成って闘技場の出入口を見張っている警備員に見付かることもない。

偵察するにはピッタリな場所だ。

 

―――それにしても。

 

「この闘技場って何年前に造られた物なんでしょう? 見た所結構年季入ってるけど……」

「正確な日付けは知られていないが話では暗黒時代が終わって少し後に造られたそうだ」

「ということは少なくても1000年も前ってことね」

「昔のエレボニア人は機械や導力車も無しでこれだけの物を造り上げたのか」

 

『大したものだな』とガイウスさんは心底感心そうに闘技場を眺める。

遊牧民である彼にとって大昔の人達が人の手だけこれだけ大きな建造物を作ったことに驚嘆と共に敬意を抱いているのかな?

 

「ところで此処は何をする為に造られたんだ? 名前からして何かを競い合うようだが……」

「ーー人間同士の殺し合いさ。昔の人間は人間同士の殺し合いを商売し、そして娯楽として楽しんでいたんだ」

「本当か……?」

 

昔の闘技場の実態を聞いて眼を丸くするガイウスさん。

これも彼にとっては衝撃の事実ようだ。

 

「本当だ。まぁこれは昔の話で流石に今はそんな物騒なことはしていない。今では年に一回に己の強さを競う為の大会が開かれている」

「へぇー、面白そうだな」

「そういえばシュナイゼル侯爵は4年前、そなたが闘技場での大会に出ていたと言っていたが……」

「あぁ、仕事でこの『セントアーク』に訪れたことが合ってな。時間に余裕が出来て腕試しに参加してみたんだ」

「結果は?」

「優勝だった。まぁ面白みが無くて余り覚えていないんだがな」

 

と興味が無さそうに淡々と告げるイビトさん。

面白みが無かったのはもしかして自分と対等に闘える相手が居なかったからかな?

嘘を付いている感じは微塵もしないし、昔からイビトさんは強かったんだ……。

 

等と感心していると話ながら闘技場を観察してイビトさんが何かに気付く。

 

「やっぱりあれはただの警備員じゃないな……」

「えっ、どうして分かるの?」

「連中の武装を良く見てみろ、普通の警備であんな武装が必要か?」

 

そう促された私達は出入口を見張っている二人の警備員の武装を観察している。

二人ともボディアーマーのような分厚いジャケットを羽織り、手には威力が高そうな小銃を持っており、腰には拳銃が入ったホルスターを下げていた。

 

……幾ら歴史ある建造物でも、ただ見張るだけの警備にあんな重装備―――。

あれ? 確かにイビトさんの言う通り、どうしてあそこまでの装備をしているんだろう?

軍隊の前線基地じゃあるまいし、あれではまるでそこに隠された重大な何かを守るみたいだ。

 

「確かに、闘技場を警備するのにあそこまでの装備は不自然ね」

「だな。分かると怪しさ満点だ」

「しかも連中が持っている小銃、かなり手を加えられている。それも個人の趣味趣向レベルでバラバラに」

「それがどうかしたんです?」

「普通の警備員が組織の銃であんなことをする筈がない。つまりあの銃は連中のそれぞれ個人の物だ」

「と言うと……?」

「恐らくアイツ等は―――猟兵だ」

 

え? 猟兵って………あの猟兵こと、だよね。

お金でどんな戦いを引き受ける戦闘集団ってお父さんから教わったけど、あの人が?

 

「――それは真なのかイビト?」

 

すると妙に声のトーンが低くなったラウラがイビトさんを訊ねる。

心なしか、目付きも鋭くなったような……。

 

「あくまで推測だ。だが可能性は高い」

「でも何で猟兵が警備員の格好を……」

「変装だろうな。軍人でもない奴が街中で銃なんて持っていたら怪しまれるだろう」

「だがもし奴等が本当に猟兵で貴族を拐う誘拐犯だとして、どうしてそんなことを……」

「それはあの闘技場の持ち主に聞いてみなければ分からんな」

「持ち主? それってハイアームズーー」

「いいや違う。確かにこの『セントアーク』の歴史的価値のある建造物はハイアームズが管理しているが、中には古くからその建造物を所有していた一部の貴族が管理している物もある。あれもその一つだ」

「ってことは警備員等の雇い主でもあるってことだよな。何処の家の者だ?」

「ジェイワーズ家、位は伯爵だ」

 

伯爵様、それくらいの位なら警備員もとい猟兵を雇うのも資金的に問題ない。

でもなんで伯爵様が人拐い、しかも同じ貴族の人達を狙うのだろう?

