五の軌跡   作:クモガミ

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第二章ー12 5月29日 イビトVSトモユキ・ラウラ・ゼオラ

《午後17:20 『セントアーク』 ホテル付近》

 

夕食を終え、副担のヨファン教官と別れたB班はホテルに帰ろうと帰路を歩いていた。

着くまでの間、暇潰しがてらにこれからホテルで利用するルームサービスや明日の課題について等、様々なことを話す中、トモユキがこんな話を持ち出す。

 

「なぁイビト」

「ん? なんだ?」

「食後の運動だと思ってさ、俺と一騎討ちしてくれないか?」

「…………あ?」

 

トモユキがそう言った瞬間、イビトは呆気を取られ。

他のメンバー達はピタリと口が止まり、視線がトモユキに集まる。

 

「と、突然何を言い出すのトモユキ?」

「いやさぁ。明日も実習が有るのに馬鹿なことを言っているのは分かってんだけどよ……」

 

申し訳なさそうに言いつつもトモユキは悪びれる様子はなく、イビトを見据えながら。

 

「さっきの戦いが終わってから身体の奥が疼いて仕方ないんだよ。イビト……お前のお陰でな」

 

トモユキの目付きが獲物を見付けた狼のようなものに変わる。

言葉から察するに男爵夫婦の子息を保護する際に遭遇した『ラフレフラ・キング』をたった一人で倒したイビトの実力を見て人間の心理学で言う、闘争本能に火が付いたようだ。

要するに今のトモユキはイビトと闘いたくて仕方ないらしい。

「別に今じゃなくていいでしょう。『トリスタ』に帰った後でも………」

「ヤダ、俺は今が良い!」

「子供みたいな我が儘を言わない! ラウラ、貴方も何か言って――」

「先を越されてしまったな。実は私もイビトに一騎討ちを申し込もうとした」

「貴方もなのラウラ!?」

 

ブルータスもビックリなまさかの裏切りにアリサは愕然とする。

どうやらラウラの闘志にも火が付いてしまった模様。

 

言う相手を間違えてしまったか?とそう思いつつ、アリサはめげずに今度は常識的な同性に助けを求める。

 

「ぜ、ゼオラ。貴方なら……!」

「…………」

「……あの、ゼオラ?」

「――ごめんなさいアリサ、実は私もイビトと戦ってみたいのです」

「え、えぇー!!?」

 

まさかの二人目のブルータス出現に大声を上げるアリサ。

武道派のラウラならまだしも、よもや知性的なゼオラまで闘争心に駆り立てられている事態にアリサの狼狽は加速していく。

 

それでも諦めずに今度はこのB班の中でもっともまともな異性に助けを求める。

 

「ガイウス、貴方は違うわよね?」

「あぁ。俺は一騎討ちをしたいと思わないし、それに明日も実習があるのだから怪我をしてしまうようなことは辞めるべきだ」

「そうよね! それなら――」

「だが、正直に言うとこの三人の誰かがイビトと戦うとどうなるか。見てみたいんだ」

「……えぇー………」

 

味方だと思い込み、持ち上げられた途端、違う方向性で落とされて心が折れそうな声を上げるアリサ。

 

イビトとトモユキを除いて残り4人中3人も味方では無かった。

しかし、希望はまだ有る!と諦めない彼女は最後の一人に希望を託す。

 

「エレカァ! 貴方は違うわよね! 何処に居るの!?」

「……すぐ隣に居るけど……」

「きゃおわぁそこに居たのね!! ビックリしたけどそんなのはどうでも良いわ! エレカ、貴方の意見を聞かせて頂戴!」

「え…えっと……」

 

最早ヤケクソ状態でキャラ崩壊しつつあるアリサに若干引くエレカはチラッと横目でイビトの方を見る。

 

「勿論私も反対だと思うけど、最終的に一騎討ちするかどうかはイビトさんが決めることだと思うよ」

「そ、それは……もっともね。それでイビトはどうなの?」

「………」

 

さっきから何も喋らず黙って聞いていたイビトは一旦溜め息と共に目蓋を閉じ、そして目蓋を開いて閉じていた口も開く。

 

