五の軌跡   作:クモガミ

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やっと出来たぜ! 後編!
これの次はキャラクター紹介を載せるつもりです。


序章-3 オリエンテーリング 後編

ダンジョンへと足を踏み入れてから数分。

俺を先頭に歩く三人はスタート地点から50アージュ以上歩いた。

だがあの女教官が言ってた通りダンジョン内はかなり入れ組んでおり、見るからにこのダンジョンは広そうなので、これはゴールするまでかなり掛かるなと俺は溜め息混じりに予測する。

だが先にダンジョンの奥へと進んだ11人が魔物を大方討伐してくれたお陰か、ここまで魔物の姿や気配を見掛けなかった。

 

その道中、俺はエレカから俺達はどういった基準で選ばれたのか、知っていないか尋ねてみた。

しかし、彼女も詳しいことは聞かされていないようで、分かるのは俺達は身分や出身など、一切関係なく集められた、特科クラス《Ⅶ》組のメンバーであること。

エレカが知っているのはそれだけで、俺は今の情報だけではまだ分からないなぁと溜息を零す。

 

「ねぇイビト」

「ん?」

 

すると前触れもなく、左脇に居るルーティーが話し掛けた来たので俺は歩くのを止めて、ルーティーの方に顔を向ける。

 

「左腕に付いている盾みたいなそれって、やっぱり武器なの?」

 

俺の左腕に装備した〝コイツ〟のことが気になったのか、ルーティーは指を指して聞いてきた。

確かに〝コイツ〟を始めて見た奴は盾のような物だと勘違いしてしまうだろうな。

だが、これは立派な武器だ。それを証明しようと俺は良く見えるように左腕の前部分を上に折り曲げる。

 

「あぁ、これは『アームド・バンカー』って言う複合攻楯器(ふくごうこうじゅんき)の一種だ」

「ふ、複合……?」

「要するに火器と盾を一つした武器ってことさ」

 

と俺は簡単に俺の武器がどういう物か説明する。

ちなみに外見を具体的に言うとまずは灰色のボディ。

全長は指先から肘の辺りまで伸びており、横の幅は約25リジュ、厚さは約10リジュ。

そして材質はある二つの金属を合成させた合金製で、非常に頑丈で丈夫だ。

 

「な、何だが凄そうだね」

「そうでもない、コイツを扱えるのは俺ぐらいしか居ないってところが難点だ。……それはそうとルーティーもかなりの物をお持ちのようだな」

 

左腕を降ろして俺はそう言うと、視線をルーティーの腰に掛かっている拳銃のホルダーに落とす。

 

「回転式道力拳銃『マグナム6(セスタ)』。道力拳銃の中でもトップクラスの威力を持っていて、何重ものレンガの壁すら打ち砕く、傑作拳銃だ」

 

本人が今の解説を肯定する前に今度は背中に背負っている二つの銃口が在るライフル型の武器に俺は視線を移す。

 

「背中のそれはライフルを改造した物だな。上の銃口はスナイパーライフルの弾を発射する為の銃口で、下の銃口はアサルトライフルの弾を発射する為の銃口みたいだな」

「う……うん。そうなんだけど、良く分かったね?」

 

拳銃の方ならともかく、見ただけで改造されたライフル型の武器の特性を見抜いたことに恐怖の類を感じたのか、若干身を引くルーティー。

口にも顔にも出さないが、そういう反応されると傷付くんだが……。

まぁいい、話を続けよう。

 

「昔就いていた仕事で、色んな武器を見て来たんでな。……で、その改造ライフル、まさか自分で作ったのか?」

「いやいや、違う違う! これはパパの御下がりなの!」

 

両手を振って否定するルーティー。

なんだ、違うのか。

だが、自分で確認しておいてなんだが、血の匂いがしない如何にも普通の女子って感じのコイツがあの改造ライフルを作ったとは思えない。

いくらあの【オルランド】の姓を持っているからってな……。

それにしても〝パパ〟か、ちょっと意外だな。

ちょっとその辺りも少し聞いてみよう。

 

「じゃあそのライフルはお前の親父さんが作ったというわけか」

「多分そうだと思う」

 

予想通り、作ったのはコイツの親父か。

ということはコイツ親父はやっぱり……。

……止めよう、コイツの親父が何者であろうと〝今の俺〟には関係ない。

とにかく、変な空気に成る前に話題を変えないと。

 

「お二人とも、その………個性溢れる武器ですね」

 

するとそこで人見知りな性格が災いして一人だけ会話に参加出来ていないことに焦りを感じのか、俺の右脇に居るエレカが『私も何か言わないと!』と言う感じで声と頭を振り絞り、俺達の武器を個性的だと評価する。

 

「そうだ、エレカの武器はなんなの?」

「私?」

 

ナイスだ!と言わんばかりにルーティーは今の話をエレカが持っている武器の話に変えてくれた。

まぁ流れ的にはどの道、次はエレカが紹介する番なのだが、この際どうでもいい。

それに俺達はこれから道中遭遇するであろう、魔獣と共に戦う仲なのだ。

だからお互いに相手の武器を把握するのはとても大切なことだ。

本来ならスタート地点からスタートする前にすべくことだったのだが、そこは失念していたとしか言いようが無い。

 

「私の武器はこれ」

 

