五の軌跡   作:クモガミ

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第二章ー13 5月29日 一騎討ちの果てに

トモユキは立ち上がってすぐに飛んで行った大剣の位置を確認し、まるで消えたかのように遠く離れた場所へ一瞬で移動するあの高速移動で剣の所まで飛び、その手に剣を取り戻す。

 

するとトモユキが剣を拾ったところでイビトが声を掛ける。

 

「……その移動法、それも忍術なのか?」

「おうさ。『瞬進の術』って言う高等歩法の忍術だ」

「ほう。―――見たところ移動時の継続時間を大分セーブしているみたいだが、どうやらその術身体にかなりの負荷が掛かるようだな」

「へぇ………そう思う根拠は?」

「まずはお前が今まで見せてきた『瞬進の術』の継続時間は長くて2秒程だった。もしそれ以上動けるのなら最初から全開で動いた方が有利に立て易い、だがそうしないのは妥当な線でいくとそれ以上長く動いたら身体に負荷が掛かり過ぎて運動能力の低下と体力が大幅に削り取られると推測したからだ」

「―――参ったねぇ。まさか数回見られただけでそこまで見抜かれるとは……」

 

見事に看破されたトモユキはお手上げと言いたげな顔で後頭部を掻く。

 

「ご指摘通り、『瞬進の術』は身体にすげぇー負荷が掛かる術なんだよ。もし限界時間までこの術を使ったら負荷が掛かり過ぎてロクに動けなくなっちまう」

「そうか。ではやはり後先考えず限界時間まで使うのは賢いやり方じゃないな」

「あぁ、お前の言った通り〝今〟の俺としては約2秒程が最低限の負荷の中で行動し易い時間だ」

「〝今〟か……では今のお前は最大で何秒その術を使えるんだ?」

「それは―――今教えてやるよ!」

 

次の瞬間、トモユキが消え。

直後にイビトから見て四方から見えない弾が無数に飛んでくる。

イビトは大小と使い分けた前後左右のステップでそれ等を全てかわす。

 

続いて一方向から五つの黄金の三角形、『トライデントハンマー』が出現する。

その一つ一つにトモユキが順番に入り込み、従って一つずつ順番に五つの『トライデントハンマー』がイビトを襲う。

 

「ぜぇあ!!」

 

掛け声と共に一つ目の黄金の三角ドリルを『アームド・バンカー』の爪で打ち砕く。

砕いてすぐに0.1秒という時間差で二つ目のドリルが降り注ぐが、それも砕き。

三つ目も四つ目も損じることなく打ち砕いていき………。

 

「ねぇあ!」

「ぐぁ!!」

 

最後の五つ目だけは掬い上げるように爪を振り、よって五つ目はトモユキと共に上空へ舞い上がった。

打ち上げられた力は強く、トモユキは数十アージュまで上昇する。

その中でトモユキから何かが零れ落ちた。

 

イビト、ゼオラ、外野のアリサ達はそれが何なのか疑視した。

―――その瞬間。

 

バッ!!と小さな火薬が爆発したかのような音と同時に強烈な光が地上を照らす。

発生源はトモユキから零れ落ちた何かだった。

 

「「きゃあ!?」」

「ぬっ!!」

「こ、これは……!?」

 

上空から照らされた眩い光を見てしまったアリサ、エレカ、ガイウス、ゼオラは腕や手で顔を覆い隠す。

 

「(閃光弾!! くそっ………視界が!)」

 

イビトも同様に眼をやられ、一時的にだが視界がぼやけてしまう程に大きく低下してしまう。

すると彼が右に身体を振り向かせるとそこには大剣を持って飛び掛かるトモユキの姿が在った。

 

視力が低下しても存在一早く気付けたことですぐに対応出来、また斬り結び合う。

しかし、今度は視力が低下したことで最初のようにラウラと同時に軽く裁いていた時と違って裁くのが大分鈍い。

加えて超高速で動くトモユキの速さも相まって次第に裁けなくなっていく。

それでもイビトはトモユキの剣を受け流す中で一瞬のチャンスを突いて、片足で大剣を宙へ蹴り上げる。

 

だがトモユキもお返しだと言わんばかりにイビトの剣を蹴りで弾き飛ばす。

剣を失うがイビトには『アームド・バンカー』が在り、迎撃としてその爪で突きを放つ。

 