「そんなに俺と戦いたいのかお前等?」

「おう」&「うむ」&「えぇ」

「―――分かった。じゃあ〝三人同時に相手してやる〟」

 

 

《午後17時30 『セントアーク』 スポーツ公園》

 

 

B班はホテル少し離れたスポーツ用に建設された公園に訪れていた。

文字通りスポーツをする為の施設で公園には芝生や土のグランドだけではなく、テニスコート、バスケットコート等、様々なスポーツが出来るようになっている。

その公園内でB班は土のグランドに居た。

グランドに中央にイビト、トモユキ、ラウラ、ゼオラが立っており、その四人をグランドの端っこで見守るアリサ、ガイウス、エレカが立っている。

約1名『結局、止められなかった……リィンじゃない、A班のことが心配で頭が一杯だったのに。どうしてこんな面倒なことが……』とぼやいているが、それが誰なのかは言わないでおこう。

 

もう夕暮れ時になったこの時間帯では此処を利用している者は殆ど存在せず、よって人目が少ない。

戦う場所の広さとしても申し分なく、四人が戦いには何不自由は無いだろう。

 

「――本当に私達三人同時にお相手なさるつもりですか?」

「そうだ。その方が手っ取り早いだろう」

「私は一騎討ちを望んでいたのだが……」

「一人ずつ相手にしていたら夜になっちまうだろうが。それとも辞めるか?」

「まぁ望んでいたのとは少し違う形に成ったけど、お前と戦えるのならこれぐらい我慢するさ」

 

一騎討ちではなく、三人掛かりで戦うことに些か不満を抱いている三人だがこの条件で無ければ戦わないとイビト本人が言ったので渋々とそれを了承したようだ。

 

「さて、そろそろやるか」

 

そう言ってイビトは武器を構えて戦闘態勢を取る。

一見何のおかしくも無い行動だが、それを見てトモユキは嬉しそうにニヤリと笑う。

 

「へぇ、〝俺達には〟ちゃんと武器を使ってくれるんだな」

「当然だ。お前達は〝あの三人〟と違って実力が有り、戦術リンクの連携も出来る。舐めて掛かる訳にはいかないだろう」

「そりゃあ光栄だね。でもなぁ……俺達三人を同時に相手しようとしている時点で舐めているようにしか思えないんですけど」

「フっ……そう思うなら、俺を倒して見返してみるんだな」

「―――ほんじゃまぁ、遠慮なくそうさせてもらいますか!」

 

トモユキのその言葉が戦闘開始の合図となり、トモユキとラウラが大剣を取り出して間合いを詰めようと一斉に駆け走った。

一番足の早いトモユキが先に間合いを詰め、縦の一振りを放つがイビトが持つ水の剣でそれは軽く捌かれ、続けざまに時間差で来たラウラの一振りも同じように捌かれる。

早速戦術リンクを利用した時間差攻撃を試してみたがイビトの前では通用しなかった。

しかし、二人とも諦めずに連携攻撃で何度も斬り結ぶ。

 

「セ(ハ)ァ!」

 

ラウラは右からトモユキは左から水平の一振りをタイミングを合わせて放つ。

これに対してイビトは切っ先を地面に向けた上に剣を垂直に立たせて二つの太刀筋を防ぐ。

そして数回の打ち合いの中でようやくつばぜり合いに持ち込めたトモユキとラウラは掛かりで押し通そうとするが……。

 

「ふんっ!!」

「なぁっ!」

「ぬっ!」

 

2,3秒間程の鍔迫り合いはイビトが勝利し、掛け声と共に剣ごと二人を押し飛ばした。

 

「お二人とも、伏せなさい!」

「「「!」」」

 

直後に一人だけ少し離れた場所に居るゼオラが仲間の二人に伏せるようにと促す。

そう言った彼女の方に視線を移すと、彼女はお得意の二重詠唱を行っていた。

 

「『フロストエッジ』!『グリムバタフライ』!!」

 