そしてエレカが腰に巻き付かせたベルトのようなの入れ物から両手で2本の銀色の刃物を取り出す。

先端は針のように鋭く尖っており、両刃だが形状から見てナイフの類いだと思われる。

刀身は銀色に輝いており、刃の部分も綺麗に研がれいて、切れ味は決して悪くない筈だろう。

 

「綺麗なナイフ~~。しかも見た目もカッコいいね」

「中々の業物だな。そのベルトにまだ他にも在るのか?」

「はい。同じ物があと28個入ってます」

「そんなに? 多くない?」

 

両手に持っている分も合わせてナイフが30個も在るのは幾らなんでも多過ぎやしないかと述べるルーティーに俺は『いや』と口を挟む。

 

「投げナイフとして使うならそれぐらいの数は必要だ。そうだろ?」

「あっ……はい。良く分かりましたね?」

 

こっちはルーティーと違って驚きと尊敬が混じったような反応を見せた。

誰もがこんな反応してくれたらなぁと俺は心の中でそう思う。

 

「構造上から見てそのナイフは切ることよりも突きを重視しているよう見える、そしてそれだけ多く所有しているのは刃が欠けたり、刀身が折れてもすぐに取り換えが出来るからか。或いは投げることを前提にしている可能性が高いと思ったからだ」

「………当たっています。イビトさん、探偵みたいで凄い」

「逆に凄過ぎて私はキモいって思っちゃったけどね」

 

待てコラ、例えそう思って口に出すんじゃねぇよ。

傷付くんだよ、口や顔には出さなくても。

俺は小さく舌打ちをした後、溜息を吐いて二人にこう促す。

 

「武器の見せ合いはもう良いだろう? さっさと奥に行かないと先に行った奴等と合流出来なくなっちまうぞ」

「そうだね、エレカもそれで良いよね?」

「はい、先に進みましょう」

 

お互い武器の紹介が終わったことで俺達は先へ進もうと足を動かそうとした。

 

「っ!」

 

とその時、エレカが両手に持っていた二つのナイフをベルト型の入れ物に仕舞う際、偶発的にナイフの一本を落してしまう。

カラーン!とスプーンを地面に落としたような金属音がダンジョン内に響く。

その音に反応して通路の奥の方からモゾりと複数の何かが動く気配を俺は感じた。

 

「二人とも、構えろ」

「「えっ?」」

「魔獣だ」

 

魔獣と聞いて二人は俺の視線を辿って、通路の奥に視線を向けた。

すると俺達三人の視線がそこへ集まるのを見計らったように暗闇の中からゆらりとコウモリ型の魔獣とテントウムシ型の魔獣がそれぞれ6匹ずつ、計12匹の魔獣が現れる。

 

「あ、あれが魔獣……」

「うぇ………虫みたいなのも居るよ」

 

エレカとルーティーがそれぞれの反応を見せる。

この様子だとコイツ等、魔獣との戦闘経験どころか戦闘経験そのものすら無いみたいだな。

まぁ予想通りだったが、問題無い。

相手は魔獣の中でも最弱級クラス、戦闘経験が無い者でもある程度は戦えるぐらい弱い。

数はあちらの方が多いが、あの程度の奴等なら俺一人でも十分だ。

しかし、こちらは俺一人だけではないので、俺は一番妥当な戦法を二人に伝える。

 

「エレカ! ルーティー! 俺があの魔獣共は引き付ける。二人はアイツ等が俺に気を取られている隙を狙ってアイツ等を撃て!」

「ちょ、本気で言ってるの!?」

「一人でなんて無茶ですよ!」

「無茶かどうかちゃんと見てろ!」

 

二人の言葉をはね除けて、俺は魔獣共の群れの中に突進する。

魔獣と俺達との距離は1000リジュ前後、走って数秒でお互いの距離は一気に縮まった。

自ら自分達のところに突っ込んできた俺に対し、魔物共は全匹では襲い掛からず、コウモリ型が2匹、テントウムシ型が2匹、計4匹が正面から襲い掛かる。

俺はそいつ等の牙が俺に届くよりも早く、左腕の『アームド・バンカー』を前に突き出し、魔獣4匹まとめて吹き飛ばす。

吹き飛ばされた魔獣はそれぞれ地面や近くの壁に叩きつけられ、絶命し、セピスに変わる。

続いて右側面と左側面から二匹のテントウムシ型が同時に襲い掛かる。

だがこの襲撃も俺は敵の攻撃が届く前に右側面の奴には右手の裏拳を、左側面の奴には左足の足裏をお見舞いし、二匹を吹き飛ばす。

この2匹も地面や壁に叩き付けられ、セピスに変わる。

 

5秒足らずで12匹が6匹に変わり、流石に俺に警戒をしたのか。

魔獣達は後ずさりを行い、俺から距離を取る。

しかしその瞬間、バン!と火薬が爆発した音が響くと共に左側面側に居たテントウムシ型の1匹に風穴が空いた。

今のはルーティーの『マグナム6(セスタ)』の狙撃だろう。

それにしても流石の威力と言ったところか、硬い外骨格を持っている昆虫タイプの魔獣の身体をいとも簡単に貫くとは。

風穴を空けられた魔獣はたった一発でセピスに変わる。

 

直後に第二,第三,第四発と連続で発砲し、最後の一匹のテントウムシ型とコウモリ型の魔獣に風穴を空ける。

初めての割には良い腕だなと俺は内心そう褒めた。

さて、エレカの腕前はどうかなと視線を右側面側に居る魔獣の方へと傾ける。

 