剣が無いので裁くことも受け流すことも出来ないトモユキは両手を使って『アームド・バンカー』の上に乗り、突き回避する。

そして逆立ちの状態で上へと飛び、どうやってか上空に舞った大剣を〝足の裏で持った〟。

次に足の裏に剣を持ったまま縦に回転し、刃の歯車の如く頭上からイビトを襲い掛かる。

 

降り注いでいて来た刃の歯車にイビトは咄嗟に後ろへ飛んでその場から離れ、刃の届かない距離まで引く。

直後につい先程までイビトが立っていた地面は縦の線を描くように深く削り取られる。

 

やがて回転を止めて剣の頭柄を足場するトモユキは器用に剣を足で起こし上げ、手に持ち変える。

剣を握るとすぐに『瞬進の術』で間合いを詰め、再び剣による斬撃を行う。

だがこの斬撃は今までとは違い、一旦〝手で剣を振った後、足に持ち変えて剣を振る〟と言った、また出鱈目な戦法を見せる。

具体的に説明すると剣を手で振った後に剣を背中の方に回し、それを足の裏でキャッチして前転の要領で振ったり、ダンスのように身体を横に回転させながら手の振りや蹴りで剣を空中で乱舞させたり等、様々だった。

更に剣を足の裏で持ち、両手を軸にして今度は横回転する刃の歯車と化したり、どれもこれも曲芸に近い技の数々。

その様はまさに目まぐるしい光景である。

 

「(速い上に変則的な動き………! 剣筋が読めない!)」

 

予測し辛いトリッキーな攻撃に加え、超高速でそれを行うトモユキの動きに防戦一方になるイビト。

しかしそれでも未だに彼は攻撃をまともに受けるどころか、かすり傷さえ無い。

視界が極端に低下している状態であっても完璧な守りを見せる。

このまま視力が回復するまで守りに徹するかと考えるイビトだったが、そうは問屋が下ろさず。

トモユキの変則的過ぎる攻撃はイビトの予想を遥かに上回る。

 

まずはトモユキが懐から『爆』と書かれた札付きのクナイを三本放つ。

宝剣や宝銃以外の武器を使うのを初めて見るがイビトは冷静にそのクナイ達を『アームド・バンカー』の爪で弾き飛ばす。

その直後、弾かれたクナイ達が一斉に爆発する。

 

「えっ………何!? 何が起こったの!?」

「ば、爆発ですよね今の!?」

「あぁ、トモユキが投げた何かが突然爆発した!」

 

同じように視力が低下しているせいでアリサ達は個人差はあれど、何が起こった把握して切れていなかった。

だが間近で爆発の瞬間を見たイビトは爆発の原因を発見する。

 

「(あの札、どういう仕掛けかは知らんがあれが爆発を引き起こした!)」

 

イビトが見た爆発の原因、それはクナイに付いていた札。

あれは爪で弾かれた後、一瞬光ったと思った瞬間爆発したのだ。

 

何の力で爆発するかは皆目見当も付かないが、とにかくあれには注意を払うべきだと警戒するイビト。

そう警戒した時、トモユキが一つの蹴りを放ち、イビトはそれを『アームド・バンカー』の甲側で防ぐ。

 

「っ!?」

 

足が『アームド・バンカー』から離れた瞬間、イビトは即座に気付く。

何の変哲も無いただ蹴りだと思っていたが、蹴りを防いだ部分にあの札が貼られていた。

 

「(足の裏に札っ!! くそっ!)」

 

警戒した傍から札を貼られてしまい、イビトは起爆する前に『アームド・バンカー』を腕から外し、札の持ち主であるトモユキに投げ飛ばす。

だが札はトモユキの所まで接近し、そのまま爆発すると思いきや。

ボッ!と音を立てて煙が吹いただけで終わる。

 

どうやらあの札はイビトから武器を外させる為の(フェイク)だったようで、まんまと嵌められたイビトはしまった!と言わんばかりに眼を見開く。

急いで武器を取り戻そうするが時既に遅し、トモユキが目の前までやって来て得物の大剣を振り下ろす。

視力が低下し、尚且つ今手に武器を持っていないイビトはトモユキの一振りを受け止めることが出来ない上に距離が近くてかわすことも出来ない。

 