間もなくしてゼオラは二つの詠唱を終えて魔法を発動させる。

巻き込まれないようにトモユキとラウラはその場から離れると同時に四方から氷の刃と黒い蝶がイビトを襲う。

イビトは魔法が眼前に迫る中、左腕を真っ直ぐ上に伸ばす。

そうすると左腕に装備された『アームド・バンカー』の尻目からジェット噴射が起こり、それによりイビトの身体が天に昇る。

 

「と、飛んだ!?」

「あの武器、小型ブースターまで積んでいたの!?」

 

遠く離れた場所から四人の戦いを見守っているエレカとアリサが驚きの声を上げる。

視点を戻して小型ブースターの推進力で上に上昇し、魔法を回避したイビトは左腕の向きをゼオラの方に向け、砲弾のように降下する。

勿論、ゼオラは慌ててその場から退散すると彼女が居た場所にイビトが落ち、着地の衝撃でそこの地面に亀裂が走った。

着地した瞬間を狙ってすかさずトモユキが宝銃『トライデント』の見えない弾による背後からの強襲を掛ける。

だが死角から攻撃にも関わらず、イビトはまるで後ろにも眼が付いているかのように顔をほんの少し横にズラしただけで見えない弾をも躱してしまう。

 

強襲は失敗してしまったがトモユキは諦めず見えない弾を連射し、対してイビトは横に走って回避する。

しかし、その攻撃は当てる為ではなく、誘導する為に放っていたようでイビトが走る先にはラウラが居た。

 

「『鉄砕刃』ッ!!」

 

迎え撃つべく、岩をも叩き割るような斬撃を放つラウラ。

前からは斬撃、側面と後ろからは見えない弾。

二つの脅威に挟まれたイビトは逃げ場を無くし、もう躱すことは出来ない。

そこでイビトが取った行動は………。

 

「つあっ!!」

 

前方の斬撃と同じ大きさの斬撃を飛ばし、相殺した。

そしてそのままラウラの所まで間合いを詰め、お互いに剣撃を交わし合う。

同時に誤射を恐れてトモユキは『トライデント』の砲撃を止める。

 

「ぐっ……!」

 

ラウラの苦痛と焦りの声を上げる。

剣撃を始め出して剣と剣がぶつかり合う度にラウラの身体が少しずつ後ろに後退していくのだ。

 

「(なんという馬鹿力だっ!!)」

 

打ち合いに負けているのは技量ではなく、腕力のようで。

特科クラス《Ⅶ》組の中で男子を含め、屈指の腕力を持つラウラが片手一本のイビトにパワー負けしている。

それはトモユキやゼオラ、外野のアリサ達にも驚きの事実だった。

 

「ラウラ!」

 

押されているラウラを見て、見ても立ってもいられなくなったゼオラは援護として魔導籠手から帯を出してあちらに伸ばす。

しかし見向きもしないでそれに気付いたイビトはラウラごと大剣を蹴り飛ばし、即座に振り向いて帯を左手で掴み取り、ぐいっと帯を大きく引っ張る。

 

「きゃあっ!?」

 

帯を引っ張られたことによってゼオラはまるで鳥のように宙を水平に飛び、イビトの元へ引き寄せられる。

だがイビトの元まであと数アージュのところでブゥン!と二人の間にトモユキが出現し、大剣で帯を断ち切った。

引き寄せられる原因が切られたことよってゼオラはトモユキの手前ぐらいの地面に両手を着いて着地し、難を逃れる。

そしてゼオラを助けたトモユキは即座に大剣の構え方を変え、ダッ!と疾風の如き速さでイビトとの間合いを詰め、擦れ違い様に五回の斬撃を瞬間的に放つ。

 

「ぬっ……!」

 

眼に止まらぬ速度で急接近してきたトモユキに珍しく驚いて眼を見開いたイビトだったがその斬撃も難なく捌き切り、キィキィン!と二人の擦れ違い様に高い金属音に近い音が連続で鳴り響く。

このトモユキの一連行動を眼にして、イビトだけではなく、ラウラやゼオラ、アリサ達も眼を見開いた。

 

「っ! ねぇあれって………」

「二人も気付いたか。今トモユキが出した技は―――」

「リィンさんの………」

 