「えいっ!」

 

掛け声と共にエレカはナイフの一本をコウモリ型の一匹に放つ。

放たれたナイフは銀色の線を描きながら、減速せずに真っ直ぐと飛ぶ

が、ナイフは明後日の方向に飛んで行き、コウモリ型の頭上を通り過ぎて壁に当たって地面に落ちる。

俺はガクッと身体が傾きそうになった。

 

「(投擲下手だな、おい)」

 

声には出さなかったが、俺は呆れた顔をエレカに向けた。

幸いにもそれに気付かなかったエレカだったが、ルーティーと違っては盛大に外した己自身の投擲の酷さに凹んだ。

 

そんなエレカは放っておいてさっさと片付けようと決めた俺は『マグナム6(セスタ)』の六発の発砲と同時に右側面側の居る残り二匹のコウモリ型の一匹に『アームド・バンカー』によるボディブローを叩きつけた。

魔獣は成す術もなく、セピスへと変わるが、最後の一匹となってしまったコウモリ型の魔獣が一矢報いようと思ったのか、天井ギリギリ高度を上げると共にエレカの方へ飛んで行った。

 

「そっちへ行ったぞ!」

「エレカ!」

 

凹んでいるエレカに俺とルーティーが魔獣のことを知らせる。

俺達の声でハッ!と意識を戦闘に戻したエレカは自分の方へ飛んでくる魔獣の存在に気付く。

これで俺はエレカが迎撃すると思いきや………。

 

「あっ……あっ………い、いや、来ないでっ!」

 

魔獣が近付いてくる姿を見て、エレカは怯え始め、迎撃どころか後退すらしなかった。

何やってんだアイツは!?

俺は舌打ちと共にエレカの元へ駆け出す。

 

「やらせないっ!」

 

魔獣とエレカの距離が300リジュ程縮まったところでルーティーが代わりに迎撃しようと『マグナム6(セスタ)』の銃口を魔獣に向けて、引き金を引いた。

しかし、引き金を引いても弾は発射されなかった。

理由は簡単、弾切れだ。

弾切れに気付いたルーティーは急いで弾を補充しようとする。

だがそうしている間に魔獣とエレカの距離は100リジュにまで縮まり、頭上から口を開いた魔獣の牙がエレカの眼前に迫る。

エレカは咄嗟に眼を瞑った。

 

次の瞬間、ガン!と鈍い音がダンジョン内に響く。

その音は俺が魔獣とエレカの間に『アームド・バンカー』を割り込ませ、魔獣の牙がバンカーの表部分を噛んで発した音だ。

 

「い、イビトさん!」

 

エレカが閉じた眼を開いて俺の存在を目視した直後、俺は『アームド・バンカー』を振り上げ、魔獣を天井に突き飛ばした。

突き飛ばされた魔獣は天井に叩き付けられ、他の魔獣と同様、セピスへと変わった。

最後の魔獣を倒し、他に増援の気配が無いこと確認すると俺は溜息を零す。

 

「あ、あのイビトさん―――」

「戦えないならこんなところに来るな」

「ッ!!」

 

背後から何かを言おうとしたエレカの言葉を遮るように俺は冷たくそう言い放った。

そして振り返って、重ねてこう言う。

 

「戦闘の場で戦うことも逃げることも出来ずにそこに居れば、自分の身だけじゃない、仲間の身も危険に晒すことだってある。今のお前の存在は足手まとい以下の邪魔者以外の何物でもない………この先も戦えないなら、スタート地点に帰ってろ!」

「イビト! いくらなんでもそれは言い過―――」

「(ギロッ」

「―――ぅ」

 

一睨みしてルーティーを黙らせる。

 

「誓え、この先また戦うことになっても決して現実から眼を背けないと! 誓えないならスタート地点に戻ってあの教官にこの『特別オリエンテーリング』を辞退すると伝えるんだな」

 

勇気を持って現実に立ち向かうか、或いは諦めて帰るか、そのどっちか二択を選択しろと俺はエレカの覚悟を試した。

俺に選択を迫れたエレカは顔を俯かせ、プルプルと身体を震わせた。

やがて少しの間の後、エレカは決心が付いて顔を上げる。

 

「……誓います! 私だって、私だって戦えます!」

 

いつも声の小さい彼女の声とは思えないぐらいの大きな声で、彼女の決意がダンジョン内に轟いた。

声の大きさもそうだが、声に乗った感情が強く、エレカは本気なのだとこの場に居る誰もが悟る。

 

「その言葉、忘れるなよ」

 

エレカの覚悟を確かめた俺は釘を刺して振り返る。

そして少し先を歩いて、地面に落ちているエレカのナイフを拾い上げ、彼女のところに持って行く。

 

「ほれ」

「……ありがとう」

 

ぶっきらぼうにナイフを渡すと僅かだがエレカの口からぐすっという音が聞こえたような気がした。

その彼女の顔を良く見てみると彼女の目元に涙が浮かび上がっていた。

それを見て、少し言い過ぎたかなと遅れて罪悪感が芽生えた俺は彼女から視線を外して、『先へ進むぞ』と二人に伝えて進行を再び始める。

俺がダンジョンの奥へと歩み始めたことで二人は黙って俺の後に続く。

 