そんな疑問を浮かべるが、イビトさんがさっき言った通り、本人にそれを聞いてみない限りいくら考えても納得がいくような答えが思い付かない。

視線を皆の方に傾けると妙に表情が険しくなっていたラウラも『解せぬ』と言いたげに眉間にシワを多く寄せていた。

 

「伯爵家の者がどうして猟兵等を雇って人拐いなどを……」

「分からないなら諦めておけ、真相は本人に直接聞くしかないだろう」

 

そう言ってイビトさんは立ち上がり、茂みから出ようとする。

向かう先は方向からして闘技場だった。

私と他の皆はその行動にギョッと顔を強張らせ、茂みに出る前に彼を呼び止める。

 

「ちょ、ちょっとイビトさん! 何処に行く気ですか!?」

「決まっている。あの中だ」

 

案の定、イビトさんが指を指した場所は闘技場だった。

 

「まさか忍び込む気か?」

「他に何がある」

「あ、危ないわよ! もし見付かって捕まったら何されるか……」

「俺のことは心配しなくていい。それよりもお前達は他の所で捜索を続けてきてくれ、此処にゼオラが居るとまだ決まったわけじゃないしな」

 

と、これ以上話す気は無いと感じに茂みから出るイビトさん。

 

「待てイビト、一人だけでは危険だ! 私も―――」

「付いて来なくていい、足手まといだ」

「なっ」

 

さりげない上に容赦のない冷たい台詞にラウラは言葉を失う。

この余りにも素っ気なさ過ぎる態度に痺れを切らしたのか、アリサが険しい剣幕で立ち上がる。

 

「ちょっとイビト! いくら何でもそんな言い方はないでしょ!!」

「その通りだ。こういう時こそ皆で力を合わせてーー」

「じゃあ聞くがなアリサ、ガイウス。お前達二人は潜入なんていう行動を何度もしたことがあるのか?」

「そ、それは………」

 

二人は言葉が詰まる。

当然と言えば、当然かもしれない。

私も含めて此処に居るメンバーは不法侵入行為である潜入という行動なんてしたことがないと思う。

その反応を見て、イビトさんは言葉を続ける。

 

「まぁ無いだろうな。潜入っていうのは少人数でやるのが基本だ、人数が少なければ少ない程発見される危険性が低くなる。それに相手はほぼ間違いなく猟兵だ。もし見付かりでもすれば……最悪殺されるかもしれん」

「命懸け戦うのは何度も経験している。何より猟兵などに遅れは取らん!」

「――――あぁ?」

 

ラウラが反論した途端、イビトさんは威圧的な低く声を上げると共に目付きが鋭くなる。

その眼に睨まれたラウラは蛇に遭遇したウサギのように硬直した。

 

「何を根拠に言っている? 相手は猟兵だぞ、前回のA班が戦ったっていう盗賊紛いな奴等とは訳が違う。一流じゃないにしても戦場を生業にしている連中だ、当然人間同士の殺し合いに慣れている。俺達よりも遥かにな」

 

声は静かだけど、イビトさんが発するその言葉一つ一つに怒りが込められているのが分かった。

迫力あるその怒りようにラウラは気圧され、半ば強制的に聞き入り。

そのラウラと同じように私も含めて他の皆もイビトさんに気圧されているみたいでその場の誰もが聞き入っている。

 

「相手が本気なら躊躇なく俺達を殺せる。実力は未知数だとしても連携の錬度も修羅場を潜ってきた数もあちらが上、おまけに潜入先はあちらのテリトリー、恐らく侵入者対策の罠が仕掛けられているだろう。そんな連中の懐に素人のお前等が侵入すれば見付かる可能性は高い上に建物内で戦いになったら俺達だけじゃなく最悪捕らわれたゼオラの命も危険に晒すことにも為りかねないだぞ」

 

もどかしいけど反論は出来ない。

イビトさんが言っていることは何一つ間違っていないと思う。

だって私も含めて他の皆も戦闘が起こった場合に起きうる最悪ケースを予測しなかった上、猟兵について名前と生業以外何も知らないのだから。

 