外野のアリサ達が確認し合う。

皆が驚いた訳、それはトモユキが先程繰り出した技がリィンが使用するある技に酷似していたからだ。

 

「『紅葉切り』だな、今の」

 

ゆっくりと振り向いてイビトはその技の名を挙げる。

見抜かれたトモユキは『バレたか』と言わんばかりに不敵そうな笑みを浮かべて、

 

「まぁな……で、どうだ? 見て見真似の割には結構良い線行ってたろ?」

「そうだな、少なくとも動きは悪くない。速さに関しては本人よりも上だ。ーーだが本人と比べて斬撃が鈍い上に雑だったな」

「俺なりにアレンジしたからな。まっその内、オリジナルを越えてやるさ」

「猿真似程度の偽物で、か?」

「偽物が本物に敵わない道理なんてないだろ? それにその偽物が本物とは違う方向性を見付けた時、〝偽物は違う何かに変わる〟!」

 

そう述べるとトモユキは懐から『空』属性のセピスの塊を取り出し、それを宝剣『スサノオ』に吸収させ、宝剣の刀身は金色に変わる。

更に刀身は光を纏い始め、瞬く間に光の剣へと豹変し、その変わり様を見てラウラは再度眼を見開く。

 

「トモユキ、それは………!」

「……今度は『洸刃乱舞』か」

「ご名答。だが―――少し違う!」

 

ブン!とトモユキがイビトに向かって剣を振ると、光を纏った刀身から光弾が放たれる。

眉を潜めてイビトは『アームド・バンカー』の前部分を展開させ、黄金の四本の爪を出すと共に爪で光弾を弾き返そうとした。

 

しかし、その行動は軽率だった。

爪が光弾に触れた瞬間、光弾は網目状に形を変えて『アームド・バンカー』ごとイビトの左腕を包み込む。

 

「なっ!?」

 

光が網のように絡み付いた事態に流石のイビトも驚愕の表情を露にする。

すぐに引き剥がそうとするがあっという間に網目状の光はイビトの全身を包み込む。

しかもその光の網は捕縛した対象を固定化する力が有るのか、イビトは身体が動けなくなってしまう。

 

「今だ! 一気に叩き込むぞラウラ!」

「う、うむ!」

 

色々と言いたいことがあるのだが、今はそれを飲み込んで千代一隅のチャンスをモノにしようとラウラは自身の大剣にも光を纏わせ、トモユキと共に突進する。

 

「『洸刃乱舞』!!」

「『洸刃乱舞(偽)』!!」

 

戦術リンクの力でトモユキとラウラは同じタイミングで秘奥義を使い、二人の光の剣が身動き出来ないイビトに振り下ろされる。

このまま光の剣はイビトに当たる―――と誰もが思った。

 

しかし、

 

「ぅ――――がぁあああああああああ!!!」

 

咆哮のような雄叫びが上がると共にイビトは光の網を右手で強引に引き千切る。

そしてすぐさま左腕の『アームド・バンカー』の爪を振るい、それで発生した圧力で二人を纏めて薙ぎ払う。

 

「だっ!」

「にぃっ!?」

 

薙ぎ払われたラウラとトモユキは放り出されたように引き飛ばれる。

完全に決まると思っていたのに、それをひっくり返された二人は驚きつつも受け身を取って着地した。

 

「(腕力だけであれを引き剥がした……!?)」

 

あの光の網の拘束力に余程自信が有ったようで、トモユキは腕力だけであの網を解いたイビトに信じられないと言った表情を浮かべる。

一方、イビトは何かに気付いたのか。

瞬時に身体の向きを右に回す。

 

「『アルテアカノン』!!『クラウ・ソラリオン』!!!」

 

仲間が注意を引き付けている間、ゼオラは最上級クラスの魔法の二重詠唱を行っていたようで今まさに詠唱を終わり、二つの魔法が同時発動する。

天空から巨大な光弾が広範囲に降り注ぎ、更にイビトから見て後方上空に巨大な魔法陣から顔を出す巨人の手。

その手から高密度のエネルギーが放出される。

 

下方以外の方向から魔法に包囲されてしまい、今度こそ逃げ場を無くしてしまうイビト。

そんな状況で彼は……。

 