「……エレカ、大丈夫?」

「うん、大丈夫」

「ホント、キツイ言い方だっよね~アイツ。何もあそこまで言わなくても―――」

「そんなこと無いよ」

「え?」

「確かに言い方はキツかったけど、あの人はあの人なりに私に喝を入れてくれたんだと思う」

「あれで? 本当?」

「自信は無いけど、そんな気がするの」

 

……後ろの方で二人が俺に聞こえないように何やら話しているみたいだが、俺は気にせず、前へと歩み続ける。

 

するとその時だった。

 

前方の2000リジュ先の通路の壁がドカンッ!!!と爆発でも起こったかのように吹き飛んだ。

 

「な、何!?」

「ま、魔獣ですか!?」

「落ち着け! とりあえず、何時でも戦えるように構えておけ!」

 

突然の事に戸惑う二人を宥めつつ、戦闘態勢を取るようにと指示を出す。

だが直後に、

 

「おっかしいなー? ゴールって何処に在るんだ?」

 

吹き飛んだ壁の向こう側から何処かで聞いたことがあるような声が聞こえた。

この声は確か……と俺達が声の主を思い出そうとする前に吹き飛んで生じた壁の大穴から一人の人物が現れる。

その人物は女子チームや男子チームよりも先にダンジョンへ入ったオレンジ頭の男子生徒、トモユキ・サクラだった。

 

「お? お前等か! 遅かったなぁ、怪我してないか?」

 

穴から出てきて早々、こちらの存在に気付いて陽気に笑いながら近寄るトモユキ。

 

「見つけましたわよ」

 

と、今度は吹き飛んだ壁の更に奥の通路からまた聞き覚えのある声が聞こえた。

トモユキを含めて俺達はそこへ視線を向けると、暗闇の中から髪にフォーサイドアップを施した砂色の髪の女子生徒が現れる。

彼女は親の仇を見るようにトモユキを睨みながら距離を詰める。

 

「もう逃げられませんわよ。乙女に働いた不埒な行為………例え【女神】(エイドス)が許しても、この私が許しません!! そこの貴方達、危ないから下げっていなさい!」

 

ご丁寧に自身の意志をそう告げると共に俺達の下がるよう警告した彼女はトモユキから500リジュぐらいの地点で止まり、ボクサーのファイティングポーズのような構えを取る。

彼女の両腕には水晶が付いた籠手のような物が取り付けられていた。

 

「へぇ? やるか?」

 

彼女が戦う気だと悟ったトモユキは面白うそうに笑うと背中に背負っている大剣のグリップに手を掛ける。

このままだと二人は戦うことに成るだろう。

別にそれは構わないのだが、この狭い通路で二人が戦えば、俺達が巻き込まれる可能性が有るので俺は事が始まる前に二人の間に入る。

 

「待て待て二人共、戦うなら別の場所でやってくれ。此処で二人が戦ったら俺達や他の奴等にも迷惑が掛かるだろう」

「「…む」」

 

俺の注意が効いたのか、砂色の髪の女子生徒は両腕を下ろし、トモユキも大剣のグリップに手を掛けていた手を下ろす。

これで二人の戦闘は避けられたが、それでも女子生徒は睨むを止めず、張り詰めた空気が流れる。

 

「そ、そうだ! せっかく会ったんだから自己紹介しようよ!」

 

と、この空気を何とかしようと思ったルーティーがそう切り出す。

 

「私はルーティー・オルランド。出身は【帝都】」

「わ、私はエレカ・アルディオーネ。出身は南の【サザーラント】州の辺境の町です」

「え……きゃ!?」

 

エレカが自己紹介した途端、砂色の髪の女子生徒が驚き始めた。

 

「あ、貴方……何時からそこに!? と言うかこの地下に落とされる時に居ました!?」

 

どうやらエレカの存在に今の今まで気付かなかったようだ。

おまけにデジャブを感じるようなセリフまで吐いたぞ。

彼女のそんな言葉にエレカは自身の存在感ゼロに再び凹む。

 

「なんだ今頃気付いたのか? 随分、鈍い奴だな」

「お、お黙りなさい!」

 

そんな彼女とは違ってトモユキは気付いていたようだ。

アイツもエレカの存在に気付いた、数少ない手練れだな。

まぁそれはさておき、俺も二人に続いて自己紹介をする。

 

「俺はイビト・バームスト。出身は西の【ラマール】州の【川街ダイアット】だ」

「……バームスト?」

 

砂色の髪の女子生徒が俺の姓に反応し、トモユキから視線を外して俺の方を見る。

 

「バームストと言えば、【ラインフォルト社】切っての天才技師の名前じゃなかったかしら?」

「そ、そうだった思い出した! そのバームストっていう技師って、あの有名な道力車や豪華客船を作った貴族様だって帝国雑誌に載ってた!」

 

彼女の言葉を切っ掛けにルーティーがスタート地点で思い出せなかったことを思い出す。

やっぱりバレずには済まなかったか……。

しかも、エレカは『イビトさんって貴族様だったんだですね……』と言って妙に畏まるし。

俺は諦めるように溜息を吐く。

 

「あぁ、その天才技師様って言うのが俺の父親、アルダ・バームストだ」

「私のお父様の口から何度か、貴方の父上の名前が挙がったのを耳に挟んだことがありますわ」

「それは光栄だな。ってことはやっぱり君は、【ラマール】州を治める―――」

「ええ」

 