そこでイビトはかわすのも受け流すのも諦め、剣が完全に振り下ろされる前にトモユキの右手首を掴み、背負い投げの要領でトモユキを投げ飛ばす。

相手の勢いや力を利用したこの投げは容易く決まり、トモユキは仰向けに地面に叩き付けられる。

 

「(今のは合気道ッ!! アイツこんなことまで!)」

 

東洋に古くから伝わる体術を扱えるイビトに驚きつつ、トモユキは急いで起き上がろうとする。

しかし、それよりも早くイビトはトモユキの右腕を踏んで抑え、首元にラウラの大剣(バスターソード)を突き付けた。

 

「ぐっ………!!」

「今度こそ、終わりだな」

 

宝剣『スサノオ』を持った右腕は封じられた上に喉元に刃物を突き付けられて、絶望的な状況に転落してしまったトモユキ。

あらゆる手段を行使して粘り強く攻め続けていたがこの状況は流石に詰んだと思ったようで、『はぁ……』と諦めの溜め息を吐く。

 

「参った……俺の敗けだ」

 

潔くトモユキが敗けを認めた。

その言葉を確認したイビトは大剣と足を退けてトモユキを解放する。

三人の最後の砦が陥落したことでこの勝負は勝負を決した。

トモユキ、ラウラ、ゼオラの三人組が敗北し、彼等を纏めて相手したイビトが勝ったのだ。

 

「あーチクショウ。あともうちょいでイケると思ったんだけどな……一矢報いることも出来なかった」

 

悔しそうにトモユキがぼやく。

自身の全力を出してもダメージの一つも与えられなかったことが相当ショックのようだ。

これが自分と相手の実力の差だと実感しつつ、『別にそんなことはなかったぜ』と呟いて起き上がろうとするが、

 

「………」

「? おいどうした?」

「―――う、動けねぇ………」

 

と困った顔で打ち明けるトモユキ。

冒頭で彼が説明した『瞬進の術』は使用すると身体にかなりの負荷が掛かるらしく、身体が動かないということは継続の限界時間まで術を行使したようだ。

『何をやってんだお前は』と呆れながらもイビトは肩を貸してトモユキを起き上がらせる。

 

「あんがとなイビト。それにしてもやっぱ強ぇーなお前、『瞬進の術』を限界時間まで使っても倒せないなんてな」

「……俺の知っている限り世の中にはお前よりも速い上に長く動ける人間が居る。ソイツと比べたらお前はまだ少し足りない」

「そっか………じゃあ、十秒程度でバテてるようじゃ駄目だな、うん」

 

イビトの口から発せられた自分よりも速くて長く動ける人物が居ると聞いてトモユキは今よりももっと強くならなければと強く思う。

 

「でも次戦う時は勝つぜ、イビト」

「あぁそう」

 

次の対戦では勝つと宣言するトモユキにイビトは苦笑を浮かべてそう応える。

文面的にも表情的にも愛想の無い返事とは裏腹にその声は柔らかく、内心は彼の成長に期待しているのだろうか。

トモユキがイビトを越えたい対象として見るように成ると共にイビトもまた好敵手を見つけたかのような眼に成る。

 

そして間も無くして気を失っていたラウラが目覚め、戦いが終わったことを伝えてB班はホテルに戻り、そこで一夜を過ごした。

 

《5月30日 午前7:00 『セントアーク』ホテル》

 

 

「朝だぞイビト、頼む起きてくれ」

「ん………zzzzz」

 

翌朝、B班の皆がホテルの朝食を食べる時間なのだが案の定、寝坊助のイビトが全く起きず、ガイウスが彼を起こすのに悪戦苦闘していた。

 

するとシャワー室のドアが開く。

 

「まだ起きないのか? イビトは」

「あぁ、全然起きてくれな―――え?」

 

シャワー室の方から聞こえた声に違和感を覚えたガイウスはくるりと振り返る。

彼が抱いた違和感、それは予期していた人物の声とは異なっていたのだ。

 

「――――」

 

振り向いた途端、ガイウスは大きく眼を見開く。

そして鼻血を吹き出して斜め後ろに傾き、ドンガラシャーン!!と近くに在った小さな棚と一緒に倒れる。

 