「――魔法って言うのも所詮、導力で引き起こした物理的な現象に過ぎない。物理的な現象なら……」

 

誰かに聞こえるか、聞こえないぐらいの小さな独り言を呟き。

 

「〝力づくで叩き潰せる〟!」

 

直後に『アームド・バンカー』の爪を一回転して振り回す。

するとゴウッ!!という轟音を立てて、イビトの周囲を囲っていた魔法を全て弾き飛ばされた。

これは先程のトモユキとラウラを吹き飛ばした同じ圧力で魔法は押し潰されたのだろう。

 

「そ、そんな………」

 

片手を振っただけで二つの最上級クラスの魔法が叩き落とされた現実にゼオラもまた信じられないと顔に出る。

魔法を全て片付けたイビトは『アームド・バンカー』の小型ブースターで若干放心状態に陥った彼女の元へ飛ぶ。

 

「ろ、『ロッソ・イージス』!」

 

ハッ!と我に戻って赤い盾の『ロッソ・イージス』を展開させるゼオラ。

展開された赤い盾に対し、イビトは止まることなくその盾に右拳を叩き込んだ。

 

それだけで『ラフラレラ・キング』の攻撃をも防いだ強固な盾がたった一発のパンチで窓ガラスのように粉々に砕かれた。

邪魔な防壁を叩き砕いたイビトはゼオラのすぐ手前まで辿り着き、彼女の首に寸止めで『アームド・バンカー』の爪を突き出す。

 

「――――」

 

驚く暇もなく、喉元に爪先を突き付けられたゼオラは腰が抜けたのか。

フラッと身体が後ろに傾き、 地面に尻餅を着く。

その姿を見てもう彼女は戦えないと判断したイビトは爪先を下ろす。

 

―――次の瞬間。

イビトが瞬時に上半身を前に90度傾けると直後に疾風の如く背後からトモユキが急接近し、側面を横切る際に振った大剣が彼の頭上を水平に通り過ぎる。

また背後からの攻撃を紙一重でかわしたイビトはそれだけでは留まらず、かわした際に右手でトモユキの足首を掴む。

 

「ッ!!?」

 

足首を掴まれたことでその場に固定され、走れなくなるトモユキ。

更にイビトは片腕一本でトモユキを軽々と持ち上げ、容赦なく地面に叩き付ける。

 

「がっ――はッ!!!」

 

叩き付けられた衝撃は凄まじく、体内のものが逆流して胃液を吐き出すトモユキ。

加えて地面に叩き付けられた衝撃で大剣を離していまい、剣は衝撃によって吹き飛び、数アージュ離れた地点に突き刺さる。

 

「トモユキ! おのれ……!!」

 

ゼオラに続いて今度はトモユキがやられ、親の仇のようにイビトを睨むラウラ。

二人の仇を討とうと彼女は大きく前に跳躍し、渾身を込めた力一杯で真っ直ぐな一振りを放つ。

 

……だが無慈悲なことに。

この攻撃ですらイビトは左手の5本指だけで受け止めた。

そしてラウラが驚きの声を上げる前にイビトは右手を彼女の額の前に出し。

バコッ!!と丸太でも叩き割ったかのような音を出す強烈なデコピンを放ち、それを喰らったラウラは脳震盪を起こして意識を失い、大剣を手から放して仰向けに地面に倒れる。

 

トモユキに続いてラウラが倒れ、三人全員が地面に伏せた。

 

「これで―――」

「まだだ……!」

 

イビトが『終わった』と言う前にトモユキの声が響く。

地面に叩き付けられてかなりのダメージを喰らってもまだ戦えるのか、彼はゆっくりと立ち上がる。

意外そうにイビトは少し驚いた顔を出す。

察するにさっきの一撃で倒せたと思ったのだろうか。

『存外にしぶといな』と憎たらしい口調ながらも称賛の言葉を送る。

 

何がともあれ、ゼオラは戦意消失。

ラウラは気を失い、事実上戦えるのはトモユキだけになった。

しかし、偶然か否か、状況的に最初に彼が望んで持ち出した一騎討ちが始まるのであった。

 


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