俺が言い当てる前に砂色の髪の女子生徒が自分の名を明かす。

 

「私はゼオラ・カイエン。西の【ラマール】州の都市、【海都オルディス】の出身ですわ」

「……やっぱりか」

 

彼女が名を明かしたことで俺とトモユキ以外が眼を見開いて驚く。

 

「し、【四大名門】!」

「西の【ラマール】州を治める、あの【カイエン】家の!」

「へぇ。大貴族の中の大貴族、しかも貴族派のリーダー格であるカイエン家のご令嬢とはな」

 

ルーティー、エレカ、トモユキの順でそれぞれの反応を見せる。

驚き戸惑う二人とは対照的にトモユキは依然と面白そうな表情のままだ。

名を明かした後、ゼオラはスカートの端を軽く摘み上げ、作法に則った礼儀を見せる。

 

「以後、お見知りおきを。……誰かさんは覚えなくて結構ですわ」

「だってよ、お前等。会って早々嫌われたみたいだな?」

「貴方に言ってるんです! あ・な・た・に!」

 

ケラケラと笑って恍けるトモユキに憤慨するゼオラ。

俺達は遊ばれているゼオラに哀れむと共に自由過ぎるトモユキに呆れる。

 

「おっと! 俺も自己紹介しないとな!」

 

流れ的に自分も自己紹介すべきだと悟ったトモユキは腰に手を当てて、

 

「トモユキ・サクラだ。出身は【ノルティア】州の【アイゼンガルド連峰】沿いに在る【アマネス】っていう辺境の町だ。よろしくな」

 

と不敵な笑顔を浮かべてそう述べた。

反感を買いそうな笑顔だが妙に憎めないのが不思議だ。

しかし、トモユキ・サクラか………この帝国では珍しい名前だな。

 

「トモユキさんですか……東洋寄りの名前ですね、ご両親は東洋の方なんですか?」

 

俺と同じことを思ったのか、エレカが名前について尋ねた。

 

「いや、爺ちゃんが東洋の出身でな。俺の母さんがハーフで父さんが帝国の人間なんなんだ」

「ふぅん、そうなんだ」

 

東洋人の血が流れているトモユキが物珍しいようで、ルーティーは興味深そうにトモユキを眺める。

眺めているとトモユキの背中に背負っている大剣と腰に掛かっている砲身が長い銃に眼が止まる。

 

「それにしてもデカい武器ね。それって剣と銃だよね?」

「おぉ、これか?」

 

ルーティーに武器のことを指摘されてトモユキはその二つを抜き取る。

大剣の方は刀身がガラスのように透き通っており、刃はサーベルと同じように片側しか鋭くなく、横幅は約30リジュ程、全長はトモユキの背の丈ぐらいある。

一方、銃の方は木製のフレームに包まれた砲身が鉄製の銃で、全長は50リジュ以上もあり、もうライフルに近い大きさで、しかも銃口が三角形になっているというかなり変わった銃であった。

トモユキの変わった武器にエレカとゼオラとルーティーは眼を丸くする。

 

「うわぁ……透明な剣。綺麗……」

「へへ。どうだ、カッコいいだろう?」

「フン。奇怪な武器だこと」

「お、なんだ? 羨ましいのか?」

「だ、誰が!」

「銃口が三角形になってる! それって本当に銃なの?」

「あぁ、列記とした銃だぜ! まぁ普通の銃と違って、鉛玉は発射しないがな」

「え?」

 

鉛玉を発射しないなら何を発射するの?とルーティーが疑問を投げ掛けようとした、次の瞬間。

ダンジョンの奥からギャオオオオオオ!!!と魔獣の雄叫びが轟いた。

その雄叫びを聞いて俺達は一斉にダンジョンの奥の方へ顔を向ける。

 

「こ、今度は何!?」

「ま、魔獣の声でしょうか!?」

「どう聞いてもそうだろ、今のは」

「随分奥から聞こえましたけど……」

 

ゼオラの言うとおり、今の雄叫びはダンジョンの相当奥の方から響いた。

それに今の雄叫びに乗った覇気、恐らく中級クラスの大型魔獣の物だろう。

もし、その大型魔獣に遭遇した奴等が居れば、そいつ等は………。

 

「確認しに行くぞ!」

 

そう言って俺は雄叫びが聞こえたダンジョンの最奥に駆け足で向かう。

 

「ちょ、イビト!」

「イビトさん!」

「面白れぇ! 俺達も行くぞ!」

「あっ! コラ待ちなさい!」

 

四人が俺の後に続き、俺達はダンジョンの最奥へと駆ける。

そしてしばらく駆け足で走り続けて、数分の時が経つともうそろそろ目標の場所に近いのか、また奥の方から雄叫びが轟いた。

だが、今度のは〝一つだけじゃない〟。

〝二つの雄叫びが聞こえたのだ〟。

 

「い、今、二つも聞こえたのよね?」

「き、聞こえました!」

「どうやら増えたみたいだな」

「くっ! 一体何がっ!?」

「とにかく急ぐぞ!」

 

雄叫びが二つになったことで俺達は事態の収拾を掴むべく、駆け足のペースを上げて、雄叫びの元へと進む。

やがてそう経たない内に俺達はこのダンジョンの最終地点らしきところに辿り着く。

そしてそこに広がっていたのは二体の大型魔獣と睨み合っている9人の男女が居た。

 