「何今の音!? どうしかしたの!」

 

男子を迎えに来た女子が部屋から響いた大きな物音を聞いて、何事かと入り込む。

部屋に入った女子達の眼に映ったのは未だにスヤァと寝ているイビト。

次に鼻を抑えて鼻血が垂れるのを止めているガイウス。

最後にシャワー室の前に立っている下半身にバスタオルを巻いて他には何も着ていない腰まで伸びたオレンジ色の髪を持った半裸の少女だった。

 

「「「「…………」」」」

 

目の前に映る光景に言葉を失う女子達。

勿論、その原因は寝ているイビトではなければ鼻血を出しているガイウスでもない。

彼等男子の部屋で半裸の状態で居る少女だ。

その少女は今さっきシャワー上がったばかりのようで身体から湯気が立ち昇っている。

一方で一切の羞恥を顔に出さず豊満な果実を二つブラ下げた少女は『一体何を固まっている?』と言いたそうな眼で周りを見る。

 

「こ、これはどういうことですか………?」

 

数秒間固まっていた女子達の中でゼオラが一番手に口を開く。

心なしか、トーンが低くなるのは分かるがそれに加えて若干声に怒りが込もっているように聞こえる。

更に続いて絶対零度のような視線を男子に向けるラウラの口が開く。

 

「もしやそなた等、昨日の夜中に女性を連れ込んで―――」

「い、いや! 俺達はそんなことしてない!」

「じゃあこの人はなんなんです!? 説明してくださいイビトさん!」

「……zzzzz」

「何時まで寝ているのですか! 起きなさいイビト!!」

「それと貴方! 上も隠しなさい!」

 

状況を説明してもらおうとエレカとゼオラはイビトを起こそうとするが、揺さぶろうが叩こうがうんともすんとも起きやしない。

すると見知らぬ少女に上半身も隠すようにと促したアリサが男子のメンツの中で一人足りないことにようやく気付く。

 

「そうよ、トモユキは! トモユキは何処に行ったの!?」

 

B班の男子達の中で一番如何わしいことをしそうなトモユキなら必ず何か知っているだと部屋を見渡すアリサ。

そんな彼女に……。

 

「あぁん? 此処に居るだろうが」

「「「「「へ?」」」」」

 

少女の言葉にイビト以外の誰もが眼を丸くする。

そして少女は何か察したような顔を浮かべた後、親指を自身に向けて。

 

「俺がトモユキだ」

 

と、告白する。

その言葉を聞いたガイウス、アリサ、ラウラ、ゼオラ、エレカはポカーンと口が開きっ放しに呆け、室内はまた静寂に包まれる。

 

やがてーーー

 

「「「「「えぇええええええええええええええええええ!!?」」」」」

 

五人の叫び声がホテル内に響き渡るのであった。

 




~~おまけ~~

《5月29日 午後21:00 『セントアーク』 ホテル内 男子の部屋》

「なぁイビト、その『アームド・バンカー』の回転するそれは一体なんなんだ?」
「ダブルバルカンのことか? これは回転式機関砲と言って文字通り砲身が回転して銃弾が発射される銃器だ。倉弾数は一門ずつ200発、弾は1.2センジュ弾を使用、威力は拳銃と小銃の中間辺りだな」
「へぇ、じゃあその先端から出てくる四本の爪は?」
「レーザークローだ。『空』のセピスから力を抽出して爪の表面にレーザーを発し、爪の切れ味を飛躍的に上げている」
「セピスから力を? それにセピスが入ってんのか?」
「あぁ、この『アームド・バンカー』の一部の火器やブースターにはセピスの力を使って機能してるんだ」
「……なんか俺の『スサノオ』と同じだな」
「原理は近いかもしれんが、応用性や性能的にもそちらの方が遥かに上だろう……ところで今日お前等と俺が戦った時、『トライデント』から発射したあの見えない弾、あれは〝風力〟だったのか?」
「そうそう! よく分かったな」
「あらゆるエネルギーを発射すると聞いたからな、それならば風の力を発射出来ても不思議じゃない」
「いやぁ流石イビト。察しが良くて助かるわ~このおまけコーナーで画面の前に居る皆に武器の説明や補足するのが捗るぜ」
「……メメタァ」

と呟くイビトだった。

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