「お前達は自分を殺しに来るその道のプロを殺さずに倒せる程の実力が有るのか? 相手を殺さずに倒すには己の実力が相手よりも数段上回っていなければ成し得ない」

「……貴殿ならそれが出来ると?」

「少なくともお前達よりはな。とにかく―――」

「なぁイビト」

 

するとイビトさんが完全に言い終えるのを遮るようにトモユキさんが割って入る。

 

「何もそこまで憎まれ役を演じなくて良いんじゃないか?」

「なんだと………?」

 

その言葉はイビトさんは眼を見開く。

片や私達にも意外で思わず眼を見開いてしまう。

 

「どういう意味だ?」

「言った通りだよ。お前キツイ言葉を投げ掛けて俺達を突き放すことで猟兵と戦うかもしれない危険から遠ざけようとしてるんだろ?」

 

トモユキさんがそう言うと一瞬、ほんの一瞬だけ、イビトさんの眼が泳いだように見えた。

でもそれを隠すようにイビトさんはすぐさま反論する。

 

「見当違いだな。俺は足手まといを連れて余計な面倒を背負い込みたくないだけだ」

「そうか、まぁ『はいそうです』なんて恥ずかしくて言えないもんなー」

「おい、人の話を……」

「でもなイビト、お前はさっき俺達に潜入の素人って言ったがそれは誤りだ」

 

?とイビトさんがしかめ面をする同時にトモユキさんが手で印を結ぶ。

次の瞬間、ボン!とトモユキさんが煙に包まれたかと思うとトモユキさんが闘技場を警備している警備員の姿になっていた。

 

「潜入なら『忍者』の俺の方が得意だぜ」

 

姿形だけではなく、声まで変貌したトモユキさんにイビトさんも含めて私達は言葉を失い、唖然とする。

に、『ニンジャー』って何のことかは知らないけど、とりあえず何か凄いなぁ……。

 

「イビト、確かに今の俺達じゃあお前の実力には及ばないし、猟兵を相手にして殺さずに倒すなんて無理かもしれない。だがそれでも今日まで命を張って共に戦った仲間を、ゼオラを見捨てて置きたくないんだ」

 

真っ直ぐとイビトさんを見据えて自分や私達の未熟さを認めつつ、嘆願するようにゼオラを救いたいという気持ちを伝えるトモユキさん。

 

――そうだ。そうだよね。

例え今の私達の実力がイビトさんに及ばず、足手まといだとしても今日まで一緒に戦ってきた仲間であるゼオラを見捨てることなんて出来ない。

足手まといでも私もゼオラを助けたい!

だから―――!

 

「イビトさん、私も……私もゼオラを見捨てたくありません! だってゼオラは私達B班のメンバーで仲間なんですから!」

 

だから私もトモユキさんと同調するように自分の思いを真っ直ぐ伝える。

私がこんなことを言うのが意外だったのか、イビトさんは眼を丸くした。

そして他の皆も同じ気持ちだと表すように頷く。

 

「お前等………」

 

私達の意志を見てイビトさんはそれ以上言葉が見付からないのか、少し間放心に近い状態となる。

やがてすぐさま考える仕草を見せ、そう経たない内に脳内で結論を浮かび、溜め息のように息を溢す。

 

「……分かった。だが本当にゼオラがあの中に居ると確定した訳じゃない、それを確認する為に潜入するが潜入する場合は少数が良いと言ったな。このメンバーで潜入に向いているのは俺以外ならトモユキ、そして―――」

 

言葉を引き延ばすと共にイビトさんは私に視線を向ける。

急に見詰められて内心ドキリとしてしまう私。

 

「エレカ、お前達二人だ。問題ないな?」

「無論だ」

「は、はい!」

 

心の何処かでそんな重大な役目を任されるとは予想はしていたけど、それでも思わず声が強張ってしまう。

でもゼオラを助けたいと言ったのだから、これぐらいやってのけないと!

 

「よし、潜入は俺達三人でやる。ラウラ達は合図があるまで外で待機、もし合図が出たら……」

 

続いてイビトさんは残ったラウラ達に作戦内容を伝える。

こうして私達B班による潜入大作戦が始まるのでした。


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