「な、何あれっ!?」

「【石の守護者(ガーゴイル)】、【暗黒時代】の魔道の産物だ!」

「こ、こんなのも居るなんて……」

「強そうだな! やっぱダンジョンの奥にはボスが居ないとな!」

「何を訳の分からないことを!」

 

最終地点の出入り口のところから俺達は中の様子を見て、各々のリアクションを取る。

しかし、悠長に話している余裕は無かった。

今にも【石の守護者(ガーゴイル)】は9人に襲い掛かりそうで、おまけにあの人数だけで【石の守護者(ガーゴイル)】二体も相手にするのはかなり厳しいだろう。

そう判断した俺は早速行動に出る。

『アームド・バンカー』を前に突き出し、バンカーの裏部分にあるグリップの第一ボタンを押す。

それに反応して『アームド・バンカー』の先端部分の少し後ろの所から二門のバルカン砲が出現し、バルカン砲の六門の銃口が回転し始め、その銃口から無数の弾が発射させる。

 

無数の弾は全て二体の【石の守護者(ガーゴイル)】に命中し、石のように硬い二体の身体の所々が砕け、二体は同時に怯む。

すると追い討ちを掛けるようにトモユキが俺の隣に並び、三角形の銃口をした銃から二発の光弾を照射した。

光弾は二体の【石の守護者(ガーゴイル)】の胴体に風穴を空けると共に二体を数m後ろまで吹き飛ばす。

 

「す、凄い!」

 

俺とトモユキの攻撃に圧倒されたのか、エレカがそう呟いた。

そして二体の【石の守護者(ガーゴイル)】が立ち上げる前に俺は9人の元へ駆け出す。

 

「続け!」

「おうよ!」

 

四人にそう指示するとトモユキが一番早くを反応し、他の三人も続けて俺の後に続く。

俺達が9人の元に辿り着くと9人は俺達の存在に気付き、最初にメガネの男子生徒が話し掛ける。

 

「き、君達は……」

「ボケッとするな! すぐに二手に別れろ、一体に付き7人であの【石の守護者(ガーゴイル)】を撃破するんだ!」

「……分かった!」

 

俺の指示に黒髪の男子生徒が要領良く了承すると俺達14人は二手に分かれる。

ちなみに俺の方にはトモユキ、エレカ、ルーティー、ゼオラ、メガネの男子生徒、三つ編みの女子生徒が付く。

そうして俺達が二手に分かれると二体の【石の守護者(ガーゴイル)】は立ち上がる。

しかも二体とも、俺とトモユキが付けた身体の傷がみるみると塞がっていく。

 

「傷が治っていくよ! あんなの有り!?」

「【石の守護者(ガーゴイル)】は再生能力も持っている。傷が完全に治る前に一気に叩き潰すぞ!」

 

『はい』や『おう』と言った様々な了解の言葉が出た直後、俺のすぐ隣に居るエレカが一番手に攻撃しようとしていた。

此処に来る前に誓った己の覚悟を示す為か、その意気は勝ったが俺は彼女の腕を掴んで、攻撃を中止させる。

『な、何をするんですか!?』と彼女は抗議の声を出すが、俺はそれを押し退けて彼女にこうアドバイスする。

 

「焦るな。相手は大きくて当て易いとはいえ、今のお前の腕じゃ確実に当たる訳じゃない。まずは落ち着いてナイフを投げるタイミングを見計らえ。俺達の攻撃でアイツの動きが止まった瞬間を狙うんだ」

「……分かりました」

 

エレカは素直にアドバイスを受け入れ、俺は彼女の腕を放す。

 

「一番手は俺だ!」

 

攻撃の一番手はトモユキが頂き、アイツは大きく跳躍して両手で握った大剣を垂直に振り下し、【石の守護者(ガーゴイル)】の右翼を切り落とす。

だが黙ってやられる程、相手は甘くなく、大型魔獣はトモユキが着地した瞬間を狙って前右足の爪で切り掛かる。

ところがその反撃は読んでいたのか、トモユキは慌てることもなく、大剣の側面で大型魔獣の爪を受け止め、攻撃を防いだ。

『やるな』とトモユキの手際の良さを内心褒めた時、次はゼオラが仕掛ける。

 

「【ENIGMA(エニグマ)】駆動!」

 

さっき見せたボクサーのような構えを取りながら、ゼオラがそう囁くと両腕の籠手の水晶が輝き始め、同時に籠手のそれぞれの上に魔方陣が浮かび上がる。

魔方陣が浮かび上がってからたった2,3秒で彼女は魔法名を唱える。

 

「クロノブレイク! フロストエッジ!」

 

二つの魔法名を同時に唱えるとまずは【石の守護者(ガーゴイル)】から黒紫の魔方陣が浮かび上がり、【石の守護者(ガーゴイル)】の動きを鈍くし、続けて四つの氷の刃が宙を舞い、【石の守護者(ガーゴイル)】の右脚を切断する。

大型魔獣は悲鳴を上げた。

 

「(アーツの二重詠唱! それにあの籠手、【ARCUS(アークス)】と同じ道力魔法(オーバルアーツ)が使えるのか!)」

 

ゼオラのアーツの二重詠唱と両腕に付いた代物に内心驚く俺だったが、ゼオラの行動はまだ終わっていなかった。

魔法の攻撃を終えると右腕の籠手の水晶からピンク色の帯のような物が伸び、その帯を鞭のように振るい、【石の守護者(ガーゴイル)】の左の角を両断する。

あんな攻撃の仕方も出来るのかと内心また驚く俺。

そしてトモユキとゼオラの攻撃で【石の守護者(ガーゴイル)】の動きが止まり、エレカの攻撃のチャンスが生まれる。

 

「エレカ!」

「ッ! えいっ!」

 

ここだ!とエレカに攻撃のチャンスを知らせると彼女は言われた通り、狙いを定めてナイフを投げ付け、【石の守護者(ガーゴイル)】の左眼に突き刺さる。

 

「やった! 当たった!」

 

今度はちゃんと当てたことが余程嬉しいようで、エレカは両手を握り締めて喜びを表現する。

と、そこで三人の攻撃に触発されたみたいで、ルーティーが『私だって!』と意気込むと背中に背負っていた改造ライフルを掲げ、引き金を引き、下の銃口が火を噴いた。

下の銃口からはアサルトライフルの弾が発射され、後ろ左脚と左翼に風穴を空ける。

この攻撃により、ダメージが許容範囲を超えた【石の守護者(ガーゴイル)】は胴体を着けた。

畳み掛けるなら今だと判断した俺は【石の守護者(ガーゴイル)】の懐に飛び込み、『アームド・バンカー』で腹にアッパーを打ち込むと共にその巨体を持ち上げる。

 

「今だ!!」

 

俺は皆に一斉攻撃の合図を出した。

その瞬間、俺達の身体が淡い光に包まれ、皆の視線や動きが手に取るように分かる様な、そんな感覚を覚えた。

皆も同じように感じているのだろうが今はそのことは気にせず、メガネの男子生徒がショットガンで尻尾を撃ち砕き、三つ編みの女子生徒は魔道杖で左翼と後ろ左脚を破壊し、エレカは投げナイフで今度は右眼を突き、ルーティーは改造ライフルの上の銃口からスナイパーライフルの弾を撃ち出して胸部に風穴を空け、ゼオラは二つの帯を首に巻き付かせ、トモユキがその首を大剣で斬り落とした。

首が身体から切り離されたことで【石の守護者(ガーゴイル)】は色を失い、そしてセピスへと変わった。

向こうの方も同じタイミングで倒したようで、彼等の足元にもセピスが散らばっていた。

 

こうして戦闘が終わり、暫くして俺達はスタート地点の時と同じように輪を作り、さっきの現象について話し合った。

あの淡い光はなんだったのかと。

この場に居る誰もが、それを気になっていた。

 

俺達がそう不思議がっていると地上へと続いている階段の方から『【ARCUS(アークス)】の真価ってワケね』と拍手をしながら女教官が降りて来た。

誰かが彼女をサラ教官と呼んだ。

サラ、そうか……〝彼女がサラ〟か。

 

サラ教官が俺達のすぐ手前で止まり、『特別オリエンテーリング』は終了だと言うが、自分たちをこんなところに放り込んで戦わせた張本人が現れたことで14人の殆どが様々な文句を吐き散らす。

その中で金髪の男子生徒が単刀直入に俺達の組、特科クラス《Ⅶ》組は一体何を目的としているのだ?と問い掛けた。

俺も含めてその問いの答えは全員が聞きたかったので、全員の視線がサラ教官の口に集中する。

 

皆の期待に応えてサラ教官は説明を開始する。

結局のところ、俺達が《Ⅶ》組に選ばれたのは色々な理由があるそうだが、一番の理由は【ARCUS(アークス)】に有るとのこと。

この【ARCUS(アークス)】を持てば、多種多様な魔法(アーツ)が使えるようになったり、通信機能が使えたりと他にも多彩で便利な機能が秘められているらしいが……。

真価は《戦術リンク》―――さっき俺達が体験したお互いの感覚がリンクしたかのような不思議な現象のことだ。

例えばの話、戦場でその《戦術リンク》が齎す恩恵は絶大だとサラ教官は語る。

しかし、戦場において革命を起こし得るかもしれないこの機能、現時点では適性が有る者でしか使用出来ず、新入生の中でも特に高い適正を示したのが俺達14人だった為、身分や出身に関係無く、俺達はこの《Ⅶ》組のメンバーに選ばれたと教官は打ち明けた。

 

「さて――約束どおり、文句の方を受け付けてあげる。トールズ士官学院はこの【ARCUS(アークス)】の適合者として君たち10名を見出した。やる気のない者や気の進まない者に参加させるほど予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと、本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ。それを覚悟してもらった上で《Ⅶ組》に参加するかどうか――改めて聞かせてもらいましょうか?」

 

全ての説明が終わり、今度はサラ教官が俺達に《Ⅶ》組への参加の意思があるかどうかを訊ねた。

 

まさかこのような展開になるとは思いもしなかったのが多いようで、メンバーの殆どが戸惑っている。

俺の隣に居るエレカなんて、眼が泳いでいた。

だが、そこで参加表明の一番乗りが出た。

 

リィン・シュバルツァー、そう名乗った黒髪の男子生徒だった。

そのリィンに続いて他の奴等も続々と参加表明を出し、気付けば残ったのは俺達五人、俺とエレカとルーティーとゼオラとトモユキだけになった。

ちなみに参加表明の中で一人、あの【四大名門】の一角、東の【クロイツェン】州を治めるアルバレア家のご子息が居たが、俺とルーティーとトモユキは『なんだ、もう一人居たんだ』という感じでしか驚かなかった。

 

「―――これで9人、君達も参加してみない?」

 

サラ教官は俺達に視線を向けると参加表明を出した奴等の視線が俺達に集まる。

俺はその視線が鬱陶しいと思った瞬間、トモユキが一歩前に出る。

 

「無論、このトモユキ・サクラ、参加を宣言しますよサラ教官。何だか面白うそうだし、波乱に満ちてそうじゃないですか!」

「………私としては入って貰わなくて結構なんだけど」

「まぁまぁそう言わずに、本当は最初に名乗り出たかったんだか……しょうがないからそれはそこのロリィンコ・シュバルツァー君に譲るとしよう」

「ろ、ロリィン……コ!?」

 

いきなり不名誉なあだ名を付けられ、リィンは顔が固まる。

ついでに今のあだ名が効いたようで、何人かが吹き出す。

そんな周りに反応など気にせず、トモユキは人差し指を天に刺し、

 

「爺ちゃんは言っていた、『人と仲良くする時は少しくらい失礼なのが丁度良い』と! という訳でよろしくな、皆!」

 

これからクラスメイトになるメンバーにそう語ってトモユキは参加を表明した。

『どうなることやら……』とトモユキ以外が不安に思いつつも、トモユキの参加表明を期にルーティーも一歩前へ出る。

 

「ルーティー・オルランド、私も参加を宣言します! こうやってに皆と会えたのも何かの縁だし、皆となら私も頑張れるかなーなんて」

 

陽気な笑顔を浮かべながらも少し照れくさそうにルーティーは参加を表明する。

サラ教官が二人の表明を承諾すると今度はゼオラが一歩前に出る。

 

「皆さんが参加して、私も参加しない訳にはいきませんわ。ゼオラ・カイエン、私もこの特科クラス《Ⅶ》組に参加することを宣言いたします!」

 

高らかにそう宣言したゼオラ。

すると彼女の名前を聞いて俺達よりも先に参加表明した奴等が眼を見開いて驚く。

 

「か、カイエン! カイエンだって!?」

「し、【四大名門】の人がもう一人居るなんて……」

 

参加表明の時に名前が判別したメガネの男子生徒、マキアスと栗色の髪の男子生徒、エリオットがデジャブを感じさせるリアクションを取る。

ゼオラが名を明かしたことで周りが騒ぐ中、エレカが一歩前に出て、

 

「あ……あの、エレカ・アルディオーネ! わ、私も《Ⅶ》組に参加します!」

 

勇気を出してエレカも参加を表明した。

だが、俺達よりも先に参加表明した奴等はエレカの存在に気付いた途端、ゼオラの時よりも驚いて見せた。

 

「えっ! きゃあ!? ああああ貴方、一体何時からそこに!?」

「き、気付きませんでした……」

「あとからこっそり現れたのではないだろうな?」

「ふむ、まるで透明人間のような存在感の無さだな」

「命の息吹の数が一つ合わないと思ったら、そういう訳だったか」

 

こちらも参加表明の時に名前は判別しており、アリサ、エマ、ユーシス、ラウラ、ガイウスの順でそれぞれのリクションを取った。

エレカは皆の反応にまたしても顔を俯かせて凹む。

しかし、これで14人中、13人も《Ⅶ》組への参加を表明し、残るのは俺だけになった。

 

「―――さて、最後になったけど、貴方はどうするのかしら?」

 

サラ教官が俺一人に視線を絞るとそれに合わせて皆の視線が俺一人に集まる。

5,6人は参加を辞退すると思っていたが、思いの外、辞退する者など誰一人も居なかった。

『物好きな奴等だ』と俺は内心そう呟いた後、自分の意思を答える。

 

「―――イビト・バームスト。俺もこの特科クラス《Ⅶ》組への参加を宣言する!」

 

参加したくない理由が無いので、俺は惜しみなく参加を表明した。

俺の意思を聞くとサラ教官はうんと嬉しそうに頷く。

 

「これで14名。―――全員参加ってことね!それでは、この場をもって特科クラス《Ⅶ》組の発足を宣言する!この一年、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい!!」

 

どんな扱きが待っているんだろう?と不安な表情を浮かべる者が居れば、望むところだという感じの表情を浮かべる者も居て、各々が様々な表情を浮かべた。

 

「それと、イビト・バームスト。トモユキ・サクラ」

「「?」」

 

そして唐突に教官から名前を呼ばれて、俺とトモユキは眉を吊り上げる。

 

「オリエンテーリングが始まる前に言ったと思うけど、君達、あとで教員室で説教ね♪」

「「え``っ」」

 

 

こうして、俺を含めた生徒14人の特科クラス《Ⅶ》組が築く、軌跡の物語りの幕が上がったのだった。

 




~おまけ~

最後の最後で説教をされる羽目になった俺とトモユキ。
このまま大人しく説教を受けるのは癪だったので、俺達は道連れを増やそうと特に打ち合わせもせずにリィン・シュバルツァーに人差し指を指す。

「「教官。コイツ、『特別オリエンテーリング』の際、痴漢をしました」」
「え``っ?」
「あら、そうなの? じゃあリィン、貴方も説教ね」
「……え、ええええええええええええええええええぇ!!!」

抗議する間もなく、リィンは俺達と一緒に教員室へ連行されるのであった。

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